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魔法の国の魔法が使えない剣士  作者: 滋田英陽
第二章 ~第一王立学院二年度~
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第四話:インセクター

 一日の休みを挟んで学院に登校してみると。

 正門にはカノープが言ったとおり王国軍の兵士が部外者に目を見張らせていた。

 事情を知らない学院の生徒達は一様に、何か起こったのかと不思議そうな顔をしていて、正門をくぐって校舎の方に歩いていくと、学内にも王国軍兵士が巡回している。

 

「コハル姉さぁ、これってやっぱり俺たちが原因だよな」

「発端は私達がこの惑星に降り立った事でしょうけど、それはあくまでも遠因(えんいん)でしかないわ。諸悪の根源は麻薬密売組織の連中よ」

「それは理解できるんだけどさ、やっぱり、肩身が狭いよ」

「そう気にすることでも無いわ、考え方よ。もし襲われたら返り討ちにして王国軍に貢献すれば良いし、周りの人に危害を加えようとしたときも、守れる範囲で守ってあげれば良い」

「そうだね、とにかく密売組織に早いとこ潰れて貰うしか無いみたいだから。襲われることを利用するぐらいの気持ちで、積極的に王国軍に協力しよう」


 学院内にまで王国軍兵士がいることで、肩身の狭さを感じていた灯入だったが、コハルの助言により、どんな事でも前向きに考えることを思い出した灯入であった。


 王国軍兵士が学内を警護していることは、午前の授業が始まる前に生徒達への説明があり、先日起こった保健師が何者かに操られた事件のことを、保健師襲撃事件として説明され、灯入たちの事は伏せられていた。

 やっぱり、事実を話すのは不味いわけね、事が麻薬絡みなだけに。

 などと考えた灯入であった。


 昼食時にフィーナ王女から今日は大事な話し合いをするから、遅れることの無いようにとのことであったので、灯入とコハルそれにエリオは授業が終わると連れ立って部室へと向かった。

 部室には新しく入会した新人とフィーナ王女、ティータが既に顔をそろえていた。

 そしてそこには見知った新人がいた。


「あれ? 準決勝のときの…… たしかエリーネさん?」

「まあ、覚えていて下さいましたの。エリーネ嬉しいですわ」


 エリーネは灯入の前に歩み出ると、両手を胸に合わせて瞳を(うる)ませた。

 灯入はこのエリーネの行動にドギマギとしている。

 どう反応したらいいか分からないのだ。

 そんな灯入を見てエリーネがどう思ったかは(しる)さないが、エリーネのとった次の行動に集合していたメンバーは目を見開くのだった。

 エリーネはいきなり灯入の両手を掴むと、自分の胸の前で掴んだ手を合わせてこう言った。


「わたし、灯入さまをお慕い申しております。どうか、このエリーネをお側に置かせてください」


 突然のエリーネの告白に、灯入は顔を真っ赤にして、あわあわと口を動かし、目をぱちくりさせている。

 フィーナ王女とコハルは「おや、まあ」と口に手を当てて興味津々といった感じだ。

 エリオとルシオ、それにイヴェッタは吃驚(びっくり)して目を見開いている。

 そして、ただ一人だけ皆と大きく異なるリアクションをとった者がいた。

 ティータだ。


「なな何を(おっしゃ)っておいでですか! 不謹慎な。それに灯入(・・)も灯入(・・)です。そんな汚らわしい手などお外しになってください」


 エリーネの余りにも突飛な行動に、つい灯入様と様付けで呼んでしまったことをティータは気付いていない。

 灯入にしてもその重大な意味に気付いてはいないが、周りにいるほかの面子は皆気付いたようだ。

 そう、ここトリスティアでは女性が男性に対して様付けで呼ぶということは、好意を寄せていることに他ならないのである。


「あらあら、焼きもちですの。みっともないですわよ」

「や、焼きもちなど焼いておりませんわッ」


 ティータは灯入の手をエリーネから奪い取る形で振り払って、エリーネを睨み付けている。

 灯入は突然勃発した女の争いにあたふたとしているが、その表情はかなり嬉しそうだ。


「二人とも、その辺にしておけ。灯入も困っておるであろう」


 フィーナ王女の仲裁によりこの場は治まったが、今後もこの二人の争いには目が離せなくなりそうである。

 結局この時、灯入は舞い上がって、エリーネの告白に対して返事をすることは無かった。


 その後はルシオとイヴェッタの自己紹介を経てフィーナ王女が提示した議題について話し合いが行われた。


「今日集まってもらったのは他でもない。皆も知っておろうがとある事件により、学内に王国軍の兵士が巡回しておる。これは、学生を守るためである。同時に、当面の間学外での活動を自粛する旨通達が来ておる。我らはその名の通り学外での活動が基本となるゆえ、この通達を受けて対応を考えねばならん。皆の意見を聞きとう思う」


 フィーナ王女の提示した議題についての話し合いは、帰宅時間ぎりぎりまで続けられた。

 話し合いの間も、ティータとエリーネは灯入を挟んで牽制(けんせい)しあっていたようだが、その度にフィーナ王女からのお小言を貰っていた。

 最終的に、学外で活動できないのならば学内で活動すればいい、野外活動同好会のの目標の一つである、ハンター免許取得へ向けてのトレーニングと勉強を行う。

 また、通達が解除されたときのことを考えて、新人歓迎の学外活動の企画と準備を行うこととなった。


 帰り際、エリオに呼び止められた灯入は「モテる男は辛いねー」と使い古された茶々を入れられ、「え、なんで」と明後日の方向を向いた返答を返していた。

 余りにも鈍感な灯入に、エリオはティータが灯入を様付けで呼んでいた事を告げると、「はッ」その意味に気付いた灯入は、ティータの自分への思いに気付いたのだった。

 これは、恋路に鈍そうな灯入と、同じく不器用なティータへの援護射撃を、幼馴染のよしみで行ったということである。

 中々憎いことをするエリオであるが、エリオのコハルに対する思いに関して、灯入からの援護射撃が行われるのかは(さだ)かではない。


 そんな事がありながらも、コハルと共にリゲル邸へと帰った灯入は、リゲルが帰宅した後、麻薬密売組織の捜査状況を、リゲルが掴んでいる範囲で聞くこととなった。

 リゲルの話によれば、麻薬密売組織の構成員は王国のいたる所に深く潜り込んでおり、何処から灯入たちのことを(うかが)っているか分からない。

 そのよな事から、学院内にいる時にも常に注意を怠らず警戒し、何か怪しいことがあったら、その場で行動を起こすことは控えて、出来るだけ怪しまれないように、レグルスか学院長、もしくはリゲル自身に報告するようにとの事であった。


 その日二人は灯入の部屋で結構遅くまで話し合った。


「コハル姉、リゲルさんの話だと王国軍の兵士も疑って掛かれという事だよね?」

「ええ、そう考えていいと思うよ。ただし、疑い深くなりすぎて、あからさまな行動に出ないように心がけましょう」

「そうだね、誰も彼も疑っていたら何も出来なくなっちゃうし、息が詰まってしょうがないね。でもさぁ、積極的に王国軍に協力するはずだったのに、それも出来ないとなるとなぁ」

「私に考えがあるわ、ちょっと耳を貸して頂戴」


 二人は互いにしか聞こえない小さな声で耳打ちしあった。


『インセクターを使って独自に調査してみるわ』

『えっ、でもどうやって操るのさ?』

『大丈夫、私の思考で操作できるから、この惑星では電波なんか使われてないし、魔術結界に引っかかることも無いから絶対に気付かれることはないよ』

『ん? どうして魔術結界に引っかからないの?』

『インセクターは第一世界の物質のみで作られてるの。第一世界の物質はエーテルに干渉できないから魔術結界なんて素通りできるし、感づかれることも無いのよ』

『なるほど、それだと安心だね――』


 コハルの機転により、トリスティー星に散らばって休止していたインセクターが、再び空に舞い上がった。

 夜空を音も無く舞飛ぶ小さな虫型偵察機「インセクター」に気付くものは誰もいない。

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