8話 再び
よろしくお願いします
次の日の朝。
なんとか5度目のアラームで起きることができた俺は昨日に引き続き再び新都庁の靄さんの研究室に向かっている。
昨日のようなことはそう簡単に起こるはずもないがなんとなく今日はタクシーではなく自分の車で向かう。
車種は黒の軽自動車。靄さんから免許取得時にプレゼントされ今でも月に2回は霞と遠出する。
ハンドル片手に流れていく景色を眺め改めて機能の話を思い返す。
「異世界……エイリアン……そして過去。はぁ……どんなアニメ展開だよ……」
まだまだ頭の整理が追い付いてないが目的地である新都庁のビルが見えてくる。
新都庁の地下駐車場に車を止め慰霊碑を通り靄さんの研究室に向かう。
「おはようございます」
研究室に入るとすでにノトスが靄さんとコーヒーを飲んでいる。
「ああ、おはよう燈」
「ふむ、ぐっともーにんぐ燈。しかしこの英語とやらなかなか面白い言語じゃのう!」
ノトスは英語を勉強中なのか英和辞典を片手に黒革のソファで足をバタバタさせている。
「さて昨日の続きを話す前にとりあえずコーヒーを飲みたまえ」
「ありがとうございます。いただきます」
靄さんからコーヒーの入ったマグカップを受け取るとゆっくりと口に含み味わう。
なぜだかわからないが靄さんの淹れてくれたコーヒーは心を落ち着かせてくれ、思考を整えてくれる。
「…………ふぅ……やっぱり靄さんのコーヒーは最高においしいですね」
「それはうれしい言葉だ。ありがとう」
子供みたいな無邪気な笑顔を浮かべ感謝を述べてくる靄さんはどこか霞に似ているような気がする。
いや、逆か。霞が靄さんに似てるのか……
10分ほどかけてコーヒーを飲み干すと早速昨日のことについて聞く。
「僕気になったんですけど……ほかにも異世界から来てる人がいるって言ってましたけどその人たちは今どうしてるんですか?」
昨日聞かされた異世界のことで特に気になったことがそれだった。
彼らは今どうしているのか。
「それは……今現在3つの異世界と我々の世界は繋がっている。アルトリア、マキナ、ビーストーだ。この3つの世界にはそれぞれ特徴がある。アルトリアはノトスの説明だといわゆる剣と魔法の世界だ。マキナは機械生命体の世界いわゆるトラン〇フォーマーのサイバ〇ロン星だな。ビーストーは獣人の世界でケモ耳が溢れているらしい」
なんか世界の説明が斬新だな……
ちなみに靄さんはこう見えて意外とアニメ好きである。
「その3つの世界からは把握しているだけで6人私たちの世界にいる。アルトリアからは燈、ノトス、そして昨日君たちが倒したモールス。そしてマキナからは1人アルターと言う機械の少女が、そしてビースト―からは2人クオンという青年とレイアという少女が判明している6人……いや今は5人か。しかしながらモールスの存在は我々も認知していなかった。どこから来てどう過ごしていたのかは調査中だ。だからもしかしたら他にも異世界から地球に来ている可能性がある」
3つの世界……5人の異世界人……
なんだか俺の周りがアニメみたいな感じになってきたな……
「そしてアルトリア以外の3人だが……彼らはおよそ3年前にこちらに来た。安全を確認した今は普通の生活を送っている」
そう言うと靄さんは立ち上げていたパソコンの画面を俺に向ける。
そこに映っているのは何台ものパソコンを魔法のように操る幼稚園児の女の子。さらに帽子をおしゃれに着こなす俺と同じくらいの年の男、その隣には頭からウサギの耳を生やしたこれまた俺と同い年くらいの女の子。
彼らが異世界から来たという人たちだというのはなんとなく分かる。明らかに普通じゃない雰囲気を纏っている。
「わしは未だにここで監禁生活じゃがのう。そろそろ行動の自由くらい許してくれてもいいじゃろうに……」
「君は色々と前科があるからな。もう少し辛抱してくれ」
「むー……」
心当たりがあるのか頬をぷくっと膨らませ何も言えなくなるノトス。
「さてそろそろ始めるとしようか」
「始めるって何を?」
そういえば今日俺が呼ばれた理由が分からなかった。
「今日ここに来てもらったのはノトスとのエンゲージというのをしてもらうためだ」
ある程度は予想してたがやはり靄さんはエンゲージを知っているらしい。
当事者なのに俺はエンゲージについて詳しいことは何も知らないのにな…………
「ノトス、エンゲージについて俺にも詳しく教えてよ」
「おおーそうじゃったそうじゃった。燈にはまだ話していなかったのう。良し! ついてまいれ!」
持っていた英和辞書を閉じ勢い良く立ち上がるとすたすたとどこかへ行ってしまったノトス。
「どこ行ったんですかね?」
「多分地下にあるグラウンドだろうな」
「地下にグラウンドなんてあるんですか?」
「ああ、ここが建てられた当初はなかったんだが異世界人を見つけたとき色々あってな。急遽増設されたんだよ」
色々って……一体何があったんだ……
「とりあえず私たちも行こうか」
「そうですね」
研究室から出てエレベーターで地下5階に向かう。
相変わらず靄さんの髪は逆立っているが通りすがりの職員は誰一人として気にしてない。
やっぱりこの姿の方が普通なんだ……傍から見たらこの髪ヤバいんだけどな……
胃がせりあがるような感覚が一瞬起こるとそこはもう地下5階。ちなみに新都庁は15階建てで靄さんの研究室は10階にある。
ドアが開くとそこは一面が真っ白な広大な空間だった。
「おー!」
思わず声が出てしまうほどの大きさだった。
広い空間を見渡すと遠くの方にぴょんぴょんと跳ねる白い物体が一つ。
よく見るとノトスがこちらに手を振りながらジャンプしている。
「やっと来たか!」
腰に手を置き得意げな顔をして仁王立ちしているノトス。
「よし! ではエンゲージについて教えてやろう!」
「ちょっと待ってくれ。こちらも用意する」
そう言って真っ白い壁に手をかざすと何もなかったはずの壁からドアが現れる。
「とりあえず一回入ってくれ」
そこにはドラマなどで見たことのある医療機器や全く見たこともない機械が置かれている。
「一体ここは何なんですか?」
「ここは異世界人の身体を調べるために設置された医療施設だ。普段は安全のために特殊な装甲を用いて完全防備のステルス状態にしている。このグランドは色々と危険に晒されるからな」
机の引き出しから丸いシールみたいなものを渡してくる靄さん。
「あのこれは?」
「ワイヤレスの身体検査センサーだ。心音や体温、血圧、その他色々と測ってくれる。心臓辺りに貼ってくれ」
言われた通り心臓辺りに渡された身体検査センサーを貼る。すると何もない空間から人の形の立体映像が出てくる。
「おぉー、これは凄いですね!」
「燈、少し動いてみろ」
軽くジャンプをしてみるとなんと立体映像も連動してジャンプをする。
「おぉー」
「この立体映像は見ての通り対象の動きを検知して反映する。そしてあらゆる動作を記録して数値化する」
試しにまたジャンプをしたりと色々と動いてみる。立体映像も同じ動きを繰り返す、またジャンプする立体映像もジャンプをする。
「おい、いい加減にせんか」
つい何度も繰り返してしまっていたらノトスがグラウンドから声をかけてくる。
「早くこっちへ来んか! わしを放って何しておるのじゃ!」
了承を得るために靄さんを見ると頷いたのでノトスのいる方に向かう。
頬を膨らませ仁王立ちしている姿は傍から見たら見た目相応にしか見えない。
実際は1000歳を超えてるバーさんなんだよな……
「誰がバーさんじゃ!」
「なんで心読めるんだよ!」
あっ、なんか今の会話アニメにありそう……
「こっちはいつでもいいぞ」
壁の向こうから靄さんの声が聞こえる。
というわけで俺はノトスの目の前まで行くと輝く笑みで待っているノトス。
「では始めようかのう……」
次話は明日投稿です