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魔法の国の魔法が使えない剣士  作者: 滋田英陽
第一章 ~第一王立学院初年度~
14/33

第十一話:合宿 後編

 合宿とは名ばかりのキャンプ生活二日目。

 朝練を終えて軽い朝食を済ませた野外活動同好会一行は、長い砂浜の端にある小磯(こいそ)みたいな岩場まで来ていた。

 岩場では巻き貝や(かに)などが捕れるし、絶好の素潜りポイントでもある。

 リゲル一家の子供たちは母アリスと共に、さっそくバケツ片手に巻貝捕りをはじめている。

 本来地球人の感覚では、磯や岩場で遊ぶ場合は怪我をしやすく、手袋に厚底の靴、長袖長ズボンというフル装備が安全なのだが、ここトリスティア人の感覚は違う。

 トリスティア人は魔力による身体強化が使えるので、岩場で切り傷を負ったりすることがまず有りえ無い。

 巻貝捕りをしているレグルス家の三人含め全員が水着にサンダル履きだ。


 同好会のメンバーは釣り組と素潜り組に分かれた。

 リゲルとレグルスは釣り勝負をするということで釣り組、これにエリオも参戦した。


 海が大好きな灯入はコハルと共にもちろん素潜り組だが、なんとフィーナ王女も素潜り組になった。

 リゲルは心配なのか渋い顔をしていたが、コハルに姫様から目を離さないでくれと頼んでいた。

 当初はティータも姫様が潜るのならわたくしも、と言って素潜り組に志願したが、フィーナ王女の、そなたは泳げねではないか、の一言で渋々と釣り組に回り、エリオに釣りを教わっている。

 

 コハルは一人で突き進もうとするフィーナ王女の後を追い海に入っていった。

 フィーナ王女は旺盛な好奇心をいかんなく発揮し、海中の岩礁をものともせずに泳ぎ魚を追い回している。

 ダイビングのプロでもなければ、このフィーナ王女の自由奔放な動きに追随することは困難であろうが、コハルは苦にする様子もなくフィーナの後に続いていた。

 しかも、ときどきフィーナが取り逃がした魚を器用に突き捕っている。


 昨日はリゲルやレグルスと張り合って、魚突きに精を出した灯入であったが、今日の装備はゴーグルのみである。

 手にモリは持っていない。

 魚捕りはフィーナ王女らに任せて、海中遊泳を存分に楽しむつもりである。

 灯入が今日潜っている場所は純然たるサンゴ礁とは違い、ゴツゴツ海底から突き出た岩肌からはサンゴやイソギンチャクが生え、岩の(ふもと)の僅かな白い砂場からは海藻が伸びて潮に揺らめいていた。

 泳いでいる魚たちはサンゴ礁とあまり変わらずカラフルであるが、岩場特有の武骨な魚も見受けられる。

 昨日、砂浜沖合のサンゴ礁に潜ったときに、沖縄の海に初めて潜って感動した事を思い出したが、今日のこの海中の景色もまた、沖縄の海に引けを取らない。

 時折、魚を探しながら岩の間を器用に泳ぐフィーナ王女を追いかけるコハルと、ゴーグル越しに目があったりしながら、灯入は岩場での海中遊泳を楽しんだ。


 一方、エリオと釣りをしているティータは、一向に釣れないことに少し苛立ちを覚えていたが、エリオの思いがけない一言に思わず釣竿を海へ落としそうになった。


「釣れないねー、ところでさぁ、ティータは最近なんだか丸くなったね。好きな人でもできた」

「なっ、な、何をおっしゃいますの」

「その慌て方からすると図星ですか?」

「わ、わたくしは慌ててなどおりません。そんな事より、エリオはずいぶんコハル殿にご執心のようですが――」


 話題を変えてこの場を(しの)ごうとしているティータだったが、エリオの問いかけに否定の言葉は出ないのであった。


 漁を終えて岩場からテント前に戻った女衆は、フィーナ王女とコハルが捕まえた大量の魚を(さば)いている。

 リゲルたち釣り組の成果は無かったようだ。

 これは、フィーナ王女が海中で縦横無尽(じゅうおうむじん)に泳ぎ回った結果が反映されたもようである。


「ティータや、この魚の(うろこ)というのはどうしてこうも取れにくいのか」

「姫様、コハル殿のナイフ捌き。あれは参考になりますわよ」

「あ、あれを参考にせよと申すか。わたしには無理、いっそコハルに任せようや」


 コハルの人間業とは思えないナイフ捌きは、共に魚を捌いていたフィーナ王女のやる気を根こそぎ奪っていった。

 ティータはせめて一匹だけでもと言って作業を続けて、なんとか一匹捌き終わったが、そのころにはすべての魚がコハルによって捌かれていた。

 捌かれた魚は、とても一日で食べきれる量ではなかったので、お土産に持って帰ろうと言うことになり、今日頂く分以外はコハルが開いて干物にしてしまった。


 男衆が火を起こし、コハルによって捌かれた魚と巻貝を網焼きにしていく。

 魚の焼ける香ばしい匂いにつられて、やいのやいのとコハルのナイフ捌きを賞賛していたリゲル一家とフィーナ王女、それに、悪戦苦闘が終わったティータが集まってきた。


「ハフ、ハフ、天然の塩味の効いた焼き立ての魚のなんと美味なことか、そう思わんかティータや」

「はむ、姫様こちらの巻貝も独特の味がして美味しゅうございますわ」

「トーイさまもイリスの捕った貝食べて食べてー」

「うん、食べてるよ。んー、美味い。やっぱり、捕れたては最高だよイリス」


 などなど、会話も食も進み最高の合宿(バカンス)を満喫している野外活動同好会ご一行様。

 昼食後は昼寝をするもの、砂遊びをするものなどそれぞれ楽しんでいる。


 最初、イリスとシリルの二人で作っていた砂山作りに、フィーナ王女とティータが参加して、砂山作りから次第に方向性が変わっていった。

 砂山がいつのまにか城っぽいものに変わり、さらにコハルが参加してフィーナ王女が指揮を執り始める。

 イリスとシリルはその光景を見てスゴイスゴイとはやしたて、ついには人の身長ほどもある王城の砂細工がそこに誕生していた。

 いつの間にか、海水浴やバカンスに来ている人観光客なども集まっていて、完成と同時に大歓声が上がた。

 さらには、これはいいぞと言い出したリゲルがカメラを持ち出してきて、砂城をバックに合宿メンバーでパチリと記念写真を撮影した。

 ここトリスティアにも写真があったのだ。

 感光に一部魔術が使用されているが、原理は地球のポラロイドカメラと変わらない。

 リゲルによると、フィルムがやたらと高価なので滅多なことでは使用しないとの事だ。


 写真撮影が終わって、観光客達の騒ぎがひと段落したころ、海水浴場来では恒例? のイベントが発生した。

 いわゆる、ナンパというやつだ。

 砂城の横で話し込んでいた女衆に、現地のチャラい野郎共がお決まりの台詞吐いてきた。


「ねぇ、ねぇ、お姉ちゃん達可愛いねー。今からオレ達と楽しいことしちゃわない」


 女衆は完全に無視を決め込んでいたが、軟派野郎の一人がコハルの肩に手を掛ける。

 が、コハルに手首を決められ、膝を着いた顔面にフィーナ王女の蹴りが炸裂した。

 灯入は、あっちゃー、という思いで様子を見ていたが、コハルとフィーナ王女の反撃に切れた軟派野郎たちが砂城を蹴り壊したり、喚き散らし始めた。

 最悪なことに、これを見ていたイリスとシリルが泣き出してしまう。

 これに怒ったのがリゲルだ。

 城を蹴り壊した男に、殴りかからんかという鬼の形相で近づいていく。

 しかし、リゲルより先に行動を起こした人物がいた。

 灯入だ。

 この時、灯入は完全に切れていた。

 兄のように慕ってくれるシリルとイリスを泣かし、かけがえのない仲間達が作った砂城を壊され、親のように親身になってくれるリゲルを怒らせた。

 リゲルより先に砂城を蹴り壊した男の胸倉をつかみ、そのまま左手の腕力だけで壊れた砂城の上に押し倒し、右手を振りかぶったところでコハルから叫ぶような静止が入った。


「灯ー入っ!! ダメっ、そのまま殴ったら死んでしまう」


 コハルの叫びに、灯入はハッとしたように我に返る。

 男は灯入の左腕を必死の形相で振り解こうとするが、微動だにしない。

 コハルの叫びに少しだけ冷静さを取り戻した当為であったが、男をそのまま左腕一本で胸倉を掴んだまま、天高く掲げ上げると、振り払うように投げ捨てた。

 そのほかの男たちは同好会のメンバー達に組み敷かれ、その圧倒的な腕力の差にわなわなと震え上がっていた。

 

 結局、最後は最初に声を掛けてきた男が恐怖に震えながらも謝り倒し、灯入たちは彼らを不問したのだった。

 後味が悪い結末だったが、砂城が崩れる前に撮った記念写真があるからとアリスに慰められていたイリスとシリルの笑顔に救われた灯入であった。

 気分が落ち着いたところで夕食を頂き、リゲルたちは思い出を持って王都へと帰っていった。

 こうして、合宿二日目の長い一日は終わりを告げた。


 一晩ぐっすり寝て気分を一新した灯入たち同好会のメンバーは、朝錬の後朝食をとって合宿を締め、帰路に就いたのだった。



 




 

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