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魔法の国の魔法が使えない剣士  作者: 滋田英陽
第一章 ~第一王立学院初年度~
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第十話:合宿へ向けて

 キャンプから帰宅した夜、ティータは自室のベッド上で自問していた。

 トーイという男、話してみた感じでは一言でいうと凡庸。

 強いという噂はあったが、それほどのものかとの思いもあった。

 対峙してみても強者にみられる押しつぶされるような威圧感はない。

 だけど、一部の隙も見せない構えに、どこに打ち込んでも返される気がしたし、実際そうだった。

 いざ戦ってみると自分が足元にも及ばないことに気づかされた。

 自己主張をあまりせず、普段は姉に頼り切ったような情けない男に見えるが、あの男こそ強者、魔力を感じない分余計にそれが強調される。

 もっと戦いたい。

 もっとあの男について知りたい。

 そうすれば――


 終業後の野外活動同好会部室には、メンバーが勢ぞろいしていた。

 

「姫様、筋肉痛がひどくて体が言うことを聞きませんわ」

「言うな、わたしも同じよ」

「なんだー、情けないなぁ、二人とも」

「そういう教官殿もずいぶんと顔が引きつっておるではないか」

「本当ですわ、強がりも程々になさいませんと――」


 筋肉痛がひどい武闘派三人組はやいのと言い争いをつづけたのだが。

 結局、まともに動けないと言うことで今日はお開きとなった。

 フィーナ王女はいつもの優雅な歩き方には程遠い角ばった動きで、先に帰ると部室を後にした。

 レグルス、エリオもそれに続いた。

 灯入も、さて帰ろうかと立ち上がりコハルが続こうとしたところで、まだ残っていたティータが灯入を呼び止めた。


「と、トーイ殿、折り入ってお話したいことがあるのですが……」


 コハルは気を使って部室を出ようとしたが、「コハル殿もお聞きになって」の一言で席に戻った。


「トーイ殿はなんでも、毎朝コハル殿とリゲル殿三人で手合わせをなさっているとか。そ、その、できればですが、わたくしもご一緒させてはもらえないでしょうか」


 要するに、ティータも灯入たちの朝錬に混ぜてほしいと言うことである。

 ティータの願いに灯入は少し考え込んだが、俺は問題ないけど居候の身だからリゲルさんに聞いてみるよ。

 と言ってコハルと共に部室を後にした。

 ティータは痛む足を引きりながら、それでも背筋を伸ばしてほっとした表情で家路へとついたのであった。


 灯入は帰宅した夜、リゲルにティータのことを話した。

 リゲルは「カノープの娘か」と灯入には分からない人物の名前を出して考え込んでいたが、結局OKを出した。

 翌日の帰り際、ティータにこのことをそっと耳打ちすると「ありがとう灯入殿」と言って(こぼ)れんばかりの笑顔を披露してくれた。

 それからの灯入は、毎朝ティータと朝錬するようになった。

 そしてなんと驚いたことにエリオまで朝錬に来るようになったのである。

 エリオは魔術の方が得意なのだが、すべての魔力を身体強化にまわすことで不足がちな筋力の穴を埋めようとしていた。

 それはエリート校の第一王立学院に晴れて入学したエリオであったが、魔術だけでは現状最下位クラスがせいぜい。

 このまま(くすぶ)るくらいなら、いっそのこと攻撃魔術を伸ばすよりも、身体強化と神経強化に特化した魔力運用を伸ばしてみるのも現状を打開する糸口になるのではと考えたからだった。

 さらにエリオにはもうひとつどうしてもやり遂げなくてはならないことがあった。

 それは、コハルと仲良くなることである。

 こうして、野外活動同好会は武闘派集団としての道を歩んでゆくことになったのである。


 そんな感じで数日が過ぎた休日の午後、灯入はコハルと共にリゲルに連れられて近衛隊の詰め所に来ていた。

 リゲルの話によると、ここ最近王都で麻薬であるアシェの使用者が増加しているらしい。

 実はこの話、灯入はティータからも聞いていたことである。

 ティータは父親から、最近アシェ中毒者が増えているから注意するように言われていたのである。

 ティータの父親カノープは王国軍の中将であるのだが、彼が今指揮を執っているのがこのアシェの密売組織を捜査、壊滅させる作戦だったのである。

 カノープの仕事の内容は軍事機密であるからティータには知らされていないが。


 アシェはトリスティア人のもつ魔力神経に作用する麻薬であるが、その中和薬は魔力が弱い人の血液とアシェの粉末を混合したものにとある処理を施したものらしい。

 中和薬精製に使う血液は、含まれる魔力が弱ければ弱いほど薬効が強く、少量の血液で大量の中和薬を作ることが出来る。

 魔力を全く持たない灯入たちの血液を使えば、より薬効の強い中和薬が大量に作れる可能性がある。

 アシェ中毒患者の増加により、中和薬が不足気味な今、血液の提供に協力してほしいと言うことである。

 灯入たちはこのリゲルの申し出を快く引き受けた。

 コハルはアンドロイドであるが、体細胞を維持するためには血液が必要であり、コハルの体内にも人と変わらない血液が流れているし、心臓もある。

 灯入たちから提供された血液を使ったアシェの中和薬は、結論から言うと極めて強力な効果をもたらした。

 魔力の低いトリスティア人の血液を利用して作った今までの中和薬の数百倍の効果があったそうだ。

 アシェの麻薬成分と血液が反応するときに、血液中に残った魔力が反応を阻害するらしい。

 ところが、灯入たちの血液には全く魔力が存在しないので非常に純粋で強力な中和薬ができたのだった。

 この中和薬を使えばアシェ依存症で苦しんでいる、多くの中毒患者を更生させることができるとの事で、灯入とコハルは感謝されることとなった。

 しかし、このことがそう遠くない将来、灯入とコハルをとある事件へと巻き込んでいくことになる。


 野外活動同好会の目標の一つであるハンター免許の試験まで二ヶ月となった七月の某日、灯入とコハルがトリスティアの地を踏んで一ヶ月が過ぎた日の放課後、部室に集まった灯入たちメンバーの一部は、学内で行う剣術と体術の訓練に早くも飽きてきていた。

 灯入にしてもトリスティア王国での生活に慣れてきた事だし、トリスティアにあるいろんな事を見てみたい、体験してみたいとの欲求が強くなってきていた。

 また、最近は戦ってばかりでゆったりとした寛げる時間をすごしたいとも考えていた。

 あれほど灯入たちとの手合わせを望んだフィーナ王女でさえ「なにか、もっと刺激がほしいのう」と言い出す始末である。

 フィーナ王女もティータも灯入たちとの訓練で着実に実力をつけていることは実感しているし、満足もしている、もっと強くなりたいと言う欲求もある。

 だが、彼女らは飽きっぽいのもまた、その性分であった。

 さらに、次の休日から十日間は年に二回ある安息週間となっている。

 何かイベントを企画したいが、キャンプを既に実行しているので、それ以外のこと考えることしかフィーナ王女の頭にはなかった。


「気分転換に海水浴にでも行きますか?」


 そんな時に灯入の口から出た一言にフィーナ王女の記憶が呼び戻された。

 野外活動同好会結成時に配った紙に自分で書いていたではないか。

 そして即座にフィーナ王女は言い放った。


「次のイベントは今決まった。海辺でのキャンプ合宿を決行しようとおもう。異論は受け付けぬからの」


 こうして灯入たち野外活動同好会の安息週の予定が決まったのである。


 このときティータはフィーナ王女とは違う意味で気合が入っていた、というか悩んでいた。

 海辺でのキャンプ合宿ならば当然、海に入ることになるだろう。

 しかし、実は、ティータは人前で水着姿になったことがない。

 というより、泳いだことすらない。

 それに、他のメンバーは泳げるのだろうか、灯入やエリオ、ましてやレグルスの前で水着姿になるのは恥ずかしい。

 さらに、どんな水着を選ぼうか、フィーナ王女に相談してみようか、と、この日から数日間悩み続けることになったティータであった。

 

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