師ギムレットの華麗なる一日
~ちょっとブレイク~
「風の精霊」本編で、幼い火の精霊ダリアがリオの師匠の女召喚師ギムレットの所に預けられてましてね。そこでいったいどういう事があったのかというサイドストーリーが今回のテーマ。
本編ではあんまり出番がなかったダリアだけど、このなかで彼女の好みのタイプが明らかに・・・?。
そして物語に関わるかもしれない謎の人物が初登場。精霊もいるよ。
かる~い気持ちで読んでもらえるとうれしいね。
それでは、師ギムレットの華麗なる一日 どうぞ!
駆け出し召喚師のリオと水の精霊カイーナが、風の精霊エミーのお手伝いをしに街近くの渓谷へ通っている間、幼い火の精霊ダリアの面倒見を引き受けた彼の師である女召喚師ギムレット。
日頃からダリアのことで色々と相談を受けている彼女だが、実際にあれから成長したダリアと顔を合わせるのは幾分久しぶりのことだった。弟子の教育具合を確かめるため彼女は早速、一緒にくつろぎながらそれとなく質問してみる。
「ダリアちゃん、リオたちと一緒に暮らしてみてどう?」
精霊としての位がある程度高く、実体化が可能な契約精霊は主である召喚師と共に生活することが可能だ。これは召喚師のボディガードという意味合いと同時に、密にコミュニケーションをとることで双方の信頼関係を深めるという目的がある。
しかし召喚師のなかには、精霊たちを術式を施した宝珠や武具などの中に封じ込め、必要なときにだけ彼らを呼び出して力を使わせるという者もいる。多数の精霊と契約している場合は有効な手段かもしれないが、彼女はそういったことをあまり良しとはしていないため、弟子のリオにもできるだけ一緒に生活するように教えていた。
「うん、とっても楽しい! おにいちゃんたちがね、いつもいろいろなことを教えてくれるの」
ダリアは幼いがゆえに人間の世界の常識や契約精霊としてのありかたを知らない危険な精霊でもある。しかしそのことを承知の上でリオは契約した。
はにかんだ笑顔で答える彼女。自分がギムレットの所へ預けられるのを理解し、またそれを拒否しなかったということは、とりあえずの躾けができている証拠だ。弟子の覚悟は上っ面だけではなかったとギムレットは安心する。
「そう。どんなことをて教えてもらってる?」
「うんと・・・ あいさつの仕方と、食事のときのこととか。あと危ないものに触ったり水のそばに寄っちゃいけないとか」
高位精霊のダリアには、身の危険を感じるものが近づいてきたときにそれを自動的に高温の炎で排除するという防衛機能が備わっている。契約の時に散々苦労したこの機能だが、今では大分落ち着いてきたようだ。
リオの話では、当初は飛来する虫や雨粒にさえ過剰反応して炎をまき散らすことがあったが、水の精霊カイーナと一緒に根気よく訓練し続けているおかげで、彼女の意思でオンオフを切り替えられるまであと少しというところまできているとのこと。
「ちゃんと良い子にしてるみたいね、偉いわダリアちゃん」
「うん! ありがとう!」
ダリアの様に成長途中で契約精霊となったものは、契約した召喚師による影響が一際大きいとされる。善良な召喚師の場合は精霊も善良に、邪な心を持つ召喚師ならば精霊もまた邪な存在になってしまう。
経験ある召喚師のギムレット、それを後ろ盾に持つ、まだ頼りないがまっすぐな性格のリオと契約できたことは彼女にとって幸運だったといえよう。
~ ~ ~
リオたちの作業は思いのほか夜間にまで時間が押してしまうことが多くなり、当初は日中だけと思われていたダリアの託児も、このところ連日泊まり込みということになっていた。
そうなるとギムレットの方の都合が滞ってしまう。彼女はいまどうしても外せない仕事を抱えていて、それに必要な物を先方から都合してもらわなければならず、相手方と今日の昼に会う予定となっていた。すでに交渉事態はほぼ決まっているため、最後の確認だけで要する時間はわずかだが、その間ダリアを一人で置いておくわけにはいかない。
彼女は決断を迫られる。
「ダリアちゃん、一緒にお出かけしようか?」
苦渋の選択だがここは一緒にいたほうが良いと判断した。
「お出かけ!? 行くー!」
特にすることもなく退屈している子供にとって、突然の外出というのはまさに最良のプレゼントだ。はしゃぐダリアを抑えつつギムレットは指定された場所、街の中心にあるレストランに向かった。
入店して名前を伝えるとすぐさま窓際の席に通される。そこには上品な装いでややふくよかな60歳くらいと見える女性がワイングラスを傾けており、そして女性の後ろには床まで届きそうなほどの長くストレートな銀髪を持つ雪女のような姿をした、長身の美しい精霊が眼光鋭く立っていた。
「お待たせしました」
ギムレットが女性に向かって一礼し、向かいの椅子に腰を下ろす。
「いいのよ、こっちこそ先に始めちゃってごめんなさいね」
女性はその雰囲気に見合う上品さで軽く微笑むと、ギムレットの傍らにいるダリアに目をとめた。
「あら見かけない子ね。お名前は?」
「初めまして、私は火の精霊のダリアです!」
初対面の人には明るく元気よく挨拶しなさい。リオに躾けられた通り元気よく自己紹介するダリア。ギムレットが、彼女は弟子の契約精霊で都合により一時的に預かっていると付け加える。
「初めましてダリアちゃん。ちゃんと挨拶できるなんていい子ねぇ。 ・・・高位精霊ねこの子、後ろが警戒するわけだわ」
一目見るなり女性はダリアを高位精霊だと見抜く。雪女のような精霊は、感覚で彼女の接近を察知していたようで先ほどから表情を緩めない。
「早速ですが礼の件についての確認をしましょう」
「ええ、分かったわ」
ギムレットと女性の会話は料理が運ばれてきてもなお続いた。穏やかな空気だが口調は真剣そのものといった感じで、第三者が割って入れる話ではないようだ。
しかし子供にはそんなことは関係ないらしく、
「ねえ、これ食べもいい?」
子供用の椅子に腰かけたダリアが、女性の料理の皿を指差す。
「ダメよダリアちゃん、お行儀が悪い」
すぐさまギムレットが抑える。しかし女性は意に介さない様子。
「いいのよいいのよ気にしないで。ダリアちゃん、これが食べたいの?」
「うん」
皿の中に料理はもうほとんど残っていないが、ダリアが示しているのは女性がはじいて残した刻みトウガラシの塊のようだ。
「これは辛いものだけど大丈夫?」
「うん平気、だっておいしいんだもん」
言うや否やトウガラシをさらっていくダリア、そして真っ赤な塊をゆっくりと噛み時間をかけて味わっていく。どうやら彼女は生まれついての激辛党らしい。これについてリオからは一言も伝えられておらず、彼も知らなかったことのようだ。
「あらあら、凄いわねダリアちゃん・・・」
この光景には一同驚いた。食事ができる精霊は好物という食べ物をもつ場合があるが、それは大抵人間と同じような好みになる。特に女性の精霊やダリアの様な子供の精霊は人間同様お菓子や甘いものを好む傾向にあり、事実彼女が最初に欲しがったのは甘いシロップのかき氷だった。しかし契約して色々な味を経験するうちに、自分の本当の好みの味が何であるかに気が付いたようで、女性の皿に残されたトウガラシを目ざとく見つけていた。
「す、すみません!」
ギムレットは恐縮のあまり下を向いてしまうが、女性の方は興味深そうに繁々とダリアを眺めていた。
やがて話も終わった帰り道、ギムレットはふとあることを思いつく。契約のために奮闘している弟子の労を少しばかりねぎらってやろうじゃないかと。
「ねえダリアちゃん。辛いもの食べたくない?」
いや、正確にはリオも知らないダリアの好みに託けたちょっとしたイタズラだ。ダリアの好みの味付けと言って出せば、きっと彼は疑いもせず大口を開けてかき込むに違いない。
「辛いもの? たべたーい!」
「そう・・・わかったわ。ふふふ」
このときのギムレットは、どう見ても邪な心を持つ召喚師に変貌していた・・・。
~ ~ ~
「た、ただいま~」
夜になってリオとカイーナがギムレットの邸に戻ってくる。連日渓谷で重労働をこなしているおかげで、このところリオの食欲は旺盛だ。
「なんだかいい匂いがしますね」
カイーナがスパイスの香りに気付く。邸の奥、台所から腹を空かせた身にとってはたまらない芳香が漂ってくる。
「おかえり二人とも。疲れてるだろ、今日はダリアと一緒になって料理を作ってみたぞ」
エプロンをつけて出迎えるギムレットとダリア。どことなく笑顔が嘘くさく見えるのは気のせいだろう。
「え、本当ですか!?」
「ああ。おにいちゃんに食べてもらおうと頑張ったんだよねー」
「うん! とってもおいしいの!」
ダリアに一切の悪気はない。知らない方が悪いのだ。というのは後に述懐したギムレットの言葉だ。
やがて、テーブルで待つ二人の前に現れたのは魅惑のスパイス料理カレーライス。ダリアの好み通り超激辛の味付けで、しかも後から来るタイプ。調子に乗って食べると目も当てられないことになるまさに時限爆弾。
「うわーカレーか! こりゃうまそうだ!」
水の精霊カイーナには気を使って普通の味付けのものを出すが、リオはそうはいかない。彼は辛いものはあまり得意ではないが、恐らくダリアの手前いいところを見せようとするだろう。
「味付けはダリアが担当した。 ・・・さあ、食べておくれ・・・」
ギムレットは笑いをこらえるのに必死だ。鈍感なリオは師の様子がおかしいことに全く気付かず、
「よーし、いっただきまーす!」
ルウをたっぷり絡めた一口に食らいついた。
「辛くないねぇ、こりゃうまい!」
予想どおり彼は大口を開けて一気に食べ始める。後から来る辛さというのはここが厄介だ。やがて大変なことになるだろうが、そうなったときはもう何をやっても手遅れ。後悔しながら泣き叫んで祈るほかない。
やがて・・・
「・・・・・・・・・うん!?」
ついに来た! 辛くないと判断して次々と食べ進んでいた頃にやってくる全軍上げての奇襲攻撃! 彼の顔は見る見るうちに顔が真っ赤になって、全身から汗が噴き出してゆく。
「どうしましたリオさん?」
横で普通のカレーを食べていたカイーナがリオの異変に気付くが、彼女もまた辛くないと判断させるための演出の一つだ。
「あ、ああああああああああ!!!!!!」
辛さの時限爆弾が爆発してたまらず絶叫するリオ。固く握った拳を上げ、天を仰いで悶絶している。それを見て悟ったカイーナが慌てて彼の口の中に水球を放り込むが、そんなもので癒されるほどこのカレーは中途半端ではない。
望んだとおりの大参事を目の当たりにし、ギムレットは腹を抱えて大笑いしていた。
「なんれすかこれはぁあああ!?」
「そ、それが、ダリアの好みの味なのさ。 ははは!」
涙を流しながら師に問うと、信じられない答えが返ってくる。もはやこれは激辛というより激痛といった方がいい。無数の蜂が口の中をくまなく刺してまわっているような感覚だ。ルウがついた唇が腫れて、すでに上手く喋ることすらできなくなっている。耳の奥の痛みに目まいや頭痛、何故か悪寒さえ覚える始末。
リオの体のあらゆる機関はそのすべてを動員して、カレーに対する危機警告を発していた。
「おにいちゃん、おいしい?」
ダリアが心配そうにリオを見つめる。彼女にとっては、辛さより自分が作った料理をちゃんと食べてもらえるかどうかという点が問題だ。
ここはその意図を汲んで、幼心を傷つけることがないようにするには言うべき返答はひとつだけしかない。たとえそれが地獄の業火に身を投じる結果となることが分かっていても・・・。
「え・・・。 お・・・おいひいよ。ありはとうダリアひゃん・・・」
リオは顔をぐしゃぐしゃにしながら、まるで恐ろしい呪詛を自分にかけるような気持ちで返答する。それを聞いた彼女は彼とは対照的にぱあっと明るい表情になった。
誰よりも食べてもらいたい人のために作った料理を褒めてもらえるのは何よりもうれしいことだろう。満面の笑みを浮かべ、子供らしい小躍りをしながら彼女は、
「やったー! たくさんあるから全部食べてね、おにいちゃん!」
「え? ええ!? ・・・うわああああああ!!!」
しかしあまりにも残酷な宣告を彼に告げるのだった・・・。
べ、別に華麗とカレーをかけたわけじゃないんだからねっ! ホントなんだからねっ!
・・・すんませんでした
というわけでいかがだったでしょうか? 本編意外にこういうのも必要だし、これからもちょくちょくやるつもり
ちなみにダリアの味の好みはそのまま自分の味の好みwww 激辛大好きww
さて、次回は風の精霊の後書きでも書いた通り地の精霊との契約です。
金髪のダークエルフ風褐色っ娘キャラですよ。若くてスタイル抜群のjkみたいな娘なんていかが・・・? あんさんも好き物ですなぁフヒヒww
というわけで、お楽しみに!
読んでくれてありがとおおおお!!!!