独白
自作RPGのあるシーンから、世界設定を取り除いた物語。
ここはいつまでも変わらない。
静かに降る雪が夜の大地を白く染めている。
大陸最北のこの地は、1年の大半が氷と雪に閉ざされたの極寒の地だ。
眼下には何百年も変わらぬ雪景色が広がり、荒れた道は長いこと私以外に通った者は居ないことが容易に想像できる。
この場所に来るのは、何回目だろうか。
何千、何万、それ以上か。
毎日、ここに立つと同じことを考える。
在りし日。
私の永き人生の中で最も輝いていた日々のこと。
あなたと私は、マスターと契約者。
最初は、単なるパートナーでしかないはずであった。
だが、ずっと共に過ごすうちに、お互いを好き合うようになっていった。
そして、ある日、あなたは言った。
単なる契約者ではなく、伴侶として共に歩んでほしい、と。
そこまでなら、どこにでもある、ありふれた恋愛の話だっただろう。
しかし、私は悠久の時を生きる存在。
定命のあなたとは、いつか必ず別れがやってくる。
人に非ざる私はあなたの子供を産むことは出来ない。
ゆえに、結ばれるわけにはいかない。
そう言った私に、
あなたは、寿命の違いが何だ、子供を産めないのが何だ、
そんなのは関係ない。
俺は、お前が好きだから、共に生きたいんだと、
そう言ってくれた。
口下手で無愛想なあなたの、精一杯の告白だった。
それから、私達は夫婦として過ごした。
共に暮らし、愛し合った。
一緒に魔法の研究を行い、休みの日は色々なところへ遊びに行った。
どれも一人で生きていた時には体験し得ないものばかりだった。
年を追うごとにあなたは老いていき、若いままの私と見た目の違いも際立ってきたが、私たちにとっては些細な問題でしかなかった。
しかし、別れの時はやってくる。
ある冬の日の朝、あなたは普通の人より少し長めの90年の人生を終え、息を引き取った。
最期のあなたは、とても安らかな表情をしていた。
あなたのベッドの傍で、私は自分で出したことも無いような大声を上げて泣いた。
葬式には、多くのあなたの弟子、同僚とその子孫、あなたの研究に救われた人たちが参加した。
王族からも、お悔やみを伝える死者が来た。
だが、参列者の中にあなたの親族は誰も居なかった。
家族は、幼い時に流行り病で皆死んでしまっていたからだ。
身寄りの無いあなたの亡骸は私が引き取った。
あなたの膨大な研究資料は、全て国に寄付した。
それがあなたの希望だったし、私もあなたが人生を掛けた成果は何かしら役立てられるべきだと思ったから。
死後、その研究の偉業をたたえ、王からあなたに大賢者の称号が贈られた。
全ての後片付けが終わった後、2人の私物を手に私は長年暮らした王都を去った。
生前の願いで、遺体はあなたの故郷に埋葬することにした。
長年に渡りあなたの研究を手伝ってきた私の知識を惜しみ、王や大臣が何度も私に仕官を求めてきたが、全て断った。
私はずっと、あなたと生きると誓ったから。あなたが死んでもそれは変わることは無い。
私は、大陸最北の地にあった名も無き廃村の、見晴らしの良い高台に墓を作った。
あなたの墓の近くにあった、比較的保存状態の良い空き家を修復し、そこで暮らすことにした。
この地方は1年の大半が雪に覆われ、人が住まなくなって久しい無人地帯であったが、静かに暮らしたい私にとってはむしろ好都合であった。
最初は、何もする気が起きなかった。
生まれて初めて愛し、将来を誓った人が死んだ。
永き私の人生に比べたら、ほんの一瞬。
ちょっと前に戻っただけなのに、世界から色が消え、何もかもが無意味に感じた。
居着いて最初の半年は泣いてばかりだった。
そして、さらに半年かけて立ち直った。
いつまでも悲しんでいてはいけない。
あなたの傍で暮らし、唯一の家族として墓を守る。
例え時が経ち、あなたのことが忘れ去られても、
私だけは決して忘れない・・・
それが、共に生きることだと思ったから。
それに今は・・・
「もう寂しくありませんよ。」
だって・・・
あなたとの日々を思い出すだけで、こんなにも暖かい気持ちになれるのだから。
私の人生で最も美しく、今もなお私の心の中で光り輝いている思い出。
ずっと、ずっと私の心の中で生き続けている。