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魔法の国の魔法が使えない剣士  作者: 滋田英陽
第一章 ~第一王立学院初年度~
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第十四話:入れ替え戦 男達の戦い 前編

 二日間にわたって実施された選抜クラス入れ替え戦が終了した翌日は休校日となった。

 これは入れ替え戦に出場して、選抜クラスに入れなかった生徒への配慮である。

 彼らは、明日から行われる準選抜クラス入れ替え戦にも参加するからだ。

 フィーナ王女とティータは、決勝戦で引き分けるという好成績を収め、それぞれ席次一位と二位を確定させた。

 明日からの準選抜クラス入れ替え戦には灯入とコハル、それにエリオが参加する事になる。

 準選抜クラス入れ替え戦は、総勢三六二名によるトーナメント方式で行われる。

 灯入とコハルは席次最下位とブービーだが、参加する生徒達と実力がかけ離れていると判断されたため、シード扱いとなった。

 コハルが第一シードで、灯入が第二シードだ。

 トーナメント初日に一回戦、二日目に二回戦、三日目に三回戦が行われ、四日目に四回戦と五回戦、最終日である五日目に六回戦、準々決勝、準決勝、決勝が行われる。

 灯入とコハル以外のシード選手は今までの席次で決定され、実力者同士が早期に当たらないように配慮してある。


 準選抜クラス入れ替え戦前日の早朝、野外活動同好会のメンバー達はリゲル邸の裏庭に集合していた。

 リゲルを含めた毎朝恒例の早朝訓練だ。

 コハルや灯入はともかく、トーナメント前日くらい休めばいいものを、と、リゲルは言っていたが、エリオは頑としてリゲルの言を聞かなかった。


 コハルとの指導に近い手合いを終えて、クールダウンのストレッチをしているエリオにフィーナ王女が語りかけた。


「エリオには是が非でも三連勝してもらわねばならぬな」

「ええ、何が何でも勝ち上がりますよ。それこそ、石にかじりついてでも」


 いつもは飄々(ひょうひょう)としているエリオだったが、この時だけは決意めいた口調であった。

 フィーナ王女はリゲル邸での早朝訓練にいつもは参加していない。

 というよりは、出来ないのだが、今日だけはと城の従者に我侭を言ってリゲル邸に来ている。


「それに、三連勝してベスト六四に入っても、まだ安心できませんよ。だから最悪でも四連勝、ベスト三二を目指します」

「そういえば姫様、今回からトーナメントのルールが変わりましたわね。たしか、敗者復活方式とか」

「そうか、そうであったの。エリオの言も(もっと)もなことよ」

「ところで、今日はこれからどうしますの?」

「僕は家で本でも読んで気分を落ち着かせるよ」

「そうよの、トーイと手合わせる目的も果たしたこと。城に帰ってゆっくりするとしよう」

「トーイ殿とコハル殿はどうしますの?」


 フィーナ王女達の会話をよそに、コハルとストレッチを続けていた灯入はティータの問いに「う~ん」と少し考えて答えた。


「このところ忙しかったし、今日はコハル姉と一緒にシリルとイリスの相手でもして気分を落ち着かせるよ」

「そうですか……」


 灯入の答えに少し残念そうにしていたティータであった。


「朝食の準備が整いましたよー」


 リゲルの妻アリスの呼びかけに、この場はお開きとなった。

 明日は一回戦のみが行われ、灯入とコハルの出番はない。

 ティータは灯入やコハル、フィーナ王女と何処か出歩きたかったのだが、結局一人さみしく帰宅の途についたのであった。


 空けて翌日、いよいよ準選抜クラス入れ替え戦であるトーナメント一回戦が始まった。

 学院グラウンドに八つ並んだ試合場の端、木製の(こん)を構えて相手と向かい合うエリオの姿があった。

 前回の入れ替え戦で一回戦負けを喫したエリオは、幾分緊張した面持ちであったが、仲間たちの声援と、何よりもここ三ヶ月、灯入とコハル相手に頑張りぬいた自信からか、生まれて初めて経験する武者震いにも気後れすることはなかった。

 それがたとえシード選手相手であっても。

 エリオの席次は、席次最下位の灯入やコハルと同クラスという事もあって、最下位に近い。

 よって、初戦からシード選手とあたることは既に想定済みであった。


「初め!」


 審判の声と同時にエリオは昆を引きぎみに構えたまま走った。

 相手はエリオが格下の相手だと完全に油断していたこともあるが、エリオの間合いを詰めるスピードに付いていけなかった。

 エリオが渾身の突きを放つ。

 相手は両手持ちの木製長剣でエリオの突きを叩き落そうとするがとするが、長剣が昆に当たるより早く、エリオの突きが胸元へと決まった。

 同時にうずくまる様に崩れ落ちる対戦相手に、審判の「勝負あり!」の声が響いた。

 初戦に勝利したエリオに仲間たちが駆け寄っていく。


「おめでとう。いい突きだったよ」


 コハルの一言にエリオの瞳がひときわ輝いた。

 エリオの特訓に一番長い時間付き合ったコハルも、エリオの成長が嬉しかったし、何より、無事初戦を突破したことにほっとしていた。


「うんうん、確かに良い突きであった。だが、油断すること無きようにな」

「なんか俺嬉しいよ。エリオが頑張ってるのずっと見てたから」

「シード相手に一撃で決めるとはさすがですわねエリオ。見直しましたわ」

「ありがとう、コハルさん。それに、みんなも……」


 仲間からの祝福に少し涙腺(るいせん)が緩んだエリオであったが、目標達成まであと三戦あると気を引き締めなおすのだった。


 続く二日目、三日目はシード選手と当たらなかった事もあって順調に勝ち進んで行ったエリオ。

 二日目から登場した灯入とコハルも危なげなく勝ち進んでいった。


 エリオの目覚しい成長に、学院の教官たちは喝采を送りたかった。

 ダークホースたる位置づけであったエリオが、シード選手まで破り、圧勝を続けて快進撃を見せているのだ。

 これが、学内の席次入れ替え戦などでなく、どこかの闘技大会であったならば、観客から大歓声を受けていることだろうと。


 そして迎えた四日目、今日勝てば準選抜クラス入りが確定することになる。

 灯入とコハルは問題ないであろうが、エリオは今までに感じたことのない緊張感を味わっていた。

 今日のエリオの対戦相手は元選抜クラスで第三シードの強敵である。

 

「最下位クラスのノーシードがここまで勝ちあがってくるとは大したものじゃないか。まぁ、俺の相手じゃないだろうがな」

「僕に挑発は効かないよ。今日の僕はとても調子がいいんだ」


 試合場でエリオと向かい合う元選抜クラス選手の挑発に、もちろん緊張はしているが、少し意地を張っていつもの飄々(ひょうひょう)とした表情で挑発を返すエリオ。


「試合前に私語は慎みなさい」


 審判の注意にも二人は互いに視線を外さない。


「始めっ!」


 右に木の片手剣を構えた男は、審判の合図と共に素早く左手から、人の頭ほどの大きさの火球を放ってきた。

 エリオは間合いを詰めて昆を突き入れようと走り出していたが、飛んでくる火球を身を低くすることで避け、そのまま立ち上がりざま男の胸元めがけて突きを放った。

 男は突きを見切って、体を(ひね)るようにエリオの突きを(かわ)すと、体の回転を利用して剣を叩き込んできた。

 エリオは咄嗟(とっさ)に身を屈めながら、昆の持ち手側を男の剣に合わせ、斬撃を打ち払う。

 交錯(こうさく)する形ですれ違った二人は再び間を空けて対峙する形となった。


「ほう、ノーシードのくせに俺の攻撃を(しの)ぐとは大したもんじゃないか」

「今の攻撃には驚いたよ。剣士かと思ったら魔法剣士だったなんて。どうりで盾を持ってないわけだ」

「ふんっ、ずいぶん冷静じゃないか。()められたもんだな」

「嘗めてなんかいないさ。感心してるんだよ」

「その口の利き方が嘗めているんだ。身の程を教えてやるッ」


 男は剣に電撃を(まと)わせ切りかかってきた。

 あれを喰らえば、いや、(かす)っただけでもヤバそうだ。

 エリオはそう考えたが、体は素直に反応した。

 昆の中ほどを持ち、スピードと手数を上げることで昆の両側を使って、男の攻撃を凌ぎ続けている。

 この時、エリオは男の斬撃を凌ぎながらも自身の成長に歓喜していた。

 灯入やコハルと合う以前であったなら、きっと手も足も出せなかっただろう。

 相手は元とはいえ選抜クラスに在籍していた実力者だ。

 武の名門第一王立学院に入学できたといえ、最下位クラスに甘んじている現状から見れば、これ程の実力者と互角に渡り合えている自分に、喜びこそすれ不満などあるはずもない。


 それからの戦いは壮絶の一言に尽きた。

 両者一歩も譲ることなくせめぎ合いを続け、互いに有効打は受けていないものの、すでに満身創痍(まんしんそうい)である。

 両者共に肩で息をしている。

 男の剣にもう電撃は張り付いていないし、エリオの昆もぼろぼろになっていた。

 このまま引き分けに終わるかとも思われたが、最後は勝ちに対する執着が勝負を分けた。

 互いに避けることをせず、渾身の力で剣と昆が両者の体に叩き込まれる。

 一時(いっとき)の間をおいて男が崩れ落ちるように倒れた。

 エリオは昆を支えになんとか両足で立っている。


「勝負あり」


 試合場に審判の声が響く中、エリオは崩れ落ち、意識を手放したが、その表情には力を出し切った満足感が感じられた。

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