14話 東京
よろしくお願いします。
東京を覆う50メートルの壁は隕石による汚染の可能性があるとして建設された。今となっては異世界のことについて隠すためだったのだと分かる。
靄さんに案内され壁の中に入るために準備をする。
「またお会いしましたね」
後ろから声をかけられ振り向くとそこには真っ赤な和服に身を包んだカグヤ様がいる。
「こんな遅い時間に申し訳ございません。燈様、ノトス様、靄様。それにあなたはアースの民の方ですね」
「えっ」
カグヤ様が発した言葉に全員驚いたように声をあげる。
「カグヤ様はアースの民をご存知だったんですか?」
「はい。100年ほど前この世界に来たばかりの頃少しお世話になりました」
俺がカグヤ様が100年前に異世界から来たエルフだと知ったのはついさっきだ。
「あなたのことは言い伝えで聞いている。私はユアと言う。以後お見知り置きを」
「私は神宮寺カグヤと言います。今後ともよろしくお願いします」
お互い流麗なお辞儀で挨拶を交わす。
国家元首と地底人、世紀の出会いだな。
「それでは行きましょう」
「えっ、あの防護服とか着なくても大丈夫なんですか?」
見れば他の人たちは映画で見るような真っ白い防護服を着ているが俺やノトス、カグヤ様、ユア、それに靄さんはそういった類のものは着ていない。
「皆さんは私が魔法をかけてありますのでそのままで大丈夫です」
魔法便利だな……。
しばらく長い廊下を進んでいくと真っ白い大きな扉が見えてくる。その扉は見たところ特に変わったところはない。どこにでもあるただの扉。しかしなぜかただならぬ雰囲気を感じる。
「この扉……なんだかおかしくないですか?」
「よく気付きましたね。実はこの扉私が許可しないと絶対に開かない魔法をかけているんですよ」
「そ、そうなんですか……」
今日で3度目だけど魔法便利だな……。
しかし魔法とかそういう単語が普通に使われているこの状況に違和感を感じなくなってしまった。
もはやアニメみたいな世界に侵食されているな。
カグヤ様が少し口ずさむと扉に魔法陣が浮かび上がり扉が開く。
「さぁ行きましょう」
扉をくぐり抜けるとそこは死の空間だった。
どこを見ても黒色の砂が一面に広がり草木一本生えてない。何もかもが死んでいた。
「これは……ひどいですね……」
「ああ、5年前から何も変わってない」
「少し急ぎましょうか」
カグヤ様がそう言うと軍用と思われる車がこちらに向かってくる。よく見ると運転席には誰も乗っておらず一人でに車が動いている。
それに乗り込み移動する。
5分ほど移動すると暗闇の中に白い防護服を着た集団が現れる。
「もうすぐ着くぞ」
靄さんの一言で緊張が増し、何故だか手が震えてくる。その震える手を温かく小さな手が包み込んでくれる。
「大丈夫じゃ。わしがおる」
不思議とその一言で手の震えは止まり心から不安が取り除かれる。
それから5分ほど移動するとまた白い防護服の集団が現れる。今度は所々にテントをが建っており、照明の灯りが眩しい。
「着きました」
車を降りるとヤクザ風の金髪オールバックの巨漢が近づいてくる。
「姫さん、それと……ちっ! 真刀までいるのかよ」
「久しぶりだな、佐々浪。お前はまだ死んでなかったのか。さっさとくたばれ」
金髪オールバック改め佐々浪さんと靄さんはどうやら知り合いらしく、会うなり火花を散らしている。雰囲気的に犬猿の仲であろうことが察せられる。
「あの……靄さん……この方は?」
「ああ、本当は会わせたくなかったんだが……こいつは佐々浪と言う。下の名前は……なんだったかな?」
「力也だ! 人の名前も覚えられないとはふざけた野郎だな」
「お前みたいな奴に私の記憶リソースを割きたくないだけだ」
再びバチバチし始める二人。それを遮るようにカグヤ様が割って入る。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いてください。喧嘩するよりも先にやることがあるでしょう」
カグヤ様の言葉でお互いに距離を取る。
「では佐々浪様、案内をお願いします」
「ああ」
そう言うと所々テントが設営されているさらに奥、一際巨大なテントが張られている。佐々浪さんの案内でその中に入ると明らかに空気が変わった感じがした。目に見えない圧力が上から押しかかってくる感じだ。
「なんだか空気が重いですね」
「そうじゃのう。ドラゴンと対峙した時みたいな感じじゃな」
相変わらず手を繋ぎ続けてくれるノトス。結構恥ずかしいのだが……。いや、他の人から見れば保護者と子供に見えるから大丈夫か……。
巨大なテントの中央あたりまで来ると防護服を着た人達が凄い勢いで行き交っている。
そしてよくSF映画出てくるガラス張りの部屋が目に入る。そこには小さな子供が横たわっていた。年は幼稚園児くらいで燃えるような真っ赤な長髪が見える。何より目立つのが片腕がなく、所々にある傷口からは骨血の代わりに機械の配線みたいなのが出ている。
「あの子……機械?」
「ああ、おそらくマキナから来たのだろうな」
「アルター様に連絡してあります。そろそろいらっしゃるでしょう」
たしかマキナというのは機械生命体の星でアルターはそこから来た幼女だったか。
「おい、あやつ目が覚めたみたいだぞ」
ノトスの言葉に俺や墓のみんながガラス越しに確認すると片腕の少女は寝起きのように目をこすりあくびをしている。身体の傷から覗く機会の配線がなければ人間と見分けがつかないだろう。
「どうするのじゃ?」
「とりあえず中に入ってみましょう」
そう言うとガラスの一部が溶け、人が通れるだけの穴が開く。
そこから中に入ると俺たちに気付いたのか女の子がこちらに目を向けてくる。
俺と目が合った。夕日よりも赤い目と視線が交差する。
途端真っ赤な髪を振り乱しながら叫びだす女の子。
「きゃあああああああああああああ!!」
「ッ!!」
急な事態に皆に動揺が走る。
すると赤髪だったものが突如伸びはじめ蛇のようにしなりだす。髪が周囲の物に当たるとまるで鋭利な刀で切られたかのように真っ二つになる。
「皆さん! 逃げてください!」
カグヤ様の叫びと同時に全員に魔法陣が浮かび上がる。多分防御魔法だろう。
さらに少女の髪は周囲の物を壊しながら伸び続ける。
「このままだと周囲に被害がでる! わしたちで止めるのじゃ!」
「私も手伝いましょう!」
ノトスの言葉にうなずきで返す。ユアも手に持った刀を抜き放ち黒い刀身をさらけ出す。
「すいません。私は皆さんを避難させるのでそちらはお願いします」
カグヤ様と佐々浪さん、靄さんはテントの中にいた防護服の人たちを避難させるために行ってしまう。
「では行くぞ!」
ノトスと手を握り合い狂った赤髪の少女に立ち向かう。
次話は明日か明後日投稿です!




