火の精霊1 僕は召喚師
初執筆、初投稿です
至らない点ばかりですが、よろしくお願いします!
この世界にはさまざまな属性を持つ精霊たちが存在する。
火の精、水の精、風の精、地の精など、その種類は多岐にわたり、いまだその全容は解明されていない。
精霊はときに様々な奇跡を起こすことができる。不毛の砂漠に雨を降らせたり、荒れ狂う海を鎮めたり、傷ついた者を癒したりと、その力は人知を遥かに超えており、上手く利用すれば途方もない利を人々にもたらしてくれる。
召喚師とは、そんな精霊たちと契約を結んで、その精霊固有の能力を自在に操ることのできる者を言い、人々から尊敬されると同時に恐れもされる特殊な術者のことだ。
~ ~ ~
僕の名前はリオ、15歳の駆け出し新米召喚師。
いま契約を結んでいるのは、師匠から受け継いだ水の精霊ひとりだけ。早くいろんな精霊と契約して、人の役に立つ立派な召喚師になりたいと思ってる。
「ねえ、本当にいるの?」
薄暗い洞窟の奥、じめじめと蒸し暑い中を、松明片手にもうどのくらい歩いただろう。道らしい道もなくなって、リオはゴツゴツとした溶岩石に躓きながら進む。
「気配は強くなってきています。間違いなく、絶対にいるはずなんですけど」
その後ろ涼しげにを歩くのは、彼がいま唯一契約している精霊、水の精カイーナ。
彼女はいま、リオの意思により実体化している。外見は20歳くらいに見える美しい女性の姿をもっていて、透き通るような青い髪に、薄地のシルクのような白いローブという、いかにも水の精らしいいでたちだ。
彼らが歩いているのは、精霊が宿ると噂される火山にある洞窟。しかし行けども行けども、それらしい影は全く見当たらない。
「さっきからそう言ってばかりじゃないか、気配だけじゃなくてもっと具体的な方向とか距離とか分からないの?」
疲れのあまり溶岩石に腰を下ろしたリオは、疲れから愚痴っぽくカイーナに尋ねる。
「そう言われても・・・気配の規模がちょっと小さいと言うか、全体的に薄いというか。でももうすぐ会えると思いますよ、確実に近づいてます」
精霊同士は属性が違っても気配でお互いの存在を感じ取ることができる。これは異なる属性の精霊の陣地争いを避けるため、進化の過程で備わった感覚だとされ、精霊を探す召喚師の重要なナビとして機能する。
「もうひと踏ん張りってことか。ねえ喉がカラカラだよカイーナ、また水ちょうだい、みず」
「はい、頑張りましょうね」
カイーナが人差し指を差し出すと、そのすこし先に周囲の空気中にある水分が集まって球体をなしていく。リオは適当な大きさになった水球を食べるようにして口に含み、喉を潤す。
「・・・はぁ。ありがとう、生き返った」
水の精は人間にたいして最も友好的な精霊と言われ、性格は概ね穏やかで優しく、協力的な個体が多い。
カイーナはそんな水の精の典型タイプで、まだ駆け出しのリオを理解し、文句ひとつ言わず従順に付き合ってくれているおかげで、彼らはお互い良好な信頼関係を築けている。
「うまくいけば初契約です、頑張りましょうね」
カイーナに励まされながら、リオは洞窟のさらなる奥へと進んでいった。
~ ~ ~
いた!あれか!?
洞窟の最深部。ゆっくりと流れる溶岩の小川のほとりにその精霊はいた。
(間違いありません。火の精霊です)
カイーナの水の精としての感覚がはっきりそう告げている。
急に表れて驚かせないよう、二人は急いで岩陰に姿をひそめて、小声で話す。
(やった!本当にいた!火の精霊! ・・・でも、なんだかイメージと違うなぁ。火の精霊って文献だともっと強そうな見た目をしてるはずだけど)
リオの視線の先に見える半透明の火の精霊は、なんと年端もいかない幼女の姿をしていた。フリルが揺らめく薄朱色のドレスのような服と、赤というよりオレンジがかった癖毛にかかる陽炎が確かに炎を感じさせるが、しかしそれらはまるでマッチの火のように弱々しいといえる。
文献や他の召喚師が従える火の精霊は大抵、たくましい大男の姿だったり、あるいはドラゴンのような恐ろしくも力強い外観だったりするものだが、この火の精はまったくもってその類型からは程遠い。
(私もあんな火の精は初めてです。本当に幼いのかもしれません)
カイーナも戸惑っている様子だ。感じる気配が弱かったため、あまり力のない精霊だとは思っていたが、まさかここまで小さく弱々しい姿とは思いもしなかった。
(で、僕はどうしたらいい?どうすれば上手く契約できる?ああ、緊張してきた)
(とりあえず一緒に挨拶しましょう。契約するならば第一印象は大事です)
ゆっくりと、しかしあえて音を出しながらリオたちは岩陰から姿を出す。火の精霊もこちらに気付いたようだ。突然の訪問者にビックリした表情で、こちらに顔を向け固まっている。
「あ、は、はじめまして火の精霊さん。ぼ、僕はリオと言います。召喚師です」
自然界にいる精霊を初めて目の当たりにするリオは緊張を隠しきれない。カクカクと引きつった笑顔での挨拶が、とんでもなくぎこちない。
すかさずカイーナがフォローを入れる。
「はじめまして。私は水の精霊のカイーナといいます。驚かせてしまってごめんなさい」
彼女がいなければ、この火の精霊は既に逃げてしまっていたことだろう。
精霊と召喚師との契約は、精霊側に決定権がある。その召喚師が気に入らなければ、召喚師側がどんなに強く望んでもあっさり拒否されてしまう。
「なにしにきたの?」
すこし怯えたような感じで、火の精霊が聞いてくる。一応、最初の接近はうまくいったようだ。
「あ、あのですね、実は、ここ、この度は、その・・・」
「私たちと一緒にきませんか?」
パニック状態のリオをさしおいて、カイーナがいきなり本題に入る。精霊同士ならば話しが通じやすいと思ったからだ。
「おねえちゃんたちと一緒に?」
そのおかげか、彼女のもくろみ通り話に興味を示してくれた。どうやらこの火の精霊は本当に幼いらしい。カイーナの言葉にピンときていない様子から、他の召喚師に契約を迫られたこともないようだ。
いけると確信した彼女は畳み掛ける。
「そう、一緒に来ればお友達もたくさんできる。ここに一人でいるよりきっと楽しいよ」
精霊の多くは単独で行動する。あまり集まりすぎるとその地点だけ特定の属性の力がつよくなってしまい、周囲の自然のバランスが崩れてしまうからだ。ゆえに同じ属性の精霊同士は基本的に不干渉で、親密なコミュニケーションをとることはあまりないとされる。
そこをうまくつく作戦だ。今までできたことがない友達という単語に、幼い火の精霊の心が惹かれる。
「お友達・・・」
「ええ、友達よ。お名前を教えてくれる?そうしたら私たちは友達になれるわ」
精霊との契約には二つの大きな必須条件がある。その精霊の名前を知ることはそのうちのひとつで、「御名周知」という。どんな精霊でも初見では難題とされるこの名前聞きだが、彼女のおかげで幼い火の精霊は何の抵抗もなく名前を教えてくれた。
「ダリア・・・私はダリア」
「ダリアちゃん。良い名前ね。さあ、これで私たちはもう友達よ。改めて自己紹介するわ。私は水の精カイーナ、よろしくねダリアちゃん」
「うん」
リオはあっけにとられていた。この精霊と契約すべき召喚師は自分なのに、全く何もできないどころか、そのお膳立てを従者であるはずの精霊がほとんどやってのけてしまったからだ。しかもごく短時間で。
「リオさん、準備はできましたよ。あとはあなたがやらなくては」
「あ・・・はい」
名前が分かれば契約まであと一歩だ。もうひとつの条件を満たすだけでいい。
リオはカイーナが作ってくれた流れに乗って、もうひとつの契約条件をなんとか楽にするつもりだった。
「あの、ダリアちゃん」
「?」
「その、お兄ちゃんとも友達にならない?」
ダリアも特に疑問は感じていないようだ。いよいよリオが契約の最難関、「叶」の本題に移る。
「うん、なってもいいよ、お兄ちゃん」
「ありがとうダリアちゃん。でね、あー、その、ダリアちゃんなにかお願いごとはない?」
「え、お願いごと?」
「そう、友達になってくれるお礼として、ダリアちゃんのお願い事を僕がひとつだけ何でも叶えてあげる」
叶、とはすなわち、契約する精霊の望みを何でもひとつだけ叶えてあげることだ。これが出来ないと、たとえ名前を知っていてもその精霊と心を通わすことができず、絶対に召喚契約を結べない。
「本当?」
「本当だとも。何でも言ってごらん、お兄ちゃんが叶えてあげるから!・・・・・・・・・・・・多分」
精霊の中には契約に必要なこの条件を知っていて、召喚師を試すような無理難題を押し付けてきたり、到底叶えられない望みを言ってからかってくるというタチの悪い輩もいる。
しかし何でも叶えると言った手前もう後には引けない。幼い姿の精霊ダリアを前に、リオは内心、戦々恐々だった。
「じゃあ・・・えーと」
「じゃあ?」
横で聞いているカイーナも心配そうだ。幼いゆえに何を言うか見当もつかない。
やがて何かを思いついたのか、火の精霊ダリアは一言
「かき氷を、食べてみたいな」
はにかみながら、叶えるべき望みを告げた。
火の精霊なのにかき氷をどうやって食べさせるのか?
そもそも蒸し暑い洞窟の奥までどうやって持っていくのか?
頑張って楽しく書きます。
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