第三章 松田長官、サクラと観光旅行に行く
筈:(はず)物事が当然そうなること。道理。理屈。
睡眠:(すいみん)眠ること。眠り。内的原因によって周期的に起こり、一種の無意識状態で外界への働きかけがほとんどなくなった状態。
隠密:(おんみつ)物事をかくしておくこと。また、そのさま。内密。秘密。
呟く:(つぶやく)ぶつぶつと言う。小さな声でひとりごとを言う。
立つ瀬:(たつせ)めんもくなどがそこなわれないで保たれる。
一網打尽:(いちもうだじん)一つの網。また、網でひとすくいすること。
楯:(たて)防ぎ守ること。また、そのもの。
痕跡:(こんせき)ある物事が過去にあったことを示す、かすかなあと。
厨房:(ちゅうぼう)食物の調理をする所。台所。
鑑識:(かんしき)犯罪の捜査で、筆跡、指紋、骨格、血痕などを科学的に鑑定すること。
甲冑:(かっちゅう)鎧と兜。具足。
躊躇う:(ためらう)しようかしまいかと思い迷う。気持がまとまらなくて迷う。ぐずぐずする。
躊躇する。
剥がす:(はがす)付着している物をはいで離す。はぎ取る。めくり取る。はぐ。
槍:(やり)まっすぐな剣を長柄の先端につけて遠方へ突きやる武器。
囀る:(さえずる)小鳥がしきりに鳴く。
弁える:(わきまえる)見わける。識別する。弁別する。よく理解する。心得る。
庇う:(かばう)他から害を受けないよう、また、他から悪く思われないように守ってやる。
松田長官は、サクラの説明を色々と聞いていると同じ境遇のテレジア星人が他にも二名存在する事に気付いた。
この事を発表すれば世間は混乱する可能性がある為に極秘で対応する事にした。
サクラの説明を信用すれば、テレジア星人には自衛隊やアメリカ軍も敵わず、対抗できるのはテレジア星人のみだと判断した。
松田長官は時間を見付けて、家族には極秘任務だと説明して、サクラの力を借りて他のテレジア星人を捜す事にした。
家族は、護衛が必要な子供を不必要に連れ出す事に疑問を感じたが、何か考えがあるのだろうと黙っていた。
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ある日、松田長官がプライベートで、子供に変身しているサクラを連れて観光旅行と称して他のテレジア星人を捜しにいく事にした。
テレジア星人の事は極秘の為、護衛している萩原リーダーに、「この子と遊びに行きます。強力で優秀な私設警備人のサクラを採用した為に護衛は不要です。」と護衛を断った。
萩原リーダーは、「私達の護衛では不安ですか?」と不機嫌そうな様子でした。
松田長官は、「そこまで私に言わせるつもりかね?少なくともサクラは私が暴走族にからまれても見失うようなドジはしないよ。あの後、私は護衛なしで仕事をしていたのに、君は家でのんびりと団子を食べていたそうだな。サクラは休みなしで私の護衛をしているぞ。」と怒りながら出掛けた。
萩原リーダーは、“松田長官を怒らせてしまった。しかし、私が家で団子を食べていた事は家族も誰も知らない筈だ。何故長官が知っているのだろう。でも、いくらサクラが強力で優秀でも、護衛が一人だと睡眠している時やトイレに行った時の護衛はどうするのだろう?”と不信に感じて隠密で護衛する事にした。
隠密に護衛していた為に、悪の組織も松田長官の護衛に気付かず、仲間に連絡して襲う事にした。
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ある観光名所で警備員達が、「いつの間に子供と若い女性が入れ換わったのだ?浮気旅行するから護衛不要だと言ったのか。良い身分だな。」と呟いて、サクラが車の中で変身したとは夢にも思っていなかった。
萩原リーダーは警備員達に、「ポイント一異常なし・・・ポイント五異常なし・・・」と無線で各警備ポイントの状況確認をしていた。
透視力で確認したサクラは、「無線に割り込みます。サクラです。ポイント一と二の間の上からライフルで狙っているわよ。」と指摘した。
萩原リーダーは慌てて確認の上、取り押さえた。
更に、「敵はまだ潜んでいますが気付いていますか?」とサクラに指摘された。
萩原リーダーは警備員達と連絡を取りながら再確認した。
各警備ポイントから異常なしの連絡があった次の瞬間にサクラが、「手の掛かる警備員ね!ポイント三の近くに駐車中のワゴン車に乗っている三人中、二人は銃を所持しています。気を付けてね。私が対処すれば、あなた方の立つ瀬がないでしょう!たこ焼き屋のおっちゃん。」と指摘した。
萩原リーダーは、“何故彼が警備員だと解るのだろう。それに比べて、私達はサクラの位置すら確認できない。松田長官が優秀だと太鼓判を押しただけの事はあるな。”と感心して、警備員に対応するように指示した。
後輩警備員に準備させた、たこ焼き屋の屋台で、たこ焼き屋に変装して護衛していたポイント三の警備員が、「これ無料サービスです。」と宣伝して観光客に配りながら、確認の為にワゴン車に近付いた。
その様子を確認したサクラは無線で、「先に観光客を避難させなさい!」と警告したが既に遅く、突然銃で撃たれ警備員は負傷して倒れた。
次に松田長官に向かって数発発砲した為に、観光客が逃げ惑う中、警備員達も応戦して銃撃戦の末に一網打尽にした。
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“松田長官が撃たれた!”と警備員達が松田長官を確認すると、何もなかったかのように、恋人と仲良く腕を組んで歩いていた。
警備員達は何があったのかと思った次の瞬間、サクラより無線が入った。
「矢張り、あなた方だけでは無理でしたね。何故観光客を先に避難させなかったのですか?タレントのショーがあるとか方法は色々とあるでしょう。松田長官は私が守ったので悪しからず。警備員が負傷したようですが、銃を所持しているから気を付けるように忠告したのに情けないわね。たこ焼きでも食べていたの?松田長官が危機の時に、のんびりと団子を食べているようなリーダーの部下だから、たこ焼きを食べながら仕事しても無理ないわね。」と馬鹿にされた。
警備員達は周囲を確認したが、サクラを確認できなかった。
武装してない為に、サクラが松田長官の横に座っている女性だとは気付かず、銃弾はサクラが楯になり体で受け止めたとは夢にも思いませんでした。
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松田長官が移動した為に、警備員数名がその場に残りサクラの痕跡を調査して、残りは松田長官の護衛を継続した。
萩原リーダーはサクラに馬鹿にされたので面子をかけて、「今度こそ我々で守るぞ!」と警備員達に葉っぱをかけて意気込んでいた。
サクラの調査を行っていたグループの調査が終了してホテルに戻った。
その警備員はホテルに戻っていた萩原リーダーに、「サクラの痕跡らしき物は発見できず、ただ松田長官の座っていた場所に、何か不明の穴が空いていました。確認の為に掘ってみると、緑色の生暖かい物質を発見した為に、サンプルを採取の上、鑑識に提出しました。」と報告した。
正体不明のサクラの正体が判明するかもしれないと期待して、鑑識の分析結果を待つ事にした。
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萩原リーダーは、松田長官に護衛している事がばれた為に、「夜は危険ですのでルームサービスにして頂きたい。」と危険回避しようとしていた。
松田長官は萩原リーダーの依頼についてサクラに相談した。
サクラは、「私は松田長官が何処にいても守ります。昼間、観光客を避難させずに敵と争った事からも解るように、あの護衛だと外食の場合、最悪巻き添えになる一般人が出る可能性は否定できません。」と助言した。
松田長官は、一般人を巻込む事はできない為に、萩原リーダーの依頼を了承した。
やがて、ルームサービスのワゴン車が来た為に、警備員達が部屋の手前で止めて料理の内容を確認した。
先程松田長官が注文した内容でしたので、厨房からきたと判断して通行を許可した。
ワゴン車が動き出したその瞬間、透視力で確認したサクラから、「何を確認しているの?スープに毒物が混入されていて、ボーイも銃を携帯しているわよ!」と無線が入った。
警備員達は慌てて再度ワゴン車を止めてボーイを確認した。
銃を携帯していた為に、銃を押収してボーイを銃刀法違反の現行犯で緊急逮捕し、警視庁に連絡して担当刑事と警察官数名が偽ボーイを連行した。
偽ボーイの証言から、倉庫に監禁されていた本物のボーイを救出して、料理は毒物混入の疑いから再作成して何事もなかったが、警備員達の面子は丸潰れになった。
スープを鑑識で分析した結果、青酸カリが混入されていた事が判明した。
警備員達は、サクラがいつどうやって確認したのか不思議でした。
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萩原リーダーは松田長官の隣の部屋をフロントに依頼して予約し、二交代で松田長官の部屋を徹夜で警戒していた。
大きな荷物を持った客が三人、近くの部屋に泊っていた事に警備員達は気付かなかった。
ボーイが失敗した事を確認すると、その客は荷物の中から、一人はマシンガンを取り出し、残る二人は甲冑で身を固めて、真夜中に部屋から飛び出して、松田長官が宿泊している部屋に向かった。
警備員達はその様子に驚いて、慌てて眠っている仲間も起こして対抗した。
マシンガンを持っている男は、甲冑の男の後に隠れていて、甲冑には歯が立たず、銃弾は甲冑に当たれば反射して、何処に飛んでいくか解らず、ホテル内で銃を使う事を躊躇っていた為に、全員甲冑の男に殴られて気絶した。
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彼らは松田長官が宿泊している部屋の鍵を消音銃で壊して中へ入ると、松田長官はサクラとベッドで寝ていた。
マシンガンを構えると、サクラが布団を頭から被った為に彼らは、「まだ気付かずに寝惚けてやがる。これでこの世ともおさらばだ!永遠に女と御寝んねしろ!」とマシンガンを連射した。
出血がない為に不信に感じて彼らが布団を剥がすとサクラが起き上がった。
「えっ!?」と予想外の展開に動きが止まった。
サクラは端座位になり、右手でマシンガンを押さえて銃口を松田長官から外して、左手から今、連射したマシンガンの弾を落とした。
サクラは、「全て受け止めました。レディの布団を剥がすとは礼儀知らずですね。」と微笑んだ。
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彼は慌ててマシンガンを再度構えようとしたが、その瞬間、サクラが右手で絶対零度にした。
マシンガンは粉々に粉砕されて、マシンガンを持っていた両手もバラバラになり、自分の腕を見て、「な、何だ!どうなっているのだ!」と激痛に苦しんでいた。
甲冑の男二人が同時に襲ったが、その瞬間、サクラは両腕を槍のように伸ばして一瞬の間に二人の胸を突き刺した。
サクラは、「襲った相手が悪かったと諦める事ね。」と微笑みながら再び松田長官と添え寝した。
甲冑の男二人は、「本当にどうなっているのだ?」と呟きながら絶命した。
マシンガンの銃弾は、サクラが寝袋のように変形して松田長官を被い銃弾を受け止めたとは夢にも思わなかった。
松田長官には音も聞こえず目覚めなかった。
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早朝、小鳥の囀る声で目を覚ました萩原リーダーは、慌てて仲間を起こして、ドアが壊されて開放状態になっている松田長官が宿泊している部屋に慌ててノックもせずに入った。
甲冑の男は二人とも、胸に直径5cmほどの穴が空き、甲冑の中に血液が溜っていた。
マシンガンを持っていた男もショック状態で同様に倒れていて、マシンガンは粉々に粉砕されていた。
萩原リーダーは驚いて、部下に救急車を呼ぶように指示した。
肉食で攻撃力が強いテレジア星人には、このような事は朝飯前でした。
萩原リーダーが、まだ息のあるマシンガンの男に何があったのかを確認した。
「あいつ、化け物だ!」と恐れながら再び気絶した。
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サクラから無線で、「お早いお目覚めですね。私は化け物じゃないですよ。あなた方の護衛というのは通路で眠る事ですか?」とまた馬鹿にされた。
サクラと一緒にベッドで寝ていた松田長官が話声で目覚めてベッドに座り、「何だね?君達は!ノックもせずに!もっと礼儀を弁えたまえ!それに護衛不要だと伝えた筈だが何か用かね?」と起床した松田長官は現状を把握していなかった為に、無断で部屋に警備員達が入ってきたと判断して不愉快そうでした。
萩原リーダーが、“また、松田長官を怒らせてしまった。”と返事に困っていた。
松田長官は周囲の様子から現状を把握して少し落ち着いた。
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「もう良いから、カーテンを開けてくれないかね。」と依頼した。
萩原リーダーがカーテンを開けようとした瞬間、サクラが松田長官に抱き着いた。
真面目な性格の女性警備員小百合は黙っていられずに、「一寸、あんたね!今の状況が解っているの?そんな事をしている場合じゃないでしょう!」と怒りながらサクラに詰め寄ろうとしていた。
萩原リーダーはカーテンを開ける前に小百合を止めて、“サクラに反撃された男が、サクラの事を化け物だと言った事をサクラが聞いたらしく、先程の通信で、”私は化け物じゃない“と反論したが、今この部屋には我々警備員と松田長官以外にはこの女性しかいない!抱き着いたのは、まさかサクラが松田長官を庇っているのでは?”と考えて、昼間サクラがポイント一と二の間の上からライフルで狙っていると指摘した時にもこの女性が狙撃者と松田長官の間に立っていた事を思い出した。
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萩原リーダーが松田長官とその女性の延長線上にあるビルを、敵に気付かれないようにカーテンの横から双眼鏡で確認すると狙撃者を発見した。
部下を現場に急行させ狙撃者を逮捕後、萩原リーダーは、「まさかサクラは・・・」とまで口に出したが、無線機を所持していなかった為に断言は避けた。
その時サクラと目が合い、「さすが、警備員のリーダーだけの事はありますね。私の事が解ったようですね。私の動きから狙撃者の位置を特定するとはね。その顔は、まだ確信が持てませんか?確信が持てたら声を掛けて下さい。待っていますから。」と無線が入った。
無線を聞いた他の警備員達が、「リーダー!サクラは何処にいるのですか?その様子から狙撃者の位置が判明したのですか?」と正体不明のサクラの事を知ろうとしていた。
萩原リーダーはカーテンを開けながら、「まだ確信が持てません。もう少し待って下さい。」とサクラを見つめながら他の警備員達に返答した。
萩原リーダーは薄々感じていましたが、他の警備員達はサクラの見当が付かず、今回のテレジア星人捜しの旅行は終わった。
次回投稿予定日は4月14日です。