表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アカシック・アーカイブ  作者: 夙多史
全知の公文書編―Admission
38/159

FILE-36 遷移する戦場

 レティシアたちは指令本部となっている貨物車両を移動させ、オレーシャ・チェンベルジーと孫曉燕を撃破して姿を消した辻斬り犯の行方を追っていた。


「止まって!」


 街の広場の一つに出たところで停車し、全員が慌てた様子で外へと飛び出す。


「い、一体どういうことだ……これは……?」


 ルノワ警部は、その光景を見て絶句した。


「酷い……」

「……犯人はここまでやんのかよ」


 白愛は両手で口を押え、土御門は怒り覚えて歯を食い縛り拳を握った。


 広場を警備していた一個中隊が、一人残らず斬殺されて全滅していたのだ。


「……ここを通ったのは間違いなさそうね」


 辺り一面が人の血で真っ赤に染まった、見るも堪えない凄惨な光景に吐き気を堪え、レティシアはタロットカードを宙に浮かべて占術をやり直す。

 この広場は前以て占いに出ていた確率の高い場所だった。だからこそ人員を多く配置して警戒を強めるようにしたのだが、この結果までは占えなかった。


「これを新入生ニオファイトが一人で行ったというのか!? 馬鹿な!? 我々学院警察は第三階生プラクティカス以上の実力派揃いだぞ!?」


 信じられない、と言いたげな表情でルノワは怒鳴った。レティシアたちに怒鳴られても困るのだが、信じられないという気持ちはとてもよく理解できた。


「あの、犯人と戦った特待生ジェレーターの二人は大丈夫でしょうか?」


 白愛が不安そうにレティシアを見る。レティシアもさっきから呼びかけてはいるが、二人とも応答はなかった。

 もう一度試してみる。


「オレーシャ・チェンベルジー! 孫曉燕! 生きているなら返事しなさい!」


 すると、通信用タリスマンからジジッとノイズが聞こえた。


『……こちらオレーシャ。すまない、気絶していた。ダメージは大きいが、なんとか生きている』

『あーもう! 悔しい! くーやーしーいー! リベンジだよリベンジ! 今度は絶対シャオが勝つんだから!』

『孫は多少火傷があるだけでほとんど無傷だった。心配はいらないが、今は体が麻痺して動けない。回復したらそちらへ向かう』


 どうにか無事だったらしい二人の声が通信用タリスマンから響き、レティシアたちはひとまずほっと息をつく。


「いや、こちらから急いで回収班を向かわせる。辻斬り犯がトドメを刺しに戻って来ないとも限らない。そこはどこだ?」


 ルノワが彼女たちの居場所を聞き出し、部下にそこへ向かうように指示を出した。


「九条さんはこの状況を恭弥たちに伝えて」

「わ、わかりました!」

「オレは?」

「その辺見張ってて」

「雑くない!? いや重要だけども!?」


 白愛と土御門もそれぞれの役割を行い始めたのを認め、レティシアは占術に集中する。裏返しで浮遊するカードの中から一枚を捲る。


「『THE MOON』――『月』の正位置。不安。恐怖。偽り。一変する安全地帯……隠れた敵?」


 嫌な予感しかしなかった。


        ☆★☆


 恭弥とグラツィアーノは辻斬り犯が逃げたと伝えられてから、指令本部の車両が停車している広場へと向かっていた。

 状況は九条白愛から聞いた。


「……」

「……」


 走りながら二人は沈黙する。学院警察の一個中隊が全滅。オレーシャと曉燕は負傷しているが命に別状はない。


「……なんか、妙だな」

「あ、もしかして僕と同じこと考えた?」


 併走するグラツィアーノが爽やかな笑顔で恭弥を指差した。


「さあな。あと他人を指差すのはやめろ」

「大丈夫だよ。僕はガンドなんて使えないから」


 やはり恭弥の得意分野が周知になっているのはいかがなものかと思う。自分からバラしたようなものだが……今さら一人ずつ記憶を操作するわけにもいくまい。


「急ぐぞ」

「そうだね」


 今は緊急事態で、一応お互いに味方同士なのだ。衝突して時間を無駄に浪費する意味のなさは恭弥もグラツィアーノも理解していた。


        ☆★☆


 辻斬り犯の少女は次の獲物を探していた。

 今夜は強者が大勢集まっている。自分を捕えに来たことには流石に気づいていた。だが、それは彼女にとって返って好都合だった。


「楽しいでござるなー。外の世界にはまだまだ拙者の知らぬ強者が多いでござる」


 物心ついた時から忍者として修行を積んできた彼女を捕まえるのは容易ではない。そう、彼女は忍者。戦闘技術よりも逃走技術――遁術の方こそ主体なのだ。

 光学迷彩のマントを羽織って屋根から屋根へと飛び移る。


「拙者がこうして同学年の強者と戦っていけば、父上の仰っておられたあのことも――むむ?」


 警備の薄い路地を歩く人影を発見するや、彼女はマントを脱いで音もなくその背後へと着地した。

 このまま奇襲するのは簡単だが、それでは意味がない。こちらの存在をわざと相手に知らせる目的も兼ねて、今まで戦った全員にしてきた質問を投げかける。


「お主は強者でござるか? それとも弱者でござるか?」


「ああ? 俺に言ってんのか?」


 問いかけた瞬間に襲撃に転じようとした彼女だが、相手が予想以上に早く反応して振り返ってきた。

 白髪に近い金髪。狂気的な光を宿す血色の瞳が彼女を捉える。



「強 者 に 決 ま っ て ん だ ろ ぉ !!」



 ゾクリ、と。

 彼女は生まれてから初めて、戦いを挑んだ相手に全身を縛りつけられるような怖気を感じた。

 だが、それも一瞬。すぐにその怖気は彼女の中で歓喜へと変わる。


「……これは、手合せが楽しみになってきたでござるな」


※おまけ

「アレク、わたしたちも早く戻りましょう」

「既に多大な被害が出ているようですね。そのようにした方がよろしいでしょう」

「あっちから美味しそうな匂いがします!」

「お嬢様、そちらは逆方向にございます。彼らの元へと戻るにはこちらの道から…………いない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ