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魔法の国の魔法が使えない剣士  作者: 滋田英陽
第二章 ~第一王立学院二年度~
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第二話:王国軍本部での密談

 翌日、恒例となった早朝訓練は行われたが、灯入とコハルは学院を休んだ。


 灯入は今、近衛隊長のリゲルと副官のリファと共にトリスティア王国軍本部正門に来ている。

 トリスティア王国軍本部は、王都トリスティアの西、王都から一五Kmほどの所にあり、鉄筋コンクリート製の横に長い五階建ての建築物である。

 広い敷地は高さ三m程の鉄条網が付いた壁に覆われており、建物の前にはほろ付きの軍用トラックが何台も停車している。

 空は晴れ、白い雲筋状のがまばらに見られる良い天気だが、灯入の心境は面倒ごとに巻き込まれたことで晴れてはいない。


 灯入は昨日リゲルから事件の犯人に関する推測を聞いていた。

 それによると、犯人は麻薬密売組織の一員ではなかろうか、という事だった。

 灯入たちの血液を使った、麻薬アシェの中和薬が密売促進に悪用されているという。

 リゲルは、灯入たちをトリスティアの暗部ともいえる、麻薬密売組織がらみの事件に巻き込んでしまった事に、しきりに謝っていた。

 これは、自分の浅はかさが生んだ事だと。

 灯入はリゲルに対しては怒っていない。

 だが、リゲルが言うことがもし本当で、自分達の血液が麻薬密売に悪用されている事が事実であるならば、人の善意を悪用する密売組織に対して並々ならぬ怒りの感情を覚えていた。


 リファとリゲルが正門の守衛で手続きを済ませている間に、灯入はコハルと話していた。


「リゲルさんが言ったことが本当なら、(ゆる)せないよな」

「ええ、でも私達はリゲルさんに世話してもらっている身だから、リゲルさんにまかせましょう」

「分かってるさッ、でも正直俺たちで何とかしたいよ」

「おーい、行くぞ」


 リゲルに連れられて入った部屋の奥には、白地に金地の三本線と金星が二つついた肩章(肩章)をつけた濃いモスグリーンの軍服を着た、刈り込んだ銀髪が勇ましく見えるリゲルと同年代であろう男が机に付いていた。

 机の脇には副官であろう若い軍服姿の男が立っている。


「呼びつけて、悪かったな」

「気にするなカノープ。それより」


 カノープと呼ばれた男は副官に目配(めくば)せして退室させた。


「わたしも退室しましょうか?」


 リゲルはリファに対して同席してくれと退室を拒んだ。


「紹介しよう。コハル・イリフネとトーイ・イリフネだ」


 リゲルに紹介されて、灯入とコハルはリゲルの横に出て目礼(もくれい)した。

 リファはリゲルの後ろに控えている。


「私はカノープ・フォーマルハウトだ。娘が世話になっている」


 コハルは「はっ」とすぐに気付いたが、不思議そうな顔をしている灯入に小声で「ティータのお父さんよ」と言うと、灯入はやっと気がついたようで「へー、ティータの」などと言っていた。


「私達のほうこそティータ殿には大変お世話になっております」

「まぁまぁ、社交辞令はこれくらいにして本題に入るか」


 灯入たちはカノープに進められて、部屋の横にある扉から入った応接室のソファに座った。

 カノープが言うには、王立薬物依存症治療院から持ち出された中和薬が底をつき始めたのだろう、ということであった。

 それで、学院の保健師を操って灯入たちの血液を入手し、中和薬を作り出そうとしていたと考えられるらしい。


「そういう理由だとすると、私達はこれからもその密売組織に狙われる可能性が有るという事ですか」

「ああ、そういうことになるな」

「俺たちに何か出来ることはないんですか?」

「まぁまぁ、そう焦らんでもいい。お前達には密売組織に悟られないように護衛をつけることにする。当然普通に学院に通ってくれてかまわないし、普段どうりの生活をすればいい」

「それは、見方を変えれば私達を(おとり)にすると」


 コハルは自分達を囮にするということを即座に見抜いてカノープに問いただした。

 それに対し、カノープは申し訳なさそうに答える。


「悪く思わんでくれ。密売組織のアジトの幾つかやメンバーはだいぶ(つか)めてはいるんだが、肝心の本体が見つかっていない。もし、襲われたとしてもお前達には怪我ひとつさせんと約束する」

「私達はたとえ襲われたとしても、それを返り討ちにする自身はありますが、周りの人たちに迷惑を掛けたくありません。特に、お世話になっているリゲルさんの家族や、学院の仲間達に被害が及んでしまわないか心配で」

「実を言うと私もお前たちのことはあまり心配しておらん。お前達の武力に関してはリゲルや娘からもよく聞いているしな。それに、学院とリゲル邸には軍の護衛を配置することが既に決まっている。迷惑はかけんさ」

「そういうことでしたらお言葉に甘えさせてもらいます。灯入いいよね?」


 今までの話を黙って聞いていた灯入は「かまわない」と了承した上で疑問に思っていたことをカノープに聞いた。


「もし襲ってくる奴がいたら俺たちはどうすればいいんですか?」

「万が一、護衛の手を抜けるものがいた場合は本気で返り討ちにしてくれてもいい。それでたとえ相手が死んだとしても正当防衛になるから罪には問われん。が、できれば生かして捕らえてほしい。口を割るとは思わんが、尋問したいからな」


 もちろん、コハルにも灯入にも、たとえ襲撃されたとしても犯人を殺したいとは思っていないが、いざとなったときに殺してしまう可能性が無いわけでは無い。

 したがって、カノープのこの言葉は灯入たちを安心させる材料にはなっていた。

 今までじっと腕を組んでコハルとカノープの話しを聞いていたリゲルは、灯入たちの実力を少し自慢げにカノープに話す。


「なに、心配することはあるまい、カノープよ。こう見えても灯入たちは俺よりも遥かに強いからな。殺さず捕らえることくらい簡単だろう」

「情けないことを言うようになったな、リゲルよ。お前ももう歳かぁ?」

「ぁんだとぉ! 偉そうにふんぞり返ってばかりの中将様よりは俺のほうが遥かに強いぜ」

「リゲル隊長! カノープ中将もその辺でお止めになって。灯入たちが困ってるじゃないですか」


 ソファの前に置かれたテーブルに両手を付いて身を乗り出し、互いの額を擦り合わせながら維持を張り合うリゲルとカノープに、やれやれまた始まったかと呆れ顔のリファの制止が入っていたころ、学院の食堂では。


「ティータや、トーイとコハルは来ておらんのか?」

「ええ姫様、今日は何でも軍に用事があるとかで学院には来ておりませんの」

「ああ、昨日の事件についての事情聴取か、トーイらもつまらん事に巻き込まれたものよ」

「ところで姫様、同好会の入会試験? ですか、今日ほんとにやるのでございますか?」

「当然やるに決まっておろう。下級生の相手などトーイやコハルが居らんでも苦にはなるまい。のう、エリオや」


 突然話を振られたエリオは「え、僕ですか」と自分の顔を指差した。


「コハル殿がいないと本気が出せませんの? エリオは」

「いや、それは無いけど僕なんかが相手で試験になるんですか?」

「何を呆けておる。(ぬし)の実力は選抜クラス並みよ。一年生なんぞに遅れをとるはずも無かろう」

「何をおっしゃいますか、姫様やティータのほうが適役でしょうに」

「そう、いうな。わたしとティータにむさ苦しい男どもの相手をさせようなぞよもや思うておるまい?」


 フィーナ王女は全く悪びれぬ顔でエリオに念を押す。

 ティータも、さも当然のような顔をして頷いていた。

 その二人の顔を見て、エリオは「やれやれ」と言いながらも、実は下級生に自分の実力を見せ付けるいい機会だと内心思っていたりする。

 下級生が入会した後に先輩面を押し通すには絶好の機会だということだ。

 エリオは同好会の中で、自分の実力に関して引け目を感じているのは事実である。

 何せ、自分以外のメンバーは、恐らく、全学年を通してもベスト四の実力を持っている。

 最近いくら強くなったからといって、同好会の中で自分が一番実力が無いことをエリオは自覚していた。

 ならばせめて下級生にはいい顔をしていたい。

 と思ったとしても責めることは出来まい。

 フィーナ王女とティータと共に食事を終えたエリオはそんなことを考えながら午後の授業に向かうのであった。

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