修羅達の目覚め 8
「通れるかな」
「トラックは流石に……孝基様だけなら」
「という訳だ」
そう言うと孝基は荷台から降りて検問の兵士に一礼する。
「孝基様、しばらくお待ちください」
「お前等は先に行ってろ。俺は挨拶してから宿舎に向かう」
孝基がそう言うとトラックはそのまま大通りに消えた。
「カグラーヌバ卿がお待ちです」
兵士の言葉に曖昧に頷くと孝基はそのまま兵士のあとに続いて歩き出した。
庭園を抜け、白い漆喰の建物の下に立つ。
「でかいねえこれは」
「少々お待ちください」
兵士はそう言うとそのまま巨大な扉の脇に手を伸ばした。ゆっくりと扉が開かれ暗い通路が目の前に開けた。
「まるでダンジョンだな」
苦笑いを浮かべながら先を進む兵士のあとに続く。孝基は物怖じすることもなくそのままゆっくりと歩き続けた。
通路の脇には絵画や骨董が並び、ここが遼州中心であるかのように思わせる威厳があった。
「これまた随分とまあ……東都の西園寺別邸よりでかいだろうな」
「一応離宮ですから。もう少しかかりますよ」
兵士の言葉に孝基はなんとも複雑そうな笑顔を浮かべつつ先を急ぐ。兵士は急に右に折れ、そのまま一つの扉をノックした。
「入り給え」
「では、西園寺卿」
手を差し出す兵士に誘われるようにしてそのまま孝基は扉を開けた。天井の高い部屋の奥に置かれた執務机に座るカグラーヌバ・バラダの表情が一瞬で明るいものへと変わっていた。
「紅籐太殿!」
さっと立ち上がったバラダはそのまま走って孝基のそばに来るとその手を握り締めた。
「紅籐太はよしてください。そんな立派なもんじゃない」
「いやいや、あなたの噂は前々から存じておりますぞ。ゲルパルト内戦や幾多のコロニー星系での活躍。いたく感服しております」
「感服されるような働きはしちゃいませんが」
頭を掻いて照れる孝基を眺めながら満足げに頷くバラダ。そのまま執務机に座っても感慨を抑えきれないというように絶え間なく頷き続ける。
「これで兼州は救われた。百万の味方を得た気分ですぞ」
「大げさですねえ。俺一人で戦況が変わるくらいなら苦労しませんよ。それより康子さんが来てたみたいじゃないですか。むしろ彼女にいてもらった方が戦況は変わりますよ」
孝基の言葉にバラダの表情が一瞬で曇った。
「あやつはもう西園寺家の人間です。殿下に亡命を進めて断られると速攻で帰ってしまった」
「私も西園寺家の人間だったわけですが……」
そう言いながらニンマリと笑う孝基。それに困ったようにバラダはため息をついた。