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アリス -Knight of fairy-  作者: 永 季節
一章
6/6

#3,5_傍観者達

 2538年10月9日14時51分。


 モニターにうつる白髪の美少女の戦いは、見ているこっちがハラハラするものである。

 ミカの入団試験が始まってから、11分が過ぎた。しかしミカは、現時点で未だ4体中1体しか倒せていない。しかも、たった今2体の特異種とくいしゅと同時に交戦している。

「圧倒的に不利ふりだな。これは。」

 大人でも苦戦するレベルだ。

「まあ、()()で騎士団に入れるって試験だからね。そりゃあそれ相応そうおう難易度なんいどだよ。」

 レイティアの言う通り、この試験の合格率ごうかくりつは相当低い。正直、今のミカの成績せいせきはこれでもいい方だ。

 むしろトップクラスと言ってもいい。

「...うん、いいね。あの子。身体もしなやかに動いてるし、きたえれば槍の扱いも上手くなるだろう。」

 レイティアは私の思っている事を全部言葉にしてくれる。

 翻訳機ほんやくきみたいだな。


「アリスたん。」

 この声は。この呼び方は。


 ...いや、気のせいだ。私は何も知らない。聞いていない。


「あっ...、完全無視シカト...。...いや待てこれもわんちゃん有りだな...。」


 無しだろ。

 ...いや、いやいや。私は何にも反応していない。私の後ろには何もいない。それはるがない事実だ。いいかアリス、お前にはあんな変態へんたいの知り合いはいない。

 そんなことよりもミカを応援しなければならないのだ。

「行けっ!ミカそこだ!よしいいぞ!!押せ押せ!!!」

 急に出た大声にレイティアが一瞬ビクッとなったのが見えたが気にしないでおこう。


「アリスたーん。」


「...姉さん、そろそろ何か言ってあげたら?」

 たしかに、このままずっと名前を呼ばれ続けるのは少しあれだ。

「......なんだサタン。」

「いや、なんかなぁ。あのミカっていう美味しそうな女の子から、なんだかとても相容あいいれないものを感じてな。」

 お前がこの世と相容あいいれないものだからな。

「それサタンさんがこの世と相容あいいれないからでしょ。」

 ナイスレイティア。

「レイティア君アリスたん並みにキツいこと言うね。」


 すると突然(とびら)が開いた。

「おっす、来たぜ。新しい入団希望者だってなァ?」

 扉を開けて入ってきたのは、身長190cmはある大男。

「ああ、ラディンか。フィーレは?」


 ラディン・タラティザム。双子の姉フィーレと共に、騎士団の副団長をつとめる男だ。

 無造作むぞうさに伸びたくせのある髪。とがったあごに突き出た頬骨ほおぼね。キツく釣り上がった三白眼さんぱくがん、高い鼻、逆三角形ぎゃくさんかっけいのゴツゴツの体躯たいくというその外見は、まさにどこぞの国際指名手配犯こくさいしめいてはいはんである。


「あぁ、姉貴あねきは何か用事が有るとか言って来れないらしい。」

「レイティアが呼んだのか?」

 私の問いにレイティアが軽くうなずく。

「そうだよ。立会人ギャラリーは多い方がいいでしょ?」

「んで、その時期ハズレの入団希望者ってのが...、コイツか。」

 そういってラディンはモニターぐんのぞき込んだ。

「女か?...よく見えねぇな。やけにちっちゃくねぇか。」

「ああ、美味そうな幼女ロリだろ?」

幼女ようじょだァ!?てかいたのかサタンてめぇ。」

 まあ、ラディンの反応は正しい。

 おそらくミカは、私についで史上2番目に年齢の低い受検者だ。

「ふぅん...。既に1体倒していて、今は特異種とくいしゅ2体相手に奮闘中ふんとうちゅうってか。ガキにしては良くやるじゃねぇか。動きも悪くねぇ。」

 最初はおどろきこそしたものの、やはりラディンも私達と見解けんかいは変わらない。

「もしアイツが受かったら俺の隊にもらっていいか?」

「残念だったな。生憎あいにくだがミカは私の弟子という位置を所望しょもうだ。」

「マジかよ...。...ってお前の弟子ってどういうあつかいいになるんだ?普通に一級騎士エースか?」

 めでたく騎士団に入団が決定すると、試験結果と配属先はいぞくさきによっては肩書きが変わることがある。


 この実技試験で騎士団に入団した場合、基本試験合格者の2階級上の一級騎士エースからとなる。が、その例外もあるのだ。このラディンとその双子の姉、フィーレが一つのいい例で、その実力が認められ入団した直後に役職やくしょくに付く事もある。

「それとも、アリスじょうと同じケースか?これは。」

 その他にも、例外れいがいとなる条件はぼちぼちあるが、ミカの入団後の階級として一番可能性が高いものが、『特別騎士ジョーカー』である。


「まあ、特別騎士ジョーカー妥当だとうだろうな。」

「俺と出逢う前のアリスたんの階級か。」

 特別騎士ジョーカーとは、簡単に言えば名誉騎士セイヴァー劣化版れっかばんのようなもので、団内のどこの組織にも所属しょぞくすることがなく単独での活動がみとめられている階級だ。ただ、名誉騎士とはちがい別段強い権限けんげんや権力は無く、どの階級より上で、どの階級より下かという区分もない。名誉騎士ほど重い責務せきむも無いため、何よりも自由で、孤独こどくな階級だろう。


 まあ、ここ最近は数年前に私が『特別騎士ジョーカー』から『名誉騎士セイヴァー』になって以来特別騎士は出てきていない。

 ミカが特別騎士になるとしたら、その理由は、私が数年前に特別騎士になったのと同じだろう。年と性別のおかげで、どの隊に入れるにも環境が良くないからだ。私は特別騎士ジョーカー時代、城直属の侍女騎士メイドナイツに育てられたが、ミカは恐らく私が育てることになるだろう。


「おしゃべりはそこら辺にしようか。ミカの試験、面白くなってきたよ。」

 モニターの前の椅子に座り頬杖ほおづえをつくレイティアは、まるでスポーツ観戦を楽しんでいるかのようだ。

「どんな感じよ。」

 真っ先に食いつくラディン。

「ああ、第四だいよんが出てきた。」

「第四だと!?」

 レイティアの予想外の発言に、思わず反応してしまった。

「正確には、第四になる寸前のベヒモス、だけどね。そろそろミカと接触せっしょくする。」

「アリスたんも結構けっこう食いつくんだね。」

 それもそうだ。何せイレギュラーなのだから。

「...なぁ団長。第四ってこの試験プログラミングされてたっけか?」

「いいや。恐らくはシステムの誤作動ごさどうで、隔離かくりされていた鹵獲ろかくエネミーが紛れ込んだんだろう。」

 コイツ顔色を変えずにとんでもないこと言うな。

 つまりミカは、今機械によって投影とうえいされた偽物()じゃなく、間違いなく実体をもった本物と戦っているわけだ。

「...レイティア、中止しなくていいのか?」

「姉さん、ここまで来たら彼女がどこまで行けるか見てみたくない?」

 レイティアが、逆に私に問いかけてきた。その顔は愉悦ゆえつの表情を浮かべている。

「...見たい。」

 モニターの奥で吹き飛ばされるミカを横目に、つい本音が口走くちばしってしまった。

 ドSな弟と思考が同じというのは少し複雑ふくざつな気持ちになるが、とてつもなく見たい。

「んじゃ決定だね。」

「つーか第四なんて、普通は大人の男でも1人でたおせるモンじゃねぇけどな。」


『ぅうっ...、ホントにっ、容赦ようしゃ、ないね...。この試験...。』


 スピーカーから聞こえるミカのひとり言がグサグサと胸に突き刺さる。

 ...許せミカ。容赦ようしゃがないのは試験じゃなくて私の弟だ。


「フフフ...。」

 口元を手でかくし、楽しそうに笑うレイティア。

 悪魔あくまか。

「...レイティア君はたまに、魔王まおうと呼ばれた俺でさえも恐怖きょうふを感じる時があるよ...。」

「私も、レイティアの前世は吸血鬼だと思ってる。」

「ていうか鬼そのものだろ。団長は。」

 今ここにフィーレがいれば、1人不気味に笑うレイティアを見て、フィーレのつねゆるんでいる顔をさらにとろけさせるのだろうが、生憎あいにくここにはレイティアを不気味がる人間しかいない。

「ありがとう。最高のめ言葉だよ。」

「...知り合いに、良い精神科医せいしんかいがいる。」


『ビーーーーッ』


 突如とつじょ鳴り響くブザー。

「残り5分切ったね。」

 相変わらず、レイティアのテンションはそのままだ。

「...さっすがに、幼女にゃキツいんじゃねぇか?」

 残り5分で第四深度ベヒモスを1体、か。

 成人男性騎士5人のパーティで平均45分、と言えば、それがどれほどのものかわかりやすいだろう。

 ハッキリ言って不可能だ。多少強くても、幼い女の子には確実に倒せない。


「あっ...、分かった。」

「ん?どうしたサタン。」

「ん...、いや、断定はできないか...。」

 あごに手を当てて、何かを考え始めるサタン。

「いや、さっきも言ったあの子から感じてたこの感覚なんだけど、今さっき大罪の力感じてさ。」

「大罪?それってお前と、フィーレのレヴィと同類のだろ?なにが相容あいいれない感じなんだ。」

 そう問いかけたが、サタンはうーんとうなったまま返事をしなくなってしまった。

「どうしちまったんだ?サタンの奴。」

「わからん。コイツは常にどうかしてるからな。」

 視線をモニターに戻す。

 ミカは相変わらず笑顔だ。身体のいたる所に傷が出来でき、正直もう詰みじゃないかとも思う。

 が、ミカのその笑顔は、あきらめるという選択肢を想像させない。むしろ希望に満ちているのだ。

「...逸材いつざいかもしれないな。」


『...力を貸して、アスモデウス...!!』


 スピーカーから流れてきたミカの発言に、その場の全員が凍りつく。

 ミカほど幼い女の子が従神を持っていること自体有り得ないのに、その従神があの、『大罪』とくれば、もうおどろきを通り越してよく分からない感情が生まれてくる。

「...て、うわぁ...、よりによってアスモデウスかよ...。」

「...お前のかんが大当たりしたな。」

 魔神アスモデウス。色欲をつかさどる七つの大罪の一柱いっちゅう

「...マジかよ。アイツなにモンだ...?」

「...ディーヌエント、だよ。彼女のミドルネーム。」

 レイティアは、さらに楽しそうな笑みを浮かべる。

 ディーヌエント。そうか。ミドルネームだった上に、フォースブルゲンを名乗るからあまり印象に残らなかった。

 ミカは、ディーヌエントの末裔まつえいか。

「これは合格決定だね。」


 ディーヌエントとは、20年戦争時代にその名をせたクルベルト傭兵団の一員だったと言われるニスリフの姓だ。

 ニスリフ・ディーヌエント。当時はめずしい騎馬兵きばへいだったと言われている。2m半の長槍、自身の名と同じをもつディーヌエントを得物とし、その圧倒的な突貫力とっかんりょくで戦場を切りひらいた。


「ディーヌエント...、ってのがホントだとしたらあの槍はまさか...。」

「ああ、だろうね。400年前の彼の遺品、魔力器まりょくきだろう。」


 無機物には魔力子をとどめる能力はない。が、ごく稀に独自どくじの魔力子を持つ無機物が生まれることがある。

 そのなかでも、武器や鎧、生活用品などに魔力子が宿やどったものを魔力器と呼ぶ。

 魔力器は特定の能力を持つ場合が多い。それは、魔力器になる原因として受けた魔力子の影響が強いと言われ、それこそ魔力器ごとに様々な能力があるのだ。


「従神アスモデウスに、400年前の英雄えいゆうの魔力器、か...。見る限り従神の力はある程度ていど使えているようだな。」

「あんな子の従神になれるなんてアスモデウスのヤツうらやましいぜ...。あっ、アリスたんもなかなかの温もりだから!!」

 いいからそういうの。素直すなおに嬉しくない。


「ん...、そろそろ決着が着くかな...?」

「槍が...。」

 ミカの持つ槍が、強烈な光を放っている。ミカ自体が発する光よりもさらに強い光。

「画面が真っ白になっちまったじゃねぇか。」

 ラディンがそう発言した直後だった。


 スピーカーから溢れる轟音ごうおん


 しかしスピーカーは一瞬で沈黙ちんもくした。

 同時に、ミカを映すモニターとその周辺位置しゅうへんいちのモニターが一斉いっせい砂嵐すなあらしに変わる。

「...な、なにが、起きた...?」

 管理室が静寂せいじゃくに包まれる。

 レイティアの問いに答えられる者はこの場にはいない。

 ただ分かるのは、10数台のカメラとミカのマイクがこわれたという事だけだ。



『ビーーーーッ』


『20、分、が、経過しました。試験、を、終了します。』

 感情の無い合成音声が、管理室かんりしつの長く短い沈黙ちんもくやぶる。




 2538年10月9日15時00分。

 ミカーニャ・ディーヌエント・フォースブルゲンの試験における仮想エネミー討伐数、システムエラーにより集計不可。

 これにより、ミカーニャ・ディーヌエント・フォースブルゲンの今後のシュタロット騎士団入団を、みとめる事となった。




 こんにちは、永季節です。

 今回は早めに更新することが出来て謎の達成感に浸っています。

 てかそんな事より俺のマトイちゃんはまだ帰ってきません。早く会いたいです。次回のピース更新が待ち遠しい...。

 今回は本文も短めなのであとがきも短めにしようと思います。それではまた今度。





 ああ...、マトイちゃん...。

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