第6話「魔王パイトスは悪戯好き?」
イーデル国の成人は18歳ということで、歓迎会では人生初めてのアルコールを飲んだ。
そして、目覚めると、ベッドの上だった。
(よく寝たなぁ。しかし、歓迎会の記憶が全くないな・・)
「お目覚めですか、ユウトさん。」
アリーナの声が聞こえた。
「アリーナ。毎朝、私が起きるのを、そこで待つの?」
「ユウトさんがお嫌でなければ。」
そう言ってアリーナは微笑みかけた。
(寝起きにアリーナの声が聞けるのは、心地よいけれど、いったい何時から待機しているんだろう。ちょっと申し訳なく感じるけど、ここの習慣とかもわからないから、しばらくはこのままで良いか。。。)
「朝食の準備ができていますので、食堂へ来てくださいね。今日はパイトス様とのご面会もあります。」
(いよいよ魔王と面会だな。どんな人物なのだろう。)
魔王については口止めされているようで、皆はユウトに何も教えてくれなかった。
(いたずら好きのようだから、何か仕込んでいるとは思うが、気にしても仕方がないし、なるようになるだろう。)
「アリーナはもう朝食は済ませたの?」
「はい」
(そういえば、昨日はお酒を飲んですぐに寝ちゃったんだよな。あの後みんなはどうしたんだろう。)
「昨日はすぐに寝てしまったけど、皆はどうしたの?」
アリーナに聞いてみると、「皆はユウトさんが寝てしまったので、食事だけ済ませて自宅へ帰りました。」
ユウトはは気まずそうな顔をしながら、今後お酒には注意しようと思うのであった。
「皆には悪いことをしてしまったね。怒ってなかった?」
「これからはずっと一緒なので、皆気にしていませんのでご安心を。」
そう言うとアリーナは、ユウトに食事をするように促した。
食後は、お風呂に入り、身だしなみを整えたところでユウトはアリーナに魔王パイトスについてもう一度聞いてみることにした。
「アリーナ、パイトス様ってどんな人なの?ちょっとぐらい教えてくれないか。」
「ご心配はいりませんよ。とても気さくでお優しい方です。少しいたずら好きなところがありますが、お会いになればわかると思います。」
(いたずら好きかぁ。そういえば私が次期魔王と言うこともギリギリまで秘密にしていたな。)
「そろそろ時間ですので、お城に向かいましょう。」
ユウトはアリーナに促されて、ヘレス先生の元へ向かい3人で転送の魔法を使って魔王パイトスの城へ移動した。
城に着くと魔王パイトスは既に謁見の間で待っていると言うことなので、早速そちらへと向かった。
謁見の間のドアはとても巨大で、10メートルいや、20メートルはありそうだった。
ユウトがドアの前に立つとゆっくりとドアが開き始めた。
ユウトは一人で謁見の間へ入るようにヘレス先生に言われていたのいで、緊張した面持ちで中へと入っていった。
(なんとまたでかいドアなんだ。この先にはどんな巨人が・・・いや魔王が居るのだろう。)
ユウトは、謁見の間に入ると、またその部屋の大きさに驚いた。サッカースタジアムがすっぽり入りそうな大きさだった。
ユウトは赤い絨毯をまっすぐに魔王の元へと歩いて行った。
最初は遠かったので小さく見えた魔王の姿が、近づくにつれてどんどん大きくなっていった。
(魔王ってこんなに巨大なのか。もしかして私も魔王になったらこんなにでかくなってしまうのか?)
しばらく歩いてやっとユウトは魔王パイトスの前に着いた。
ユウトは、片膝をついて魔王パイトスに挨拶をした。
「日本から来たユウトです。」
ユウトの前には数段の階段が有り、魔王パイトスはその先の巨大な椅子に座っていて、右手には三つ叉の槍を持っていた。
ユウトが挨拶をすると、魔王パイトスは立ち上がり、「良く来られたユウト。私が魔王パイトスだ。」とユウトに声をかけた。
ユウトが魔王を見上げると、身長は20メートルはあろうか思われる巨人だった。顔は悪魔のように怖い顔で、頭には2本の角が生えていた。
見た目は悪魔そのもので、ユウトが驚きのあまり呆然としていると、魔王パイトスはユウトの方へと歩き始めた。
そして、階段を降り始めると一段降りるごとに魔王パイトスの体も階段の大きさに合わせるように小さくなっていった。
そして最後の1段を降りると、そこに居るのは1メートル80センチくらいのごく普通のおじさんになった。
頭の角もなくなり、顔も普通の人間の顔になった。
「ユウト、そう畏まらなくても良いぞ。見ての通り魔王と言っても普通の人間と見た目は変わらない。どうだ、驚いたか?」
ユウトは驚きがまだ消えず、声が出なかった。
「これからは、私を異世界での父と思い、何でも気楽に相談してくれれば良いよ。」
その言葉を聞いてユウトは我に返り改めて魔王を見上げた。
ユウトは立ち上がると、「有り難うございます。これから宜しくお願いいたします。」と魔王に返した。
「この部屋は、魔族との謁見用の部屋でな、奴らはとにかくでかいやつが多いから、魔法で大きくしているんだよ。あの階段には、上ると段々大きくなって悪魔のような出で立ちになる魔法が仕組んであるんだ。」
「色々聞きたいこともあるだろう。ちょっと待っておれ。」
魔王パイトスはそう言うと、「戻れ」と言って軽く手を振った。
すると、部屋があっという間に小さくなり、ユウトの横にソファーセットが現れた。
(それにしても、あの大きさは何だったんだ。歩いてくるだけで小さくなるし、こんな魔法があるんだな。)
更にユウトの後にはヘレス先生とアリーナが立っていて、魔王パイトスの後にも誰か立っていた。
「ユウト、紹介しよう。彼はシュヲルツ調整官。君と一緒に学んでいるアークの父親だ。」
「ユウト殿、初めまして。私はパイトス様の副官で、日本で言えば官房長官のような役割を担っています。宜しくお願いします。」
「ア-クのお父さんですが、こちらこそ宜しくお願いいたします。シュヲルツ様」
「あ、ユウト殿、この国では、様を使うのは敬意を示す意味で魔王と次期魔王くらいで、そのほかの人には使いません。私のことはシュヲルツさんとかシュヲルツ殿とお呼びください。」
そう言うとシュヲルツ調整官はにっこりと微笑んだ。
(様は魔王世次期魔王だけなのか、それだけ特殊な存在だと言うことかな。)
「では座ってゆっくりと話そうか。」
皆がソファーに座ると、魔王パイトスが話し始めた。
「ユウト、私は結構いたずら好きでね。最初はいきなり次期魔王と言うことで驚かそうと思ったが、あまり驚かなかったようで少しがったりしたよ。しかし、先ほどの巨大魔王は驚いてくれたようで何よりだった。一緒に学んでいた生徒達がNPCではなかったことも少しは驚いてくれたかな?」
「生徒達はNPCだと思っていたので、少し驚きましたが、うれしくもありました。」
ユウトが答えると再び魔王パイトスが話し始めました。
「折角なのでもう一つ驚いてもらおうかな。」
「ユウトはこちらに来たときに魔法で言葉を覚えたと思っているだろう?」
「はい。」
ユウトの返事を聞くと魔王パイトスはにやっと笑い、「実は、ここの言葉は日本語なんだよ。ユウトが見聞きしていた言葉は、古代語でね。今は使われていない言葉だよ。」
ユウトが驚きの表情を見せると、魔王パイトスは大声で笑い始め、ユウトに向かって「驚いてもらえたかな?」と聞いた。
「私のために色々仕組んでいただき有り難うございました。次はパイトス様に驚いていただけるように、精進致します。」
「それは楽しみだな。わはははは。」
ここでユウトは魔王パイトスに一つの疑問を聞いてみることにした。
「パイトス様。なぜ次期魔王に私が選ばれたのですか?」
「魔王に男子の子供がないときに、日本から魔王を選ぶことは聞いていると思うが、私には娘しか居ない。」
「当然次期魔王を日本にいる一族から選ぶことになるんだが、実は、私が学校で学んでいる時、ユウトの父も一緒に学んでいたんだよ。ユウトの母や、今ここに居るシュヲルツ調整官もともに学んだ学友だったんだ。その時の縁でユウトの両親は結婚したんだが、その後もお前の父とは連絡を取り合っていて、若い頃には日本に遊びに行ったこともある。そして、ユウト。君が生まれたときに、君の両親と約束したんだ。」
「私に男子が生まれないときは、ユウトを次期魔王にしたいと。」
「そして、今ここにユウトが居ると言うことだ。」
「もちろんユウトと同年代の魔王となり得る者は他にも数人居たし、通常は何人かからその素養などを見て決めるんだが、今回は、ずっと前から決まっていたと言うことだ。考えなくて良かったから助かったよ。わはははは。」
もっと複雑な経緯で選ばれたと思っていたユウトは、拍子抜けして魔王パイトスにつられて大笑いしてしまった。
「ところでパイトス様、私は今後何をすれば良いのですか。」
ユウトが聞くと、それについては、ヘレス先生が説明してくれた。
「まず、あと2年ほどは学校で、この国のことや魔法について学んでもらいます。卒業後は、魔王の仕事を徐々に分担してもらうことになります。魔王の仕事は多岐にわたるので、ここでは説明しませんが、当面はしっかり学習していただきます。」
「魔法も早く色々と覚えたし、頑張ります。」
ユウトが答えたところで、部屋の外で何か騒ぐ声が聞こえてきた。
「どうやら来たようだな。ユウト、お前に合わせたい人が居る。」
魔王パイトスはそう言うと、その人物を部屋に入れるように言った。