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魔法の国の魔法が使えない剣士  作者: 滋田英陽
第二章 ~第一王立学院二年度~
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第十一話:進入

 森を()う道から(それ)れて小道に入り、湖畔に到着したリゲルは、乗ってきた車を木陰に駐車して、灯入と共に森へと狩りへ入る準備を始めた。

 肩の部分に忍ばせた魔導式の小型無線機で森へと潜伏しているコハルと連絡を取る。


「今湖畔に到着した。あと少ししたら灯入と共に森へと入る。そちらの監視領域に入ったら連絡を頼む」

「了解しました。確認できたら合図します。それからリゲル殿、灯入を頼みます」

「ああ、分かっている」


 連絡を済ませたリゲルは灯入を連れて森へと踏み込んだ。

 その様子を湖畔への入り口近くの木陰から確認していた密売組織の監視役が、なにやら連絡を取っている姿がコハルにより確認される。密売組織の監視役は灯入とリゲルが森へと入ったことを見届けると、見失わないように彼らを追って森へと入っていった。

 リゲルを先頭に森へと入った二人は、獣道を通ってしばらくは森の奥へと進んでいく。

 二人の耳には遠くから聞こえる鳥や獣の鳴き声と、枯れた落ち葉を踏む足音だけが聞こえてくる。


「獲物がなかなか出ませんね」

「ああ、だがもうかなり奥へと入った。そろそろ仕掛けるか? ついさっきだがコハル殿から合図が来た」


 灯入とリゲルは、コハルの合図をきっかけに歩みを止めて腰を(かが)めると、小声で仕掛けるタイミングを計る。傍から見ればその様子は、いかにも獲物を発見したと取れる動きであった。


「ええ、俺はこのまま道を進んで少ししたら、獣道から右へ()れます。リゲルさんはここから右へ回り込むように俺を追ってください」

「了解した。油断するなよ」

「迫真の演技を披露しますよ」


 少しだけ笑いあった二人は、身を屈めたまま小走りで示し合わせた行動を取った。


 一方そのころ、灯入たちを追ってきたフィーナ王女一行もリゲルの車を確認すると、カノープが飼っている犬を連れて森へと分け入っていった。

 リゲルと別れてから囮として森を彷徨(さまよ)いだして半刻ほどたったころだった。

 灯入の魔道具が小刻みに震えた。

 それを感じ取った灯入はその場に(うずくま)るように倒れこみ目を閉じる。

 その様子を木陰から|伺っていたカーキ色を基調とした迷彩服に身を包んだ五人の男たちが灯入へと近づいていくと、その内の一人が灯入が眠っていることを確かめてから、後ろ手に縛りあげた灯入を背負って森の奥へと消えて行った。


「標的が餌に食いついた。尾行を開始する」


 コハルからの連絡を合図に、リゲルと近衛隊の精鋭たちが息を殺して、灯入を背負う密売組織を追いかける。

 灯入を拉致した男たちは森の奥、山へと続く細い獣道をしばらく歩いた(のち)、それまでの下草の少ない森の木々とその根が苔むした景色とは異なる、鬱蒼とした背の高い下草が密集した(やぶ)の中へと分け入っていった。

 灯入を拉致した男たちが藪の中に入ったことを確認したコハルが、藪の奥が見える木に登ると、藪の奥は少し開けており、その開けた奥の山肌に洞窟の入り口が見えた。

 入り口には見張りが二人立っており、辺りを警戒している。


 音も立てずに木から飛び降りたコハルが森の中の大木の裏に隠れると、近衛隊隊員に合図を送る。

 しばらくして、近衛隊員とリゲルがコハルの元に集合した。


「敵の本拠地らしき洞窟を見つけたわ。見張りが二人いる」

「後は灯入からの合図待ちか――」


 洞窟に運び込まれた灯入は、曲がりくねった通路と部屋を幾つか通り抜け、最奥の大きな部屋で、縛られた両腕を椅子の背もたれの後ろに回すようにして座らされていた。

 灯入は、連れて来れれた連中が部屋から出るのを感じ取って、隠し持っていた小さなナイフを腰から後ろでの間々抜き取り、そっと手首を縛っていたロープを切断すると、そのままの姿勢でナイフを逆手に握りなおし、ズボンの後ろポケットから魔道具を取り出して頭を垂れ、眠った振りを続ける。

 しばらくして、灯入の前には敵の数名の幹部と取り巻きが集まって来た。


「これが異世界人か、まだ若いな」

「ああ、だが、かなりの強さだと聞く」

「まぁなんにせよ、これで中和薬は幾らでも作れるってわけだ――」


 そう幹部達が話し始めた瞬間、灯入は顔をあげてニタリ笑う。

 まるでこの時を待ち望んでいたかのように。

 今まで溜めに溜めた鬱憤(うっぷん)をここで晴らしてやるぞと言わんばかりに。


「まんまと引っかかってくれたね、散々付け回してくれやがってウンザリしていたんだ。ああ、これは俺からのプレゼントだ。遠慮なく受け取れッ!」


 そう言うと灯入は隠し持っていた魔道具を敵の中に投げ入れると、同時に耳を(つんざ)くような高い爆発音が鳴り響いた。

 その音を聞いた洞窟の入り口にいる見張りは、何事かと洞窟の中を振り向くと、一人を残して中へと駆け込んでいく。

 灯入が発動させた魔道具の爆発音は、途中の部屋や通路で減衰されてかなり小さいくぐもった音になったがコハルたちにも届いた。

 それを合図にリゲルを先頭にコハルと近衛隊員たちも藪を抜けてへと走る。

 途中見張りを何もさせずに一瞬でたたき伏せたリゲルは、隊員二人に入り口の見張りを任せコハルと五人の近衛隊員と共に洞窟の中へと駆け込んだ。


 爆発音のあまりの大きさに、部屋に集まった敵が(ひる)む。

 灯入はそれを見逃さず、敵の中央へ駆け込むと、続けざまに正面にいた二人の(あご)へ拳をねじ込んだ。

 顎を打ち抜かれた二人は脳を揺さぶられ、その場に倒れ付す、それを見て我に返った敵たちが次々と灯入へと襲い掛かるが、ある者は(すね)を蹴り折られ、ある者は鳩尾(みぞおち)を拳で突き上げられた。

 灯入のあまりのスピードに、一〇人以上いた敵は武器を振るうことも出来ずにただ一方的に蹂躙されていく。

 手に持ったナイフを使わず、素手での格闘術だけで見方が蹂躙されるのを最後方出見ていた、でっぷりと太った禿()げ頭が、腰を抜かした状態で尻を床に引きずりながら後ずさって背中を壁へとへばり付けた。


「ハーベイ! マードック! は、早くコイツを取り押さえろ」


 禿げ頭の叫びに、部屋の入り口で灯入の暴れっぷりを楽しむように見物していた二人のうち一人、緑髪に青白い顔をし、やせ細った長躯(ちょうく)の男が一歩前へ歩み出ると灯入へ向けて手をかざす。

 だが、灯入は何事も無かったかのように、手をかざしている男へとゆっくりと歩み寄っていった。

 手をかざしている男の嫌らしい笑みは消えうせ、焦りの表情へと変わっていき、歩み寄ってくる灯入に対して回り込むように後ずさるも、最後は灯入に首元を掴まれて壁へと投げつけられ、ずり落ちると、白目をむいて意識を手放した。


「ほう、ハーベイの魔術が効かんか。これは楽しめそうだ」


 銀髪の大柄な男は不敵な笑みを浮かべると両手剣を抜き放った。

 対する灯入は右手に持った刃渡り一〇cm程の小さなナイフだけだ。

 じりじりとにじり寄る男に対して、灯入は右手のナイフを前方に突き出し、腰を落としてその場を動かない。

 瞬間、男が目の覚めるようなスピードで灯入に切りかかって来た。

 灯入は小さなナイフで男の剣をかろうじて受け流す。

 だが、男の剣撃は止まらない。

 すさまじいスピードでの連撃に、灯入は防戦一方に追い込まれる。

 小さなナイフ一本では打ち合うことが出来ず、受け流し、(かわ)し続けるのが精一杯だ。

 この男の技量、リゲルさんと同等、あるいはそれ以上か。

 そんなことを考える余裕があるだけ灯入の技量も(すさ)まじいのだが、如何(いかん)せん武器が貧弱すぎた。

 灯入は男の剣撃を受け流せずに、とうとうナイフを弾き飛ばされてしまう。

 逆袈裟にかちあげてナイフを弾き飛ばした剣を、そのまま折り返して切りつけてきた男の攻撃に対して、回り込むように身を(ひるがえ)すと、灯入はそのまま飛び込み前転して距離をとる。

 蒸し暑い部屋の中で暴れたからだろうか、冷や汗だろうか、顎からぽたぽたと汗を滴らせながら、少しヤバイかもしれない。

 灯入が思い始めたそんな時だった。


「灯入!」


 コハルが部屋へと飛び込んでくると、同時に右手に持っていた漆黒の刀を灯入に投げ渡したのだった。

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