#3_入団試験《後編》
2538年10月9日14時42分。
今ウチの目の前には、ベヒモスが構えている。
正確には、装置によって作られた質量を持つ幻想なのだけれど。
ウチはミカーニャ・ディーヌエント・フォースブルゲン。ルーグリフト領マルグ市に住む小学3年生、8歳。ここセレフェッタには、連休を利用して弟子入りする師匠を探しに来たのである。
適当に市街をブラついていたところ、師匠候補第1位だったアリシティリア王女の戦闘現場に遭遇。アルティラ城まで追いかけたところで見失ってしまったが、城内を走り回りゴリ押しで再会に成功した。
そうして、いろいろあってウチは今、シュタロット王国騎士団の入団試験を受けているのだ。20分で4体のベヒモスを倒さなければならないという状況に置かれている。
ベヒモスが、再び飛びかかりのモーションに入った。
「遅いよッ!!」
瞬間的に強化した脚で、数メートルの距離を一気に詰め敵の懐に飛び込む。
敵の顔をしっかりと見据え。
40cmの刃で胸を穿つ。
「アガァあぁァァァアッ!!」
悶える声が街にこだまする。
ベヒモスは堪えきれず自ら槍をつかみ引き抜いた。赤黒い体液を胸の穴からばら撒きながらのけぞる。
腐った血の匂い。嗅かぎなれた匂い。なぜだか落ち着く。
「うわ…、もう再生してる。」
魔塊球は頭の方らしい。ウチの空けた胸の穴はきれいさっぱり塞がっている。
ベヒモスとの戦闘は、長引けば長引くほど泥沼化する傾向がある。
出来るなら次の手で終わらせたい。が...。
「攻めて来ない、か。」
相手は更に数歩距離を取り、様子見といった様子でその場から動かなくなってしまった。
「ウチ、カウンター狙う方が得意なんだけどなぁ...。」
向こうから攻めてこないとなると、こちらから攻めるべきか。
時間はない。1つ試してみるか。
「...ふっ。」
地面を強く蹴りだして接近。とりあえず相手の頭目がけて槍を突き出す。
「ゥガガァァっ!!」
だが、ベヒモスはそれを見切り、逆にウチの懐に突進してきた。
「ぐふぅぁっ...!?」
強烈なタックルが腹に入り、吹き飛ばされる。
が、決着はもう既に決まった。次で、確実に勝てる。
直ぐに体勢を立て直し、ベヒモスに向き直る。
「...フフ、作戦成功だ。」
タックルが見事決まった事で向こうは完全にウチの実力を見誤ったはずだ。ウチは今、ベヒモスに舐められている。
「ウガァあァッ!!」
今度は、ベヒモスが自分から掴みかかってくる。ウチを舐めきった甘い攻撃。心の奥底から湧き上がる嘲笑を堪え、ベヒモスの突進を軽く半身になってかわす。
「フフ…、ぬかったね!!」
相手のガラ空きの後頭部めがけて、槍を右に薙ぐ。
手応え、あり。
ベヒモスを構成していた全魔力子が、拡散、青く発光しながら燃え尽きていく。
…ゾクゾクする。
この瞬間ばっかりは、飽きない。
「アハハァ…、つまんないなぁ…!!」
そう言いつつも、ウチの顔が緩んでいるのが自分でも分かる。
「さて…、お次はどこかな?」
鼓動が高鳴り、身体が一層強く光る。
体温が、上がっている。
...これだ。
全身の感覚が研ぎ澄まされ、全身から取得される全ての情報が頭の中に次々と流れてくる。
最高の集中状態。
五感すべてが最高のコンディションで混ざり合い、そして、新たな第六感として機能する。
「...こっちか...!!」
西に向かって走り出す。
微かな血の匂い。足の裏から伝わる地面の振動。
...2体か。こっちに向かってきている。大した距離ではない。すぐに遭遇出来るだろう。
「そこの...、角の先...!!」
崩壊したビルのたくさんの瓦礫が散乱する中、そこを角と呼ぶに相応しいかどうかは別として、その先に確かな気配を感じる。
そして、とうとうその角に差し掛かった。
瞬間、突然の黒い狂気が目の前に迫る。
「くっ...さいなぁッ...!?」
咄嗟に身体を大きく後ろに反り、槍を振り上げる。
突っ込んできた勢いをそのままに、後方にはじき飛ばされるベヒモス。
「っ...!!」
真上からもう一体。
身体を右に捻り左脚で地面を蹴る。
「...っぶなぁ…。」
転がり、距離をとる。
間を空けず、一体目の追撃が来た。
槍を地面に叩きつけ、自分の軽い身体を宙に弾く。
「...つぅっッ!!」
左上腕部に走る赤い痛み。敵の爪がかすめたようだ。
2体のベヒモスから数メートル離れたところで着地する。
「...やめてよ。ドレス汚れちゃったじゃん。」
体勢を立て直し、一瞬の観察を始める。
人型ベヒモスが2体。
最初に接触した方は、特異種のようだ。爪が長く刀身のように変化している。ウチの左腕を見る限り相当な切れ味を持っているようだ。
2体目は特に変わったところは見られない。恐らくはザコだ。
「フッフッ...、次は...、ウチの番だよ...!!」
笑いを堪える。しかし、確かな悦楽感が心底から体を蝕む毒のようにジワジワとウチの理性を支配していく。
「君の玉はどこかな?」
本能のままに突進。
「まあいいや、縦にぶった斬っちゃえば同じだよね...!!」
両手に構えた槍を、重力と筋力と魔力に任せて刀のベヒモスに叩きつける。
重厚な衝撃。金属音。
ガードした敵の腕が支点になり、反動で身体が浮く。
「ガアァあッ!!」
刀のベヒモスの後ろから、もう一体が飛びかかって来た。
ウチの顔を真っ直ぐに捉え振り下ろされる拳。
「...ぅるっさいな...!!」
それを、斬る。
ウチの左手には、大型のナイフ。
太ももに仕込んであったのだ。
「ゴァ...!!」
槍で刀のベヒモスを抑えつつ、それを軸にして身体を持ち上げもう一体を蹴り飛ばす。
その一瞬の隙をついて、刀のベヒモスが槍を弾いた。バランスを崩したウチに斬りかかってくる。
それを左のナイフで受け流し、着地。尚も斬りかかってくるベヒモスのみぞおちに槍の柄を叩き込み剥がす。
「しつこい!!」
左からザコが飛びかかってくる。それを軽くかわして今度はかこちらから刀のベヒモスに飛び込む。
「このドレス高いんだからね、殺す!!」
振り上がる敵の左腕。左のステップでかわし、相手の右脇に左膝を入れる。
狙い通り、後ろから襲いかかってきていたもう一体と激しく衝突させる。
「フフハッ!!」
絡まった2体を目掛けて槍を振り下ろす。
「死ね!!」
しかし、2体は間一髪のところでかわす。刀のベヒモスはバックステップで距離を取るが、ザコはそのまま飛びかかってきた。
「飛びかかるしか能がないんだね君は!!」
左手のナイフを左太ももに仕舞いつつ、がら空きの腹に前蹴りを決める。
「いい加減...、くたばれ!!」
釣り上がる口角。
尻餅をつき、隙だらけの脳天目掛けて槍を振り下ろす。
重低音の、岩に叩きつけたような音。
「な...、硬っ...!?」
普通だったら通るはずの刃が通らない。
コイツも特異種だったのか...?
だとしたらどういう...。なぜさっき腕を斬りつけた時は攻撃が通った?どうすればいい。
...いや、これは団の試験だ。倒せない物が出てくるはずがない。
どうする...?
不意のトラブルに思考能力を奪われ何も考えることができない。分からない。
「がっはぁッ...!?」
気づいた時には世界が反転していた。
腹に鈍い痛み。蹴られたのだろうか。
...いや、頬にも鋭い痛みを感じる。刀もかすったのか。皮肉にも、蹴られたことで助かった。
「...うぁっッ!!」
後頭部を強打し、瓦礫の山を転がる。
痛い。
「う...、クソッ...。」
攻撃を食らって頭が冷えた。
ウチの高揚しやすい性格も問題だ。ちょっとしたことで動揺してしまう
。
ズキズキと痛む頭を押さえつつ、もう片方の手で近くの瓦礫をつかみ起き上がる。
...槍は、...あった。
硬いベヒモスが握っている。
「うっ、そ、でしょ...。」
「グガアァアァァッ!!」
重なる咆哮。
2体が同時に飛びかかってきた。
「クソ...、少しは休ませろ!!」
前に突き出された硬いベヒモスの槍を受け流して掴み取りその顎を蹴りあげる。同時に、奪い返した槍で刀のベヒモスの爪を防ぐ。
視界が血で霞む。
素早い動きで2撃目を入れに来る刀のベヒモス。 右上から迫って来るそれを捻ってかわし、バックステップで距離を取る。
「足場が、悪いな...。」
瓦礫が積み重なるグラグラの足場。
左手で血が滲む右目を拭い、槍を構え直す。
刀のベヒモスは、瓦礫に爪が刺さり抜けない様子。一方の、瓦礫の山から転がり落ちた硬いベヒモスが起き上がり始めたようだ。
そろそろ10分が経過するところか。いい加減決着を着けたい。
「隙、だらけだよ!!」
両脚を瞬間強化。
まずは身動きの取れない刀のベヒモスから。
瓦礫の山を蹴る。吹き飛ぶコンクリート片。
相手の芯を真っ直ぐになぞるよう槍を上段に構える。
...捉えたっ!!
「ガッ...ァ...!!」
刀のベヒモスはなんとかかわそうとする。
「...残念、でしたぁッ!!」
槍を振り下ろす。
胸の辺りで硬い手応え。割れる音。
そのまま身体を縦に裂く。
赤黒い血。その匂いにまたも高揚しかける。
「フフッ...!!」
直後の魔力子拡散消滅。
「次は、君だよ!!」
すぐそこまで迫っていたもう一体を槍で右に薙ぐ。
硬い。
やはり岩を殴っているようだ。
だが、
「解かった。」
今ので理解した。
あくまでも予測に過ぎないが、どうやらコイツは体内の魔力子を一点に集中させる事でその一点の硬度を極端に上げているようだ。つまり、一撃に強い。
だがしかし、それは逆に連撃に弱いという事も予想できる。
「──ふッ!!」
右脇腹で食い止められた槍を力任せに振り抜く。
硬いベヒモスは5m程吹っ飛び、瓦礫の山を転げ落ちた。
瓦礫の山を飛び降り、すかさず追撃。
落下の勢いも乗せ、右手の槍を胸に突き立てる。
槍は案の定はじかれたが、そのまま馬乗りになりすぐさま左手でナイフを抜き敵の右腕を斬りつける。
「通った...!!」
斬りつけたナイフは、赤黒い血を滴らせ暗く輝いている。
やはり1箇所しか防御出来ないようだ。
「ガアアァあああッ!!」
「...っぶなッ!!」
苦しみの表情を浮かべ足掻くベヒモス。
反射的に距離を取る。
「やっぱ槍じゃ...、不利か...。」
ウチが距離を取った隙に立ち上がるベヒモス。
基本的に単発攻撃の槍では相性が悪すぎる。かと言って、片手にナイフ、片手に槍ではリーチが違いすぎて上手く速い連打が打てないだろう。
「...仕方ない、か。...ナイフあんま得意じゃ──」
咆哮と共にベヒモスが飛びかかってきた。
槍から右手を離す。
そして、槍が落下を始める前に左手でスカートをめくり上げ、槍が落下し始めると同時に右手で右太もものナイフを逆手に抜く。
この一連の流れを前に蹴り出しながらしつつ、今狙うのはただ一点、敵の両脚である。
地面とぶつかるほど身を低くし敵の大きく開かれた股下をくぐりながら、逆手に握った右手のナイフで敵の右膝から下、順手に持ち変えた左手のナイフで敵の左脚付け根をそれぞれ切断、斬り飛ばす。
「──ないんだけどなッ!!」
倒れそうな身体を、前に出した右脚で支える。
手応えは確かにあった。
どうやら、不意打ちもまた防御が追いつかないらしい。
後ろで、ごしゃあという落下音とベヒモスのうめき声が聞こえる。
「...思ったより欠陥だらけじゃん、君。」
振り返ると、瓦礫の上にうつ伏せで倒れるベヒモスがいた。すで両脚の再生が始まっているが、そこまで速くはない。
敵は恐らく体勢的にこちらを確認出来ていない。それ故に、ウチが近づいてもがむしゃらに腕を振るのみだ。
「...フフ。」
硬質化する背中の中心。玉は胸か。別の位置から角度をつけて突き刺せば簡単に殺せる。
振り上げた右手を、こんどはその背中目がけて勢いよく振り下ろす。
勝利を確信した。
轟音と衝撃。
それは一瞬で。
さっきまでベヒモスにナイフを振り下ろしていた自分が、今は宙を舞っているのは分かる。なぜだ?視界がグチャグチャに掻き混ぜられ、上も下も右も左も分からない。三半規管が強烈に揺さぶられ、とてつもない吐き気がウチを襲う。
気が付けば、地面は目の前。
「ッがぁ──」
顔面を強打。
鋭角に落下したために、瓦礫の散乱する地面を身体を擦り付けるように転がる。
「...っ...はぁっ...!!!」
運がいいのか悪いのか、すぐに巨大な瓦礫に背中を打ちつけて停止したが、勢いよく打ちつけたために肺の空気が全て吐き出され、胸が焼けるような感覚に襲われる。
「ぅうっ...、ホントにっ、容赦、ないね...。この試験...。」
身体の至るところから血が流れ出る。
だが、落下する前に全身に魔力子加護を展開出来たとはいえ骨を折らなかったのは奇跡だ。それでも痛いものは痛いが。
それよりも、さっきの轟音と衝撃は一体。
目に染みる血を拭い急いで視認を試みる。
「......っ...!?」
ウチの視界に映ったのは、2m強に肥大化したベヒモス。それが、さっきの硬質化ベヒモスを捕食している。
「4体目...?どこから...。」
ベヒモスの共食いは無い話ではない。むしろ、よくある事だと昔読んだ本に書いてあった。
ベヒモスは、別の個体を何らかの形で自らに取り込むことによってより強力な力を得ようとするらしい。これによって、第4深度に進む個体もいる。
右手を伸ばし、近くのコンクリート片を掴んで立ち上がる。身体の節々が痛むが、どうやら戦闘は続けられそうだ。
「...ていうか、これ最悪...。」
案の定、捕食を終えた肥大ベヒモスは、崩壊と再生を繰り返しどんどんと巨大化していく。
ベヒモスの第4深度への移行が始まったのだ。
魔力子干渉症が第4深度まで進んだベヒモスは、地面や空気中、触れたもの全てから魔力子を搾取するようになる。その際、元の生物の形を保持する事が出来なくなり、巨大化していく。
第4深度ベヒモスは、文字通りの怪物なのだ。
最も巨大なものでは体長100mを超すものもおり、その圧倒的な質量と破壊力で全てを自らの糧である魔力子へ変換する。
目の前の第四ベヒモスは10数メートルまで膨らんだ所で肥大化のペースがゆるんだ。平均から言ったら大きいほうだと思う。
「気持ち悪いなぁ...。」
見た目はまるで、ドロドロの触手が8本生えた黒いまんじゅうのようだ。
『ビーーーーッ』
残り5分を切ったことを示すブザーが、霧の出始めるロンドンの市街に響いた。
残り5分。それが合図かのように急激に気温が下がる。したがって現れる霧は、数10m先の視界も危うい。10数メートルの巨体を持つ第四深度ベヒモスでさえも、ハッキリと形を捉えることは難しくなってしまった。。
「…ウチまだ8歳なんだけどなぁ...。」
確かに、同年代の子供たちと比べたらウチは遥かに強い。しかしそれでもまだ子供なのだ。
...いや、かの妖精の騎士アリスは、7歳で既に単身での第四深度ベヒモス討伐を成功させている。
それに、よくよく考えると霧という気象条件はなにも悪いことだけではないのだ。
ベヒモスの本体を構成する次元化魔力子は、水に溶けやすい性質を持つ。つまり、湿度が高ければ高いほどベヒモスの身体は縮小し、活動力は低下するのだ。
現に、目の前の第四深度ベヒモスはあまり活発的ではない。
この戦い、勝ち目が無いわけではない。
「...勝てる。」
それは無意識の内に口から出た本心だった。
自律的に動く敵の触手が、ウチの方にも伸びてきた。それに遅れて、本体の方がウチに気付く。
タイムリミットまでは5分も無い。短期決戦だ。
入団するまではこの『存在』は隠しておきたかったが、...仕方ない。
「...力を貸して、アスモデウス...!!」
次の瞬間、魔力子加護とは別の光が、ウチを包んだ。
上位存在との魔力共鳴。
そう、色欲の魔神アスモデウス。ウチの従神だ。
ウチとアシーの共有精神次元での刹那の意思疎通。
─どうしたの?─
─出番だよ、0番で行く─
次々と伸びてくる触手。
8本が、複雑な幾何学模様を描き迫ってくる。
「...燃えろッ!!」
すぐそこまで迫っていた8本の触手を、淡い桃色の業炎が包む。その瞬間、まるでその第四深度ベヒモスだけがこの世界から切り離されたかのように、動きが唐突に鈍くなる。
色欲の禁魔術、『性の刹那』。
任意の物質に対する時間の経過速率を1/50にする、次元超越干渉魔神魔術。
個体と物質次元の時間のズレが空間の歪みを生み、魔力子がその歪みを中和する時に出す可視できるほどの高密度なエネルギーが桃色の炎の様に見えるのだ。つまり、ズレを中和している魔力子が機能している間だけ効果がある。それは決して長くはない。
そもそも、これはウチ自身の魔力で使える訳じゃない。
神位共融魔術。
従神との魔力子共鳴によって発現される魔術なのだ。
しかも、ウチの従神である色欲の魔神アスモデウスは、非常に純度の高い魔力子を大量に保有する高位精神存在『七つの大罪』の一つに数えられており、その神位共融魔術『色欲の禁魔術』は、この空間、時間、世界そのものに干渉出来るほどの力を持つ高位魔術である。(と前にアスモデウス自身が言っていた。)
また、世界にはこの『色欲の禁魔術』を超える、生と死、魂の輪廻にまで干渉する魔術があると聞く。
「そんな魔法があれば、こんな試験楽にパス出来るのになぁ...。」
1/50倍速の第四深度ベヒモスは、まるで石だ。動いているのかいないのかすら分からない程に遅い。
だが、ここからが問題だ。
第四深度ベヒモスは、トドメを刺すのに結構な手間がかかる。
というのも、魔塊球がどこにあるという明確な目安がないのだ。しかも、あれだけの巨体だ。弱点である直径10cmちょっとの小さな玉を見つけ破壊しなければならないなんて頭がおかしいにも程がある。
「うぅ〜...、魔塊球どこなの...。」
その思わず口に出た言葉に、何かが反応した。
『オーダーを認証。魔塊球のサーチを開始します。目標、前方、第四深度ベヒモス。人型。』
聞き慣れぬ合成音声。周りの環境音を打ち消さない程度のそれは、右耳のすぐ横、いや、右耳に直接流れ込んできている。
一瞬何が起きているのか分からなかった。が、すぐにその正体が分かった。
「I3《アイスリー》...」
1体目を倒した辺りから存在をすっかり忘れていた。
騎士団の標準装備、ウェアラブルハイスペックレンズPC、『enterEYE:3rd』。
『高密度魔力子の微弱反応感知。魔塊球の推測位置をレンズに投影します。』
その合成音声が耳に入ると同時に、ウチの視界の中央、ベヒモスの胴体左側、地面から4m程度の所が赤く光る。
レーザーポインターのようなその赤い点の横には、推定奥行200cm程度の文字が表示されている。
「これは...、便利な...!!」
そう言いつつ、身体はすでに駆け出していた。
『性の刹那』の効果はそう長くはない。
「槍が...、...あった!!」
こちらから見て、ベヒモスの右奥、瓦礫と瓦礫の隙間に刺さっている。先程の衝撃で吹き飛ばされたらしい。
『性の刹那』のなるべくの維持に集中しつつ、大きく孤を描きながら槍を取りに行く。その途中、行掛けの駄賃に何本か触手を斬り落としていく。
最後は強化した足で一気に距離を詰め槍を抜く。そして、そのすぐ横の傾いた瓦礫に着地し勢いを殺す。
「ここからだと奥行は8mか...。」
ベヒモスめがけ再び駆け出す。
桃色の炎が薄れてきた。禁魔術の効果が切れるのも近い。回り込んでいる暇は無い、か。
拾った槍を両手で構える。
ウチが見据えるその先には、敵の魔塊球を示す赤い点。
これで、決める。
「...拓きし血族の銘を冠する槍よ...!!我がミカーニャの名においてその力を解き放て!!」
ウチの槍、いや、『拓く槍』に、大気中の魔力子が収束していく。
それだけで空を照らせる程の光。
「ぅぁありゃぁぁああああッッ!!」
無意識にウチは叫んでいた。
槍から溢れる光は、霧とも相まってより一層視界を悪くする。
だが、ウチの目に映る赤い点がブレる事は無い。
全体重と全速力をその槍一本に乗せ、赤い点目掛けて思いっきり突き刺す。が、それでも60cm程度。魔塊球には全然届いていない。
直後、ベヒモスのスロー状態が解けた。
向こう側に伸びていた触手が急転換し、一斉にこちらに向かってくる。
「つ...、ら、ぬけえぇぇぇぇえええええええええッッ!!!!」
『拓く槍』が震える。
景色が歪むほどの急速な魔力の増幅。先程取り込んだ魔力子が、解放されているのだ。
槍から溢れる光が辺りを包み込む。
一瞬の静寂。
そして衝撃。
『拓く槍』から放たれた巨大な光の柱がベヒモスを貫き、ロンドンの街を裂き、全てを白に塗り替えた。
お久しぶりっす。キセツカゼこと永季節です。
遅くなって申し訳ございません。1話分まるまる戦闘がこんな苦行だなんて...。
話は変わりまして私最近PSO2にハマっております。この前ようやくEP3を外伝含めクリアいたしました!!いやー...、ホントに、よかった...。私泣きかけましたもん...。外伝のストーリークエストの難易度にも泣きかけましたが。もうスケープドールでいくら飛んでったことか...。
しかもその後、EP4にマトイちゃんがいない!!この衝撃!!はよピース更新せいや運営!!マトイちゃんに会わせろこのやろおおぉぉ!!
ということで私、ship7でアリシティリアってキャラネームでワイワイ1人で活動させていただいてます。お友達と、チームメンバーも募集してます。見かけた場合にはぜひともお声かけくださいね!!