火の精霊2 師匠!契約がしたいです
火の精霊ダリアとの契約 第2回目です。
リオの師匠が登場します。もっとスムーズに書きたいよー。
ではどうぞ。
「・・・そんなことでいいのかい?」
「うん、食べてみたい。かき氷」
火の精霊ダリアの契約条件、それは彼女にかき氷を食べさせてあげること。
子供らしいとても単純なこの望みに、リオは内心ホッとしていたが、反面、隣にたたずむ水の精霊カイーナは固まっていた。
「よーしわかった!ダリアちゃんのお願い、叶えてあげるよ」
「ほんとう?」
「ああ、まかせてよ。カイーナ、すぐに氷を出してくれ」
しかし、明るい表情のリオとは対照的に、カイーナは申し訳なさそうに一言。「できません」と言った。
「え、なんでだい」
「リオさん。私は水の精であって氷の精ではないんです。氷を出せるのは氷の精霊だけ。水の精霊の私では無理なんです」
「そんな、本当にできないの?さっきみたいに水を出して凍らせればいいんじゃない?」
「水の精は液体は操れますが、その液体の温度はある程度までしか操作できないんです。完全に凍るまで冷却するのは、また別の属性の精霊の役割です。ごめんなさい」
「ええ~!?」
氷は、冷却を司る氷の精霊の専売特許のようなもので、それに近いイメージの水属性の精霊でも、その場でいきなり氷を作り出すことは不可能だった。
これは質量のある特定の物質の動きを操作できるという能力と、あらゆる原子・分子の振動に直接干渉できるという能力との違いであり、同じ水分という物質でも、水属性と氷属性では操作方法が決定的に異なる。ゆえに水の精カイーナでは、空気中の水分を集めて水球は作れても、その分子の動きを鈍らせて冷却し、氷に変えることはできないのだ。
「じゃあ、ここでかき氷を作るにはどうすればいいの?」
「ここに氷の精霊をつれてくるか、そうでなければ街から本物の氷を持ってくるしかないですね」
一見、とても簡単そうなかき氷づくりという仕事だが、場所は蒸し暑い火山の洞窟のいちばん奥で、相手は氷とは対照的な火の精霊となると、その難易度は大幅に変わる。この条件でのかき氷づくりの困難さはまさに最大級、ベリーハードかあるいはハーデストといったところだろう。
何も知らない子供の精霊がだした恐ろしく難しい契約条件に、リオは頭を抱えてしまう。
「おにいちゃん」
「?」
「かき氷、食べられないの?」
自分が出した条件の難易度を理解できていない幼い火の精ダリア。その純粋な瞳がリオを見つめている。
「う、そ、そんなことないよ!きっと何とかしてみせるから!ただ、ちょっと待ってくれないかい?今すぐじゃなくても、ちょっとだけ我慢できるかな?」
「どのくらい?」
「ああー、そ、そうだな・・・明日。明日には食べさせてあげるよ、きっと!」
言ってしまった。明日という、適当でとんでもない一言をリオは言ってしまった。
幼い精霊は真に受ける。
「じゃあ、我慢する」
「あ、ありがとう。ダリアちゃん。じゃあ準備してくるから待っててね・・・・・・」
「うん、待ってる」
強烈な後悔と、困難な前途を思いやりながら、リオとカイーナは火山の洞窟を後にした。
~ ~ ~
「はっはっは!そりゃあまたとんでもない契約条件だな!」
「笑い事じゃないですよ師匠!」
街に戻った二人は、師でありカイーナの元契約者の女召喚師、ギムレットのもとを訪れていた。彼女なら、相談すれば今回の火の精霊との契約達成のために力を貸してくれるかもしれない。
日の沈みかけたなか、カイーナが淹れてくれた紅茶を囲みながら、師弟はギムレット家のテラスで話し合う。
「で、お前どうするんだい、本当にそいつと契約するのかい?」
「したいとは、思ってますけど。条件が・・・」
「条件とかそういうんじゃなくて、ちゃんと責任持てるのかって聞いてんの」
「え?」
召喚の契約をするということは、精霊にとってはすなわち、使える主をもつという事に他ならない。
契約を結んだ精霊は主の命に従い、その力を振るう。反面、主の方は契約した精霊がなす所業に対し、一切の責任を持ち、さらにその精霊の生活すべてにわたって面倒を見ることになる。
師ギムレットが心配しているのは、条件の困難さより、むしろ契約相手の精霊の幼さのほうだ。何も知らないがゆえに何をしでかすかわからない。未熟な新米に預けるには荷が重いような気がする。
亜麻色のカールした長髪をいじりながら、ギムレットは続けた。
「ダリアって言ったねその火の精霊。そいつは多分、本当に何も知らないんだろう。ということはだ、契約したら、人間にとってやっちゃいけないこと、契約精霊としての責任、そういうものをイチから教育していかなくちゃならいんだよ。できるのかい、お前?」
「・・・・・・」
もっともなことだった。幼い精霊と契約するということは、同時にそういうリスクや苦労を強いられるということでもある。
ギムレットはさらに続ける。
「加えてそいつはな、ほぼ間違いなく高位の精霊だ。今はまだ幼くて小さいといったが、その姿で火山をひとつ統括してる、火事場に現れるイタズラ火蜥蜴とは格が違うってワケだ。成長すれば手に負えなくなる可能性だってあるんだぞ」
彼女は弟子の説明から、同じ精霊のカイーナでさえ見抜けなかった、ダリアの本質を見抜いていた。
「そうなんですか?感じる力は弱かったんですが」
感覚では、薄く、小さく、弱い気配しか感じ取れなかったカイーナがたずねる。彼女自身は中位精霊、ダリアが自分より格上の高位精霊とは信じられなかったからだ。
「多分だ、多分。実際に会えばわかるがな。とにかく、ダリアと契約するつもりならば、相当の覚悟が必要だよ。それでもやるかい?」
真剣な眼差しの師ギムレットに迫られて、リオは沈黙してしまう。
契約という事を少し軽く考えすぎていたかもしれない。師の言葉がいつになく重くのしかかってくるような気がする。
「・・・・・・それでも」
しかし、リオの心は既に決まっていた。
「それでも僕は契約します。ダリアと契約したいんです!力を貸してください師匠!」
椅子から立ち上がったリオは、背筋を伸ばして思い切り頭を下げる。しかしそんなリオを見つつも、ギムレットは表情を変えなかった。
「頭をお上げリオ。お前の気持ちは分かった。でも一つ聞いておきたい、どうしてダリアと契約したいと思ってる?」
契約条件の解決、幼い精霊のリスク、高位精霊を扱う力量。リオにとっては明らかに重すぎるものばかり。彼女は自分の弟子がどれだけの力を持っているか、誰よりもよく把握している。
今の彼がダリアを扱うには明らかにまだ力不足だ。そして今までの説明で、彼自身もそのことを理解できているはず。同じ火の精霊ならもっと楽に契約できる精霊が他に沢山いる、にもかかわらず彼がダリアとの契約に、あえて困難な道を選ぼうとしていることが彼女には疑問だった。
やや厳しいい口調で、師ギムレットは弟子リオに問いかける。
「高位精霊と聞いたからか?」
「違います」
「初めて会った精霊だからか?」
「・・・それはあります、でも、違います・・・」
「では何故だい?教えておくれ。力を貸すかどうかは、返答次第だ」
再び沈黙が続く。遠く、夕日が沈もうとしている。
かたわらのカイーナはどうすることもできずに、師弟を見守るしかなかった。
やがて、一陣の風と共にリオの言葉が響く。
「約束したんです。ダリアに、きっとかき氷を食べさせてあげるって!」
「・・・」
「待ってるって言ったんですダリアは!だから、だから絶対に食べさせてあげたいんです!」
「・・・」
「ダリアの願いを叶えてあげたいんです!だから、お願いします師匠!力を貸して下さい!」
これがリオの本心だった。ダリアと交わした約束を叶えてあげたいという一心、そして期待して待っている幼い精霊を裏切れないという気持ち。言葉からは一片の濁りも感じられない。
リオは真っ直ぐな目で師ギムレットをみつめた。
「そうか・・・・・・わかった、協力しよう」
「え、」
「出来の悪い弟子の初契約だ。背中を押してやる」
ギムレットは、返答次第では本当に協力しないつもりだった。今回、力を貸すのは、リオが精霊の側に立って契約を考えることができるようになったからだ。
召喚師のなかには、精霊をまるで奴隷のように使役する悪質な者もいる。自分の弟子が召喚師として正しい道を歩き始めたことに、彼女は少なからぬ喜びを感じている。
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます師匠!!」
「落ち着け、まだ契約できると決まったわけじゃない」
はしゃぐリオをいさめながらも、彼女の顔は笑っていた。
~ ~ ~
「良かったですね、協力してもらえて」
師弟でかき氷計画を話し合ううち、すっかり夜になってしまった。今日はギムレットの家に宿泊し、明日の朝いちで出発だ。
「うん、どうなることかと思ったよ」
星明りのテラス、リオとカイーナは明日の成功を祈る。
「上手くいくといいですね」
「大丈夫だよ、カイーナも師匠もついてる。きっと上手くいく」
今回の計画には水の精霊カイーナが必須、彼女が水球を作り、それを氷に変えるのが師ギムレットが契約している氷の精霊の役目。師弟コンビ技で氷を作る作戦だが、問題はそのあと、どうやって食べさせるかだ。
「大丈夫。・・・・・・たぶん」
リオは自分に言い聞かせるように、いつまでもそうつぶやいていた。
次回は契約回です。
方法は考えてますけど、結構強引かもww
ちなみにギムレット師匠の性格イメージはハガレンの師匠です。
早速のお気に入り登録と感想、本当にありがとうございます!!
すごいうれしいーーー!!
これからもご意見ご感想お待ちしてます~!!