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一期一会の物語【表】

 マリオンとの暮らしも、一週間が経った。

 俺は、今までになく満たされた日々を送っている。


 俺とマリオンは、色んな事をして共に過ごした。

 絵を描いたり、庭で遊んだり、大掃除をしたり、買ってきたボードゲームで対戦したり……どれもが楽しくて、決して飽きる事はなかった。

 気軽に冗談を言い合える。エロゲトークもできる。作ってくれるメシはウマい。

 もちろん、2人とも失敗やダラしない所はたくさんあって、言い合いなんかも多少はあった。でも、ちっとも嫌にならなかった。だって俺らが欠点だらけなのは、とっくに分かり合ってる事だもの。

 だから俺はマリオンの前では、格好つけない自然体でいられるのだ。


 当然あっちの方も、マリオンの作品には何度もお世話になった。溜まりに溜まった欲望を、半年ぶりに解消できた。心ゆくまで処理できた。

 とてもありがたみを感じる……悟りを開いて賢者になった俺は、「マリオン先生、生まれてきてくれてありがとう」と、隣の部屋に向かって合掌(がっしょう)した。


 俺は幸せだった。こんな毎日が、ずっと続いて欲しいと願っていた。


 ……でも。マリオンは、どうなんだろう?

 俺は楽しい。心の底からそう言える。だけど、マリオンは……?

 俺は……マリオンを幸せにできているのだろうか?



 今夜は、久しぶりに『銀の三角亭』に来ている。普段、食事はマリオンに任せているのだが、たまには外食でもするかと思い立ち、ここに来たのだ。

  マリオンも、「オレだって酒が飲みたいよ」と一緒に来たがっていたけれど……申し訳ないが、今回は留守番してもらった。

 俺の横ではデビットが、エールを飲みながらステーキを齧っている。西の流通は回復してないので、肉は高級品だった。このステーキは、俺の奢りである。

 そのデビットが、口を開く。


「久しぶりに顔を見せたと思ったら……『一期一会』の話が聞きたいんだって?」

「ああ、そうだ。できるだけ詳しく……頼めるか?」


 デビットが、俺の左手の甲を見ながら言う。


「ほーん? まあ、こうして肉も食わせてもらったしな。俺は魔術師じゃないから、知ってる事は限られてるが……それでいいなら、全部話してやるよ。まず、なにが聞きたい?」


 俺は迷わず口にする。


「解呪は、絶対に不可能なのか?」


 そう……俺は、マリオンの呪いを解きたかった。

 『解いてあげたい』じゃない。俺が『解きたい』だ。

 いつも『記憶の許可』の後、俺らは急によそよそしくなる。おやすみも言わずにそれぞれが部屋に帰り、さっさと寝てしまう。だから一日の終わりに、俺は言い知れぬ息苦しさを感じながら眠りにつく。

 マリオンだって言葉にしないが、きっと同じように感じてるに違いない。

 例え呪いがなくたって、マリオンは俺と暮らしてくれる。そう信じているからこそ、俺は呪いを解きたかったのだ。


 しかし俺の問いに、デビットはあっさりと首を振る。


「無理だろうな。そんな話、聞いたことねえよ」

「……や、やっぱりそうか」


 その答えに、俺は肩を落として消沈した。

 デビットは、鍛治師としては超一流だ。顔も広くて耳も早い。気が乗った時しか仕事しないため、いつも貧乏暮らしをしているが、顧客には他国の英雄もいると聞く。そんな男が無理と言うなら、恐らく本当に無理なんだろう。

 落ち込む俺の背中を、デビットは力任せにバシバシと叩く。うん、元気づけてるつもりだろうけど……おい、痛えよ。元気でねえ。痛いだけだぞ、それ。

 なんつーか、すべてがガサツだよなぁ、こいつ。


 デビットはエールで唇を湿らせると、話し始めた。


「『一期一会』ってのはな、およそ800年前に東の地に魔法王国があって、そこの天才魔術師が作った呪いなんだよ。……実は『一期一会』は、慈愛の心から作られたんだぜ」


 慈愛の一言に、俺は驚く。


「えっ!? 呪いなのに……慈愛だって?」

「ああ、そうだ。天才魔術師は王宮勤めでな。その国の姫と仲が良かった。わずか10才の幼い姫様を、まるで妹のように可愛がってたそうだ。ところが、王国でクーデターが起こってしまう。王の弟……いや、甥だったか? ……まあとにかく、誰かが力づくで王の座を奪い取ったんだよ。で、その姫だけが生き残った。この姫が……ええと、なんで生き残ったんだっけなぁ……? 確か、レアスキルが関係してたような? ……まあ、忘れたが。……とにかく新しい王は、姫を塔に監禁する事にしたんだ」

「お、おい!? おいおいっ、なんか、すっげーあやふやな所が多いぞっ!」


 不満顔の俺に、デビットは手を突き出す。


「800年の間に、細かい所が省略されてんだよ。とにかく、俺が覚えてねえって事は、大して重要じゃない……そういう事でいいだろ?」


 俺はぶんぶん首を振る。


「いや、よくない。よくねえよ! ……やっぱりその肉、返して貰おうかな?」


 言いつつ皿に手を伸ばすと、デビットは残ったステーキを慌てて口に押し込み、また話を続けた。


「むぐっ、むぐう! ……とにかく、その姫は死ぬまで塔に監禁されることになった。魔術師は、なんとか姫を助けたかったが、相手は国だからどうにもならない。そこで魔術師は監禁の前夜、姫への最後の直接面会を求めた。で、面会の時、魔術師は姫にこう言ったんだ」


 デビットは、芝居がかった口調で言う。


「姫様! 明後日には、必ず助けに参ります! どうか一日だけ、ご辛抱ください! 今から、お助けするための魔法を掛けさせていただきますが、もしかしたら身体に変化が出るかもしれません! ですが、心配はご無用です! ……そして『一期一会』の呪いを掛けて、口づけたんだよ」


 俺は、エールをグビリとあおった。


「なるほど。たった10才の女の子を、死ぬまで塔に閉じ込めるのは可愛そうだ。だったらせめて、記憶だけでも繰り返させれば、いつまでも気づかずにいられるってことで……『慈愛』なんだな?」


 デビットは頷く。


「その通り。魔術師はそれから毎朝、欠かさず塔に通った。そして、姫の監禁されてる部屋を見上げて、こう声をかけた。『姫様、明日です! どうか、私を信じてご辛抱ください!』ってよ。で、姫様はその声を聞くと、塔の窓の鉄柵に顔をくっつけて、魔術師の姿をジッと見つめながら、言葉を返す。『わかりました、あなたを信じて待ちます! 今日、一日だけ我慢します!』ってな」


 俺はチーズをつまみ、エールを飲みながらぼやく。


「……優しいけど、残酷だな」


 デビットは、皿に残ったステーキのソースをパンで拭い取ると、それを口に放り込みながら言う。


「歳をとれば、姫の身体は成長する。だけど、頭の中身は世間知らずの10才の姫様だ。これは、兄のように慕う男の言っていた、『一時的な身体の変化』に違いない、そう信じた。とにかく、明日まで待てばいいんだと……そう、永遠に来ない、明日を信じた」


 俺は頬杖を突きながら尋ねる。


「だけどさ。季節だって移ろうし、魔術師だって歳をとるだろ? そこは、どうやって誤魔化したんだ?」


 デビットはジョッキを掲げて、新しいエールを注文しながら答えた。


「当時、東の地の半分は、エルフと精霊の住処になっててな。一年を通して、春の陽気だったそうだ。それに天才魔術師なんだから、姿を自在に変えるくらい、お手の物だろう。ほら……この酒場にも、たまに魔女が来るじゃねえか」

「ああ、あのムチムチの……?」

「あの魔女、今年で122歳だぜ」

「えーっ! ひゃ、122歳って……? 嘘だろ!? あの魔女、ハタチ前後にしか見えんかったぞ!」


 ってことは、100才も若作りしてたのかよ!?

 うええー……あんなワガママボディはお婆ちゃんだし、美少女マリオンは中身がおっさんだし……ほんとこの異世界、見た目が当てになんねえなぁ!


 俺は、言葉を失ってしまった。

 混雑時は代引き方式なので、デビットは銅貨と交換で新しいジョッキを受け取りながら言う。


「その後、魔法王国は東のエルフと戦争を起こし、滅亡した。東のエルフも、ほとんどが殺されて、今や森の奥深くに少数が暮らすのみ。諸説はあるが、姫も魔術師も、その戦争で死んだってのが定説だな」


 それから、なみなみと注がれたエールをグビリグビリと飲み、プハーと酒臭い息を吐き出して続けた。


「まあ、だからよぉ! ……俺が言いたいのはだな。そんな大昔に作られた呪いなんざ、俺たち短命な人間には、仕組みもなにもわからねーって話なのよ。みんな、先人の作った魔導書を手本にして、呪いを掛けてるだけなんだ。そもそも『一期一会』は、神様の作った『絶対服従』を改造したもんだろ? そんな呪いを解こうなんて……おこがましいって話じゃねえか?」


 酒場の一角で歓声が上がり、デビットが視線を走らせる。そこでは酒に酔ったエルフ娘が、上半身裸になって大はしゃぎしていた。

 俺もつい、横目でチラチラ盗み見てしまう。


 あのエルフ娘は露出趣味があるらしく、しょっちゅう酒場内で脱いでは、あまり豊かでない胸を晒している。テーブルに乗ってパンツまで脱ぎ始めた時は、客の男達が(一部は女も)大興奮して、とんでもない盛り上がりになった。

 さすがにフォクシーが慌てて止めに入ったが……出禁になってないあたり、マスターも集客効果を期待してるに違いない。

 そんな露出狂エルフ娘を、無遠慮にジーっと見ながらデビットは呟く。


「……とは言え、長命な連中が頭いいとは限らんけどな。東のエルフは、今も他のエルフと交流を断ち、森に入った人間は問答無用で殺すんだからよ。魔法王国なんざ、とっくに滅亡してるってのに……奴ら、まーだ人間と戦争やってる気なんだよ。ほんと、バカだよなー?」

お気づきでしょうか?

この小説に出てくるのは、ヘンタイとバカばっかです。

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