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魔法の国の魔法が使えない剣士  作者: 滋田英陽
第二章 ~第一王立学院二年度~
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第一話:保健室で

 一月の一一日、第一王立学院の新学期がスタートした。

 灯入とコハルは、肩に二本の紺線が入った白いブレザーの背中に漆黒(しっこく)の反りを持つ(さや)が特徴的な日本刀を背負って巨大な校門をくぐる。

 第一王立学院二年生からは帯剣しての登校が許されるのだ。

 校門から伸びる石畳の両側には宮殿と見紛(みまご)うばかりの見慣れた校舎がそびえ、道の先には大きな西洋の城を連想させる講堂が鎮座している。

 講堂へ続く石畳の幅広い道には一年生であろう、そわそわとした少年少女が、講堂へと急いでいる。


 午前中は一年生の入学式と教室に戻っての授業説明のみ。

 昼を待たずして終業となった。

 午後の時間、一年生は学院の設備や部活動や同好会などのサークル活動を見学し、このタイミングをもって上級生はサークル活動への勧誘を行うことが恒例となっている。


 フィーナ王女を筆頭に同好会のメンバーが集まり昼食をとっているときだった。


「野外活動同好会にも実力ある新入生を迎え入れ、会員を増やしたい。皆はどう思うや」


 少しの間を置いて、考えていた灯入が答えた。


「良いと思うけど、どうやって勧誘するの?」


 他のスポーツ系サークルならば、活動しているところを見学してもらえれば手っ取り早いが、野外活動同好会はそう簡単にいかない。

 前もって打ち合わせでもしていなかったのか? とも考えられるが、冬季休業期間中、会長のフィーナは王族としてのイベントに出ずっぱりであり、全員が集合することは出来なかったのである。


「そこが問題よ」


 フィーナ王女の偽らぬ心情であるが、彼女の忙しさを知っている同好会の面子は何も言わなかった。

 ここは一旦部室に行って打ち合わせようという事になる。

 しかし、いざ部室に行ってみれば。


「おいおい、何だよあれは?」


 面食らったエリオの言であるが、皆同様に驚いていた。

 部室のドアの前、十数名の人(だか)りが出来ていたのである。

 その人集りがフィーナ王女たちに気付くと、一人が駆け寄ってきた。


「始めてお目にかかります。ルシオ・クレメンタルと申します。フィーナ王女であらせられますか?」

「ああ、確かに私はフィーナであるが」

「野外活動同好会に入会したいのですが、こちらで(よろ)しかったでしょうか?」


 同好会の面子は顔を見合わせて驚いている。


「宜しいも何も、これから勧誘して回ろうかと考えておった。手間が省けて助かるのぅ。後ろの連中も同じかや?」


 フィーナ王女の問いかけに、部室に詰め掛けた一同はうんうんと(うなず)いた。


「にしても、ちと多いの」


 フィーナ王女は「おほん」と軽く咳払(せきばら)いして話し始めた。


「我ら野外活動同好会の活動範囲は山野である。目標にはハンター免許の取得も掲げておる。当然、野宿もすれば、魔獣とも戦うし、仕留めた獲物の解体も行う。ゆえに、入会する者はその心構えが必要である。また、魔獣と戦うことなれば武力も必要である。ここ第一王立学院に入学してきた(ぬし)らに、武力に自信なきものなぞよもや()るまいが、そうよの、我らと一戦交えてみるかえ」


 フィーナ王女は少し考えて続けた。


「我々野外活動同好会の会員は、私を含めてここに居る五名であるが、前衛に偏りすぎておる。今ほしいのは戦闘支援や回復魔術が使える者であるが、それではせっかく来てくれた者に申し訳なく思うゆえ、前衛希望の者にも入会する機会をやろう。入会を希望するものは明日、午後の授業が終わり次第防具持参の上、校舎裏の訓練場に集合せよ」


 新入生達はフィーナ王女の話しに対して自信ありげな表情をしているものもあれば、所在無さげにしているものもいたが、やがて部室の前から帰っていった。


 その直後であった。

 コハルに続いて最後に部室へ入ろうとした灯入が呼び止められた。


「トーイ・イリフネさん。少し宜しいですか?」


 その呼び止めに、灯入もコハルも、同好会の面子全員が振り向いた。

 少し疲れ気味に見える白衣を着た、緑髪の若い女性保健師が立っている。


「トーイ・イリフネさん、コハル・イリフネさん、保健室まで来ていただけないでしょうか」


 保健師の話によると、新学期開始にあたり、異世界人である灯入とコハルの健康診断をする必要があるとの事である。

 このとき、灯入は「へーそうですか。いいですよ」と軽く答えていたが、コハルは保健師のしゃべり方というか、声質に微妙な違和感を感じていた。

 フィーナ王女達は、そういうものかという感じで「ここで待っているから」と部室に入っていった。

 コハルは、保健師についていく灯入の後ろを歩きながら、警戒のレベルを上げるのだった。


 保健室に入ると、そこには白いカーテンに仕切られたベッドが二つ並んでおり、奥の衝立の後ろに机が置いてある。

 灯入とコハルは保健師に言われるまま、身長や体重、心拍数や血圧などを測っていった。


「今から採血をしますので、ここに座って腕を出して楽にしてください」


 保健師は長机の前にある椅子に灯入を座らせると、採血用の注射器を持って灯入と対面するように長机の椅子に座った。

 それは、保健師が灯入の手を取ろうとしたときだった。

 この時、コハルは大きな違和感を感じた。

 他の測定をしているときよりも、保健師の心拍数が異常に上がっていることに気付いたのだ。

 警戒レベルを上げたコハルの聴力は、他人の心音を認識できるほどに上昇する。


「灯入! そこから離れなさいッ」


 コハルの叫びに灯入は保健師の手を払い、椅子から飛び退(すさ)った。


「どうしたんだ? コハル姉」

「そこの保健師ッ、あなた何者?」

「…………」


 保健師は何も答えずに、視線の定まらない(うつ)ろな眼で、ベッドの裏にあるカーテンのほうを見ている。

 その時だった。

 操られていた糸が切れたように保険師が倒れ込む。

 目は見開いたまま息をしていないように感じられる。

 それと同時にコハルが動いた。

 目にも留まらぬスピードで、長机の上に置いてあったペンをベッドの後ろにある白いカーテンめがけて投げつける。

 ペンはカーテンを付きぬけ何か柔らかいものに刺さったような音を上げた。

 同時にくぐもった(うめ)き声が聞こえたかと思うと、カーテンの後ろにあった窓ガラスがガシャンと砕け散った。

 コハルは割れた窓際に走りよったが、窓から飛び降りたのであろう、黒尽くめのスーツに身を包んだ白い髪の男が走り去って行くのを確認するに(とど)まった。


 コハルは倒れ付した保健師に近づくと首筋に手をあてている。

 保健師の首筋からは弱弱しい脈動が感じられたが、今にも止まりそうであった。

 コハルは保健師をベッドまで運んで寝かせると、弱弱しい微かに感じ取れる脈に合わせて心臓マッサージを開始した。


「灯入、誰でもいいから近くにいる学院関係者を呼んできなさい。それから、回復魔術を使える人を探して」

「分かった!」


 コハルに答えた灯入は保健室を飛び出していった。


 結論から言うと、倒れた女性保健師は一命を取り留めた。

 弱り行く心臓をコハルが強制的に動かし続け、駆けつけた学院関係者の回復魔術により障害が取り除かれたのだ。

 灯入たちが後から聞いた話しになるが、女性保健師は催眠系の魔術によって強制的に操られていたそうである。

 目的を達せられなかったために、露見を恐れてであろうが、窓から逃亡した保健師を操っていた男が、心肺機能を停止させようと試みていた最中に、コハルに察知されて逃亡したのだろうということだった。

 保健室に潜んでいながら、目的を達成しそこなうまでコハルに存在を気付かれず、また、気付かれた後に逃げ(おお)せた男の力量は()して知るべしである。


 フィーナ王女ら野外活動同好会の面子もこの騒ぎに駆けつけたのだが、同じく騒ぎを聞きつけ駆けつけてきたレグルスに、すぐに帰宅するように言われて帰宅していった。

 教官たち学院関係者に事情を聞かれた灯入とコハルは、そのままリゲル邸まで数人の学院関係者に付き添われて帰った。

 リゲルにもこの事件は報告されたようで、灯入たちが帰宅したときにはリゲルが出迎えたのだった。

 リゲルはそのまま学院関係者と灯入やコハルから事件の概要を聞き、あることに思い至った。

 そして考えた。

 これは、王とカノープに相談せねばならんな、と。

 

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