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魔法の国の魔法が使えない剣士  作者: 滋田英陽
第一章 ~第一王立学院初年度~
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第十三話:入れ替え戦 彼女達の戦い 後編

 第二シードのティータが準々決勝進出を決めるより少し前、第一シードのフィーナ王女も第一試合場で勝ち名乗りを受けていた。

 フィーナ王女の試合はティータのそれとは様相が異なり、フィーナ王女から打って出た。

 対戦相手はフィーナ王女より小柄で栗色ショートボブの女魔術使いであったが、フィーナ王女の攻撃を警戒して、いきなり物理障壁を展開した。

 しかし、フィーナ王女はそれにかまわず、突進からの刺突で障壁を打ち破り、木剣の切っ先を女魔術使いの眼前に突きつけ一瞬で勝負を決めていた。


 続く準々決勝もフィーナ王女、ティータ共に危なげなく勝利し、仲間達と昼食をとって部室で午後の準決勝に備えていた。

 普段は皆で明るくふざけあっている部室であるが、いつもの雰囲気とはまるで違う、ピリピリとした緊張感が空間を満たしている。

 原因を作り出しているのは、もちろんフィーナ王女とティータであるが、別に仲違いをしているわけではない。

 彼女ら二人は幼いころからの遊び友達であり、親友であり、また、ライバルでもある。

 午後に行われる決勝で相まみえることは、二人の中で既に決定事項である。

 もちろん、準決勝を軽んじているわけではないが。

 幼少の折、二人の実力は互角であった。

 だが、学院に入学したころにはフィーナ王女のほうが強くなっていた。

 しかし、ここ最近は灯入やコハルとの訓練によりティータの実力は格段に上がっている。

 もちろんフィーナ王女の実力も上がっている。

 もう、どちらが勝つか正直なところ二人にも分からないのである。

 しかし、もうすぐそれがはっきりする。

 

 灯入とエリオは、二人の集中を妨げてはならないと部室を出て行った。

 コハルもそれに続く。

 結局フィーナ王女とティータは、二人きりになっても一言も発することなく、時間だけが過ぎていった。


 準決勝は大方の予想通り、あっけなくフィーナ王女とティータの勝ちとなった。

 王立学院の理事や教官たち、学院長も二人の試合に注目していたが、ここまでの圧勝を見せられて、ほかの生徒たちとの間に実力の差がつき過ぎたフィーナ王女とティータの、実戦授業での処遇を考え直せばならんと、意見を同じくすることとなった。


 そしていよいよ決勝の時が来た。

 王立第一学院グラウンド中央の試合場を取り囲むように、四角い人垣ができている。

 人垣には、入れ替え戦が先んじて行われ、新たな席次が既に決まって落ち着きを取り戻した上級生や、学院長、理事や教官などの学院の関係者、今日の試合が既に終わった選抜クラスの生徒達と、灯入たち野外活動同好会のメンバーを見ることができる。


 豪奢(ごうしゃ)な金髪縦ロールに、白を基調としたスーツスタイルの訓練服を身にまとったフィーナ王女が、左に小楯と右に片手木剣をもって悠然と試合場に立っている。

 対して、明るい水色の長髪を少し肌寒くなった僅かな風になびかせて、木製の細剣を二本装備した、同じく白を基調としたスーツスタイルの訓練服を身にまとったティータが、一〇mほどの距離を開けて対峙している。

 向かい合う二人の中央には、紺色を基調としたスーツ姿の審判が、腕時計を見ながら試合開始の時刻を待っていた。


「どっちが勝つんだろうね」

「さあ、僕には分からないよ。コハルさんはどう思う?」


 灯入の問いかけにエリオは分からないという。


「私が見てきた感じでは、今の二人の実力は互角。勝負がどちらに転ぶか分からない」

「コハル姉が分からないというなら誰にも分からないね」

「そうかー、コハルさんでも分からないか」


 エリオの問いかけにコハルも分からないと言う。

 結局、二人の勝負はやってみなくちゃ分からない。

 それだけ二人の実力は拮抗しているのだろう、と言うのが灯入たちの見解であった。


 固唾(かたず)を呑んで観衆が見守る中、時計を見ていた審判の右手がスッとあがった。

 フィーナ王女はそれを見て右の剣を後ろに引き、小楯を前方に構えた。

 フィーナ王女のいつもの構えだ。

 対するティータも、いつもの自然体で両の腕を下げ、剣を地面すれすれに浮かしている。


「初めっ!」


 審判の声と同時にフィーナ王女とティータは前方に駆け出し、間合いが詰まる。

 既にお互いの手の内は分かりきっている。

 先手を取られたほうが不利になる。

 その思いが二人の行動に出た形だ。


 硬い木と木がぶつかる二回の甲高い音と共に、二人が試合場の中央でまみえ、動きを止めた。

 フィーナ王女の剣とティータの左の細剣、フィーナ王女の小楯とティータの左の細剣がせめぎ合っている。

 数瞬の間を空けて二人はその場から飛び退(すさ)った。

 そのまま二mほどの距離を保ったまま、じりじりと時計回りに歩を進め、互いに隙をうかがう。


「のう、レグルスよ。(ぬし)はこの勝負どう見る」

「なんだ、学院長か。俺には分からんよ。悔しいがあの二人の実力は俺とそう変わらん」

「なんと、強うなったもんじゃ」

「ああ、確かにあの二人は強い。だが、トーイはあの二人よりも格段に強い。最近ではリゲルですら歯が立たなくなっていると聞く」

「あのリゲルがのう……」


 互いに回りながら隙を(うかが)い合うフィーナ王女とティータが、平行に走り出し、剣戟を合わせ始めた。

 そんな二人の戦いから目を()らすことなく語り合うグライド学院長とレグルス剣術教官。


「フィーナ王女はリゲルについて自分よりも数段強いと言うておった。かつての全盛時よりも強うなっておると」

「悔しいもんさ、学生やってたころは互角だったのに、今では完全に差をつけられた」

「そのリゲルをも打ち負かすとはのう、トーイの奴めどこまで強うなることやら」

「でもな、姉のコハルはそのトーイですら足元にも及ばない。何処でどう修行をすればそこまで強く成れるのか、知りたいもんだぜ」

「ワシにも分からん。やつらが住んでおった異世界、チキュウと言ったか、そこに行けば分かるかもしれんのう」


 フィーナ王女とティータの戦いが始まって既に半時(はんとき)が過ぎていた。

 互いに一歩も譲らず、互いの剣を受け、払い、(かわ)す。

 観衆は時間がたつのを忘れ、吸い込まれたかのように二人の戦いに集中し、いつしか、一言とて発する者はいなくなっていた。


 戦い続けるフィーナ王女とティータの息は既にあがり掛けている。

 それでも、二人の動きに衰えは見受けられない。

 しかし、試合には必ず終わりの時がやって来る。


「このままでは(らち)があきませんわ」

「確かにそうよの。次で勝負を決めるかえ」


 試合場の中央でぜいぜいと息を切らしたフィーナ王女とティータは、一撃の勝負に出ることを心に決めた。

 一瞬の静寂の後、互いにスッと息を整えたと思った次の瞬間。

 間合いを詰め合い、ティータが両の細剣を合わせるように右から袈裟に力と思いをこめて振り下ろし、フィーナ王女は渾身の力とスピードで逆袈裟に剣を振り上げる。

 瞬間、二人の中央でぶつかり合った三本の剣は、木っ端微塵に砕け散った。

 試合場に静寂が訪れる。


 数瞬の後、審判の試合を止める声があがった。


「この試合、両者の武器損壊により引き分けとする」


 引き分けの声を聞いた観衆から大きな歓声があがり、やがて拍手へと変わっていく。

 半時をも超える戦いの末に引き分けたフィーナ王女とティータは、試合場の中央で拍手が続く中、がっちりと握手を交わした。


「次こそは決着をつけようぞ」

「とうぜんですわ姫様。ところで、引き分けだと席次はどうなりますの?」

「ふふん、学力試験の結果に決まっておろうが」


 それを聞いて、今までフィーナ王女に学力試験で勝ったことのないティータは、がっくりと肩を落としたのであった。

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