16話 優しさ
よろしくお願いします。
「とんでもないことが分かっちゃった……」
さっきまでの明るさは消え神妙な顔で考え込む魔法少女。
「何が分かったのですか?」
カグヤ様が魔法少女に言う。
「この子、エクスはウイルスに感染してるのです。それもとびっきり強力なものなのです。そのせいで暴走してしまったのです」
「なるほど」
「そういうことでしたか……。たしかにあの急な変わりようはおかしいですものね」
「そのウイルスはもう大丈夫なのか?」
確かにまだ感染しているならどうにかしてあげないと……。
「完全には取り除くにはここでは無理なのです。それよりもこのウイルスなんか変です……」
「何が変なの?」
「このウイルス、意思があるみたいに動いて私が攻撃しようとすると逃げるんです。こんなウイルス見たことないです」
意思を持つウイルス……。暴走……。
「もしかして……」
『お主の言いたいことは多分みんなわかっておる。だが間違っていて欲しいがのう』
考えすぎかもしれない。俺たちの敵、多次元型寄生エイリアンの仕業だと……。
しかしそうなるとマキナもまたエイリアンにやられてしまったのか……。
「ここで話していても埒が明きません。とりあえず彼女はもう大丈夫なんですよね?」
「大丈夫です。今は完全に停止してるのです」
それを聞いてノトスも誓約を解除し姿を戻す。しかしいつでも戻れるように俺の右手を握りしめている。
「そう言えば自己紹介がまだだった。俺は……」
「真刀燈なのですよね?それとお隣はノトス、私と違う異世界から来たという女の子なのです」
「なんで知ってるの?」
「私の魔法でチョロっと調べたのです。私にかかればどんな秘密も分かっちゃうのです!」
腰に手を当て自慢気に胸を張る魔法少女。幼稚園児くらいの背丈でその格好をするとなんとも可愛い。
決してロリコンとかではないぞ……。
「そちらの変な格好のお姉さんは誰なのです?」
魔法少女が指差したのは確かに未だに変な格好だと思うユア。
「この地球を守るアースの民でユアと言う。地底人と言った方が伝わるだろうか……」
「えっ! 地底人! すっご〜い! 都市伝説の存在に実際に会えるなんて感激なのです! よろしくなのです!」
魔法少女はユアの手を取り握手を交わす。
「さて自己紹介も済んだところだしここから移動しようか。アルターこれをどうにかできるか?」
靄さんが周りを見ながら言う。
たしかに周囲は赤髪の少女エクスの髪が波のような状態で止まっているので色々と手間がかかりそうだ。
「大丈夫なのです! 任せてなのです!」
跳ねるようにしてエクスの後ろに回り再び首の後ろにケーブルを接続する。
あっという間に波のようだった赤髪が収束していき元の髪の長さに戻る。
「よ~し! これでオーケーなのです! じゃあまた明日なのです!」
「すいませんがアルター様、少しお待ちください。ここへはどうやって入ってこられたんですか?」
「だからキューティクルなのですよ~……。入れたのは…………もちろん魔法のおかげなのです!」
「アルター様あまりおふざけにならないでください」
「女の子なんだから秘密の一つや二つは合って当然なのですよ~」
そう言うと持っていたこん棒――いやよく見ると魔法のステッキだな――に跨り飛んで行ってしまった。
「全くしょうがないですね」
カグヤ様が笑顔を浮かべため息をつく。しかし見ている人は分かるだろう、目が笑っていない。正直かなり怖い。あの笑顔を見てノトスでさえ手が震えているのが分かる。いや震えてるのは俺の手だった……。
「では皆さん今日はここで解散にしましょう。家まで送らせます」
有無を言わせぬ迫力に皆黙ってうなずく。
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家に着くと時刻は朝の6時。
公園でのやり取りからすでに8時間が経っている。
ユアは靄さんの研究室に泊まると言って新都庁に行ってしまった。
「確実に霞キレられるな……」
「ふん。男なら黙って怒られろ。わしなんてどうせ玩具みたいに扱われるのじゃ。あれは本当に屈辱なのじゃ……」
ドアの前に立ちいざ入ろうとしたところで俺が開ける前にドアが開く。霞が顔を出して驚いた顔をする。
「やあ、おはよう霞。朝早いなぁ」
「…………」
認識が追いついてないのか俺とノトスを交互に見ながらも言葉を発しない。
「おーい。大丈夫かぁ?」
顔の前で手を振ってみる。しかし霞の視線は俺とノトスを交互に見続けている。
流石に怖くなったので肩に手を置き体を揺する。
すると突然霞の目から大粒の涙が溢れ出てくる。
「お、おい! 一体どうしたんだよ?」
問いかけても何も言ってこない霞。それどころか声を上げて泣き始めてしまった。
「うえぇぇぇぇん! うわぁぁぁぁぁん!」
「マジでどうしたんだよ!?」
「だってぇぇぇ、全然帰ってこないしぃぃぃぃぃ、心配でぇぇぇぇぇ、眠れなかったんだからぁぁぁぁぁぁぁ!」
大声で泣きわめく霞の言葉に俺とノトスは顔を見合わせる。
確かに朝帰りとなるとさすがに心配をかけただろう。まさか泣くほど心配されているとは思わなかった。
「ごめん、まさかそんなに心配かけてるとは思わなかった……」
「ひっく、ひっく……。べ、別にあんたの心配なんかしてなかったわ! わ、私はノトスちゃんの心配をしていたの! 勘違いしないでよね!」
「はいはい……」
急なツンデレも霞の可愛い所だ。
「何ニヤニヤしてんのよ」
「いや、なんでもないよ」
「お主らほんとに仲がいいのう」
勝手に怒られろ思い込んでいたのが恥ずかしい。
霞の優しさは俺の想像を超えていた。さすが俺の自慢の彼女だぜ!
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