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魔法の国の魔法が使えない剣士  作者: 滋田英陽
第一章 ~第一王立学院初年度~
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第十四話:入れ替え戦 男達の戦い 後編

 準選抜クラス入れ替え戦も四日目を終え、灯入コハルを含めベスト一六が出揃ったのだが、四回戦に勝利してベスト三二に名を連ねたエリオは、満身創痍のため五回戦を棄権することになってしった。

 しかしながら、これで野外活動同好会の最下位クラス組は、目標である準選抜クラス入りを果たしたことになる。


 あくる五日目、準選抜クラス入れ替え戦も最終日を迎えることとなった。

 本来授業開始半時(はんとき)前にならないと学院の門は開かないのだが、席次入れ替え戦が行われている期間だけは早朝から門が開けられ、教室や部室が解放される。

 野外活動同好会は早朝から部室に集合していた。

 全身の(あざ)や小さな火傷、やかすり傷が痛々しいエリオまでもが来ている。

 魔術による治療を受ければすぐに完治するものを、自然に治したほうが抵抗力が付いて体が丈夫になるといって、エリオは魔術治療を受けていない。


「エリオは()う頑張ったの。野外活動同好会の会長としても誇れる」

「そうですわよ。不戦敗になってしまったのは残念ですけど、その姿を見ると納得してしまいますわ」

「いやぁ、僕自身ここまで戦えるとは思っていなかったんだ。最後は意地でも倒れるもんか、って踏ん張ったら相手が倒れてくれたよ」


 エリオは頭をかきながら謙遜(けんそん)しているが、皆はそんな彼を心から祝福した。


「よく頑張ったなぁ、エリオ。俺はあんなに感動する試合初めて見たよ」

「ええ、とてもいい動きだった。昆の中央を持ってスピードを上げるなんてよく考えたものね。槍の基本的な使い方から外れる事なのに」


 灯入とコハルは自分の試合を速攻で終わらせると、エリオの試合を共に観戦していた。

 灯入はエリオの両手を握り締め、ぶんぶん振って褒め称えたが、エリオの視線はコハルに集中していた。


「コハルさんにそう言って貰えると嬉しいなぁ」

「それはそうと、今日の主役はトーイとコハル、(ぬし)らよ。野外活動同好会が誇る最強の二人が決勝でどう戦うか、楽しみにしておる」

「そうですわ。特に最近のトーイ殿は技の切れもスピードも上り調子の様子。今日は応援させていただきますわ」

「そんなに期待されてもなぁ」


 そうは言っているが、灯入は自覚していた。

 コハルの剣の動き、技のスピード、以前より格段に見えるようになっているし、対応する自分の動きも早く的確になった。

 まだまだコハルには(かな)わないが、恥ずかしくない戦いは出来る、いや、しようと灯入は思った。

 ティータの灯入を見つめる瞳が、いつにもまして柔らかいことに灯入は気づいていなかったが。


 コハルもまた、灯入の成長を感じ取っていた。

 コハルは自分の剣速や力、灯入の剣速や力などを数値化して判断することが出来る。

 その数値そのものが毎日少しずつではあるが確実に上昇しているのだ。

 今日の戦いで、どれほどの成長を見せてくれるか。

 最近のコハルは、アンドロイドである自分の使命『灯入を守り、導く』よりも灯入の成長、さらには仲間達とのふれあいに喜びを感じるようになっていた。

 

 そして……


 準選抜クラス入れ替えトーナメント五日目の試合が開始されされようとしていた。

 第一王立学院グラウンドには八つの試合場が設置され、学院裏の訓練場には敗者復活戦用の二つの試合場が用意されている。

 選抜クラスの入れ替えトーナメントのときほど観衆は多くないが、グラウンドの端と端、灯入とコハルが出場する試合場には、うわさを聞きつけた学院生や、最初から注目していた学院関係者らが試合開始のときを待っていた。

 

「始めッ!」


 八つの試合場で同時に試合が開始された。

 そして次の瞬間にはグラウンドの端と端、灯入とコハルが試合を決めていた。

 残り六つの試合場では熱戦が繰り広げられている。


「すげぇ、あいついったい何者だよ。今の開始一秒かかってねーだろ?」

「お前知らないのか? 異世界から編入してきたトーイとかいうやつさ」

「あら、でも可愛いじゃない。あの()


 灯入の試合をたまたま観戦していた上級生が驚いている。

 少し違う目で見ている女生徒もいるが。


「なあ、あの()無茶苦茶すげーな」

「コハルさんだぞ、当たり前じゃないか。コハルさーん! こっち向いてくださーい!」


 コハルにはどうやら熱心なファンが付いているようだ。


 六回戦を順当に勝ち上がった灯入とコハルは、続く七回戦準々決勝も秒殺で試合を決めた。

 そして、昼食を挟んで八回戦準決勝で灯入は初めててこずる事になる。

 戦いとは少し違う意味で……

 試合場には白系の訓練用スーツを着て木製の両手持ち長剣を構えた灯入と、左腕に装備する形の、丸い小さな小楯のみで武器を持たないピンクのセミロングが似合う可愛い少女が対峙している。


「貴方が異世界から来たという、トーイさんですか、どんな殿方(とのがた)かと思いましたら、まぁ、可もなく不可もなくといったところでしょうか」


 少女の発言に灯入は少し面食らったような表情で、どう反応したらいいか分からずにいる。


「あぁ、私はエリーネと申しますの。今日は私の華々しい勝利の引き立て役になってくださいな」

「ゴホン、私語は慎みなさい。両者とも準備はいいね。始めっ!」


 開始の合図と共にエリーネは両手から八つ、ソフトボール大のオレンジ色に輝く火球を出現させたかと思うと、灯入に向けて投げ放ってきた。

 灯入はエリーネの少し変わった態度に気を引かれたのか、即座には反応できなかったが、持ち前の動体視力を生かして、飛んでくる火球を全て(かわ)した。


「まぁ、なんて器用な避け方をなさるのかしら。次は外しませんわよ」


 エリーネは間髪置かずに火球を連発してきた。

 が、落ち着きを取り戻した灯入は、するすると火球を(かわ)しながらエリーネとの間合いを詰め、眼前に長剣の切っ先を突きつけた。

 エリーネは灯入のあまりのスピードと迫り来る迫力に、戦意を喪失して目を見開き、ぺたんと座り込んでしまった。


「それまで、勝負ありッ!」


 座り込んでしまったエリーネに、灯入は右手を差し出す。


「驚かせてしまってすみませんでした」


 エリーネは、あまりにも(さわ)やかに、そして自然に手を差し伸べてきた灯入の手を、無意識のうちに取ってしまう。


「あら、ご親切な方ですのね。ありがとうございますわ」

「いえいえ、どう致しまして」


 この時、エリーネの内心は穏やかでなかった。

 戦いに負けたことに対してではない。

 きゃー、殿方のお手を握ってしまいましたわ、どうしましょう。こっ、これはもしかして運命の――


 エリーネは灯入の手を振り払うようにして、赤らめた顔を両手で覆って走り去ってしまった。

 これを見ていたティータの心中が、穏やかでなかったのは言うまでもない。

 一方、コハルの準決勝は語るまでもなく秒殺であった。


 そしていよいよ決勝戦の時を迎えた。

 グラウンド中央の会場に共に白い訓練用のスーツを身に(まと)い、ショートに切りそろえた薄蒼いサラサラとした銀髪を、少し肌寒いが心地よさそうに風になびかせた少女コハルと、黒髪の少年灯入が審判を挟んで向かい合っている。

 試合場の周りには選抜クラス入れ替え戦決勝のときと同じく、人数は少し少ないが四角い人垣が出来ている。

 その試合場の中央付近でコハルは刃渡り一二〇cm程の木刀を二本両手に構え、灯入は刃渡り一五〇cm程の極太な木刀を構えている。

 彼らの持つ木刀は、トリスティアにある最も硬くて重い木で特別に(あつら)えられたものだ。

 これは、彼らの力で打ち合えば、普通の木刀なら簡単に破砕されてしまうことから、学院側が急遽入れ替え戦用に、彼らの希望に沿った形で特製の木刀が用意された。

 さすがに、彼ら二人だけ鉄製の剣で試合に参加させることはルール上出来なかったのである。


「いよいよ始まるの」

「ええ、姫様」

「灯入もコハルさんも、どっちも頑張ってほしいな」


 野外活動同好会の面子が今か今かと試合開始を待っている。


「レグルスよ、主は二人が戦うところを見たことが有るんじゃったな」

「ああ、理事ども、腰を抜かすぞ。爺さんも入れ歯が外れんように気をつけるこったな」

「学院長と呼ばんかい」


 観衆が見守る中、腕時計を見ていた審判がスッと手を上げた。


「始めッ!」


 審判の声と同時に二人は飛び出した。

 二人の動きに付いて行けた観衆はほんの僅かだ。

 中央で二人が交錯する。

 灯入とコハルがまともに木刀を打ち合えば、如何に硬い木刀であっても間違いなく破砕してしまう。

 木刀を折られて無くしてしまっても負けになるのだ。

 したがって、彼らは打ち合うのではなく、片方が打てば相手は受け流すので、剣戟(けんげき)が止まることは一瞬たりとてない。

 観衆の中に二人の剣速に目がついていっているものは一人もいなかった。


 二人の剣戟はどんどんと加速していく。

 観衆には硬い木と木が(こす)れあう甲高い音が断続的ではなく、連続的に聞こえているだけである。

 試合場の中央で木刀を合わせていた二人は、やがて、試合場内を縦横無尽(じゅうおうむじん)に動き回り、剣戟を重ねていった。

 言葉を発する観衆は誰もいない。

 殆どの学院関係者や学院生たちが顎を落としていたが、やがて、彼らはただ、(かす)んで良く見えぬ二人の動きを少しでも見ようと、試合に集中しだした。


 この時灯入は、コハルと戦いながらも喜びに満ちていた。

 明らかにいつもより早いコハルの木刀の動きがはっきりと見える。

 その動きに付いて行けていることが実感できる。

 次の一手が何処から出てくるか、感覚で分かる。


 そして、コハルもまた灯入の動きが見違えていることに気付いていた。

 いつもより剣速を上げ、読みづらいフェイントを掛けても、惑わされることなく対応してくる灯入の動きに、ついつい、顔が(ほころ)んでしまう。


 そんな時であった。

 コハルに油断があったわけではない。

 コハルの予測を灯入の剣速が上回った。

 逆手から逆袈裟に切り上げられた灯入の木刀に、コハルの左の木刀がまともにかち合ってしまう。

 片手で持った、灯入の木刀よりはずいぶんと軽いコハルの木刀である。

 不意にぶつかり合えば当然のごとく折れ飛んでしまった。

 半ばから折れたコハルの木刀はくるくると天高く舞い上がり、そして、試合場の隅に突き刺さった。


 まだコハルには一本の木刀が残っているので、今の一撃で灯入の勝ちにはならない。

 勝負はそのまま続行される。

 しかし、この時灯入は痛恨のミスをしてしまった。

 初めてコハルの動きを止めることに成功したのである。

 折れ飛んでいく木刀を不用意に目で追ってしまったのだ。

 そんな隙を見逃すコハルではない。

 左手の折れた木刀を投げ捨てて、両手に持ち替えた木刀で怒涛の攻撃を仕掛けた。

 灯入もそれに気付いて対応を試みたが、一歩遅れを取ったがために、完全に受けに回り、そしてついにコハルの手数に対応が追いつかなくなる。


「それまでッ!」


 灯入の首筋に木刀をあてがった状態で動きを止めたコハルに、審判が勝利を宣した。


 静まり返っていた観衆から盛大な拍手と歓声が沸きあがる。

 木刀を収めた灯入とコハルは、互いに礼をして待ち受ける同好会のメンバーのもとへ、晴れ晴れとした表情で歩を進めたのだった。

第一章完結です

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