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アリス -Knight of fairy-  作者: 永 季節
一章
2/6

#1_妖精の騎士アリス

──西暦2538年10月9日木曜日午前9時──

 シュタロット王国王権特区(おうけんとっく)セレフェッタにそびえる白き2本の巨塔、アルハラ・ティラヤトゥーユ城の一室。


〜〜♪〜〜〜♬

「んん……。」

 ベッドの枕側まくらがわの壁にある、埋め込み型デジタル式目覚まし時計が鳴り響く。

「ん…、あと五分…だけ……。」

なんてうっかり言おうものなら…。

ーーー!!ーーー!!!!

音声認識おんせいにんしきで、目覚ましの音楽がたちまちガンガンデスボイスの大音量ヘビーメタルに変わる。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!やめろおぉぉぉぉぉ!!」

 さながらバネ式のネズミりのように私は飛び起きた。デジタル時計の画面には起床確認きしょうかくにんの文字。カメラと音声認識で完全に起きたと判断したらしく、目覚ましが鳴り止む。


 私はアリス。アリシティリア・ロリーティ・ストゥレイル・クルベルト。シュタロット王国王家クルベルトの第一王女であり、18才にしてシュタロット騎士団きしだん陸海空の名誉騎士めいよきしなのだ。8才の時すでに剣の腕は成人男性せいじんだんせい以上いじょうにまで達し、10才で騎士団名誉騎士(めいよきし)就任。学問では、9才で中高大一貫(いっかん)の名門アクフィクス国立士官学校こくりつしかんがっこうに入学、10年間の教育を7年で卒業、当時16才。まさに奇跡のような才を持って生まれてきた神童しんどうなのだ。しかも、それでいて美人。薄いピンクのショートボブは毛先にいくにつれオレンジのグラデーションがかかり、大きなひとみはまるでオーストラリアのグレートバリアリーフのような輝きをたたえている。髪と同じ色の太めのまゆ可愛かわいらしくもどことなく強さを思わせ、ほどよい厚さの唇ははかなさをかもし出す。私はこの世でもっと才色兼備さいしょくけんびな人間なのだ。

 だだし、そんな私にも欠点がある。恥ずかしながら、身長が、非常に低いのだ。141cm、小学校中学年女子しょうがっこうちゅうがくねんじょしの平均身長とほぼ一緒なのである。


「んぉ…、アリスたん起きた…?」

 声の聞こえた方を振り向く。そこには、私にい寝するような形でベッドに寝そべる爽やか系ガチムチ男。

「うわぁぁぁサタン貴様きさまぁぁぁぁぁッ!!死ねっ!!死ねえぇぇぇぇぇぇ!!」

 再び絶叫ぜっきょう

「ロリの全力拒絶ぜんりょくきょぜつ…、ゾクゾクするぜ…!!」

一方、顔を紅潮こうちょうさせ何とも言えない顔をしているサタン。


 そう、サタン。この男こそ、7年前の第三次荒廃地区奪還作戦だいさんじこうはいちくだっかんさくせんにて、一度死んだ私と契約けいやくし、よみがえらせ、私の従神じゅうしんとなった憤怒ふんぬの神サタンである。


貴様きさまっ…!!いい加減勝手に出てくるのやめろ!!殺すぞ!!」

 ベッドから立ち上がり洗面台せんめんだいに向かう。

「だって自分で出てこないとアリスたん全然喚んでくれないじゃん。」

 付いてくるサタン。

「当たり前だロリコン。」

「その目ッ…!最高さいこうです…!!もっかいっ!!もっかいやって…!!」

足にしがみついて来るサタンの顔面を踏みつける。

「がっ…!!アリスた、っの生脚なまあしぐぶっ!!あぁっ!!あぁあぁぁぁぁぁ♡」

 サタンは謎の奇声をあげよろこびんでいる。ちょっと魔界が心配になった。

「あっ!!ぐぼぁっ、今日はっ、黒パンっ!?なかなかアリスたんもむっつりでがはぁぁっ!!」


挿絵(By みてみん)


 死ね。

 顔面をこれ以上ないってくらいに強く踏みつける。18年間の生活で一番行動に気持ちを乗せた瞬間だった。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね犬のウ○コをゴリラに投げつけられながらながら死ね!!」

「ありがとうございますっ!!パジャマのズボンの裾からありがとうございますっ!!死ね死ね連続()りありがとうございますっ!!一生付いていきますっ!!」


 一生地獄いっしょうじごくか。


「い、い、か、げ、ん、に…、」

 床を強くり飛び上がる。

「こ、これは…、まさか…!!」

 前方に高速回転。

「しろおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 そして、絶妙なタイミングで右かかとをサタンの脳天のうてんめがけて振り下ろす。


「前方4回転かかと落としィぐぼげらああぁぁぁっ!!」


「アーメン。神よ、私がこの悪魔に天罰てんばつを下すことをゆるしたまえ。」


 サタンは白目をきながら、ありがとうございますありがとうございますとうわ言のようにり返している。

帰還きかん強制執行きょうせいしっこう。」

 私がそうとなえると、サタンの身体は跡形もなく消える。


 憤怒ふんぬのサタン、これが、私の従神じゅうしん。ロリコンでドMなガチムチマッチョ。しかし顔は爽やか系でそこそこイケメンなのが、しゃくさわる。そして、もっとも目を引く特徴とくちょうが頭の左右に生えた大きな角である。


 従神じゅうしんとは、非物資生命体ひぶっしつせいめいたい、いわゆる幽霊とか神だとかが個人と契約して個人の所有物となったものである。従神じゅうしんの所有者は、従神じゅうしんをいつでもび出したり帰らせたりする事ができ、また、その従神じゅうしんのもつ能力や力を所有者が行使できる。従神じゅうしんを持つことによるメリットは他にもあるが、わかってない事も多く、例えば、召喚時しょうかんじ帰還時きかんじ、どこからどのように出てきて、どこへどのように消えるのかは、従神じゅうしん、もとい非物資生命体ひぶっしつせいめいたいに関することの中でも最大の謎である。


「やっとさわがしいのが消えた…。」

 そうつぶやいた後で、あの悪魔にパンツを見られたことを思い出し死にたくなる。自分でも顔が赤くなっているのが分かる。

「なんだってよりによって…!!…っ、はぁ…シャワーでもびるか…。」

 今は思いっきり冷水れいすいを被りたい気分だ。


「そうだ、せっかくの休日だし、シャワー浴びたら城下じょうかにでも出るか。気分転換きぶんてんかんにもなるだろ。」




 突き抜けるような青。

 午前10時48分、アルティラ城城下、王特区おうとっくセレフェッタは雲ひとつない晴天せいてんである。


「あ、姫様じゃねぇか!!」

 肉屋の店主ジャック。

「アリスちゃんじゃない!!これあげるわ〜!」

 ジョージの嫁ラン。

「おひめさまこんにちわ!!」

 靴磨くつみがきの少女ミュー。


 私が町を歩いていると様々な方向から声をかけられる。皆顔見知(かおみし)りだ。


「アリスも1回(みが)いてく?」

「いや、今日はスニーカーだから大丈夫。」

 そう言って断ったが、ミューは自信ありげにサムズアップをした。

「大丈夫、私スニーカーもみがけるのよ!」

「ほぉ…、それは初耳だな。では頼む。」


 私は、よく城下に来る。物心ものごころついた頃からよく城を抜け出しては遊びに来ていた。城に閉じこもってるよりずっと楽しいのだ。そうしている内に、気づけば皆知り合いだった。メイド長のチェルシーにはよく怒られたものだが。


「アリスは今日はなにしに来たの?」

「大したことはない。気分転換きぶんてんかんだ。」

 そんなたわいもない話をしている内にミューは靴磨くつみがきを終わらせる。

「へぇ…、凄いな…!もうピカピカだ。」

その出来栄できばえは見事なもので、新品同様しんぴんどうよう、もしくはそれ以上かもしれない。もっとも、買った時のことを覚えてないのでなんとも言えないが。

「うふふっ!言ったでしょ?…あ、お金はいらないわ。アリス明日誕生日でしょ?ちょっと早いけど、私からの誕生日プレゼントよ!!」

 ミューは、10代前半特有(とくゆう)の若干のあどけなさの残る笑顔でそう言った。

「ふふ…、ありがたいが気持ちだけで充分だ。私も立場上たちばじょう子供にプレゼントさせるわけにはいかない。報酬ほうしゅうとして昼飯かなんかおごってやるよ。」

「んー…、…じゃあお言葉に甘えて!!……身長は私のが高いけどね。」

 とりあえず一発(なぐ)った。


 午前11時12分。

 城から南に40分(ほど)歩いたところにある、第3噴水ふんすい広場。広場全体は五角形で、頂点それぞれから通りが伸びている。真ん中には直径ちょっけい5mほどの噴水ふんすいがあり、日中にっちゅうつねに人で活気かっきあふれ、年中ねんじゅう祭りのような場所だ。


「なんというか…、アリスすごいわね…。軽く引くわ…。」

「……いや…、私も引いてる…。」

 今、私の両腕りょううでには色々な物がぶら下がっている。スーパーの袋、青果店せいかてんの袋、お菓子の袋、花束や、化粧品ブランドの袋などなど…。このすべてが、街の住人達からのもらい物なのである。

「…私と会った時は手ぶらだったよね?お姫様の誕生日って恐ろしいわね…。」

「ハハハ…。まだ明日なんだけどな…。…あ、ほら見ろ。あそこの店だ。」

 そう言って私は広場の西の大通りに繋がる頂点の、こちらから見て左側の角を指さす。そこは、5階建てビルの1階、小さな飲食店。

Cafe(カフェ)…、mother(マザー)…?」

「この距離でよく読めたな。そう、知り合いがマスターをやっている。が、客が全く来ない。…あ、いや、味が悪い訳ではないから安心しろ。」


 店に近付くと、その雰囲気ふんいきがよく分かる。広場に面する東側の壁上部には、赤いテントがかかっており、大きく白い文字で「Cafe mother」と書いてある。その下は壁一面ガラスで、店の大部分が見渡みわたせるようになっている。手前にはテーブル席、奥にはカウンター席があるが、今は客どころか店主てんしゅの姿も見えない。

「…アリス、休みなんじゃない?」

 ミューはガラスに張り付きながら、こもった声で言った。

「いや、だいたいいつもこうだ。カトローナは奥にいる。」

 そう言って西の大通りに面する北側に回る。こちら側の壁は白樺しらかばの木で統一され、広場から比較的ひかくてきはなれた方にドアがある。ドアは、東側の面同様(どうよう)ガラスで出来ており、こちらにも私がちょうど見上げるくらいの位置いちに白い文字で「Cafe mother」と書いてある。

「入るぞ。」

「おじゃましまーす…。」

 そこそこ重いドアを押して中に入ると、客の来店を知らせるベルが鳴った。

 全体的に店内は若干じゃっかん暗く、また、人がいないせいか、まるで昨晩さくばん店主てんしゅ夜逃よにげした後の空き家のようだ。天井てんじょうの止まったプロペラがさらにそれらしい。カウンターの奥のたなには、安いものから高級な物まで様々な酒が並び、カフェというよりはバーのような雰囲気ふんいきだ。


 「ん〜、いらっしゃぁい!!」


 すると、カウンター奥の扉が開き、バスの低音がひびく。

「やぁカトローナ。この才色兼備さいしょくけんびなお姫様が久しぶりに来てやったぞ。」

「ああん!!アリスちゃんじゃなぁい。お久しぶりっ♡元気だったぁ?…あら?こちらの子はお初?」

 扉から出てきたのは、男性というにはあまりに化粧けしょうく服がフリフリで、女性というにはあまりに声が低く猛々しい体つきの、()()女性。


「あ…、こ、こここんにちはっ!!」

 その異様いような姿に、ミューは変に緊張きんちょうしてどもりまくっている。

「コイツは、平日の城門前じょうもんまえでよく靴磨くつみがきしてるミュー。んでこっちは、前騎士団総長ぜんきしだんそうちょうの元アントニオ・グレーグ、現カトローナだ。」

 私はたがいに少しでも打ち明けてもらおうとたがいにたがいを紹介しょうかいする。

「うふふ♡ミューちゃん可愛かわいいわねぇ〜!!いくつ?」

「じゅ、じゅ、う、13才でしゅっ!!」

「かんわいいぃ〜!!もう、きしめちゃう!!」

 カトローナがミューをきしめる。いや、めあげる。私はこの技を、カトローナ・胸板むないたプレスと呼ぶ。

「あぁぁぁぁっ!!」

 ミューがさけぶ。

 気持ちは分かる。分かるぞミュー。だがえるしかないのだ。この技は私でも抜け出せなかったのだから…。

「アリスちゃん今日は何しにきたの?」

「昼飯を食いに来た。ミューにスニーカーみがいてもらったから報酬ほうしゅうわりにおごってやろうと思ってな。…その、そろそろはなしてやったらどうだ?死にそうだぞ。」

「ん、ああ、ごめんなさい。うふふ♡」

 笑顔のカトローナとは逆に、この世の終わりからやっとのことで生還せいかんしてきたような顔をしているミュー。



「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!」



 噴水広場ふんすいひろばひび悲鳴ひめい

 その場の三人が反射的はんしゃてきに東側のガラスを向く。

 突然、くだけ散るガラス。…いや、何者かが飛んできてガラスを突きやぶったのだ。咄嗟とっさにミューを後ろに引き寄せる。

「ミュー、大丈夫か?」

「あ…、う、うん。ありがとう…。」

ミューは尻餅しりもちをついていたが、別段べつだん怪我けがなどは見られない。

「…ベヒモスよ。」

 すると、カトローナが口を開いた。その左手は人の首をつかんでいる。…いな、人()()()者の首をつかんでいた。

「ガァッ…!!ゥアッ…、ガッ…ァ…」

 ()()は、カトローナの腕をつかんで抵抗しているが。カトローナはその手をまったはなさない。

 肌は黒くドロドロに変質へんしつし、服も、原子構成崩壊現象げんしこうせいほうかいげんしょうを引き起こしてボロボロ。その目は、全体があかにぶく光り、最早もはや人の面影おもかげはない。


 魔力子置換質量屍体まりょくしちかんしつりょうしたい通称つうしょうベヒモス。

 体内の魔力子まりょくしが何らかの理由で暴走状態ぼうそうじょうたいおちいり肉体と精神を侵食しんしょくする症状を魔力子干渉症まりょくしかんしょうしょうという。ベヒモスとは、それが第3深度しんどまで進行し、心身の秩序ちつじょを失った個体の総称そうしょうである。


 突如とつじょ、カトローナの腕をつかむベヒモスの腕がブクブクとふくれ始めた。

「……これはっ!!…」

 魔力膨張まりょくぼうちょう

「カトローナ早く手を外せ!!そいつからはなれろ!!」

 カトローナが素早すばやく腕を振りほどき、ベヒモスを飛んできた方向へり飛ばす。

 直後、ベヒモスの両腕がまばゆい閃光せんこうを発した。

 とてつもない爆音ばくおん衝撃しょうげき魔力拡散爆発まりょくかくさんばくはつである。

「……あ…、すまない。無事ぶじか?カトローナ。」

 気づけば、カトローナが私とミューを破片はへんからかばうように立っていた。

「えぇ…、まさか、自爆するなんて…。」

 立ち込める砂埃すなぼこり。が、かすかに揺れた。

「…いや…、自爆じゃない!!」

 奴はまだ、生きている。それどころか、ダメージも無いだろう。

 私はすぐさまけ出した。

「アリスッ!?」

状況じょうきょう開始かいし…。」


 砂埃すなぼこりひどく、前が見えない。

「うざったい…!!」

 瞬間的しゅんかんてきに魔力をはなち、砂埃すなぼこりき飛ばす。 

 正面にベヒモスをとらえた。

 私は、空間に穴を開け剣を両手に1本ずつ取り出す。クルベルトの一族がもっとも得意とする魔法、空間魔法くうかんまほうである。


 空間魔法とは、私達のいる次元軸じげんじくに自分だけの別空間をつくり出し、また、その空間と今自分がいる空間をつなぐトンネルをあやつる魔法である。

 個人が作れる空間の広さや保持時間、また、出現可能なトンネルの範囲はんいなどは、個人の魔法力まほうりょく、すなわち魔法(およ)魔力子まりょくし処理能力しょりのうりょくに左右される。

 私の場合は魔法力まほうりょくが常人の数倍はあるため、トンネルの発現範囲はつげんはんいは半径60m以内で、つくり出せる空間は縦50m×横70m×高さ30mの1万500㎥で、それを半永久的はんえいきゅうてき維持いじできる。これは世間一般せけんいっぱんで言われている空間魔法の平均スペックの10数倍なのだ。ただ、この超人的な力もあのロリコンとの契約によるもので、純粋じゅんすいに自分の力ではないのがくやしい。

 私は、この空間をいわゆる武具庫ぶぐことして使っており、中には様々な剣、槍、刀、そしてよろいまでもが保管されている。


 状況開始から2秒後、目標との距離きょり、1m。

 両手の剣を敵の胸に突き立てる。貫通かんつうこそしたものの手応てごたえは浅い。

「ギャアァァッ!!」

 既に再生さいせいした敵の左腕が私の顔面目掛(めが)けて飛んでくる。それを、両手の剣を左右にぐと同時に右脚みぎあしを大きく後ろに開き体を落としてかわす。

「胸じゃない…。」

 私が切りいた胸部きょうぶの傷はすでにふさぎかけている。


 ベヒモスには、魔塊球まかいきゅうという魔力子まりょくし次元固体化じげんこたいかした球体が体内に1個存在する。それをこわさなければ、いくら攻撃しても再生さいせいしてしまうのだ。いわゆる弱点じゃくてんである。魔塊球まかいきゅう基本的きほんてき胸部きょうぶ、その次に頭部とうぶ生成せいせいされやすい。


 腰のバネを使い、左の剣を敵の右脇みぎわきに入れる。肩から切断された右腕がちゅうを舞い、魔力子まりょくしでドス黒くにごった血液けつえきき散らした。

 敵はひるみ、半歩後ずさる。

「…のろいっ…!」

 下げた右脚みぎあしで地面をる。そして、そのいきおいのまま体を時計回りに反転、右手ににぎった剣を完璧かんぺきな角度で敵のがら空きの首に叩きつける。頭部とうぶと体を完全に切断した瞬間しゅんかん、体が魔力子拡散消滅まりょくしかくさんしょうめつ跡形あとかたもなく消え去った。

 支えをうしなった頭部とうぶはそのまま引力に引かれて落下し始める。

「チェックメイトだ。」

 間髪かつぱつ入れずに、左手を袈裟懸けさがけに振り抜く。魔塊球まかいきゅうの割れる音。

 直後、先ほどのとはくらべ物にならないほどの高濃度こうのうど魔力子拡散消滅まりょくしかくさんしょうめつ魔力子まりょくしが消えゆく時の青い光が、まるで雪のようにそそぐ。

「…目標の消滅しょうめつを確認。状況終了じょうきょうしゅうりょう。」

 再び空間に穴を開け、両手の愛剣あいけんたち仕舞しまう。


「アリス!!大丈夫!?」

 少しって、ミューとカトローナがけ寄ってきた。

「フフ…、私を誰だと思ってるんだ?ミュー。この通り無傷むきずだぞ。」

 私は、両腕りょううでを広げその場で一回転した。

「それにしても…、まさかベヒモスが半次元化はんじげんかして自らの爆発をかわすなんてねぇ…。」

 カトローナの言葉に、ミューは口を開けぽかんとしている。

「つまりだな、ベヒモスは99,9%が次元化じげんかした魔力子まりょくしで構成されてるだろ?で、そもそもの魔力子まりょくし半次元物質はんじげんぶっしつ、この世にあって無いような物質で、こちらからの干渉かんしょう一切いっさい受け付けないのだ。そして、さっきの話だ。あのベヒモスは一時的に、次元化じげんかした魔力子まりょくし再半次元化さいはんじげんかしたんだ。…ここまで言えばわかるだろ?」

「なるほど!!半次元化はんじげんかすれば、爆発の衝撃しょうげき一切いっさい受けないっていうことね!!」

 ミューは理解したようで、胸の高さで両の手のひらを叩いてそう言った。

「そうだ。…まあ再半次元化さいはんじげんかには相当な魔力を消費するはずだし、そう連続して使えないと思うけどな。」

「…というか、アリスちゃん…?」

 カトローナが、いきなり声のトーンを変えて話しかけてきた。

「服が血でよごれちゃってるじゃなぁい!!…いくら貴女あなたが強いからって、貴女あなた名誉騎士めいよきし以前に一国のお姫様なんだから…。道場の頃から言ってるわよねぇ。少し、自重じちょうしなさい?…あっ、ほら!顔にもついちゃってるわよぉ!!」

 カトローナは昔からこうだった。まるで小うるさい母親のようである。

「なんだそんな事か…。…ん…?」

 何か、人の視線しせんの様なものを感じり向く。

「アリスちゃん聞いてるの?」

 しかし、後ろにはさっきの戦闘せんとう残骸ざんがいと、レンガやコンクリートの建物しかない。

「…いや、誰かの視線しせんを感じたんだが…。…すまない、おそらく気のせいだ。」

 今はもうその視線しせんは感じない。

「カトローナ。」

「…なぁに?」

 少し不満ふまんそうな返事をするカトローナ。

「昼飯作れるか?私もだが、ミューも腹が減ったろ?」

 さっきの戦闘せんとうのせいもあり、今にもお腹がなりそうである。

「へ?いや…、あ、うん。言われてみれば…。」

「…はぁ、仕方が無いわねぇ…。店の片付け手伝ってもらえるかしら?」

 そのカトローナの言葉に普通にうなずくミュー。

「えぇっ!?」

「…アリスちゃん?」

 カトローナの目がこわい。

「…あ、私確かやらなきゃいけない仕事がまだ…。」

「あっ!!アリス私のお昼(おご)るって話は!?」

 財布さいふから20$取り出してミューに渡す。

「これでなんか食え。じゃあな!!」

「あっ、こらアリスちゃん!!」

 あんなでかいガラスの破片はへん掃除そうじなんて、国のお姫様がするべき仕事ではないのだ。それに、帰ってレイティアに事件のことを報告ほうこくしなければならないのだ。

「逃げるなアリスー!!」

 ミューの叫び声を聞き流しながら城に向かって北に走る。




 2538年10月9日木曜日、午前11時30分。

 第3噴水広場だいさんふんすいひろば東南のビルの屋上。

「あれが…、妖精の騎士、アリス…。」

 アリスとベヒモスの戦闘の後で、少女は1人興奮(こうふん)していた。

「やっと…、やっと見つけた…!!」

 屋上のふちる。

魔力硬化マナコート。」

 少女は、自らの脚に魔力をまとい着地にそなえ、6階分を落下し、着地した。

 そして誰もいない第3噴水広場だいさんふんすいひろば見渡みわたす。

「そろそろ警察と騎士団が来ちゃうかな。」

 そう言って、少女は走る。アリスが走り去った北の大通りに、少女は彼女を追うように消えて行くのだった。



 どうもキセツカゼです。…え?多すぎ?何が?(すっとぼけ)

 …はい、まあ、分かっております。今回はもともとは5000文字目指して頑張ってたんですが、少し頑張り過ぎて、気付けば9600文字余り…、空白・改行合わせると約1万文字…。

 まあそれはさておき、今回は挿絵にも時間がかかってしまいました。

 前作のアリスKofでは挿絵は3DSのColors!というソフトで描いていたのですが、今回からはペンタブを使って描く事にしました。将来はイラストレーターを目指してるので、練習ついでのことですが(

 それにしても、慣れないとやはり時間がかかってしまいますね。ええ。

 後書きが長すぎてもあれなのでここら辺で終わりましょうか。次回は多くても8000文字に抑えられるよう頑張りたいと思います。

 それではみなさんさようならー。

 

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