9話 エンゲージ
ちょっと……やばいかも。投稿頑張ります!
「では始めようかのう……」
そう言うとノトスは体を寄せてくる。
ふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐり、白く綺麗な髪が目の前で揺れる。
綺麗な薄青色の瞳に見つめられると不思議と暖かい気持ちになる。
ノトスの顔が徐々に近づいてくる。唇には薄く化粧をしているのが分かる。
って、ちょっと待てよ……
「あの……またキスしないといけないの?」
「当たり前じゃろ! ほれ、ちゅ〜……」
目をつむりアヒル口を近づけてくるノトス。
「いやあの……俺彼女がいるんだよね……この前は怪物のせいで混乱してたからしたけどもうキスはできない……」
彼女がいると聞いたノトスは目を見開きまるで幽霊でも見たような顔をしている。
「か、彼女じゃと…………そ、それはあれかのう、男と女がお互いの気持ちを確かめ合った末に交際という明文化されていない誓いをたてお互いを認め合った後の女側の呼称のことか?」
「…………ちょっと何言ってるか分からなけど、まぁ多分その意味の彼女で合ってる」
「燈に彼女……」
魂が抜けたように放心状態に陥るノトス。
そんなに俺に彼女がいるということが驚くことなのか……
「その……キス以外に誓約する方法はないの?」
「そんなのあるわけないじゃろ!……」
目をそらし汗がだらだらと垂れしまいに口笛を吹き始めるノトス。
な、なんて典型的な反応だ……嘘をついていると言っているようなものじゃないか……
「あるんでしょ、他の方法が」
「…………ある…………」
「どうすればいいの?」
「ただ手をつないで念じればいいだけじゃ……」
ふてくされたように呟く姿は見た目15歳相応の少女に見える。1000歳だけど……
お互いに手を取り合い指を絡める。柔らかく小さい手の感触が心地よく思わずにぎにぎしてしまう。
「なんじゃ子供みたいなことをしよって」
「いやノトスのて手なんだか気持ちよくって」
「ふん。昔のお主もよくそうやっておった……」
「…………ノトスはさ。やっぱり昔の俺に戻ってほしいの?」
余計なことだと分かっているが聞きたかった。
隣を窺うと口をへの字に曲げこいつ何言ってんのみたいな顔で俺を見つめるノトス。
「何を言っておるのじゃ。あまりバカなことを言うのものではない」
握られた手に痛いほどの力が込められる。
「確かにわしとの思い出を忘れたのは寂しいが今のお前さんには今の生活がある。それにわしはお主が幸せならそれでいいのじゃ……」
そう言うノトスは満面の笑みで俺を見上げてくる。
なぜだか目から涙が出そうになったので上を向いて涙をこらえる。
再びノトスを見ると今度はひどく挑戦的な笑みを浮かべで俺を見てくる。
「それに彼女とやらを紹介してもらわなければな。楽しみが1つ増えたのじゃ!」
ころころと笑う彼女を見るとなんだか俺もうれしい気分になる。
「さ! 早くチューをするのじゃ!」
「いや、しないよ!」
「いいじゃろう! チューくらい! わしはずっとお主の母親代わりをしておったのじゃぞ! チューなんて挨拶代わりじゃ!」
「他にも誓約する方法があるんだからそっちでいいじゃん!」
「ふん! もういいのじゃ! ほれ、さっさと念じるのじゃ!」
言われた通りに目を閉じて念じる。
変身……変身……変身……変身……返信……ってやべ違うこと考えちゃった。
目を開けると握られていたはずの手に感触がなく、隣にいたノトスの姿がない。
「あれ? ノトス! どこ行った?」
『ふむ。成功したな』
「うぉ!」
頭の中から直接声を掛けられ驚く。
どうやら成功していたらしい。見た目に何の変化も起こってないが……
これ本当に成功しているのかと疑問に思ったのだが。
『イメージするのじゃ。そうすればどんな物でも作れる』
イメージか……とりあえず日本刀をイメージしてみよう……
随分前に訪れた博物館で見た日本刀を思い出してみる。
輝く刃に流れる刃文。精緻な紋様が描かれた鐔……は流石にどんな感じだったか思い出せないから鐔なしの刀をイメージする。
すると右手に日本刀が現れる。しかしその姿はイメージしたよりもゴツゴツとしており、刀というより石器に近い。
「なんだこれ……」
『うーん……まぁまだ慣れていないのじゃろう。しかしこれでも十分に破壊力はある。ほれあれに向かって振り下ろしてみい』
ノトスが指さした方――指をさしたといっても俺がそう感じるだけだが――に目を向けるとそこにはいつの間か人形が3体現れている。
「それはパペットと呼ばれる自動人形だ。アルターに教えてもらい量産した。壊しても自動で修復されるし戦闘訓練にはもってこいの代物だ」
靄さんの声が耳に着けたイヤホンから聞こえてくる。
目の位置に付いている二つの穴がひかり始めるパペットたち。
「では始めるぞ」
靄さんの掛け声とともに3体のパペットがすごい勢いで向かってくる。
「え! 3対1でやるの!」
『当たり前じゃろ! 何を言っておる! 今のお主なら朝飯前に倒せるはずじゃ』
と言っている間に1体のパペットが右の拳を俺に放ってくる。
手でガードをしようとすると肘から下が何らかの鉱物で覆われ、パペットの攻撃を弾いてくれる。
「こ、これは!?」
『前にも言ったがこれはオリハルコンじゃ。お主の意思に反応する。壊れる心配もない。それよりも次が来るぞ』
攻撃を防がれたパペットが次の攻撃を仕掛けてくる。
俺はそれを左手を鉱化させて防ぐ。そして右手に持ったオリハルコン製の石器刀を薙ぎ払う。
やばい! 当たらなかった!
全く当たった感触がなく空振りに終わったと思い距離をあけるためにジャンプして後ろに下がる。
軽く下がったつもりだったが予想以上に下がってしまった。というか常人ではあり得ないほど飛距離が出ている。
「なんだよ、これ!」
『今のお主は身体能力が跳ね上がっとる。気をつけて動け』
それ先に言っておいてくれよ!
パペットの追撃が来ないことを不思議に思いながら顔を上げる。
「へ?」
さっきまで俺がいた所に真っ二つになったパペットが倒れている。
「なにがあったんだ?」
『お主がやったに決まっておるじゃろう』
え! だって当たった感触が皆無だったのに!
『はぁ……やはり気付いておらんかったのか……。お主の攻撃は当たっておったぞ。があまりにもオリハルコン製の刀の切れ味が凄すぎて気づかなかったのじゃ! ふふふ、さすがわしじゃな!』
胸をそらし勝気な態度で説明するノトス。
そして残り2体となったパペットが今度は同時に攻撃を仕掛けてくるのが見える。
左右から向かってくるパペットはさっきの1体目よりも明らかに早く手には棍棒を握っている。
『来るぞ!』
ノトスの発した言葉が合図だったかのようにえげつない速度で2本の棍棒が左右から迫って来る。
俺は右は石器刀で左は手から肘までを鉱化して防ぐ。
そして追撃をされる前に左にいるパペットに向けて石器刀を回転切りの要領で振るう。
「なっ!」
確実に当てたと思ったがパペットはマトリックスのように上半身を後ろにそらしギリギリのところで避けた。
「とりあえずレベルを最強にしておいたぞ」
イヤホンから靄さんが嫌な報告をしてくる。
愚痴でも言おうかと口を開こうとするがパペットはそんなことをさせてくれる暇をくれない。次々に棍棒による左右同時攻撃が襲ってくる。ギリギリで避けながら石器刀で応戦するも徐々に壁際に追い込まれていく。
『しっかりするのじゃ! 集中して相手の動きを読み取れ! お主なら簡単に倒せるはずじゃ!』
相手の動きを読み取るって……
アニメじゃないんだからそういう意味不明なテクニックできるわけ…………ん?
ノトスに言われた動きを読み取るという高等テクどうやらマスターできてしまったようだ……。
次々に繰り出されるパペットたちの攻撃がなんとなくだが予測できるようになった。
「なんか……相手の動きが分かるようになったんだけど……」
『ふむ。当然じゃろ。お主には元から備わっておる力じゃ、勇者としてのな』
さっきよりも格段に避けるのが楽になり反撃のめどが立つ。
相手の攻撃に合わせて片手で防ぎつつ石器刀で攻撃をする。
まずは1体パペットを縦から真っ二つにする。
「よしっ!」
『油断するでないぞ』
最後の1体のパペットが両手に棍棒を携え迫ってくる。上下左右あらゆる方向から棍棒による攻撃が襲ってくる。明らかに人間では真似できないような動きをするパペット。だか俺にはその全てが分かる。高速で振るわれる棍棒の軌道、次に来る攻撃の軌道も手に取るように分かってしまう。
難なく避けながらパペットの攻撃の石器刀で受け止め鉱化した左手で思いっきりぶん殴るとパペットは数十メートル以上吹っ飛び全く動かなくなった。
「ふぅ……。意外と簡単に倒せたな……」
『ふん。こんな人形どもなら簡単で当然じゃな』
そして前と同じようにノトスとの誓約を解除する。
「とりあえずご苦労様なのじゃ」
労いの言葉をかけてくれるノトス。てっきりもっと早く倒せたなとか言うのかと思ってた。
パチパチパチパチ
突然どこからともなく手を叩く音が聞こえてくる。
「とても素晴らしい戦いでした」
声のする方を見ると真っ赤な和服を着た人形が立っていた。いやよく見ると人形ではなくしっかりと生きている人だった。ほんのりと朱に染まった頰、腰で切りそろえられた絹のように滑らかな黒髪、何より目立つのは翠の瞳だろう。
この世のものとは思えないほど美しい造形をした少女がさっきの拍手の源だろう。
「あ、あなたは!」
目の前に現れた女性は多分日本国民のみならず世界中の人たちが知っているだろう人だった。
「私は神宮寺カグヤ。現日本国総理大臣をやらせていただいております。以後お見知り置きを」
完璧すぎるお辞儀と共に薄く微笑む姿は人間では到底出さないような色気と魅力に溢れている。
本来なら直接会うことすらできない彼女がこの場にいる。なんだか嫌な予感しかしないのは俺がアニメ好きだからか……。
しかし今はとりあえずこう言うしかない。
「握手してくだちゃい!」
次話は明日か明後日投稿です!




