第1話「目覚めるとそこは異世界だった」
「アグネスとアリーナは左右に展開、ヨシマサは援護射撃を頼む。」
「オーケー、援護は任せろ。」
「私は真ん中のでかいやつをやる、皆気を抜くなよ!」
「うぉおおおおお!」
ユウトは魔獣の群れに突進し、高く飛び上がって六尺棒を上段に振りかざすと、思いっきり叩き付けた。
六尺棒はオークの頭をたたき割りその体を両断し、風圧が周りの魔獣共を吹き飛ばす・・・
ある日というか、ユウトが18歳の誕生日に目覚めると、そこはいつもと違う風景だった。
見覚えのある風景だが、そんなことはあり得ない。
なんとそこは、彼がいつもやっているゲームの風景だった。
大きな部屋の中に、ベットが一つ。
そのベットで彼は目覚めた。
(何故だ?)
(昨日の夜は、午前零時を過ぎたときに、両親から誕生日を祝われ、ケーキを食べてそのまま寝たはずだから、ゲームはやっていない。)
本来なら大慌てにあるところだが、見慣れた風景のためか、ユウトは比較的落ち着いていた。
(変な夢を見たから、寝ぼけているのかな?)
ユウトは頬をつねってみたが、やはり何も変わらなかった。
(いったい何が起こっているんだ?)
考え始めると徐々に頭が混乱していった。
ゲームなら、ログインするとメイドさんが「お目覚めですかユウト様」と声をかけてくれるのだが、その声も無い。
ユウトは少し落ち着こうと思い、部屋の中を見渡してみた。
部屋の中は、いつもユウトゲームにログインしたときの部屋と同じで、だだっ広い部屋の真ん中にベッドが置いてあり、周りには何も無かった。
(やはりゲームの中か。いつの間にログインしたんだろう。)
ユウトはそう思いながら、入り口に目を向けると、そこにはメイドが一人立っていた。
(やっぱりゲームを始めていたみたいだな。)
しかし、どうも様子がおかしい。
いつもならもうメイドの声が聞こえてくるはずだったが、メイドは黙ったままだった。
しかしその時。いつもは動いてくることの無いメイドがユウトの方に向かって歩いてきた。
「え」彼は思わず声を出してしまった。
彼の混乱を知ってか知らずか、メイドはほほえみながら彼に近づいてきた。
そして、「お目覚めですかユウト様。」といつもの聞き慣れた言葉を発した。
メイドはユウトが驚いているのが分かったらしく、「混乱しているのはよく分かっております。まずはこちらをご覧ください。」そう言うと、彼の目の前に大きなスクリーンが現れた。
ユウトがスクリーンに目を向けると、そこに写っているのは、ユウトの母親だった。
「お母さん。」
ユウトは思わず声にだした。
(なんでお母さんが写っているんだ。ゲームじゃ無いのか?)
更に混乱する彼を気にとめようともせずにメイドは言葉を続けた。
「母上様よりのメッセージをお聞きください。」
すると、スクリーンの中の母の姿が動きだし、声が聞こえてきた。
(なんだこれは、テレビ電話なのか?)
「ユウトさん、驚いていることでしょうね。」
ユウトは母親の声を聞くと、思わず母に問いかけた。
「お母さん、いったい何が起こっているの?」
「落ち着きなさい。ユウト。」
普段は優しい母で、ほとんど怒られたことがなかったので、いつになく厳しい母の声はユウトをとても驚かせた。
そして母はユウトの驚きをよそに更に話し続けた。
「今あなたがいるところは、私の生まれ故郷のイーデルです。あなたが住んでいた日本から見れば、異世界と言うことになります。」
(異世界だって、なんで?訳が分からない。)
母の話の間、現状を理解しようと必死で考えてみたが、無理っぽかった。
本物か偽物かは分からないが、母親が登場しているので、彼は一言一句聞き漏らさないように細心の注意を払った。
「あなたのお父さんも祖父も元々はイーデルから日本へ渡った異世界人の子孫です。」
(家の家族は皆異世界人なのか?)
ユウトの頭の中は、疑問符が飛び交って今にも頭から飛び出しそうだった。
「もちろんユウトさんも異世界人の子孫と言うことになります。」
(あ、そうだな、両親が異世界人なら私も異世界人だな・・・)
「通常は日本から異世界へと戻ることはあまり無いのですが、今回は特別な事情であなたが異世界へ戻ることになりました。」
特別な事情?異世界人の子孫?次々に母親の口からです言葉を理解しようとしたが、ユウトは全く理解できなかった。
(まぁ、いいや。とにかく最後までお母さんの話を聞くほかは無いな。)
ユウトはあきらめておとなしく話を聞くことにした。
「あなたは次期魔王に選ばれました。」
(えーーー何?今度は魔王?何で私が・・・)
冷静さを取り戻しかけたユウトは、再び混乱の中江突き落とされた。
「あなたは、イーデルの建国者である、魔王ガリウスの子孫です。」
(魔王の子孫・・・それってゲームの中だけの話じゃ無いのか?)
話は完全にユウトの理解の範囲を超えてしまい、頭はパンク寸前だった。
その時、突然画面が乱れ始めた。
「ユウトさんのことだから、私が本物かどうか疑っていますよね。」
(こんな話を聞かされたら、なんかのどっきりだと思うのが普通だよね。)
「通信が途絶える前に、これだけ伝えておきます。」
「10歳の誕生日のことはユウトさんとお母さんだけの秘密ですよ。」
(う、思い出したくない過去を・・・これは本物のお母さんだ。)
「後は、そこにいるアリーナから聞いてくださいね。」
そう言ってユウトにほほえみかけたところで通信が途絶えた。
(アリーナ?そこにいるメイドのことかな?)
先ほどの言葉で、母が本物だと言うことは理解したが、あまりにも突飛な話しで、その他のことは全く理解できなかった。