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魔法の国の魔法が使えない剣士  作者: 滋田英陽
第一章 ~第一王立学院初年度~
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第十二話:入れ替え戦へ向けて

 灯入たちが王立学院生活にも慣れて一〇月の半ばに差し掛かっていたころ、王都ではとある問題が顕在化していた。

 麻薬であるアシェ所持による逮捕者が急増していたのである。

 王国軍はこの問題に振り回され、ティータの父親でもあり、捜査の指揮官でもあるカノープは帰宅もままならないほどの忙しい生活を送っていた。

 その甲斐もあって、王国軍はアシェ流通量の急増原因や密売組織の規模や構成メンバーを、徐々にではあるが特定しつつあった。


 そんな折、近衛隊隊長室で深刻な表情で話す二人の人物がいた。


「隊長、少々困ったことになってきております」

「どうした、リファ」

「アシェの使用者数及び逮捕者数がこのところ急増しているのはご存知ですよね?」

「ああ、報告があがってきている。が、どうした?」

「使用者数及び逮捕者数急増の理由が判明しました。アシェ蔓延最大の原因は中和薬なんです」

「何ぃ!? どういうことだ」


 トリスティア人は地球人類にはない魔力神経系を保有しており、それを通して魔術や身体強化などを使用している。

 アシェはその魔力神経系に作用して高揚感、多幸感、酩酊、鎮痛、幻覚などをもたらす麻薬である。

 依存性は高く、また、効果が切れた後の倦怠感やその他副作用の症状も重い。

 服用されたアシェは長期間体内に存続し、使用を続けると、副作用として魔力神経系だけに止まらず魔力神経に圧迫された通常の神経系も少しずつ損傷していく。

 ところが、アシェの効果が切れると同時に灯入たちの血液から作られた強力な中和薬を服用すると、体内に残ったアシェの成分がほぼ全て中和されて副作用が緩和される。

 それでも魔力神経系や通常神経系の損傷は蓄積されていくのだが。

 元来、既存の中和薬を使用したアシェ中毒の治療は、施設に入り強制的にアシェ服用を止め、長期間の中和薬の服用を続けるとても辛いものであった。

 王国軍のキャンペーンにより、アシェ中毒の辛さが国民に知らされていたため、誘惑に負けてアシェを服用する者は少なかったが、強力すぎる中和薬の登場により、安易にアシェに手を出すものが増えたのである。


「アシェと灯入たちの血液から作った強力な中和薬がセットで密売されています」

「あの中和薬は国が管理していて、王立薬物依存症治療院でなければ手に入らないはずだが」

「治療院に潜入していた密売組織のメンバーが保管されていた一部の中和薬を持ち出したようです。一部と言ってもかなりの量になりますが」

「治療院は国の組織だぞ、そんな所にまで潜り込んでいるのか」

「ええ、侮れない連中です――」


 リゲルがそんな話をしているころ、灯入たち野外活動同好会のメンバーは、数日後に迫った席次入れ替え戦に向けての特訓を行っていた。

 なお、学力で行われる進級試験はすでに終わっており、野外活動同好会全員の第二学年進級が確定している。


 入れ替え戦はまず、選抜クラスと準選抜クラスでトーナメントを行う、上位一六人はこの時点で選抜クラス入りが確定する。

 トーナメントでベスト一六入りを逃したベスト三二の中から、学力試験で一七位から三〇位が選ばれ選抜クラスが確定する。

 次に選抜クラスに入れなかった元選抜クラス及び準選抜クラスと一般クラスで、トーナメントを行い上位三二人が準選抜クラス確定となる。

  トーナメントでベスト三二入りを逃したベスト六四の中から、学力試験で三三位から六〇位が選ばれ準選抜クラスが確定する。

 残りは一般クラスとなる。


 例年の席次入れ替え戦は、このようにしてつつがなく執り行われてきたが、灯入とコハルが編入した今年の席次入れ替え戦を実施するに当たって、一般下位クラスの学院生は元より教官たちからも異論が上がった。

 トーナメントで灯入やコハルと当たる学院生がかわいそうで不公平だと。

 当然ながら、席次によるシード枠は設けられているが、成長著しいこの時期の学院生の実力は席次が示す通りとは限らない。

 ノーシードの学院生でも飛躍的に実力を上昇させた者がいるかも知れない。

 この問題は学院理事会にまで持ち上げられた。

 ある武闘派の理事は運も実力のうちと、例年通りのトーナメント開催を主張したが、穏健派の理事達や学院長の、本当に実力ある生徒の希望を絶つことになりかねない、今までのやり方を変えるのもまた、学院の発展、しいては国力の増強に寄与するのではないかという意見により、今回の席次入れ替え戦から敗者復活方式のトーナメントが行われることになった。


 灯入とコハルの実力は折り紙つきで、野外活動同好会のみならず、一般下位クラスにまで浸透している。

 彼ら二人の準選抜クラス入りは確実であると。

 フィーナ王女もティータも選抜クラス落ちはまず有り得ないだろう。

 そんななか、不確定要素の多いエリオの実力を底上げすることが野外活動同好会の急務となっていた。

 べつに、エリオ一人一般クラスであろうと、野外活動同好会の活動に支障をきたしたりすることは無いと考えがちであるが、魔獣(うごめ)く山野での活動計画を学院側に了承させるためには、同好会員の学院内席次は少しでも高いほうがいいのである。


 今日も野外活動同好会のメンバーは学院の訓練場で特訓をしていた。

 訓練場には試合着に着替えた学院生たちが、入れ替え戦へ向けて練習を行う姿が多く見られる。

 なお、フィーナ王女もティータも油断していては不覚を取りかねないので、怪我をしないように軽めの調整を灯入相手に行っている。

 傍から見ればとても調整には見えないのだが、フィーナ王女もティータも調整と言い張っていた。

 そんなことでエリオの特訓相手は、コハルが務めていた。

 当然、コハルのことを少なからず思っているエリオが特訓相手にコハルを希望、というよりは懇願(こんがん)したこともあったのだが。

 コハルはトリスティア人からすれば圧倒的な強者であるが、同時に人にものを教えることに関しても超一流である。

 避難船生活の一年で剣術に関してずぶの素人だった灯入を、王国で名の知れた剣術使いであるリゲルと同等の実力まで押し上げた実績もそれを物語っている。


「今の払い、中々良かったよ。でも、払い終の後に隙がある。払いから突き、突きから受け、動きを止めずに体を動かしなさい」


 コハルはエリオの癖、筋肉の動きなどを瞬時に判断しながら的確な指示を出し、刀でエリオの持つ槍を誘導しがら特訓の相手をしている。

 元々エリオは魔術メインの戦闘スタイルであったのだが、伸び悩んでいたために持てる魔力のほぼ全てを身体強化や神経強化に割り振った、槍術メインの戦闘スタイルに変更していた。

 当初は両手剣を使用していたが、同好会の中で灯伊と被る両手剣よりは、間合いの遠い槍のほうがチームのバランスが取れるからというのが変更の主な理由である。


「遅い!  間合いと突きのタイミングが合っていない」

「クッ、もう一本」


 踏み込んで放たれたエリオの突きを、コハルは右の刀で払うようにいなして間合いを詰め、左の刀の峰で軽く打ち据える。

 立ち上がったエリオは、まだまだと言わんばかりの闘志を見せて槍を構え、再びコハルと対峙した。


「エリオの奴め、いつもの飄々(ひょうひょう)とした雰囲気とは()な感じよの。目が生き生きとしておる」

「ええ、姫様。わたくしたちも負けてはいられませんわ」

「さあ、トーイ殿。わたしもまだまだ調整が足りぬ。遠慮なく相手してたもれ」

「わたくしも、まだまだですわよ」

「俺の体も温まってきたよ。フィーナ王女、ティータさん、何処からでも掛かって来い」


 灯入は思った。

 このすばらしい仲間と共にすごす、この幸せな充実した時間が、いるつまでも続くように……


 野外活動同好会の席次得れ変え戦に向けた特訓はこうして続けられた。

 そしてついに、入れ替え戦の当日を迎えるのであった。

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