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魔法の国の魔法が使えない剣士  作者: 滋田英陽
第一章 ~第一王立学院初年度~
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第十三話:入れ替え戦 彼女達の戦い 前編

 野外活動同好会はついに席次入れ替え戦の初日を迎えた。

 いや、第一王立学院の生徒ならば誰でも迎える日なのではあるのだが。


 席次入れ替え戦は、選抜クラス選定トーナメントと準選抜クラス選定トーナメントの二回にわたって取り行われる。

 初日の今日と明日の二日間を使って、選抜クラス選定トーナメントが、一日間をおいて五日間を使って準選抜クラス選定トーナメントが実施される。

 運悪く選抜クラスから落ちた元選抜クラスの生徒と、選抜クラスに上がれなかった準選抜クラス在籍中の生徒の一部は、合わせて七日間を戦う過酷なトーナメントの始まりである。

 席次一位のフィーナ王女と席次二位のティータは、当然のことながら第一シードと第二シードなので、決勝まで勝ち上がらないとぶつかる事はない。

 また、シード選手は二回戦からの出場なので、今日の第一日目は午後から試合が行われる。

 選抜クラス選定トーナメントは、初日三回戦まで実施されベスト三二が決定、同時に先日行われた進級学力試験の得点により上位三十人が決定され、選抜クラスメンバーが確定する。

 灯入とコハルそれにエリオは一般クラスなので、今日明日の試合は無い。


「いよいよ始まるの、ティータや決勝で(あい)まみえようや」

「今日だけはわたくしが勝たせていただきますわ、姫様も途中で不覚など取らぬようお気をつけ遊ばせ」

「ほう、よく言う。覇気が伝わってくるようやのう」


 フィーナ王女とティータの雰囲気がいつもとは違っていた。

 不遜な笑みを互いに向け合っている。

 今日だけは、二人の戦いが終わるまでは敵同士といった感じだ。

 フィーナ王女とティータは幼いころからの遊び友達であり、良きライバルでもある。

 共に負けん気が強くプライドが高い。

 そんな気性が彼女ら二人の今の雰囲気を作り出している。


「き、今日はお二人ともすごい気合の入りようですね」


 二人の雰囲気に当てられた灯入が、オロオロしながら二人に話しかけた。


「前回の試合では姫様に勝ちをお譲りしましたけど、今日はわたくしが勝つと決めておりますの。トーイ殿ともあれほど手合わせいたしましたし」

「それはわたしも同じこと、格の違いを思い知るがよい」

「まぁまぁ、お二人とも気を落ち着けて」


 二人の言い争いに割ってろうとしたエリオだったが。


「おのれは自分のしんぱいでもしておれ」

「なにかありまして」


 彼女達にズイと顔を寄せられ、睨み付けられている。

 が、そんなことで腰が引けるエリオではなかった。


「ええ、今日はどれだけ勝ち進んでも、お二人の対戦はありませんよ」


 エリオの冷静な一言に「はっ」と気がついて、赤面しながら取り繕おうとするフィーナ王女とティータであった。

 

「そそそんなことは分かっておりましたわ。ねぇ、姫様」

「そ、そうよの」


 エリオは「今日は私が勝つ」と確かに言ったティータや、その間違いに気づかず対抗していたフィーナ王女に、それ以上突っ込もうとはしなかった。

 これ以上この二人に突っ込むと痛い思いをするのは、過去に経験していたからである。


 学院のグラウンドは八に区切られた試合場となっており、既に一回戦の試合が始まっている。

 午前中に試合の無いフィーナ王女とティータは、いつもの面子で部室に行って時間を潰し、午後の試合に備えた。

 

 そして迎えた選抜クラス選定トーナメント二回戦、フィーナ王女とティータは順調に勝ち上がり、三回戦ベスト三二へと駒を進めた。

 二人の試合は圧倒的大差というか、相手が何もできないままに勝負が決してしまい、彼女ら二人は少し物足りなさを感じていた。

 が、実際は相手の二人が弱すぎたのではなく、彼女ら二人が強くなりすぎていたことがその理由であった。

 彼女らは、明日の四回戦以降になってこの事実に気が付くことになる。

 三回戦も順調に勝ち上がったフィーナ王女とティータは、無事ベスト一六の入って選抜クラス残留を決めていた。


「二人ともお疲れ様。選抜クラス残留、とりあえず決まってよかったね」


 灯入による(ねぎら)いの言葉に、フィーナ王女とティータはさも当然のごとく言い放った。


「選抜クラス残留ごときでは喜べぬ、けれど、そなたの労い嬉しく思う」

「あ、ありがとう。これも灯入殿のおかげ、明日のわたくしを見ておいてください」


 フィーナ王女は少し誇らしげに、ティータは少し恥ずかしそうに灯入の労いに答えた。


 翌日、今日は午前一八時から三回戦、一九時から準々決勝、昼食休みを挟んで午後一時から準決勝、二時から決勝と三位決定戦が行われる。

 第一シードのフィーナ王女が第一試合場、第二シードのティータが第八試合場なので両方を観戦することはできない。

 そういうことなので、灯入はエリオと共に第八試合場でティータの試合を、コハルが第一試合場でフィーナ王女の試合を観戦することになった。


「ティータさーん、頑張れー」


 突然灯入があげた声援に、試合開始前のティータはとても恥ずかしそうに、でも少し嬉しそうに照れていた。

 ティータの試合を観戦しようとしている、既に昨日敗退が決まった選抜クラスのクラスメイトたちは、始めて見るティータの照れたしぐさに、少し驚いているものもいる。


 教官たち審判団が試合場に現れると、グラウンドはには静寂が訪れた。

 小柄で華奢に見えるティータは、風になびく明るい水色の長髪を気にすることも無く、細身の木製細剣を両手に持ち、両腕を下げて自然体で構えている。

 この構えはコハルの影響による所が大きいのだが、ティータ自身もスピードと手数で戦うタイプなので、この自然な構えが気に入っている。

 対して、銀髪でがっしりした体格の対戦相手は、入学試験時の準決勝で対戦した経験がある両手剣使いの男で、ティータより頭二つほど高い大男である。

 傍から見ればティータがこの大男に勝つのは非常に困難というか、勝負になるのだろうか? というのが正直な感想になるのだろうが、前回はかろうじてながらティータが勝利を収めている。

 したがって、銀髪の男のほうにも、ティータにも油断は見受けられない。

 素の体力に、魔力による身体強化や神経強化を合わせた強さで、戦闘能力が決まるトリスティアの人々であるが、一般的には魔力神経がより発達している女性のほうが、魔力が強い傾向にあり、素の体力に勝る男性と魔力に優れた女性とでも、互角の勝負が行えるのである。


「始め!」


 審判の合図により試合の開始が宣されたが、二人は動こうとせず、互いに相手の初動を探り合っている。

 どれほど時が流れただろうか、動かないティータに男が(しび)れを切らしたかのように、剣を横手に引いて間合いを詰めるように走り始めた。

 かのように、観戦しているクラスメイトには見えたことだろう。

 だが、実際はティータの構えに全く隙が見出せない男のほうが、焦って飛び出していたのだ。

 常日頃から灯入やコハルの動きに目が慣れているティータには、男の動きがあまりにも隙だらけであり、トロくさく感じていた。

 間合いが詰まって、男の剣が逆袈裟に切り上げられる。

 ティータは右足を一歩引いて、左の細剣で逆袈裟に切りつけてくる男の両手剣を弾き飛ばしていた。

 あっけにとられて動きを止めてしまった男の首筋に、右の細剣をそっとあてがったティータを見て、審判は「勝負あり」とティータの勝ちを宣言した。


 一瞬の静寂の後クラスメイトから悲鳴のような歓声が上がる。

 灯入とエリオがティータに駆け寄って祝福の声を掛けた。


「おめでとうティータさん、良い動きだったよ」

「あ、ああ、ありがとうトーイ殿」


 灯入の祝福に今の試合で何か感じ取ったように、そっけなく返事をしたティータであったが、彼女はこのとき初めて自分が強くなっていることを理解した。

 銀髪の大男や今までの対戦相手がが弱かったわけではない。

 彼女自身が、圧倒的に強くなっていたのだと。


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