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ステータスをひとつカンストさせるなら『運』がいい

 マリオンは、びっくりするほど高かった。ドラゴン退治で王様からもらった褒美の半分近くが吹っ飛ぶ値段で、手持ちの金じゃ全然足りなかった。

 幸いにも、貴族の俺には信用がある。身分証代わりの指輪を見せて、足りない分は「後日、払う」で話がついた。その場で手の甲に、マリオンの呪術と紐付けるための刻印を入れてもらい、俺はマリオンの主人となったのである。

 それからマリオンを屋敷に連れ帰り、ずっと使ってなかった客間に通す。

 そこで彼女(彼?)に話を聞くことにした。



 ……で、話を聞いた限りだが。

 どうやらマリオンは、本当に転生してきた日本人らしい。

 当初は俺と同じように、日本にいた時と変わらない姿だったそうだ。神様から貰ったスキルは『カウンター』。これは相手の物理攻撃を無効化し、超威力で反撃するスキルである。

 しかし、マリオンは運が悪かった。なんと、倒すべき相手が死霊術師(ネクロマンサー)だったのだ。

 物理攻撃など一切してこない幽霊相手に、手も足も出ずに完封され、あっさり捕まる。そして死霊術の実験台として、魂を抜かれて今のボディに入れられてしまった。

 その後は失敗作として全裸で捨てられ、この身体ではスキルも使えず、モンスターに襲われて逃げ惑い、なんとか人里を目指したはいいが、途中で奴隷商人に目をつけられ、捕まって呪いを掛けられ売り物にされ、今に至る……と。うーん、壮絶(そうぜつ)っ!


 聞きながら俺は、マリオンに同情を禁じえなかった。

 だってもしかしたら、俺だってマリオンと同じ目に会ってたかもしれないのだ。

 俺がこんなに悠々自適の生活を送れているのは、単に運がよかっただけに他ならない。 

 そんな身の上話の後である……ふとマリオンが「なあ、腹減らないか?」と言う。

 そして懇願(こんがん)するように手を合わせ、苦笑した。


「いや、メシの催促(さいそく)なんて意地汚いと思われそうだけど。奴隷商人の所に居た時は、あんまり良いもん食ってなかったんで……まあその、頼むよ!」


 一応、奴隷と主人という間柄ではあるが。

 同郷(どうきょう)のよしみだし、精神年齢はマリオンが上なわけで、俺も「敬語を使え」とは言えない。逆に俺も、この見た目の人間に敬語を使うのは抵抗あるし、人に見られたらヤバい奴だと思われるので、お互いに気を使わない喋り方に落ち着いている。

 窓の外を見る。そろそろ日も高いし、酒場もランチタイムに入る頃だろう。俺は頷いた。


「よし、メシにしよう。マリオン、何か食べたい物ある?」

「特にねえな……というか、まともな人間のメシなら、なんでも大歓迎っ!」

「じゃ、外に食いに行こう」


 こうして俺は、マリオンと街へ繰り出した。



 並んで道をテクテクと歩く。向こうの区画までは、2キロほど歩かなければならない。

 と、マリオンが街の一角を見やった。


「……あ、おい。そこの酒場じゃダメなのか? 見たとこ繁盛(はんじょう)してるし、良さそうじゃね?」


 視線の先は、『銀の三角亭』である。俺は、ひきつった顔で答えた。


「えーっと……。ちょっとそこの店は……今は行きたくないっていうか……?」


 だってフォクシー、まだ怒ってるだろうし。なによりマリオンを連れて入ったら、それこそ言い訳できないし。それにもうAランチ、食いたくないし。

 マリオンは、拍子抜けした顔で言う。


「そうかぁ……。この身体、体力ねーからさ。できれば、あんま歩きたくなかったんだけど……ん?」


 今度は、道の逆側を指差す。

 そちら側は各種の露店や商店が立ち並び、肉や野菜の食材が売られている。


「あそこ! 食べ物が売ってるじゃんか!」

「いや、売ってはいるけど……全部、生の食材だよ。俺、料理なんて作れない。屋敷には俺ら以外、誰もいないだろ。材料だけ買っても、料理できなきゃ意味ないっしょ?」


 するとマリオンは、二カッと笑った。


「そんなら、オレが作ってやるよ! オレ、一人暮らしが長かったから。自炊経験あるもん!」


 言うや否や、マリオンは露店に走り寄り、店のおじさんと話し始めた。


「あのー、これいくらっすかー? ……え、高くねっ? いや、絶対に高いッ! ……へえ、街道のモンスターで流通が……なるほど。あ、じゃあさ、こっちの(かご)の野菜も買うから、一緒でこの値段ならどう? え、ダメ? ……うーん、もう一声!」


 マリオンは知らない人を相手に、平然と値段交渉を行っている。

 ……す、すごい! 俺には無理だっ! これが36年の人生経験か!?

 と思ったが。本当はただ、外に出れてはしゃいでいるだけかも知れない。だって、今までずっと奴隷商人に捕まってたわけだから。

 と、マリオンがこっちを向いて、手を振った。


「おーい、ジューターっ! 財布、くれーっ!」


 その声に俺は、銀貨の入った財布を投げる。

 マリオンはそれを片手で受け取ると、「サンキュー!」と笑顔で応えた。

 ふと、背後の話し声が耳に入る。


「奴隷に財布を預けるなんて……よっぽど信頼関係あるんだな」

「いや、高額な呪い付きじゃね? 絶対に逆らえないよう、魔法で調整されてんだよ」

「え? でも、あんな汚い格好させてんだぜ? 高い奴隷じゃないだろう」


 そう言えば……今のマリオンの姿は、思いっきり奴隷丸出しである。というか、町で荷運びや店先の掃除などをやっている、肉体労働奴隷のそれだ。


 ちなみに安い奴隷は呪いの拘束力が強くないため、うっかりすると主人の金を盗み出し、町の解呪屋などに走って逃げてしまうらしい。解呪屋の方も商売だから、金さえ持ってきたなら詳細は聞かずに解呪する。そうなれば、奴隷も晴れて自由の身である。


 マリオンに掛かった『一期一会』の効果は、主人に対しての暴力の抑制(よくせい)と、記憶の操作。解呪は基本的に不可能で、もしも主人から逃げたり捨てられたら、一日しか記憶が保持できない状態で放浪する羽目なってしまう。めっちゃ残酷な呪いである。

 なんとマリオン、発動できないだけで『カウンター』のスキルはそのまま所持してるそうで、レアスキル持ちだから『一期一会』を掛けられてしまったんだとか。どこまでも運のない人だった。


「……ふむぅ」


 俺はマリオンの後姿を眺める。まだ、買い物に時間が掛かりそうだ。

 しばし考えた後で俺は、とある商店に入った。

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