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アリス -Knight of fairy-  作者: 永 季節
一章
5/6

#3_入団試験《後編》

 2538年10月9日14時42分。

 今ウチの目の前には、ベヒモスがかまえている。

 正確には、装置によって作られた質量を持つ幻想(作り物)なのだけれど。


 ウチはミカーニャ・ディーヌエント・フォースブルゲン。ルーグリフト領マルグ市に住む小学3年生、8歳。ここセレフェッタには、連休を利用して弟子入りする師匠ししょうを探しに来たのである。

 適当に市街をブラついていたところ、師匠候補ししょうこうほ第1位だったアリシティリア王女の戦闘現場せんとうげんば遭遇そうぐう。アルティラ城まで追いかけたところで見失ってしまったが、城内を走り回りゴリ押しで再会に成功した。

 そうして、いろいろあってウチは今、シュタロット王国騎士団おうこくきしだんの入団試験を受けているのだ。20分で4体のベヒモスをたおさなければならないという状況にかれている。


 ベヒモスが、再び飛びかかりのモーションに入った。

「遅いよッ!!」

 瞬間的に強化(魔力子加護)した脚で、数メートルの距離きょりを一気に詰め敵のふところに飛び込む。

 敵の顔をしっかりと見据みすええ。

 40cmの刃で胸を穿うがつ。

「アガァあぁァァァアッ!!」

 もだえる声が街にこだまする。

 ベヒモスはこらえきれず自ら槍をつかみ引き抜いた。赤黒あかぐろい体液を胸の穴からばらきながらのけぞる。

 くさった血の匂い。かぎなれた匂い。なぜだか落ち着く。

「うわ…、もう再生してる。」

 魔塊球まかいきゅうは頭の方らしい。ウチの空けた胸の穴はきれいさっぱりふさがっている。


 ベヒモスとの戦闘は、長引けば長引くほど泥沼化する傾向がある。

 出来るなら次の手で終わらせたい。が...。

「攻めて来ない、か。」

 相手は更に数歩距離を取り、様子見といった様子でその場から動かなくなってしまった。

「ウチ、カウンター狙う方が得意なんだけどなぁ...。」

 向こうから攻めてこないとなると、こちらから攻めるべきか。

 時間はない。1つ試してみるか。

「...ふっ。」

 地面を強く蹴りだして接近。とりあえず相手の頭目がけて槍を突き出す。

「ゥガガァァっ!!」

 だが、ベヒモスはそれを見切り、逆にウチの懐に突進してきた。

「ぐふぅぁっ...!?」

 強烈なタックルが腹に入り、吹き飛ばされる。

 が、決着はもう既に決まった。次で、確実に勝てる。

 直ぐに体勢を立て直し、ベヒモスに向き直る。

「...フフ、作戦成功だ。」

 タックルが見事みごと決まった事で向こうは完全にウチの実力を見誤ったはずだ。ウチは今、ベヒモスに舐められている。

「ウガァあァッ!!」

 今度は、ベヒモスが自分からつかみかかってくる。ウチをめきった甘い攻撃。心の奥底から湧き上がる嘲笑ちょうしょうこらえ、ベヒモスの突進を軽く半身はんみになってかわす。

「フフ…、ぬかったね!!」

 相手のガラ空きの後頭部めがけて、槍を右にぐ。

 手応え、あり。

 ベヒモスを構成こうせいしていた全魔力子ぜんまりょくしが、拡散かくさん、青く発光しながら燃え尽きていく。

 …ゾクゾクする。

 この瞬間しゅんかんばっかりは、きない。

「アハハァ…、つまんないなぁ…!!」

 そう言いつつも、ウチの顔がゆるんでいるのが自分でも分かる。


「さて…、お次はどこかな?」


 鼓動こどう高鳴たかなり、身体からだが一層強く光る。

 体温が、上がっている。

 ...これだ。

 全身の感覚がまされ、全身から取得される全ての情報が頭の中に次々と流れてくる。

 最高の集中状態ゾーン

 五感すべてが最高のコンディションでざり合い、そして、新たな第六感だいろっかんとして機能する。


「...こっちか...!!」

 西に向かって走り出す。

 かすかな血の匂い。足の裏から伝わる地面の振動しんどう

 ...2体か。こっちに向かってきている。大した距離きょりではない。すぐに遭遇そうぐう出来るだろう。

「そこの...、角の先...!!」

 崩壊したビルのたくさんの瓦礫がれき散乱さんらんする中、そこを角と呼ぶに相応ふさわしいかどうかは別として、その先にたしかな気配けはいを感じる。


 そして、とうとうその角に差し掛かった。

 瞬間、突然の黒い狂気(ベヒモス)が目の前に迫る。

「くっ...さいなぁッ...!?」

 咄嗟とっさに身体を大きく後ろにり、槍をり上げる。

 突っ込んできた勢いをそのままに、後方にはじき飛ばされるベヒモス。

「っ...!!」

 真上からもう一体。

 身体を右にひねり左脚で地面をる。

「...っぶなぁ…。」

 転がり、距離きょりをとる。

 間をけず、一体目の追撃ついげきが来た。

 槍を地面に叩きつけ、自分の軽い身体をきゅうはじく。

「...つぅっッ!!」

 左上腕部に走る赤い痛み。敵の爪がかすめたようだ。

 2体のベヒモスから数メートルはなれたところで着地する。

「...やめてよ。ドレスよごれちゃったじゃん。」

 体勢を立て直し、一瞬いっしゅん観察かんさつを始める。

 人型ベヒモスが2体。

 最初に接触せっしょくした方は、特異種とくいしゅのようだ。爪が長く刀身とうしんのように変化している。ウチの左腕を見る限り相当な切れ味を持っているようだ。

 2体目は特に変わったところは見られない。恐らくはザコだ。

「フッフッ...、次は...、ウチの番だよ...!!」

 笑いを堪える。しかし、確かな悦楽感えつらくかんが心底から体をむしばむ毒のようにジワジワとウチの理性を支配していく。

「君の(急所)はどこかな?」

 本能ほんのうのままに突進とっしん

「まあいいや、たてにぶったっちゃえば同じだよね...!!」

 両手にかまえた槍を、重力じゅうりょく筋力きんりょく魔力まりょくに任せて刀のベヒモスに叩きつける。

 重厚じゅうこう衝撃しょうげき。金属音。

 ガードした敵の腕が支点になり、反動で身体がく。

「ガアァあッ!!」

 刀のベヒモスの後ろから、もう一体が飛びかかって来た。

 ウチの顔を真っ直ぐにとらり下ろされる拳。

「...ぅるっさいな...!!」

 それを、る。

 ウチの左手には、大型のナイフ。

 太ももに仕込しこんであったのだ。

「ゴァ...!!」

 槍で刀のベヒモスを抑えつつ、それをじくにして身体を持ち上げもう一体をり飛ばす。

 その一瞬のすきをついて、刀のベヒモスが槍をはじいた。バランスをくずしたウチに斬りかかってくる。

 それを左のナイフで受け流し、着地。なおりかかってくるベヒモスのみぞおちに槍のつかを叩き込みがす。

「しつこい!!」

 左からザコが飛びかかってくる。それを軽くかわして今度はかこちらから刀のベヒモスに飛び込む。

「このドレス高いんだからね、殺す!!」

 振り上がる敵の左腕。左のステップでかわし、相手の右脇に左膝ひだりひざを入れる。

 狙い通り、後ろからおそいかかってきていたもう一体と激しく衝突しょうとつさせる。

「フフハッ!!」

 からまった2体を目掛めがけて槍を振り下ろす。

「死ね!!」

 しかし、2体は間一髪のところでかわす。刀のベヒモスはバックステップで距離きょりを取るが、ザコはそのまま飛びかかってきた。

「飛びかかるしかのうがないんだね君は!!」

 左手のナイフを左太ももに仕舞しまいつつ、がら空きの腹に前蹴まえげりを決める。

「いい加減...、くたばれ!!」

 釣り上がる口角。

 尻餅をつき、隙だらけの脳天のうてん目掛めがけて槍を振り下ろす。


 重低音じゅうていおんの、岩にたたきつけたような音。

「な...、硬っ...!?」

 普通だったら通るはずの刃が通らない。

 コイツも特異種とくいしゅだったのか...?

 だとしたらどういう...。なぜさっき腕を斬りつけた時は攻撃が通った?どうすればいい。

 ...いや、これは団の試験だ。たおせない物が出てくるはずがない。

 どうする...?

 不意のトラブルに思考能力を奪われ何も考えることができない。分からない。


「がっはぁッ...!?」

 気づいた時には世界が反転していた。

 腹ににぶい痛み。蹴られたのだろうか。

 ...いや、ほほにもするどい痛みを感じる。刀もかすったのか。皮肉にも、られたことで助かった。

「...うぁっッ!!」 

 後頭部を強打し、瓦礫がれきの山を転がる。

 痛い。

「う...、クソッ...。」

 攻撃を食らって頭が冷えた。

 ウチの高揚こうようしやすい性格も問題だ。ちょっとしたことで動揺どうようしてしまう


 ズキズキと痛む頭をさえつつ、もう片方かたほうの手で近くの瓦礫がれきをつかみ起き上がる。

 ...槍は、...あった。

 硬いベヒモスがにぎっている。

「うっ、そ、でしょ...。」

「グガアァアァァッ!!」

 重なる咆哮ほうこう

 2体が同時に飛びかかってきた。

「クソ...、少しは休ませろ!!」

 前に突き出された硬いベヒモスの槍を受け流してつかみ取りそのあごを蹴りあげる。同時に、うばい返したやりで刀のベヒモスの爪をふせぐ。

 視界が血でかすむ。

 素早すばい動きで2撃目を入れに来る刀のベヒモス。 右上から迫って来るそれをひねってかわし、バックステップで距離を取る。

「足場が、悪いな...。」

 瓦礫がれきが積み重なるグラグラの足場。

 左手で血がにじ右目ききめを拭い、槍を構え直す。


 刀のベヒモスは、瓦礫がれきに爪がさり抜けない様子。一方の、瓦礫がれきの山から転がり落ちた硬いベヒモスが起き上がり始めたようだ。

 そろそろ10分が経過けいかするところか。いい加減決着を着けたい。

すき、だらけだよ!!」

 両脚を瞬間強化。

 まずは身動きの取れない刀のベヒモスから。

 瓦礫がれきの山を蹴る。き飛ぶコンクリート片。

 相手のしんを真っ直ぐになぞるよう槍を上段に構える。

 ...とらえたっ!!

「ガッ...ァ...!!」

 刀のベヒモスはなんとかかわそうとする。

「...残念、でしたぁッ!!」

 槍を振り下ろす。

 胸の辺りで硬い手応え。割れる音。

 そのまま身体をたてく。

 赤黒い血。その匂いにまたも高揚こうようしかける。

「フフッ...!!」

 直後の魔力子拡散消滅まりょくしかくさんしょうめつ

「次は、君だよ!!」

 すぐそこまで迫っていたもう一体を槍で右にぐ。

 硬い。

 やはり岩を殴っているようだ。

 だが、

かった。」

 今ので理解した。

 あくまでも予測に過ぎないが、どうやらコイツは体内の魔力子を一点に集中させる事でその一点の硬度こうど極端きょくたんに上げているようだ。つまり、一撃に強い。

 だがしかし、それは逆に連撃に弱いという事も予想できる。

「──ふッ!!」

 右脇腹で食い止められた槍を力任せに振り抜く。

 硬いベヒモスは5m程ほど吹っ飛び、瓦礫がれきの山を転げ落ちた。

 瓦礫がれきの山を飛び降り、すかさず追撃。

 落下の勢いも乗せ、右手の槍を胸に突き立てる。

 槍は案の定はじかれたが、そのまま馬乗うまのりになりすぐさま左手でナイフを抜き敵の右腕を斬りつける。

「通った...!!」

 斬りつけたナイフは、赤黒い血をしたたらせ暗く輝いている。

 やはり1箇所しか防御出来ないようだ。

「ガアアァあああッ!!」

「...っぶなッ!!」

 苦しみの表情を浮かべ足掻あがくベヒモス。

 反射的に距離を取る。

「やっぱ槍じゃ...、不利キツイか...。」

 ウチが距離を取ったすきに立ち上がるベヒモス。

 基本的に単発攻撃の槍では相性が悪すぎる。かと言って、片手にナイフ、片手に槍ではリーチが違いすぎて上手く速い連打が打てないだろう。

「...仕方ない、か。...ナイフあんま得意じゃ──」

 咆哮ほうこうと共にベヒモスが飛びかかってきた。

 槍から右手を離す。

 そして、槍が落下を始める前に左手でスカートをめくり上げ、槍が落下し始めると同時に右手で右太もものナイフを逆手さかてに抜く。

 この一連の流れを前にり出しながらしつつ、今(ねら)うのはただ一点、敵の両脚である。

 地面とぶつかるほど身を低くし敵の大きく開かれた股下またしたをくぐりながら、逆手さかてに握った右手のナイフで敵の右膝から下、順手じゅんてに持ち変えた左手のナイフで敵の左脚付け根をそれぞれ切断、斬り飛ばす。

「──ないんだけどなッ!!」

 倒れそうな身体を、前に出した右脚で支える。

 手応えは確かにあった。

 どうやら、不意打ふいうちもまた防御が追いつかないらしい。

 後ろで、ごしゃあという落下音とベヒモスのうめき声が聞こえる。

「...思ったより欠陥けっかんだらけじゃん、君。」

 振り返ると、瓦礫がれきの上にうつ伏せで倒れるベヒモスがいた。すで両脚の再生が始まっているが、そこまで速くはない。

 敵は恐らく体勢的にこちらを確認出来ていない。それゆえに、ウチが近づいてもがむしゃらに腕を振るのみだ。

「...フフ。」

 硬質化する背中の中心。玉は胸か。別の位置から角度をつけて突き刺せば簡単に殺せる。

 振り上げた右手を、こんどはその背中目がけていきおいよく振り下ろす。

 勝利を確信した。


 轟音ごうおんと衝撃。

 それは一瞬で。


 さっきまでベヒモスにナイフを振り下ろしていた自分が、今はちゅうっているのは分かる。なぜだ?視界がグチャグチャにき混ぜられ、上も下も右も左も分からない。三半規管さんはんきかんが強烈にさぶられ、とてつもない吐き気がウチを襲う。

 気が付けば、地面は目の前。

「ッがぁ──」

 顔面を強打。

 鋭角に落下したために、瓦礫がれきの散乱する地面を身体をり付けるように転がる。

「...っ...はぁっ...!!!」

 運がいいのか悪いのか、すぐに巨大な瓦礫に背中を打ちつけて停止したが、勢いよく打ちつけたために肺の空気が全て吐き出され、胸が焼けるような感覚に襲われる。

「ぅうっ...、ホントにっ、容赦ようしゃ、ないね...。この試験...。」

 身体のいたるところから血が流れ出る。

 だが、落下する前に全身に魔力子加護マナコートを展開出来たとはいえ骨を折らなかったのは奇跡きせきだ。それでも痛いものは痛いが。


 それよりも、さっきの轟音と衝撃は一体。

 目にみる血を拭い急いで視認しにんを試みる。

「......っ...!?」

 ウチの視界に映ったのは、2m強に肥大ひだい化したベヒモス。それが、さっきの硬質化ベヒモスを捕食している。

「4体目...?どこから...。」


 ベヒモスの共食いは無い話ではない。むしろ、よくある事だと昔読んだ本に書いてあった。

 ベヒモスは、別の個体を何らかの形で自らに取り込むことによってより強力な力を得ようとするらしい。これによって、第4深度に進む個体もいる。


 右手を伸ばし、近くのコンクリート片を掴んで立ち上がる。身体の節々が痛むが、どうやら戦闘は続けられそうだ。

「...ていうか、これ最悪...。」

 あんじょう、捕食を終えた肥大ベヒモスは、崩壊と再生をり返しどんどんと巨大化していく。

 ベヒモスの第4深度への移行が始まったのだ。


 魔力子干渉症まりょくしかんしょうしょうが第4深度まで進んだベヒモスは、地面や空気中、触れたもの全てから魔力子を搾取さくしゅするようになる。その際、元の生物の形を保持ほじする事が出来なくなり、巨大化していく。

 第4深度ベヒモスは、文字通りの怪物ベヒモスなのだ。

 最も巨大なものでは体長100mをすものもおり、その圧倒的な質量と破壊力で全てを自らの糧である魔力子へ変換する。


 目の前の第四ベヒモスは10数メートルまで膨らんだ所で肥大化のペースがゆるんだ。平均から言ったら大きいほうだと思う。

「気持ち悪いなぁ...。」

 見た目はまるで、ドロドロの触手が8本生えた黒いまんじゅうのようだ。

 

『ビーーーーッ』


 残り5分を切ったことを示すブザーが、きりの出始めるロンドンの市街に響いた。

 残り5分。それが合図あいずかのように急激に気温が下がる。したがって現れる霧は、数10m先の視界もあやうい。10数メートルの巨体を持つ第四深度ベヒモスでさえも、ハッキリと形をとらえることは難しくなってしまった。。

「…ウチまだ8歳なんだけどなぁ...。」

 確かに、同年代の子供たちと比べたらウチははるかに強い。しかしそれでもまだ子供なのだ。


 ...いや、かの妖精の騎士アリスは、7歳ですでに単身での第四深度ベヒモス討伐を成功させている。

 それに、よくよく考えると霧という気象条件きしょうじょうけんはなにも悪いことだけではないのだ。


 ベヒモスの本体を構成する次元化魔力子じげんかまりょくしは、水に溶けやすい性質を持つ。つまり、湿度が高ければ高いほどベヒモスの身体は縮小しゅくしょうし、活動力は低下するのだ。

 げんに、目の前の第四深度ベヒモスはあまり活発的ではない。

 この戦い、勝ち目が無いわけではない。

「...勝てる。」

 それは無意識の内に口から出た本心だった。

 

 自律的に動く敵の触手が、ウチの方にも伸びてきた。それにおくれて、本体の方がウチに気付く。

 タイムリミットまでは5分も無い。短期決戦たんきけっせんだ。

 入団するまではこの『存在()』はかくしておきたかったが、...仕方ない。


「...力を貸して、アスモデウス...!!」


 次の瞬間、魔力子加護マナコート・フラッシュとは別の光が、ウチを包んだ。

 上位存在()との魔力共鳴ユニゾン

 そう、色欲の魔神アスモデウス。ウチの従神だ。


 ウチとアシーの共有精神次元きょうゆうせいしんじげんでの刹那の意思疎通。


 ─どうしたの?─


 ─出番だよ、0番で行く─


 次々と伸びてくる触手。

 8本が、複雑な幾何学模様きかがくもようえがき迫ってくる。

「...()えろッ!!」

 すぐそこまで迫っていた8本の触手を、あわい桃色の業炎が包む。その瞬間、まるでその第四深度ベヒモスだけがこの世界から切り離されたかのように、動きが唐突とうとつにぶくなる。


 色欲しきよく禁魔術きんまじゅつ、『性の刹那セクシュアル・モーメント』。


 任意の物質に対する時間の経過速率けいかそくりつを1/50にする、次元超越干渉魔神魔術じげんちょうえつかんしょうまじんまじゅつ

 個体と物質次元の時間のズレが空間のゆがみを生み、魔力子がその歪みを中和する時に出す可視かしできるほどの高密度なエネルギーが桃色の炎の様に見えるのだ。つまり、ズレを中和している魔力子が機能している間だけ効果がある。それは決して長くはない。


 そもそも、これはウチ自身の魔力で使える訳じゃない。


 神位共融魔術しんいきょうゆうまじゅつ

 従神じゅうしんとの魔力子共鳴まりょくきょうめいによって発現はつげんされる魔術なのだ。

 しかも、ウチの従神である色欲の魔神アスモデウスは、非常に純度の高い魔力子を大量に保有する高位精神存在こういせいしんそんざい『七つの大罪』の一つに数えられており、その神位共融魔術『色欲の禁魔術』は、この空間、時間、世界そのものに干渉出来るほどの力を持つ高位魔術である。(と前にアスモデウス自身が言っていた。)

 また、世界にはこの『色欲の禁魔術』を超える、生と死、魂の輪廻りんねにまで干渉する魔術があると聞く。


「そんな魔法があれば、こんな試験楽にパス出来るのになぁ...。」

 1/50倍速の第四深度ベヒモスは、まるで石だ。動いているのかいないのかすら分からない程に遅い。

 だが、ここからが問題だ。

 第四深度ベヒモスは、トドメを刺すのに結構な手間がかかる。

 というのも、魔塊球まかいきゅうがどこにあるという明確な目安がないのだ。しかも、あれだけの巨体だ。弱点である直径10cmちょっとの小さな玉を見つけ破壊しなければならないなんて頭がおかしいにも程がある。


「うぅ〜...、魔塊球どこなの...。」

 その思わず口に出た言葉に、何かが反応した。


『オーダーを認証にんしょう魔塊球まかいきゅうのサーチを開始します。目標、前方、第四深度ベヒモス。人型。』


 聞きれぬ合成音声。周りの環境音かんきょうおんを打ち消さない程度のそれは、右耳のすぐ横、いや、右耳に直接流れ込んできている。

 一瞬何が起きているのか分からなかった。が、すぐにその正体が分かった。

「I3《アイスリー》...」

 1体目をたおした辺りから存在をすっかり忘れていた。

 騎士団の標準装備、ウェアラブルハイスペックレンズPC、『enterEYE:3rd』。


高密度魔力子こうみつどまりょくしの微弱反応感知。魔塊球の推測位置すいそくいちをレンズに投影します。』

 その合成音声が耳に入ると同時に、ウチの視界の中央、ベヒモスの胴体左側、地面から4m程度ていどの所が赤く光る。

 レーザーポインターのようなその赤い点の横には、推定奥行200cm程度の文字が表示されている。


「これは...、便利な...!!」

 そう言いつつ、身体はすでにけ出していた。

 『性の刹那セクシュアル・モーメント』の効果はそう長くはない。

「槍が...、...あった!!」

 こちらから見て、ベヒモスの右奥、瓦礫がれき瓦礫がれき隙間すきまに刺さっている。先程さきほどの衝撃で吹き飛ばされたらしい。

 『性の刹那セクシュアル・モーメント』のなるべくの維持いじに集中しつつ、大きくを描きながら槍を取りに行く。その途中、行掛いきがけの駄賃だちんに何本か触手を斬り落としていく。

 最後は強化した足で一気に距離を詰め槍を抜く。そして、そのすぐ横のかたむいた瓦礫がれきに着地し勢いを殺す。

「ここからだと奥行は8mか...。」

 ベヒモスめがけ再びけ出す。

 桃色の炎が薄れてきた。禁魔術きんまじゅつの効果が切れるのも近い。回り込んでいる暇は無い、か。

 ひろった槍を両手で構える。

 ウチが見据みすえるその先には、敵の魔塊球を示す赤い点。

 これで、決める。


「...拓きし血族(ディーヌエント)かんする槍よ...!!我がミカーニャの名においてその力をはなて!!」


 ウチの槍、いや、『拓く槍(ディーヌエント)』に、大気中の魔力子が収束しゅうそくしていく。

 それだけで空をらせる程の光。

「ぅぁありゃぁぁああああッッ!!」

 無意識にウチは叫んでいた。

 槍からあふれる光は、霧とも相まってより一層視界を悪くする。

 だが、ウチの目に映る赤い点(目印)がブレる事は無い。

 全体重と全速力をその槍一本に乗せ、赤い点(目印)目掛けて思いっきり突き刺す。が、それでも60cm程度。魔塊球には全然届いていない。

 直後、ベヒモスのスロー状態が解けた。

 向こう側に伸びていた触手が急転換し、一斉にこちらに向かってくる。


「つ...、ら、ぬけえぇぇぇぇえええええええええッッ!!!!」


 『拓く槍(ディーヌエント)』が震える。

 景色がゆがむほどの急速な魔力の増幅ぞうふく。先程取り込んだ魔力子が、解放されているのだ。

 槍から溢れる光があたりを包み込む。


 一瞬の静寂せいじゃく

 そして衝撃。


挿絵(By みてみん)


 『拓く槍(ディーヌエント)』から放たれた巨大な光の柱がベヒモスをつらぬき、ロンドンの街をき、全てを白にえた。






 お久しぶりっす。キセツカゼこと永季節です。

 遅くなって申し訳ございません。1話分まるまる戦闘がこんな苦行だなんて...。

 話は変わりまして私最近PSO2にハマっております。この前ようやくEP3を外伝含めクリアいたしました!!いやー...、ホントに、よかった...。私泣きかけましたもん...。外伝のストーリークエストの難易度にも泣きかけましたが。もうスケープドールでいくら飛んでったことか...。

 しかもその後、EP4にマトイちゃんがいない!!この衝撃!!はよピース更新せいや運営!!マトイちゃんに会わせろこのやろおおぉぉ!!

 ということで私、ship7でアリシティリアってキャラネームでワイワイ1人で活動させていただいてます。お友達と、チームメンバーも募集してます。見かけた場合にはぜひともお声かけくださいね!!

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