15話 成長
よろしくお願いします。
「では行くぞ!」
ノトスの温かい手を握りしめ念じる。
世界の理から外され、手からノトスの感触が消える。
赤髪の少女は明らかに正気を失い、鞭のようにしなる長髪で周囲の物を破壊していく。
テントはすでに半壊しておいるが、中にいた防護服の人たちは皆避難を終えている。
右手に石器刀を握り戦闘態勢を整える。
「きゃあああああああああ!」
叫びを上げながら長髪をしならせ攻撃をしてくる。
攻撃スピードが遅いので後ろに下がり簡単に避けられる。
『バカッ! 後ろにも気を使え!』
後ろにはすでに赤髪が待ち構えておりさっきの攻撃が囮であったと理解する。
髪でもあらゆるものを真っ二つにする力がある。生身で触れられたら終わりだろう。
体をひねり石器刀で襲いかかってくる髪を切る。さすがオリハルコンでできた刀、壊れないどころか赤髪を切り裂いてしまった。しかし切っても切っても伸び続ける赤髪。
ユアも刀で応戦している。
少女を殺さずに確保する方法が思いつかない。
「ッ! 一体どうすれば!」
「なかなか厳しいですね」
お互いの背を預けながらすっかり赤髪に囲まれてしまった俺とユア。
周囲はもはや赤いドームに覆われており逃げ場はない。
しかも段々と壁が近づいて来ておりこのままだと俺もユアも粉微塵になってしまう。
壁に向けて石器刀を振るうが瞬時に塞がってしまう。
『おい! 燈! 少し身体を借りるぞ!』
「えっ!」
そう言うと身体が勝手に動き出し、右手に持っていた石器刀が左手にも出現する。
そしてドームの上、円形になっている部分に向けて両手の刀で風穴を開ける。
「今じゃ!」
俺の口を使いノトスがユアに向けて言う。
そしてユアが跳躍しその穴から外に出る。
『ユアを外に出したのはいいけど俺たちはどうするんだよ』
「落ち着くのじゃ。それよりもまた身体を戻すぞ」
そう言うと身体の感覚が戻り左手にあった石器刀も消える。
しかし元に戻されてどうすればいいのか……。
「どうして戻したの? なんならそのままでもよかったのに」
『バカもの! こういう状況こそお主の成長にうってつけじゃ! 自分で考えてみよ!」
「えー!」
『それとユアの方が先に助けに来たら帰って罰ゲームじゃぞ」
「ええー!」
そんなやり取りをしている内も赤い壁とかした髪が徐々に迫ってくる。
どうしたらここか抜け出せるのか……。ノトスと同じやり方は無理だろう。あんな動きは今の俺にはできない。
いや待てよ……。これなら……いけるか……。
右手の刀を消し、考えた通りの武器を作ろうと念じる。
そして右手に出現させたのは巨大な漆黒の槍。イメージとは少し違うがこれでも大丈夫だろう。
巨大なわりに軽い槍を片手に構えおもっきり引く。
イメージするとその通りに動くので楽だ。
『なるほどのう』
ノトスは俺のしようとしてることが分かったのだろう。
槍に加える力を最大限まで高めそして壁に向けて全力で投げる。
とんでもない速さで飛んでいく槍が壁に当たり巨大な風穴を開ける。
「いまだぁぁぁぁぁ!」
空いた穴から外に出るため全力で走る。
既に開けた穴の半分が埋まって来ているがまだまだ人一人は通れるほど穴は残っている。
その穴へダイブするように突っ込み、なんとか外に出られる。顔を上げるとユアが少女本体を相手に戦っておいるが中々苦戦しているようだが俺に気付くと攻撃をいなしながら俺の方に向かってくる。
「無事でよかった。それとさっきは助かりました」
「お礼はノトスにお願いします。俺だけだと危ないところでしたけどね……」
『いや、あの手は意外と良かったぞ」
色々と話してはいるが少女の異変は未だに変わらずに続き、とうとう赤髪が津波のように押し寄せてくる。
さらにさっきまで片腕がだけが無かったが、今は両手を失い、身体中の傷から機械の部品が覗いている。
「これは……」
「やばいな……」
『たしかにやばいのじゃ……」
かなり危険な状態に追い込まれているのは俺たちだけじゃなく赤髪の少女もだろう。あのままだと確実に修復ができなくなってしまう。
そんなとき赤髪の少女の後ろから人影が飛び出して来る。
「と〜りゃ〜!」
場違いな可愛い声を出しながら人影は赤髪の少女の頭を殴る。
「ふぅ〜、なんとか間に合ったのです!」
さっきまでの暴走が嘘のように収まり赤髪の少女は気を失ったのかその場で全く動かなくなる。
少女の後ろ、人影が姿を現わす。
現れたのはやたらピンクが目立つ少女いや背格好的にはまだ幼女だろう。ツインテールの髪にセーラー服となんとも場違いな格好をしている。
しかし顔をよく見るとどこかで見たような既視感に襲われる。
「もしかしてマキナから来たアルターさん?」
「もぉ〜アルターなんてそんな変な名前は捨てたのです! 今は愛と正義の魔法少女キューティクルなんです! 気軽にキューちゃんって呼ぶです!」
ピンクの髪ひピンクの制服、さらに手には赤髪の少女を止めた棍棒……いや魔法のステッキを握り可愛らしいポーズを決めている。
なんだろう…。アルター、いやキューちゃんの周りにキラキラしたものが飛んでるように見える。
「あれれ〜みんな固まってどうしちゃったのですか? あ! わかったのです。魔法少女の正体がわかったから唖然としてるんですね! も〜他のみんなには内緒にするのです! てへぺろ!」
『燈……あれはなんじゃ?』
色々と凄すぎてなんも言えない。この前映像で見たときは暗い部屋でパソコンをいじってる幼女にしか見えなかった。しかし今、目の前には全身ピンクの自称魔法少女という変貌ぶり。
「燈、ノトス大丈夫か!」
足音と共に靄さんの声が近寄って来てくる。
「お疲れ様です。燈様、ノトス様、ユア様」
カグヤ様も一緒に来て俺たちに声をかけてくれる。
「あの……あれ」
魔法少女を指差すとカグヤ様も靄さんも一緒に見る。
「ああ」
「あらアルター様。お久しぶりです。その格好凄くお可愛いですね」
「アルターじゃないのです! 魔法少女キューティクルなんです!」
ナチュラルにスルーする靄さん、相変わらず上品な感じで返すカグヤ様。
つかそんなことより……
「あのそれよりもやることがあると思うんですけど……」
「わかっております。それではアルター様、よろしくお願いします」
「アルターじゃなく魔法少女キューティクルだです……。わかったのです。私も久しぶりの仲間との再会を喜びたいです」
そう言うと首の後ろからケーブルを取り出し赤髪の少女の首に繋がる。なんかこの絵面、攻殻○動隊を彷彿とさせるな……。
待つこと数秒。ケーブルを取り神妙な顔で考えている魔法少女キューティクル。
「とんでもないことがわかっちゃったのです……」
明らかに元気が無くなっている魔法少女を見ると多分ほんとにとんでもないことなのだろうと俺も感じでしまった。
次話は明日か明後日か来週になりますのでよろしくお願いします。
ストックが切れた……。




