10話 新たな出会い
感想などよろしくお願いします。
「握手してくだちゃい!」
盛大に噛んでしまったが意味は伝わったのだろう。
差し出した右手に暖かい感触が伝わり相手が応じてくれたのが分かる。ふわりといい匂いを感じ、スベスベした手は今まで触ってきたどんなものより滑らかで気持ちいい。
「鼻の下を伸ばしおって……。久しぶりじゃのう、カグヤ」
ノトスが冷ややかな目で俺を見てくる。
しょうがないじゃないか! こんな超超美人を見れば誰だって鼻の下くらい伸びるわ!
それにしても意外にノトスはこの方のことを知っているらしい。
「姫様! 何故こんな所に?」
靄さんがあの部屋から出てこちらに向かってくる。しかもいつのまにか髪型がしっかり整えられている。
「ノトス様、お元気そうで何よりです。それに靄様、お久しぶりでございます。私会議室に行きたかったのですが……。ふふふ、どうやら迷ってしまったらしいのです」
首を傾げ頰に手を当て微笑むカグヤ様。
「会議室はここの30階ですよ。どうやったらこんな地下まで来るんですか……」
どうやらカグヤ様は意外も意外極度の方向音痴らしい。
それにしても俺は5年もここに通っているが一度もカグヤ様を見たことはない。これはラッキーとしか言いようがないだろう。
「ノトスも靄さんも知り合いだったの?」
「ああ、異世界の住人たちの身元保証人になっているし私もよく相談に乗ってもらったりする」
「わしは一応こやつに見つけてもらったらしい。命の恩人というやつじゃな」
「ふふふ、命の恩人と言っても私は何もしてませんけどね。見つけられたのも他の優秀な方々のお陰ですし、私は関係各所に色々とお願いしただけです」
今まで存在しなかったそれも人間かどうかも判断できない者の保証人になる、それがいかに大変なことであるかは分かる。色々とお願いと言うが並大抵のお願いの仕方ではなかったのだろうな……。
「もしかしてあなたが燈様?」
「はい。俺のことを知ってるんですか?」
「もちろん存じておりますよ。あの靄様のご子息ですもの」
手を顔の前で合わせ朗らかな笑顔で俺を見てくる。
それにしてもテレビで見るよりも美人だな。翠の瞳、尖った耳、艶やかな黒髪……ん? 尖った耳?
「耳が尖ってる……」
「あらあら私としたことがうっかり魔法を解除してしまっていたわ」
柔和な笑みを浮かべとんでもない事実が発覚してしまった。
靄さんは手を額に当てあちゃーのポーズをしている。
耳が長く尖ってるなんてそれって……
「も、もしかして……エルフなんですか?」
「あらあらバレてしまいましたか」
「はぁ……カグヤ様……。わざとバラしましたね……」
「うふふふ、燈様になら構わないでしょ? 異世界のことは既にご存知でしょうから」
てことはカグヤ様も異世界出身? エルフなんてあの時の話には出てこなかった。どういうことだ?
「私は東京消失よりもずっと前にこの地球に来ていたのですよ」
思考を読んだかのように俺の疑問に答えるカグヤ様。
「私は今から100年ほど前にこの地球に転移してきました」
「100年!」
なるほど、エルフは長命っていう設定は事実だったのか。つかアニメとかゲームの設定って事実と重なり過ぎて凄いな。
「カグヤ様って一体何歳なんですか?」
「それは乙女の秘密です」
唇に人差し指を立てウインクをしてくる。
茶目っ気溢れる仕草でも彼女にかかれば神をも惑わせる色気に変わる。
「あらいけない。もうこんな時間だわ。急いで会議室に行かなければ会合に遅れてしまうわ」
「カグヤ様、私が会議室まで案内します。燈、ノトスここで少々待っててくれ」
「分かりました」
「ふむ、分かったのじゃ」
「それでは燈様、ノトス様また会いましょう」
流麗なお辞儀をして去っていくカグヤ様。
「なんだか不思議な人だったな」
「そうじゃのう。わしも1000年生きてきたがあんな奴は初めて見た」
ノトスについてまだ知らないことは多いがふと頭に浮かんだ疑問を問いかける。
「そういえばノトスって種族的には何なの? エルフだったり、機械生命体だったり、獣人だったりは分かるけど他者と合体するって聞いたことない」
「わしは種族などない。だが強いて言うなら古代兵器じゃな。わしはな、アルトリアの神話時代に作られた兵器なのじゃよ」
ノトスが兵器……。
改めてじっくりと見てもやはりただの美少女にしか見えない。
白い髪、白いワンピース、サファイア色の瞳、うん、アニメでよく見るただの美少女だ。1ミリも兵器になんて見えない。
「ノトスは兵器なんかじゃないよ。ただの可愛い女の子だな」
そう言ったら一瞬ぽかんとした表情を浮かべた後、急に腹を抱えて笑い出すノトス。
たっぷり10秒ほど笑ったノトスは目に溜まった涙を拭きとりながら言う。
「ふん、昔同じことをどこかのバカに言われたことがあったのう」
「……それって……」
「そんなことよりわしはぷりてぃーでびゅうてぃふるな女なのじゃ!」
突然走り始めたノトス。笑いながら走っていくノトスを見ているとなんだか心がほっこりしてくる。
すると視界が歪んだと思ったら真っ白だったグラウンドが一面花畑に変わっている。花畑の中白い髪の女性が両手を目一杯広げ楽し気に踊っている。横を見ると金髪の女性が俺に向かって手を伸ばしてくる。俺はその手を掴もうと伸ばし……。といつのまにか目の前が元のグランドに戻り、ノトスがこっちに向かって走ってくるのが見える。
今のは一体……
「なんじゃ、ぼーっとして」
「いや、今急に…………」
「急になんじゃ?」
「…………なんでもない」
「さしずめわしの姿に見惚れておったのじゃな」
「…………まぁ、そんなとこ」
「その言い方なんか癇に障るのう」
頬を膨らませ離れていくノトス。
多分さっきのはアルトリアで過ごした頃の記憶なのだろう。もしかして記憶が戻りつつあるのか……。
5分くらいして靄さんが戻ってくる。
さっきのことはノトスにも靄さんにも言うのは止めることにした。
次話は明日か明後日投稿です




