修羅達の目覚め 7
「もの好きはいるものだな」
「一番のもの好きが隊長じゃないですか?」
トラックの荷台で部下の一言に痛いところを突かれたと苦笑いを浮かべる西園寺孝基。兼州、北離宮空港に降り立った彼等の前には数多くの義勇兵達が待ち構えていた。
「まあそうだ。しかし今回は命懸けになるぞ」
「いつものことじゃないですか」
「相馬。そう言うがな……」
ひときわ大柄の色黒の士官、相馬慎吾の言葉に孝基は微笑みながら手にしていたパンを差し出す。
「食え」
「ありがとうございます……」
「そう言えば金吾はもう三つか」
「しかし隊長はいつまでたっても親の顔にはなりませんな」
「こんな身勝手な親ならいない方がいいんじゃないか?」
相馬の妹、響子は孝基の内縁の妻に当たりその子金吾は孝基の子だった。
「それにしても親に殺されようとしている子を助ける義理はお前等にはないんだぞ」
「今更何を言ってるんですか?」
「義によって立つのが我々でしょ」
部下達の強い言葉に孝基は安心してうなづく。そしてそのまま運転席に向けて顔を突き出す。
「離宮に迎えよ」
「いいんですか?傭兵風情が近づけるようなところじゃないですよ」
「いいんだ。今頃、康子さんがラスコーに亡命を勧めている頃だ」
「でもそれに同意しちゃったら俺達の出番はなくなりますよ」
「それならそれでいいじゃないか。まあ帝位はそんなに軽いものじゃないからな」
孝基は運転手の言葉に苦々しげにそうつぶやいた。
車はそのまま軍事基地の正面を突っ切り、空港からも見える巨大な宮殿に向かった。
「総勢二千人だそうですよ。かなりの数の義勇兵が集まってる」
「数なんてアテになるか!」
相馬の言葉に孝基は一言で笑い飛ばす。そして真面目な顔をして相馬の顔を覗き込んだ。
「この前東和で会った傭兵いたろ」
「ああ、あれは吉田俊平ですよ」
「知ってたか……アイツは央都側につくそうだ」
「それは……確かに二千程度じゃ意味がないですな」
孝基の言葉に相馬は納得してみせた。吉田俊平と言えば彼等傭兵の中でも相当に名を知られたゲリラ戦の手練だった。
「だが俺達がきた限りはそういつまでも伝説作らせているわけには行かないな」
「一泡吹かせてやりましょう」
兵達はそれぞれに意気を上げる。満足げに孝基はうなづく。
「すいません……検問が」
「大丈夫だ、俺が話す」
検問の兵士に孝基が顔を出す。
「傭兵か?御所に何の用だ」
「叔父が甥に会いに来るのに理由がいるのか?」
「……西園寺孝基卿!」
孝基の顔を見た途端に二人の兵士は話し合いを始めた。