始まりの始まり 3
「それでは胡州、遼南の前途を祝して」
寡婦帝と呼ばれる女帝ムジャンタ・ラスバがグラスを上げる。彼女の横には片腕と呼ばれるカグラーヌバ・バラダが笑みを浮かべてグラスを上げていた。
その様子を見ながらゆっくりと胡州帝国宰相、西園寺重基はグラスを上げる。隣に笑顔を浮かべるカグラーヌバ・バラダの次女キラーナこと西園寺康子がグラスを上げて立ち上がる。
ラスバの影、小さな東宮ムジャンタ・ラスコーはオレンジジュースの入ったグラスを手にしていた。
「今後もこの関係は保ちたいものですからな……」
重基の訳有りげな笑に全てわかったというように笑ったラスバはそのまま手にしたグラスを空ける。
「でも……ラスコーちゃん」
突然の康子の言葉にラスコーは飲みかけていたオレンジジュースの入ったグラスを置いた。
「康子様」
「様付けなんてやめて頂戴」
「ですが……康子様」
ラスコーは少しばかり戸惑いながら無邪気な笑みを浮かべている康子を見つめた。
「キラーナ。ムジャンタ王家には王家の育て方というものがあります」
凛としたラスバの声に康子は気圧されるように黙り込む。娘の態度にただバラダは苦笑いを浮かべていた。
食事は続く。ただ会話というものをするにはラスバのオーラのようなものが邪魔していた。
「陛下……そう言えば一度東宮殿下を胡州に招待したいのですが」
沈黙をどうにか破りたいというように重基の口にした言葉にラスバはしばらく考えていたような風を装っていた。
「それもいいかもしれませんわね。央都の濁った空気より宇宙の風に吹かれるのも為になるでしょう」
「それはありがたいことですな」
ラスバの言葉にバラダが相槌を入れる。ラスコーはと言えばいつでも言葉をかけられてもいいようにゆっくりと食事を進めながら様子を伺っていた。
「ラスコーちゃんはどう思うの?」
気安い康子にラスコーは再び苦笑いを浮かべた。
「宇宙。一度は見てみたいものですね」
教科書に書いてあるような模範解答をして場をしらけさせた。重基は静かに頷き、バラダは笑みを浮かべる。
「宇宙は厳しいところと聞きますが……東宮にはいい経験かもしれませんね」
ラスバはそう言うと静かに切り分けた肉を口にした。そこでまた会話が止まり、鬱屈とした空気が辺りを支配した。
「余も息子を溺愛して失敗しましたから。東宮には……良い経験を積ませたいのです」
「陛下ばかりではありませんよ。うちの長男も……」
鬱屈した気分を吐き出すように重基がつぶやく。
「紅籐太殿。実にできた息子ではないですか」
バラダの言葉に重基は苦笑いを浮かべた。




