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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヒーローの誤算

作者: 川坊主

 ヒーローは、たいていの場合その正体を隠す。

 正体がバレれば、親族や知人に危険が及ぶ可能性が出てくるからだ。

 俺、三鷹正義(みたか まさよし)の場合はより切実な理由が加えられる。

 正体がバレてしまったと俺が認識した時、俺は……消滅する。


 半年前、地球を侵略するために宇宙人が襲来した。

 その圧倒的な戦闘力の前に人類はなすすべもなく、都市は次々と蹂躙されていった。

 そんな中、1人のヒーローが現れた。

 昆虫を連想させる複眼のような大きな真っ赤な目の仮面、真っ黒なボディ、様々な機械のようなアタッチメントがついたベルトと両腕。

 そのヒーローは、たった1人で次々と都市を開放していった。

 いつしかヒーローは、孤高のヒーロー「ブラック・ワン」と呼ばれ、人々の希望の象徴となった。

 彼の活躍のおかげで侵略者の活動も沈静化していき、表向きは平和が戻った。

 それでも、度々侵略者からの攻撃は行われ、彼がそれを撃退するということが繰り返された。

 この頃には、彼と侵略者の戦いはニュース等のメディアで知るモノのみとなり、人々は自分が巻き込まれない限りは遠い世界のことと捉え、特撮を見ているような気分で彼のニュースを見ていた。

 もともと特撮好きだった俺は彼に憧れ、様々な場所で色々な人と彼の活躍について語り合っていた。

 しかし、そんな彼の活躍の日々も突然に終わりを告げることとなった。


 あの日はバイト帰りの少し遅い時間に人気のない公園を歩いていると何処からか呻き声が聞こえてきた。

 急病人かもしれないと思い、呻き声のもとに向かうことにした。

 そこには、腹に穴が開き、血だまりの中に横たわるブラック・ワンと同じく腹に穴が開き、ピクリとも動かない化物が倒れていた。

 膝が崩れそうになるのを必死に堪えながらブラック・ワンに近寄った。

 どうやら、呻き声の主はブラック・ワンのようだ。

 まだ生きている。

 救急車を呼ぶために携帯電話を取り出すがブラック・ワンに止められる。

 「助けを呼ばないと!」

 自分でもわかるくらい震えた声で告げるとブラック・ワンは弱々しく首を振り、

 「私は……、もう助からない。私がこのまま死ねばこの星は奴らに侵略されてしまうだろう。だから、君に頼みがある。私のベルトを引き継いで奴らと戦ってほしい。」

 迷いはなかった。

 震える手でブラック・ワンの手を握る。

 「ありがとう……。」

 ブラック・ワンが呟くとその体が青白い光に包まれた。

 「君に1つだけ……注意がある。君が侵略者と戦う者であることは、隠し通せ。絶対に!」

 理由はわからなかったが、俺は力強く頷いた。

 握った手がどんどん冷たくなっていく。

 「頼んだぞ……。2代目……。」

 ブラック・ワンの手から完全に力が抜けたのがわかった。

 同時にブラック・ワンを包んでいた光が消え去った。

 そこには、隣に倒れている化物と全く同じ外見の化物が俺に手を握られて息絶えていた。

 その化物は隣の化物と違い、かすかに口角が上がり、微笑んでいるように見えた。

 俺は、その遺体をどうすることもできず、そのままにして帰宅するしかなかった。

 いつの間にか腰に巻かれていたブラック・ワンのベルトに触れながら、溢れる涙を拭った。

 次の日、ニュースで昨日の公園でブラック・ワンに倒されたと思われる2体の化物が発見されたと報道されていた。

 俺は、涙が止まらなかった。

 気持ちが落ち着くと変身方法や戦い方、索敵方法、普段は消えているベルトの変身時における呼び出し方といったものが最初から知っていたかのように頭に思い浮かんでくることに気が付いた。

 これもベルトの機能なのかと感心していると先代からの忠告であった「正体を隠せ」についての詳細も頭に浮かんできた。

 周りの人間への報復を防ぐために正体を隠すと思っていた俺は、その本当の理由を知って愕然とした。

 正体を知られたと使用者の俺が認識した場合、ベルトの機能が侵略者に知られることを防ぐためにベルトごとその使用者である俺が消滅する。

 だから、正体を隠さなくてはならない。

 ―正体がバレたと俺が認識した場合―

 この言葉が気になった。

 変身する瞬間を見られても俺がそのことに気付かなかった場合は、バレたと認識していないから消滅しないのだろうか?

 防犯カメラに映っていた場合、その映像を誰も見ていなかったとしても、俺が映像を見ている人がいて正体がバレたと認識した時は消滅するのか?

 俺は、変身することに恐怖を覚えた。


 ベルトを受け継いでから数日が経った。

 侵略者が出てくることもなく平和な日々が過ぎていたが、俺は気が気じゃなかった。

 暇さえあれば変身できそうな人気のない場所を探した。

 しかし、「意外と人通りがある」「周りの民家から外を見ている人がいるかもしれない」「あっ、防犯カメラだ……」等々、様々な理由が思い浮かび、場所の選定は難航していた。

 軽いノイローゼになっていることを自覚した。


 今日も休日を利用し、昼間から変身場所を探していると侵略者が街中で暴れようとしている映像が頭に浮かんだ。

 遂に来た!

 でも、場所が……。

 急いで探すしかない!

 しかし、見つからない。

 そうこうしている内に自宅アパート前まで戻ってきてしまった。

 俺はハッとした。

 1人暮らしの自宅内なら誰にも見られないじゃないか!

 俺は自宅に駆け込むとすぐに変身した。

 変身して感覚が鋭くなった俺は違和感を覚えた。

 誰もいないはずなのに視線のようなものを感じる。

 その違和感の発生源を調べるが誰もいないし、特に何もない。

 いや、ペン立の中に見覚えのないボールペンがある。

 まさかと思い手に取ってみる。

 盗撮用のカメラじゃねえか!

 どうやら、映像を電波で飛ばすタイプではなく、内臓の記録媒体に映像を保存するタイプのようだ。

 肝を冷やしながら、カメラと記録媒体を握りつぶす。

 ん?何でここに盗撮用のカメラが設置されてたんだ?

 まさか、ストーカー?

 ストーカーにこの家を監視されていたら……、この姿で家から出た瞬間にブラック・ワンの正体が俺だとバレてしまうんじゃないだろうか……。

 索敵機能に全神経を集中する。

 裏通りからアパートに面した道路に向かってくる2人組はいるようだが、アパートを視界に入れられる位置に人はいないようだ。 

 今なら出て行っても大丈夫だ!

 俺は侵略者と戦うために急いで家を飛び出し、現場に急行した。

 あっ、鍵閉め忘れた……。

 俺は慌てて家に戻り、鍵をかけようとする。

 なかなか鍵が見つからない。

 ああ、イライラする!

 なんとか鍵を取り出す。

 よく考えたら、ストーカーが知らないうちに出入りしてるんだから、施錠にこだわる必要はなかったんじゃないだろうか……。

 戦いが終わったら、ストーカーをどうにかしようと決意し、せっかく戻って来たこともあるのでとりあえず施錠する。

 「あれ?ブラック・ワンじゃないか?」

 俺は、ギョッとして振り返る。

 裏通りにいた2人組がモタモタしている間にここまで来てしまったようだ。

 しかも、こいつら大学の同期じゃないか!

 ここが俺の家だと気付くな!気付かないでくれ……。

 「この家に化物でもいるのかねえ。」

 などと緊張感のかけらもない会話をしながら2人は通り過ぎていく。

 良かった……。バレなかった。

 俺は、気を取り直し、侵略者と戦うために飛び出した。

 「あれ?そういえば……」

 2人組が突然立ち止まる。

 何だ!?

 「ブラック・ワンがいじってたドアの部屋って……」

 やめろ!気付くな!考えるな!

 「正義の部屋だったよな?」


 2人は振り返るが、そこにはただの住宅街が広がっているだけで先程までいた奇抜な恰好の者は影も形もなかった。

 「あれって、正義だよな?たぶん。」

 「だと思うぜ、俺らに見られて恥ずかしかったのか、速攻でいなくなったのがいい証拠だよ。」

 「ブラック・ワン好きなのは知ってたけど、まさかコスプレまでしてるとはなあ。」

 「今度、盛大にからかってやろうぜ。」

 遠くから微かに聞こえる爆発音に2人は気付かない。

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