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火の精霊3 はじめてのけいやく

~ここまでのあらすじ~


 火の精霊ダリアとの契約条件は、彼女にかき氷を食べさせるということだった。師である女召喚師ギムレットの協力を得たリオは、火山の洞窟で待つダリアのもとへ・・・。

 しかし、そこには師ですら思いもしなかった誤算が。


 はたして、リオは条件を達成して、見事初契約をものにすることができるのか!?


 「あっツ~~~!くあっ、だめか!」


 蒸し暑い火山の洞窟の中、リオと水の精霊カイーナ、リオの師のギムレットと従者の氷の精霊は、悪戦苦闘していた。もう何十回もかき氷を作り、それをダリアに食べさせようとするのだが、一向にうまくいかない。


 (高位精霊の防衛本能のなせる業か・・・こりゃ骨が折れるわ)


 ギムレットの推測どおり、幼いながらもダリアは本当に高位の精霊だった。彼女に害をなそうとするものを自動的に焼き払うという、並の精霊にはない防衛機能が備わっていて、これがあるおかげで、まだ力の弱い彼女は今まで縄張りを奪われずに済んでいたようだ。しかし、今はそれのせいで彼女の望むかき氷が外敵とみなされ、口に届く前に炎に焼かれてしまうという皮肉な事になっている。

 これは経験ある女召喚師のギムレットも予想外の事態だった。


 「もう一回だ、師匠、おねがいします!」

 「ああ・・・(もっと上位の精霊を連れてくるべきだったか。私としたことが、甘く見ていた)」


 リオがスプーンですくったかき氷の一塊を、氷の精霊に差し出す。鉢巻きを締めた小さな雪だるまのような姿をしたこの精霊が、今回連れてきたギムレットの契約精霊。下位ながらも能力は確かで、物体を-100℃くらいまで一気に冷却することができるが、周囲の暑さと、火の高位精霊の支配圏の只中という状況のせいで、今は本来の力を十分に発揮できないでいる。

 それでも、その氷の精霊がスプーンの先端に息を吹きかけると、見る間に金属製のスプーン全体が凍りつく。フルパワーではないにしろ、リオのしている厚手の皮手袋がなければ、指ごと凍ってしまいかねないほどの冷気だ。

 

 「ダリアちゃん、また口を開けてみて」

 

 その状態にしたかき氷を、ゆっくりとリオは彼女の口に近づけていく。しかし、あともう5cmほどということろでいつも防衛機能が働き、ダリア周辺の温度が一気に上がって、一瞬にして氷が蒸発してしまう。

 後にのこる真っ赤になった空のスプーンと、熱さで毎回響くリオの悲鳴がなんとも空しい。


 「リオさん、大丈夫ですか?少し休憩したほうが」

 「いや、もう一回やらせてくれ」


 カイーナが心配そうにリオを案じる。水球で冷やす彼の手は、冷気と熱気にあてられて赤く腫れ上がっていた。

 

 「あと少しなんだ。あと少しで食べさせてあげることが出来るのに!」


 彼女の心配をよそに、彼は再び冷却されたかき氷を持ち、ダリアに近づいていていった。



~ ~ ~



 「おにいちゃん、もういいよ。ありがとう」


 あれからまた何十回の失敗の後、ダリアはポツリとそうつぶやいた。自分のせいで、ここにいる全員がずっと苦労していることがいたたまれなくなったようだ。


 「いや、大丈夫だよダリアちゃん。きっと方法はあるよ、諦めないで」

 

 ここまでで思いつく限りのことはすでに全部試している。空中から氷を降らせてみたり、全身を水で包んで接近してみたりもしたが、いずれも失敗に終わった。水の精霊カイーナと師の氷の精霊が協力しても、この空間の温度を下げることすら不可能で、状況は変わったとは言えない。


 「でも・・・」

 「大丈夫だって。きっと食べさせてあげるから、もうちょっとだから待っててね」

 「・・・うん」

  

 へたり込んでいるリオが、空元気の笑顔を見せる。さらに赤くなった手と、その笑顔の対比が何とも痛々しく、限界を感じさせる。


 「リオ、ちょっとこっちに来い」

 

 これまでの経過を少し離れて観察していたギムレットが、不意にリオを呼んだ。


 「どうしました?」

 「このまま続けてもムダだな、いったん出直そう」


 くると思っていた師の一言。リオは食い下がる。


 「そんな、あとほんの、ほんの少しなんですよ」

 「そのほんの少しが問題なんだ、下位精霊ではここが限界。ダリアの防衛機能の突破はコイツじゃ不可能だ」

 

 そう言うギムレットのかたわらには、下位精霊の雪だるまが、疲れて仰向けにダウンしている。この精霊もまた限界が近いようだ。


 「あの防衛機能を破るには、氷属性の上位精霊を連れてくるしかない。出直せばアテはある、ここは下がるべきだ」


 合理的に判断するとその方が良いというのはリオにも分かっていた。しかし今帰ったら、ダリアをただ傷つけただけのような気がしてならない。彼女のことを考えると、ここで引くことが正しいとはどうしても思えなかった。


 「いいえ、下がりません。方法はあると思います」

 「無いから言ってるんだ。私だってずっと考えていた、だが今の状況じゃどう考えてもあの炎の壁を破れない。水や氷を敵とみなす以上、どうしても無理なんだよ」

 「・・・水や氷が、敵?」

 「そうだ、だから近づけただけで反応するんだ」

 「水や氷じゃなければ・・・敵じゃないかもしれない?」

 「なに?」


 リオは自分の手を見つめた。全体的に赤く腫れた手の中にあって、特に痛む箇所がある。人差し指の中央と、親指の腹の部分。そう、ちょうど皮手袋の上から、金属製のスプーンを持っていた場所。そこだけ熱にあてられて周辺よりひどく火傷している。

 

 「・・・そうか。よし、いけるかもしれない!」

 「なんだと?」


 彼は金属製のスプーンを片手にダリアに駆け寄ると、かがみこんでそれを彼女の目の高さにそれを持ってくる。


 「ダリアちゃん、今からこのスプーンを差し出すから、受け取ってみて」

 「う、うん」

 

 何の抵抗もなくスプーンを受け取るダリア。当然、防衛機能は反応しない。


 「思ったとおりだ。これならうまくいくかもしれないぞ!」

 

 そう言って、彼はいきなり自分の財布を取り出した。そしてその中にある金属製の硬貨のありったけを地面にぶちまける。


 「な、何をやってるんだリオ?」

 「どうしたんですかリオさん!?」

  

 ギムレットとカイーナは、何がなんだか分からないといった表情だ。しかしリオは、そんなことはお構いなしにダリアに問いかける。


 「ダリアちゃん、そのスプーンの、口に入るところの形を君の火で変えられるかな?」

 「え?」

 「風船みたいにさ、中を空っぽにして膨らませることってできるかい?」

 「風船みたいに?」

 「そう。小っちゃくて金属が足りなかったら、これで補充して作ってみてよ」

 「うーん、良く分からない。お兄ちゃん、形を教えて」

 「よし、じゃあ一緒に作ろうか」


 そうして、洞窟の奥。まるで、ままごとのように金属細工に興じはじめる幼女と若い男。これだけ見ればしかるべき機関に通報されてもおかしくない構図だろう。


 「なにを・・・やってるんでしょうかね・・・?」

 「・・・わからん」


 置いてけぼりのカイーナとギムレットは、ただただ見守るしかなかった。

 やがて、


 「よーし、できた!上手だよダリアちゃん」 

 「うん!」

 

 リオの手には、口に入る部分がタマゴ型の風船のように加工されたスプーンが握られていた。先端には小さな穴が開いていて、まるでチューリップのつぼみのようだ。


 「カイーナ!」 

 「は、はひっ!」

 「このスプーンの中に水とシロップを入れられるかい?」

 「え?あ、はい、やってみます」


 突然の訳の分からない注文。急に呼ばれてびっくりしたカイーナだったが、言われたとおり風船スプーンの中に水と持ってきたシロップを入れる。途中でリオが遮ってきたので、どうやら満タンじゃなくていいらしい。

 

 「よし。じゃあダリアちゃん、離れた所からこの部分を塞いでみて」

 「うん、わかった」


 再び金属加工。水とシロップをが入った風船スプーンは完全に密封された。

 

 「師匠!氷の精霊をお願いします」

 「お、ああ。・・・・・・なるほど、考えたな」

 

 氷の精霊の力でスプーンを外から冷却すると、中の水分は一瞬にして氷になる。それを少し温め、中の氷が金属から剥がれたころを見計らって、今度はマラカスのように何度も振る。

 次第に音が変わっていく。カラカラとした金属音が、シャカシャカという氷の音に変化する。

 そして、そのスプーンを手に、リオはゆっくりとダリアに近づき、それを彼女に差し出した。


 「はい。これをさっきみたいに受け取れるかな?」

 「うん、やってみる」


 ダリアの手が伸び、先ほどと同じようにスプーンを受け取った。氷が金属に囲まれて、外に出られなくなっているため、防衛機能は反応しなかった。


 「いいやっったあああ!ダリアちゃん、気を付けてスプーンの上の方を横に切るんだ!」

 「こう?」

 

 言われたとおり、ダリアが最低限の火力でスプーンを切ると、その中にはまぎれもないクラッシュアイスのかき氷が入っていた。


 「わあ・・・」 

 

 ダリアの表情がパッと明るくなる。

 

 「はい、お待たせダリアちゃん。かき氷を召し上がれ」

 「うん!」


 口に中にかき氷を流し込むダリア。シャリシャリとした始めての冷たい感覚が口の中いっぱいに広がり、明るい表情がもっと明るくなっていく。


 「どう?」 

 「とっても・・・とってもおいしい!」

 「そうかい!そうかい!!もっと食べたい?ダリアちゃん!」

 「うん!」


 そのあと、何度も何度も同じことをやった。火の精霊では、まず食べることができないかき氷という氷のお菓子。それをダリアは、おそらく世界中のあらゆる火の精霊のなかで、最も多く味わった精霊になった。


 火の精霊ダリアの契約条件 「かき氷を食べさせる」 達成。


~ ~ ~


 

 師ギムレットですら思いつかなかった方法で、リオは難題をクリアすることができた。だがリオにとって、最もうれしかったのはそういうことではなく、幼い火の精霊ダリアの「ありがとう」という一言のほうだ。

 困難な契約条件を達成したことよりも、精霊に感謝されたことが純粋に嬉しかった。

 

 「ダリアちゃん、このお兄ちゃんと契約して、ずっと友達になる?」 

 「うん!ずっと友達になる!」


 カイーナが契約前の最後の意思確認を行う。 


 「リオさん」

 「ああ」

 

 リオはダリアの前にひざまずく。いよいよ契約の時だ。


 「じゃあ、ダリアちゃん、目を閉じて。僕の言う言葉に意識を集中して、返事をしてほしい。大丈夫、何も怖くないよ。じゃあ始めるからね」

 

 目を閉じるダリア。リオが召喚師としての力を開放すると、体が青白く光り始める。そしてそれに呼応するかのように、ダリアの体も赤く輝いていく。


 「・・・火の精霊ダリア。その魂は、このリオを主として、忠誠を誓う事を良しとするか?」

 「忠誠?」

 「ずっと友達でいるってことだよ。誓う?」

 「うん、誓う!」

 「・・・ここに誓いはなされた。火の精霊ダリア、両手を前に」


 言われたとおり、ダリアは両手を差し出す。


 「召喚師リオは、火の精霊ダリアを・・・『友達』として契約する!」

 

 リオの両手と、ダリアの両手が触れ合った。まばゆい光が走り、あたりを照らす。

 やがて、その光が消えたとき、それまでやや半透明だったダリアが、はっきりとした姿で現れた。


 「・・・ありがとうダリアちゃん」

 「?」

 「これでずっと友達だよ」

 「うん!」



~ ~ ~


 

 「師匠。精霊と心を通わす、そのことが少し理解できたような気がします」

  

 帰還後、ギムレットの邸宅で一同くつろいでいる中、リオは師につぶやいた。


 「そうか。何にせよ、初契約おめでとうだな」

 「ありがとうございます。協力していただいてホントに感謝してます」

 「いいってことさ。実際よくやったもんだよ。・・・友達として契約、か」

  

 ギムレットの視線の先、リビングのソファでカイーナに抱かれながら眠っているのは、今日リオが初めて契約した自然界の精霊、ダリア。契約して実体化したおかげで、彼女は人間に近い体温を維持したまま、火山から離れて歩き回ることができるようになった。防衛機能も、リオがそばに居ればある程度コントロールできるようになったらしい。

 通常、精霊は『従者』または『しもべ』として契約するのが一般的だ。また複数の精霊と契約する場合、どういう身分で契約したかによって、契約精霊としての序列が変わってくるが、リオはあえて、ダリアを自分と対等な『友達』として契約していた。


 「ダリアは、僕たちと友達になりたいと言ってましたから、そうしただけです」

 「うん、いいじゃないかお前らしくて。さあ、これから忙しくなるぞ。ダリアをどう教育するか、弟子のお手並み拝見と行こうか」  

 「え?あの、手伝ってくれないんですか?」

 「当たり前だろ、自分で何とかしろ」

 「えー、そ、そんなあ!」

 「頑張れよ、『お に い ち ゃ ん』」

 「ぐああああああ!師匠おぉ、そりゃないですよー!!」


 こうして、駆け出し召喚師リオの初契約は、無事(?)完了となった。


 「火の精霊」 終わり。

やっと、終わった~~ 


ああー疲れた 


所々、状況が分かりにくくてスミマセンwww


もっとキャラを魅力的に書きたいよ~(泣




次回は風の精霊です


どういうキャラかはお楽しみ




読んでくれてありがとうーーー☆

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