第十一章 松田長官、サクラと観光旅行する
沈没:(ちんぼつ)水や泥などの中に沈み入ること。水中や物の中に沈んで見えなくなること。また、そのように物がなくなること。
豪華:(ごうか)ぜいたくで、はでなこと。
某国:(ぼうこく)ある国。その国の名前がわからない場合、また名前を隠す場合などに用いる。
躍起:(やっき)気持のせくこと。いらだつこと。やきもきすること。また、そのさま。
出し抜く:(だしぬく)他人のすきをうかかったり、だましたりして、自分だけが先に利益をおさめる。約束を破って無断で先に事を行う。
出航:(しゅっこう)船が港や岸壁を離れて航海に出ること。
揺れる:(ゆれる)ゆらゆらと動く。ふれ動く。
諦める:(あきらめる)仕方がないと思い切る。断念する。
態々:(わざわざ)しないでもいいのに故意にするさま。わざと。
潜望鏡:(せんぼうきょう)水艦に装備し、潜航中に艦内から海上を偵察するための望遠鏡。潜航型の戦車にも装備される。二個の全反射プリズムと、レンズを組み合わせた長い筒形の反射望遠鏡。
数年前、日本近海で沈没した豪華客船に、某国のスパイが乗組員に変装の上、敵国の最高機密情報を持って乗船していた事が最近判明して、各国とも引き上げに躍起になっていた。
松田長官は特殊隊員を選抜して召集し、対応策を話合っていると、一人の特殊隊員が、「この問題には他国もピリピリしていて他国が作業していないか偵察機や潜水艦などで監視しています。あまり表立って動くと国際問題に発展する可能性もあります。船が沈没している深度はダイバーでは水圧の関係上不可能なので、潜水艇を使用する事になると思います。潜水艇を利用するにしても引き上げるにしても、監視の目を掻い潜ってこっそりとできるものではありません。何か別の方法を検討する必要があります。」と微妙な問題なので慎重に事を進める必要があると発言した。
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別の特殊隊員が、「先日の作戦時に松田長官が連れて来られたサクラさんに協力を依頼できないでしょうか?松田長官直属の特殊隊員として登録されていますし、なによりもサクラさんのUFOを使用すれば今回の任務は簡単に終了するのではないでしょうか?バリアを張れば核兵器にも対応可能との事ですので水圧は問題ないのではないですか?更に透明シールドを張れば外部から確認できない為に、偵察機や潜水艦の監視も問題ないのではないですか?」と提案した。
他の特殊隊員達も、「それ以外に方法はない。」と発言して同意見でした。
松田長官は、「先日の会議で説明したように、サクラの事は極秘事項ですので可能な限りサクラの力は借りたくありませんが、どうやら皆さんも同意見のようですし、今回はそれしか方法がないようなので、サクラと私とで対応します。」と結論を出した。
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松田長官は観光旅行する名目でサクラと二人で対応する事にした。
松田長官は極秘任務の為、警備陣が一緒だと不都合なので、サクラにUFOは嵐でもびくともしない事を確認の上、天気予報で嵐の日にサクラと観光旅行する事にした。
萩原リーダーに、「今回の観光旅行は海の見えるホテルからクルーザーで外海まで出ますしサクラも同行するので警視庁の護衛は必要なし!」と伝えた。
萩原リーダーは部下に、「松田長官が平日に休暇を取りクルージングするらしい。サクラさんも同行するとの事ですが、プロとしてこれ以上サクラさんに出し抜かれる訳にはいきません。天気予報では松田長官が出航する日は天候が良くない為に各自充分注意して下さい。」と説明して、船の手配など護衛の準備をする事にした。
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ある警備員が、「嵐の日にクルージングとは何を考えているのだ?女と抱き合ってスリルを味わいたいのか?護衛する我々の事も少しは考えてほしいね。」と不満そうでした。
萩原リーダーは、「小百合、まだ怪我が治っていなければ、今回は相当ハードな警備になりそうなので警備から外れても良いですよ。」と小百合の事を心配していた。
小百合は、「大丈夫です。警備に参加させて下さい。」と意地悪サクラに負けて堪るか!と思っていた。
予定は、ホテルでゆっくりとした後、夜に日本を出発して外海に出る予定でした。
当日の夜は嵐でしたので、萩原リーダーは当然中止か延期すると判断してホテルで松田長官の部屋を警備していた。
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しばらくすると松田長官が同伴女性と二人で出て行った為に慌てて声を掛けた。
萩原リーダーは、「松田長官、警視庁の萩原です。どちらにお出掛けですか?まさか、この嵐の中クルージングではないですよね?中止ですよね。」と確認した。
松田長官は、「いや、予定通りです。嵐の中と言っても今夜は移動だけです。明日には嵐も通り過ぎているでしょう。しかし、君達はいつも全然役に立ってないではないか!敵に襲われれば警備員が拉致されるだけではないですか?先日も私がサクラに救出の指示を出さなければ小百合さんは無事ではなかったのではないですか?今回もサクラが同行するので君達は帰りなさい。」と同伴女性と腕を組んで出掛けた。
小百合が、「今後、拉致されないように気を付けます。しかし、この嵐では移動も危険ではないですか?思い留まって下さい。」と忠告した。
松田長官は、「あなたが小百合さんですか?銃で撃たれたとサクラから聞きました。お怪我の方はもう良いのですか?」と心配していた。
小百合は、「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です。しかし、クルージングの件は考え直して頂けませんか?」と再度依頼した。
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松田長官は、「ですから、あなた方は帰りなさいと申し上げました。私にはサクラがいるので大丈夫です。」と追い払おうとしていた。
小百合は、松田長官がサクラの事ばかり言うので頭にきて、「松田長官!サクラは人の恥ずかしい動画を平気で皆に送り付けるような人ですよ!そんな人の事を信用しないで下さい!」と切れた。
他の警備員が笑ったので小百合は、「何、笑っているのよ!嫌らしい目で見ないで!」とぶち切れた。
萩原リーダーは警備員同士揉め出した為に慌てて、「小百合、落ち着いて!」と仲裁していた。
なかなか諦めそうにもなかった為にサクラは、“今、小百合さんは興奮している。少しからかえば警備員同士で更に揉め出しそうね。そのスキに行くか。”と考えていた。
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サクラが無線で、「小百合さん、公務とプライベートの区別を付けないとまた拉致されますよ。女性のプライバシーがどうだとか言っていたわりには頑固ですね。それだと嫁の貰い手がなくなりますよ。先日拉致されていた時のように悩ましい声を出せるのですからもっと女性らしくすればどうなのですか?」と小百合に伝え、その後の様子を窺っていた。
小百合は無線で、「あのね、女性のプライバシーと頑固とは関係ないでしょう!悩ましい声だなんて変な事を言わないでよ!」と怒っていた。
警備員達が、「本当に小百合があんな悩ましい声を出すとはいまだに信じられないよ。」と笑いながらお互い顔を見合わせていた。
小百合は、「変な想像しないで!」と警備員同士揉め出したスキに、サクラは松田長官と行こうとしていた。
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サクラは、“警備員達はエレベーターの前にいるので油断しているわ。階段で降りて、下の階からエレベーターに乗れば上手くいきそうだわ。”と考えて、階段で降りてエレベーターに乗ってから無線で、「先日、松田長官の外出時に狙撃者がいた事を説明した時に冷静になるように忠告しましたが、私が悩ましい声と言っただけで警備員同士揉め出すのは矢張り冷静さが足りませんね。そんな詰まらない事で口論している間に松田長官は行っちゃいましたよ。」と笑っていた。
小百合は、「えっ?」と動きが止まり、小百合を落着かせようとして気を取られていた萩原リーダーは、“しまった!”と松田長官を捜したが見当たらず、フロントに確認して若い女性と外出した事が判明した。
慌てて準備した船の船長に連絡を取ったが、「この嵐では出航は無理です。」と断られた。
確かに、この嵐での出航は危険ですので、警備員達を引連れて松田長官を説得すべく後を追った。
別の警備員に、念の為に大型モーターボートを至急チャーターするように指示した。
海に浮かべている丸い建物?の様な物の中に入って行った為に、萩原リーダー率いる警備員達も後を追った。
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この嵐の中全然揺れないので、これでクルージングするとは思わず建物だと思っていた。まさかこれがサクラのUFOだとは夢にも思わなかった。
松田長官は、“嵐の夜に外海に出れば彼らも諦めるだろうと思い、態々嵐の夜にしたが護衛を諦めなかったか。嵐だから危険で、益々護衛が必要だと考えたのかな?護衛では沈没を食い止められないし、敵も襲って来ないとは考えなかったのかな?”と萩原リーダーが、そこまでするとは予想外でした。
松田長官は同伴女性と椅子に座った為に、萩原リーダーと警備員達はクルーザーを待っているのだと判断して中止するように説得していた。
萩原リーダーは、「この嵐の中、クルーザーは来られないでしょう?出航はとても無理です。」と説得していた。
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松田長官は、「クルーザーは来ているし、出航もしています。皆さんも乗っているじゃないですか!」と笑顔で返答した。
それを聞いた警備員の小百合は、「それにしてはこの嵐の中、全然揺れないじゃないですか?」と今乗り込んで来たドアを開くと陸が遠くに見えた為に、「えっ!?いつの間に?」と一瞬言葉を失った。
萩原リーダーと警備員達もそれを見て、「えっ?」と信じられなかった。
松田長官はサクラに、「可能な限り、この乗り物がUFOだと警視庁の警備員達に気付かれないように、地球のクルーザー程度の速度で進んで下さい。」と指示していた為に、この速度での移動になった。
揺れないのは、サクラのUFOは波や雨風にはビクともせず、また加速Gも吸収していた為でした。
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陸に残してきた警備員が、準備していた船が出航できなかった為に、チャーターした大型モーターボートで追い駆けて来た。
萩原リーダーだけが松田長官と同行して、他の警備員は大型のモーターボートに乗り移り、双眼鏡で潜望鏡等の確認をして、潜水艦など周囲の警戒を近くから行い、もし撃沈されればすぐに救助する事にしていた。
松田長官は、「危険ですので全員こちらに乗り移って下さい。」と忠告した。
小百合が猛反対して萩原リーダーと打合せしていた。
打合せ終了後、萩原リーダーは松田長官に、「それでは護衛になりません。長官が中止しない限り我々は命懸けで護衛します。」と強行した。
松田長官は、“別に外でなくても一緒に乗っても護衛は充分できる筈だがサクラと張り合って意地を張っているだけなのかな?小百合さんにも困ったものだな。”と萩原リーダーもじゃじゃ馬は説得できなかったかと諦めて危険な場合はサクラに救出させようとしていた。
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萩原リーダーが警備員達と打ち合わせしている間に松田長官はサクラに、「すまない、彼らがこんな危険な事をするとは思わなかった。嵐の日にすれば、護衛は中止するだろうと判断した私のミスです。彼らにも注意して必要に応じて救助をお願いします。」と指示した。
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萩原リーダーはコンパスを見て、進行方向から考えて、豪華客船の沈没地点に向かっている事に気付いたが、スパイの持っていた最高機密情報については極秘の為知らされていなかった。
萩原リーダーは松田長官に、「この嵐のなか全然揺れないので、このクルーザーは只のクルーザーではないですね。豪華客船の沈没地点に向かっているようですが特別任務ですか?そこには何があるのですか?」と尋ねた。
松田長官は、「揺れないのはこのクルーザーの性能が良いからですよ。そこに何があるのか私もよく知らないのだよ。」と誤魔化した。
次回投稿予定日は5月10日です。




