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アカシック・アーカイブ  作者: 夙多史
全知の公文書編―Preparation
56/159

FILE-54 創設秘話

(気は済んだかしら?)

「はい……」

「疲れましたぁ~」


 ルーン魔術と錬金術によって改装された旧学棟の教室で、ハツカネズミのエルナに睨まれたレティシアとフレリアはぐったりとした様子で生返事をした。

 無駄に疲れたのは恭弥も同じである。さっさと本題に入るためにエルナを促すことにした。


「エルナ、ここに全員を呼んだ理由は前に言いかけた『全知の公文書アカシック・アーカイブ』の件か?」


 辻斬り犯捕縛作戦を実行した夜、フクロウの姿に変身していたエルナが新しい情報を恭弥に教えようとした。だがそれは同じ特待生ジェレーターのグラツィアーノ・カプアによって邪魔され、結局話を聞けないまま今日に至っている。

 エルナはハツカネズミの頭を縦に振った。


(そうよ。と言っても、その件はもう全員知っていることだと思うけれど)


 そう前置きし、エルナは一呼吸置いてから告げる。


(『全知の公文書アカシック・アーカイブ』は異空間に存在しているわ。その情報の信憑性を確かめる前に実物を見てしまったわね)


 驚愕はなかった。

 恭弥たちは全員、あの夜に空間に穿たれた『穴』とその向こうの景色を見ているからだ。改めて驚く意味もなく、全員が納得したような顔をする。


「エルナさんは一体どこからそんな情報拾って来るのよ?」


 レティシアが素朴な疑問を口にした。


(都市の最奥に教授メイガス以上の権限でしか入れない区画があるのは知っているでしょ? そこの秘蔵図書館とか研究施設とかを漁っている内にぽろっとね)


 情報源は秘匿するかと思ったが、エルナは特に渋る素振りも見せずスラスラと喋った。そういう権限によって出入りを制限される区画があることは皆が知っている。隠す必要がない案件なのだろう。


「そんなところまで潜入していたのか」

「あの、危険じゃないですか?」

(まあ、簡単ではなかったわね。どこもそうだけれど、権限がなければ魔術的に侵入できない仕様になっているから)


 そう、権限がない者が入ろうとしても弾かれるのだ。強引に突破しようとすると逆に迎撃されたりもする。試してはないが。


「なるほど、だからエルナちゃんみたく動物にでもならんと入れんわけだな」

(いいえ、ネズミどころかアリが入る隙間もなかったわ)


 納得する土御門だったが、エルナは即座に否定を入れた。権限による制限はなにも人間だけではない。空を自由に飛んでいるように見える野生の鳥だろうと、無権限で入れない場所の上空を移動できない。

 入れるとすれば肉体を持たない存在――恭弥の幽体離脱とかが該当する。

 アレクが思考するように片眼鏡に触れる。


「それは是非とも、後学のためにどのように潜入したのか教えていただきたいですね」

(日に何度か運ばれるお弁当に混じって――)

「ストップ! それ以上は食欲が著しく減少する未来が見えたわ! 占いじゃないけど!」

「どんなお弁当だったんですかー?」

「ブレないわね、フレリアさん……」


 弁当の中にネズミが入り込んでいるシーンを想像すると確かに食欲が失せる。言外に不衛生だと言われたエルナは、心なしかムッとした口調になる。


(私の潜入方法やお弁当の中身はどうでもいいことよ。それより、昨日調べてわかったことを共有しておくわ。本当は恭弥のお見舞いに行きたかったのだけれど、例の『穴』を見てしまったから急ぐ必要があると判断したの)


 苦渋の決断だったわ、とエルナは超絶悔しそうに付け足した。なぜそんなにも悔しがるのか恭弥にはちょっと理解できない。すぐ退院したのに。


(結論から言うと、異空間への渡る方法は見つからなかったわ。わかったのはこの学院の成り立ちよ)

「成り立ち? そこに『全知の公文書アカシック・アーカイブ』が関係しているのか?」

(ざっくり掻い摘んで話すわ)


 そう言うと、エルナは淡々と調べたことを語り始める。


        ☆★☆


 それは十九世紀半ばのことよ。

 当時最高峰の魔術師たちが集い、後世の魔術師を育成するためにこの学院を設立したの。これは生徒手帳にも記載されている学院史の通りね。


 でも、真の事情はそうじゃなかった。

 当初は学院を作ることが目的ではなく、『異世界創造』が研究の最終目標だったのよ。


 魔術師たちが人の寿命を遥かに超える長い年月をかけ、ようやく異空間は造成できた。空間があるだけでなにもないと思われていたんだけど、そこは『無』じゃなかったの。


『混沌』と、一冊の魔導書がそこにあったらしいわ。


 魔導書には世界の創造から未来の破滅までの歴史と膨大な知識が詰め込まれていた。魔術師たちはその魔導書の知識を利用することで、神々のように『混沌』から『世界』を創造することに成功したの。


 けれど、当時は異世界と呼ぶにはまだまだ狭い空間だった。

 そこで魔術師たちは自分たちの知識を途絶えさせないために学院を設立し、弟子たちにこの空間を『完全なる世界』にする夢を託すことにした。それが学院設立の真の目的だったわけね。


 学院建設に合わせて空間も徐々に広がっていって、やがて地球と同等の大きさまで創造できたと思われた頃――悲劇は起こった。


 魔術師の一人が魔導書を悪用し始めたの。


 その力は絶大であり、魔術師たちが総出で立ち向かって犠牲を出しながらもどうにか討ち倒すに至ったらしいわ。『完全な世界』の創造のためには彼の魔導書が必要。でも、それが世に出れば世界を滅ぼし兼ねない力ともなってしまう。

 生き残った魔術師たちは魔導書を厳重に封印し、最初に創造した空間と学院だけを後世に残した。


 そして今は一部の資料に残っているだけで、学院の教師すら誰も魔導書については知らない――ってことになっているわ。


        ☆★☆


 一気に語り終わると、エルナは白愛から水の入ったお椀を貰って喉を潤した。


(その『最初に創造した空間』というのが恐らく『全知の公文書アカシック・アーカイブ』の在り処でしょうね)

「ん? 待ってくれエルナちゃん。混乱してきた。あーっと、つまり、この学院は最初に魔術師たちが造った空間じゃなくて、その後で『全知の公文書アカシック・アーカイブ』の知識で新しく造った空間ってことか?」

(そう言ったつもりだけど、難しかったかしら)


 頭に疑問符を浮かべて首を捻る土御門にエルナは呆れた視線を向ける。ハツカネズミなので本当に呆れた顔しているのかは定かではないが。


「『異世界創造』って……昔の人はとんでもないことを考えてたのね……」


 レティシアやフレリアもエルナの話を聞いて少なからず衝撃を受けた様子だった。


「アレク、『混沌』があれば美味しい料理も創造できたりするのでしょうか?」

「お嬢様、そこは『賢者の石』の創造と仰っていただきたかったです。錬金術師として」


 前言撤回。フレリアはフレリアだった。


「ともかくそれが真実なら、簡単に持ち出すわけにはいかなくなったぞ」


 恭弥は静かに腕を組む。当時の最高峰たちが『世に出すことは危険だ』と判断して封印した代物だ。それは現代だとしても恐らく変わらない。

 しかし――


(だけど、尚更諦めるわけにもいかなくなったわ)

「悪い人も狙っているから、ですね」


 白愛の言う通りである。渡してはならない連中がいる。恭弥たちが諦めればその連中の手に渡ってしまう可能性がある以上、ここで捜索を打ち切るわけにはいかない。


「幽崎の野郎にだけは渡しちゃダメだろうな」


 土御門も唸った。幽崎・F・クリストファー。現状把握している最も危険な人物だ。奴に魔導書が渡れば、アル=シャイターンの召喚どころでは済まない話になることは目に見えている。

 奪われるリスクはあるが、なんとしても先に見つけておかなければならない。


「封印されてるってことは、どこかに解印方法があるんじゃないかしら?」

「それを探すところから始めるか。指針が見えただけでも進歩だな」


 探偵部の今後の活動内容が決まりそうになったその時――


「その話、拙者も協力させてほしいでござる」


 唐突に、なにもないはずの天井が一部開き、一人の女子生徒が教室へと飛び下りてきた。


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