12話 家
よろしくお願いします。
「いいか、ノトス。僕が霞に説明してる間はずっと黙っててよ。絶対だからな! フリじゃないからな!」
「わかっておる、わかっておる」
場所は俺の家の前。夕方。
満面の笑みでいるノトスを見ると本当にわかっているのか不安になる。
「……じゃあ、行こうか」
3回ほど大きく深呼吸をしてからドアノブを回し中に入る。
「ただいま」
「おかえりー」
奥の方からパタパタとスリッパの擦れる音がこちらに向かってくる。
額からは汗が滴り落ち、溢れそうになる生唾を飲み込み緊張の瞬間に備える。
「ずいぶん遅かったじゃん。一体何して………………」
「…………」
「…………」
顔を出した霞は夕飯の準備中だったのかピンクのエプロンを身につけている。そして俺を見た後隣にいるノトスに目を向ける。
たっぷり10秒ほどの沈黙。
「霞、よく聞いてくれ。この子は……」
「あなたがノトスちゃんね!」
思っていた反応と違い笑みを浮かべまるで親戚の子供を迎え入れるかのように受け入れる。
小走りで向かってきてノトスに抱きつき髪をわしゃわしゃし始める。
「わぁ~! すごい綺麗な髪ね! あなたがノトスちゃんね!」
なんだかわからないがそのまま大人しくしていてくれ、と視線でノトスに伝える。
視線で通じたのかじっとしたまま霞にされるがままになっている。
「おい、霞。もういい加減離してやれよ」
1分ほどわしゃわしゃされていたノトスの髪は少し乱れている。
「靄さんから説明された?」
「うん。確か道に落ちてたのをあんたが拾ってきたんでしょ? ったく酷い話よね! こんな可愛い子を捨てるなんて! 燈あんた良くやったわ!」
靄さん……とんでもない説明をしたな……。 それに……それを信じる霞。美少女を道端で拾うってアニメとかラノベでしか聞いたことないんだが……。だけどまぁ霞は可愛いの好きだからいいのか……。
「まあ……そんな感じなんだけどこれから当分は一緒に暮らすことになったから。ほれ、あいさつ」
少し子ども扱いすると睨んでくるノトス。
しょうがないじゃん……そういう設定なんだから。
「改めて初めまして、わしがノトスじゃ。これからよろしく頼むぞ」
おーいー! 口調をもう少しどうにかしろよ! 普通の女の子は一人称に「わし」なんて使わねーよ!
霞も少しおかしく感じたのかぽかんとした表情を浮かべ固まっている。
「か……か……か……」
「か?」
目を伏せ何か言葉を発しようとする霞。
「可愛い!」
再びノトスをわしゃわしゃし始める。
どうやら霞はこの話し方がお気に召したらしい。可愛い、可愛いを連呼しながらこれでもかってくらいわしゃわしゃしてる。
「もういい加減にせんか! わしはおもちゃじゃないぞ! それに本当はお主なんかより年は……」
「年は?」
「年若いぞって事だよな!」
思わず口がスベりそうになるノトス。慌てて口を塞ぎ、代わりになんとか誤魔化す。
「そんなのあんたに言われなくても分かってるわよ。 そうだ、ノトスちゃん。お腹空いてるでじょ? 今日のご飯はカレーだからいっぱい食べてね!」
もう一度ノトスに視線で釘を刺すと、分かってくれたのか頷く。
「わーい。カレーなのじゃ。わしはカレーは大好物なのじゃ」
「なら良かったわ! さっそくご飯にしましょ!」
とんでもない棒読みをくり出すノトス。それでも普通に接している霞。可愛いもの好きである霞は可愛ければ多分なんでもいいんだろう。
とりあえずなんとかなって良かった。
内心ホッとしたからなのか途端にお腹の虫が鳴り空腹を知らせてくる。今まで緊張で気づかなかったがカレーのいい匂いが波のように押し寄せお腹を刺激してくる。
「なあ……わしはあやつの前ではいつもあんな感じで過ごさなきゃいけないのかのう……」
「……頑張ってくれ」
なんとも同情を禁じ得ないが俺にはどうしようもない。「異世界から来た1000年生きている人なんだ」って言っても信じてもらえないだろうし。
「早く入って来なよー」
奥から霞がなかなか入ってこない俺たちを呼んでいる。
「まあ、とりあえず今はご飯食べよう。意外と霞のカレーは美味いから」
ノトスは頷くとテクテクと玄関から入っていく。
続いて俺も入り食卓まで行くと既にカレーが湯気を立てて待っている。我が家のカレーはいたって普通のカレーだ。じゃがいもににんじん、ひき肉、玉ねぎ。シンプルだがそれ故にうまい。愛情も入ってるからかな。…………いや今のは忘れてくれ……。
「さあ、ノトスちゃん! おかわりもあるからたくさん食べてね!」
「ああ、いただくぞ」
「いただきます」
「はーい、召し上がれ!」
感想は…………とても美味しかったです。マジだからな!
霞の質問攻めを何とか乗り切り、今はまったりタイム。
するとお風呂が沸き終わったメロディーが鳴り霞が満面の笑みを浮かべながらノトスに言う。
「じゃーノトスちゃん一緒にお風呂入ろうか~」
この10分色々もてあそばれたノトスは危機を感じたのか俺の後ろに隠れる。
しかしノトスよ……。すまない……。俺は……。
黙ってノトスの体を抱え霞の前に差し出す。
「なっ! 裏切ったな!」
「ほんとにごめん……」
「い、いやじゃ! いやじゃ! 一人で入れるのじゃー!」
「髪とか体とか隅々まで洗ってあげるからね~」
ずるずると引きずられていくノトス。
グットラック…………いい旅を。
「はぁ~、意外とどうにかなったな……。でもノトスには少し悪いことしちゃったかな」
ピンポーン
ソファで横になっていると家のインターホンが鳴る。
「こんな時間に誰だ?」
時刻はすでに20時を回っている。
カメラで来訪者の姿を確認するとフードを被った男か女かもわからない人が立っている。
宗教の勧誘か。衣装凝りすぎだろ……。
「あの……どちら様ですか?」
「真刀燈はいるか?」
「それは僕のことですが……」
「それはよかった。君に至急話したいことがある。少し出てきてくれないか?」
え……。どう見ても怪しい人にいきなり話があるから出てきてくれって。
少し回答を迷っているとそのフードの人から予想だにしなかった言葉が飛び出してくる。
「君の体の中にある石についてなんだが」
「ッ!!」
ありえない! だってそれはついさっき分かったことだぞ!
「お前は……誰だ?」
「私はユア。この地球の使者」
もう少し日常パートを謳歌したかったがそうも言ってられないようだ。
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