風の精霊1 風の精霊エミー登場
~ここまでのあらすじ~
精霊との契約に必要な条件。それはその精霊の名前を知ることと、彼らのお願いや望みをひとつだけ叶えてあげること。
「かき氷を食べてみたい」という火の精霊のお願いを叶え、みごと初めての契約を終えた駆け出し召喚師リオ。
次に、彼の前に現れるのは風の精霊。ところがこの精霊、何やら事情がある様子・・・。
はたして、どうなっていくのか。
それでは、風の精霊1 どうぞ!
文献によると、風の精霊は気まぐれな精霊。何者にも縛られず、その場主義。ときどき人間をからかって遊ぶのが大好きという、ちょっと自由すぎてつかみどころがない、まさに風のような性格。
季節風と共に東西南北あらゆる所へ勝手気ままに飛び回り旅する精霊で、同じ個体に2度出会えることは滅多にないと言われている。また、気まぐれなゆえに契約条件はその場のノリや雰囲気できまり、たとえそれを達成しても、理由なく逃げられてしまう場合もあるという。
うまく契約したい場合は、見つけてもこちらからアピールはせず、お調子者の彼らが興味を引くようなイタズラや、面白そうなことをやるのが、好感をもたれるコツだとされている。・・・はずだったんだけど。
「・・・お疲れ様でした。ではまた、明日の午前八時半までにここに来てください。くれぐれも遅刻のないように」
「はい」
夕方の渓谷。深い緑色を基調とした、スカートスーツ状の服を着た少女の精霊が、手に持ったボードの様なものを見ながら、駆け出し召喚師リオに帰宅許可の指示を出す。
「今日終わらなかった分は明日の午前中にまわします。ペースを落とさず、予定通りに終われるよう、お願いします」
「はい・・・」
時折吹く風に、その精霊の後ろで、彼女の三つ編みにした若葉色の髪がたなびく。釣り目にかかった眼鏡の奥から、いかにも生真面目といった眼差しが、まっすぐリオを見つめていた。
「それではリオさん、また明日」
「お、お疲れ様でした、エミー・・・」
・・・今回、僕が出会った風の精霊の名はエミー。諸用の途中、街の近くにある、風の強い乾燥した渓谷に差し掛かったときに、なんと彼女の方から僕に話しかけてきたんだ。
彼女は今、ちょっと困ったことになって、手伝ってほしいことがあると言い、もしそれを一緒に解決してくれるなら、僕と契約してもいいと言ってきた。いや、あるんだね、こういうことって。もちろん、二つ返事でOKしたさ。手伝いをするだけで気まぐれな風の精霊と契約できるなんて、僕はなんてツイてるんだと思ったからね。
でも・・・やっぱり、世の中そう簡単にはいかなかったみたい・・・
~ ~ ~
「神経質な風の精霊?」
「はい、そのうえ完璧主義者です」
リオは、師ギムレットの所を訪れていた。火の精霊ダリアの一件以来、彼女の教育のことについて何か相談があると、彼は決まって師の女召喚師ギムレットのもとへ顔を出すようにしている。今回の目的は、出会った風の精霊についての話が主だ。
「へえ、面白いじゃないか。詳しく聞かせてもらおう」
弟子が出会った二人目の自然界の精霊。それは、どうやら普通の風の精霊とはちょっと違った変わり種。
師匠としても、いち召喚師としてもギムレットには興味をそそられる話題だ。
「はい。まず、その精霊の名前はエミー。あの渓谷にずっと定住している風の精霊だと言ってました。彼女は、あそこを通る風を管理するのが自分の仕事である、と決めていたそうです」
火の精霊は火のあるところ、水の精霊は水のあるところというように、精霊の多くはその属性が象徴するような場所に住むが、これは風の精霊に限っては例外といえる。
基本的に、彼らは常に風に乗って移動する精霊であるため、エミーのようにひとつの所に定住するのは珍しい。
「ただ、近年になって風の流れが変わったとかで、渓谷を離れる決心がついて、それで離れる前の最後の仕事をする手伝いをしてほしいと言ってきました」
ギムレットに話しながらも、お茶請けのクッキーを食べる手が止まらないリオ。相当な空腹のようだ。そして彼をよく見ると、あちこち小さな擦り傷だらけで、全ての爪の間には渓谷の砂が噛んでいる。どうやらかなりの重労働をこなしてきた様子。
「ふぅん。で、一体何を手伝ってるんだ?」
そんなリオの姿を見れば、自然と出てくる当然の質問。しかしリオは、
「う~ん・・・何なんでしょうね・・・」
ただ、要領を得ない答えを返すだけだった。
「お前、聞かなかったのか!?」
「いや、聞いても教えてくれないんですよ! ただ石をどかせとか、穴を掘れとか、そんなのばっかりで何をしたいのかさっぱり分からないんです。そのうえいちいち細かく指示を出してくるんですよ。幅はどれだけとか、深さはここまでとか! 全部キッチリしてなきゃ認めてもらえないんです」
リオは今日の朝に風の精霊エミーと会って以来、休憩なしで夕方まで働かされていた。何を手伝っているのかを聞いても「あなたが知る必要はありません」の一点張りで、自分が何のための作業をしているのかさっぱり分からずじまいだったのだ。
「あと、終わらせる期限があるとも言ってました。もし間に合わなければ契約しないとも・・・」
「んー、聞いたことないなそんな話」
一か所に定住している、神経質で完璧主義者の風の精霊。典型的な風の精霊の真逆のタイプと言える。これだけでもおかしな話だが、さらに彼女は人間を使ってまで、何やらやりたいことがあるらしい。
「師匠、僕どうしたらいいんでしょう」
食事もとらず重労働を強いられて疲れたリオ。今後のことも考えると何か良い案が欲しいところだ。
「八時半までに、行かなきゃいけないんですよ・・・はぁ」
街から渓谷までは徒歩で一時間以上かかる。ということは、遅くとも7時には出発しなければならず、準備も含めると起床時間はそのさらに前ということになる。早起きが苦手なリオにとってこれはまさに苦行。
「カイーナに起こしてもらえ。・・・あぁそうだ、なんなら一緒に行ってくればいいじゃないか。カイーナにも事情を話して手伝ってもらえ」
近いとはいえ行先は乾燥した渓谷。荷物を背負って一人で行くより、水の精霊カイーナが一緒なら水分補給の心配がなくなる分、負担が軽くなる。
そして彼女の水の力で作業を手伝ってもらえば、仕事のペースも上がるというもの。まさに一石二鳥だ。
「ダリアの面倒はみてやるよ。そうすればいい」
師の言葉で、唯一の心配条件もなくなった。しかしおかげで後には引けなくなったともいえる。
複雑な心境のリオは、ただ
「はぁー・・・」
ため息をつくほかなかった。
風の精霊エミーの契約条件 「最後の仕事のお手伝い」 つづく。
エミーは、いわゆる委員長キャラのイメージです。
性格は、よくある風の精霊とは正反対ですが、容姿は典型的な委員長とみてくださいww
見た目の年齢は15か16歳くらいかな。
彼女が何を望んでいるのか、次回明らかになると思います(ペースが早ければ多分w)
ああーそれにしても、他の作品を読むと皆さん凄いですね。
いろいろと参考になることばかりです。こっちも初心者なりに頑張らないとね・・・
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