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魔法の国の魔法が使えない剣士  作者: 滋田英陽
第二章 ~第一王立学院二年度~
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第十話:潜伏

 灯入とコハルの作戦にまんまと引き込まれる形となったトリスティア王国国王は、王国軍の密売組織壊滅作戦の終了を宣言した。

 表向きの理由は、多数の密売人を拘束し各都市の拠点を制圧しことで、国内から麻薬の影が薄らぎ、国民の生活が安定してきた事と発表された。

 が、これは灯入とコハルの作戦である。

 実際には、麻薬密売組織は本拠地でなりを潜め、機会を(うかが)っている。

 これからじわじわと麻薬アシェの密売が復活するはずである。


 作戦では、麻薬密売が再開されたことを確認してから灯入が単独行動をとり、密売組織に拉致されることになっている。

 ただし、不自然な単独行動では、警戒されて目的を達成することが出来ないであろう。

 よって、自然な形で灯入が単独行動をとれるような状況を作り出さねばならない。

 これには、リゲルに一枚噛んでもらうことになっている。

 手順を説明するとこうだ。


 まず、リゲルと灯入、コハルでハンターショップに出かける。

 そこで、休日にリゲルと灯入二人で森へ狩に行くことを、常に灯入たちを張っている密売組織の監視に聞こえるように話す。

 コハルと近衛隊の精鋭は狩の前日に森へと移動し、灯入たちが狩りに訪れるのを密売組織に気付かれないように潜伏して待つ。

 そして、リゲルと灯入二人で狩に行き、灯入が獲物を追いかける振りをしてリゲルと(はぐ)れる。

 後は、リゲルを探す振りをしてコハルと近衛隊監視のなか、森を一人で密売組織に襲われるまで彷徨(さまよ)うのである。


 そして、このときのために(あらかじ)め準備をしておく必要がある。

 密売組織は灯入の強さを知っているので、まともに襲ってくることは無いだろう。

 魔術によって眠らせてくるか、不意を突いて致命傷にならないように矢を射掛けてくるか、それとも数で押し切るか。

 よってこれら全てに対応しておかなければならない。

 密売組織の灯入確保手段で最も可能性が魔術による強制睡眠である。

 本来、灯入は魔素が干渉できない世界から来ているため、灯入を魔術で眠らせることなど不可能なのである。

 それどころか、灯入は自分に睡眠の魔術を掛けられたことを認識することすら出来ない。

 攻撃系の魔術、例えば火炎などは光を発するため見ることは出来る。

 だが、睡眠のなどの行動阻害系の魔術や強化などの支援系の魔術は、光を発さないため見ることが出来ないのだ。

 したがって、睡眠の魔術を感知するセンサーが必要となる。

 これは既に、国王によって王宮の魔道具職人へ秘密裏に製作が依頼されている。

 次に、矢を射掛けられる場合であるが、密売組織も灯入を殺してしまっては元も子もないので、選択される可能性は低いのであるが、一応防弾ベストと矢を通さない鋼線を編みこんであるズボンを装備する。

 最後に、大人数でこられた場合は、素直に両手を挙げて降参すればよい。

 縄で縛られたときの保険で体の数箇所に小型のナイフも仕込んでおく。

 また、リゲルやコハルと近衛隊に今から暴れるぞと行動開始を合図するために、大音量の爆発音だけを鳴らす魔道具も仕込んでおく。

 それとは別に、拉致された後に灯入を追跡するための魔力波動を発信する小さな魔道具も忍ばせておく。

 しかし、実際にはこの魔道具は殆ど必要無い。

 なぜならば、狩の場所をわざわざ敵の本拠地の近くに設定していたからである。

 灯入とコハルは既に敵の本拠地が森の中にある事を知っている。

 しかし、それを国王やリゲルへと話すことは出来ない。

 話してしまうと、どうやってそれを調べたのか説明できないからだ。

 よって、追跡用魔道具を頼りに敵の本拠地を追跡することになっているのであった。


 国王が王国軍の密売組織壊滅作戦の終了を宣言してから数日は、麻薬密売組織に大きな動きは無かったが、一〇日目を過ぎたあたりから、密売が確認され始めた。

 

 その間に学院生の野外活動禁止令が解かれたのだが。

 それによって、俄然(がぜん)やる気を見せ始めたのがフィーナ王女である。


「待ちに待った野外活動の解禁である。(かね)てから計画しておった新人歓迎キャンプを実施したいと思うが、異論は無いであろうの」

「異論はございませんが、何時何処(いつどこ)で行いますの。姫様?」

「次の休日、場所は以前狩を行った湖畔に行こうと思う」


 これに慌てたのが灯入だった。

 ものすごく気まずそうな表情でフィーナ王女に申し出る。


「あのう、その日は俺、先約があって……」

「行けぬと申すか?」

「はい。コハル姉も」

「うむむむむむ、先約なら仕方ないの。(ぬし)ら二人が()らんと締まらんよのう。その次の休日に延期するかえ?」

「わたくしは構いませんわ。姫様」

「た、たぶん俺とコハル姉もその日なら行けるかな」

「何とも歯切れが悪い返事よの――」


 この日、コハルは目前に迫った作戦決行の最終打ち合わせをリゲルとするために、学院の授業が終わるとリゲル邸に直帰していた。

 作戦決行は三日後である。

 コハルと近衛隊の精鋭七名は明後日の朝から、ハンターに変装して一旦街へ出て合流し、森へと向かう。

 コハルについては、一旦メイド姿に変装してからリゲル邸を出て密売組織の監視を(あざむ)き、街へ出てからハンターへと変装しなおす念の入れようである。

 

 新人歓迎キャンプの打ち合わせを終えたフィーナ王女とティータは、他のメンバーが早々に帰宅した後も部室に残っていた。


「姫様、これは絶対何かあります」

「灯入のことかえ?」

「はい。灯入殿の様子がおかしいのは、なにも今日ばかりでは有りませんの」

「さっき以外、わたしは気付かんかったが。ティータは灯入のことをよう見ておるの」

「姫様、お(たわむ)れを」

「それはさておき、この所リゲルの奴も妙に殺気立っておる。先の灯入の慌てぶり、何か関係があるやも知れんの――」


 何かと灯入のことをよく見ているティータと、リゲルの事をよく知るフィーナ王女は、この所の二人の様子に、これは何かを隠しているに違いないとこの後も話し合った。


 そして今、リゲルは灯入を乗せて車を湖畔へと走らせている。

 まだ日も昇らぬうちにリゲル邸を出発した二人は、まだ暗い森の合間を縫うように走る車の中で最後の確認をしていた。


「お前が(はぐ)れるまでの手順だが、都合よく獲物を発見した場合は俺が回り込むと言ってお前から離れる。獲物が発見できなかった場合はお前が獲物に気付いた振りをして、それを追って走り出す。これでいいんだな」

「はい。それからは打ち合わせどおり、俺から余り距離をとり過ぎないようにして俺を追ってください」

「ああ、お前を探すふりをしながら慎重にお前を追う。そして仮に敵の存在に気付いても、気付かぬふりをして敵から離れればいいんだな。お前からは離れすぎないように」

「問題ありません」


 二人がそんな話をしているころ、リゲルが走らせる車の後方数百mに、密売組織の監視が走らせる車があることを、インセクターが森に身を潜めているコハルに知らせていた。


 そしてそのころ、王都から森へと向かう道に向かってハンドルを切る一台の車があった。


「リゲルの奴を問い詰めてみれば、灯入の奴め、わたしを差しおいて」

「姫様のお怒りもご尤もですわ。相談の一つもしてくれないなんて、灯入殿は何を考えて……」

「まぁまぁ、そう怒るな。姫様やお前を思ってのことだ」

「まぁ、お父様こそ。あれほど憤慨(ふんがい)していらしたではありませんか」


 フィーナ王女に問い詰められたリゲルは、彼女のあまりのしつこさについに根負けし、灯入を囮にして密売組織の本拠地を(あば)き、幹部を一網打尽にする作戦を話してしまった。

 その話しを聞いて、怒り心頭になったフィーナ王女は、父王の制止も振り切って灯入の後を追いかけてきたのだ。

 早朝からティータの家を突如訪問したフィーナ王女は、カノープとティータにこの作戦を話し、二人を巻き込み、レグルスの家に押しかけて車を出させ、灯入を追いかけたのである。

 フィーナ王女らも、直前になってだが作戦のことはリゲルから聞いているので、彼らの作戦を邪魔するつもりは毛頭ない。

 密売組織にもリゲルにも気付かれないように後をつけて、いざと言うときに助太刀するつもりなのであった。


 こうして、灯入とコハルの作戦は第二段階の佳境へと差し掛かっていくのである。

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