修羅達の目覚め 3
「しかし同じ星で戦争が始まろうというのに……」
一人カクテルを口にしながら吉田俊平はつぶやいていた。遼州星、崑崙大陸東に浮かぶ東和共和国。その首都東都の山手の行きつけのバーでいつものようにゆっくりと酒を楽しんでいた。
「おっ、どこかで見た顔だな」
突然低い声が吉田にかけられた。めんどくさそうに目をやるとそこにはベレー帽を着た同じブランドのタンクトップにジーンズという一軍を率いる男の姿があった。
「私はあった気がしないが」
吉田は脳内の端末ですでに声をかけてきた人物の身元を検索していた。
「なあに、同類の臭いがするってだけだ……」
そう言うと先頭を歩くタレ目の男は周りの部下らしい男達に目をやる。部下達はまとまって店の奥へと向かった。
「同類ってなんですかね」
「ああ、人の生き死にに関わる仕事をしているってツラだ」
「俺は医者じゃありませんよ」
「治す方じゃねえよ……マティーニ。思い切りドライで」
タレ目の男はバーテンに注文するとそのまま吉田のとなりに腰掛けた。
「しかし……傭兵が東都にいるってことは始まるんですか、遼南の内戦は」
吉田が発した言葉に一瞬たじろいたように見えたが、バーテンからグラスを受け取るときにはすでに元の落ち着きを取り戻していた。
「そう言うあんたも似たような仕事だろ?」
「なんでわかりました?」
「それを聞いてどうする」
「ああ、今後の参考にしようと思いましてね」
皮肉のつもりで言った言葉にタレ目の傭兵はニンマリと笑みを浮かべた。
「帰るつもりで戦争に行くか……プロだね」
「死んでもつまらんでしょ。それともあなたは死に場所でも探しているんですかね」
吉田は相当アルコール度の高いカクテルを一息で飲み干したタレ目の男に目をやった。男はそのままグラスをカウンターに置いて一息つく。
「やっぱりマティーニはドライでないとな。じゃあもう一杯」
垂れ目の傭兵はにやけながら再び深呼吸をした。
「命を粗末にするのは感心しませんね。西園寺家に戻ればそれなりの暮らしはできるでしょうに」
「ほう、俺の身元を知っているか……サイボーグか?」
再びマティーニを受け取ると西園寺と呼ばれた傭兵はまた一息で酒を飲み干す。そして同じようにグラスをカウンターに置いた。
「気分を変えよう。モヒート」
バーテンに声をかけると西園寺はそのまま吉田に目をやる。
「西園寺孝基。胡州帝国摂州公爵家の長子。胡州帝国帝国軍高等予科学校卒業後出奔して各地で傭兵として活動……」