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魔法の国の魔法が使えない剣士  作者: 滋田英陽
第一章 ~第一王立学院初年度~
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第九話:湖畔にて 後編

 狩りから帰ってきた灯入たち同好会メンバーは軽い休憩の後、昼食の準備に取り掛かる。

 メニューは軽くあぶったシルドのもも肉と野草のサラダ、デザートは果実だ。

 採ってきた野草を洗い、手でちぎってボールに入れ、軽く酢と塩をふってサラダにする。

 パチパチと燃える薪の炎に、軽く塩を振って串に刺した大ぶりの桃肉をかざし遠火であぶる。

 肉汁が滴り焼きあがった肉の表面をナイフでそぎ落とし、各人の皿に分けてゆく。

 それを数回繰り返し、最後に串に残った肉にぱっと塩を振ってレグルスが噛り付いた。


「うんめー! 何度食っても最高だぜ、新鮮なシルドの肉はよう」

「まあ、なんてお下品な。でも、美味しそうですわね。わたくし達も頂きましょう」


 ティータの一言をきっかけに湖畔での昼食が始まった。


「それにしても、むぐむぐ、ん、このシルドと言いましたか、とっても美味でしてよ。姫様も召し上がれ」

「ほんと、うっまいわ! これ、コハル姉も早く食ってみ」


 早速シルドの肉をほお張ったティータと灯入の台詞に、フィーナ王女とコハルもシルドの肉を食べ始めた。

 エリオとレグルスは一心不乱に食べ続けている。

 コハルは灯入に微笑んで食べ始めた。


「ティ、ティータがそれほどいうなら、わたしも食べてみようか……」


 シルド解体時の映像がまだ脳裏にこびりついていたフィーナ王女は恐る恐るではあるが、一切れフォークで上品に口に運んだ。

 フィーナ王女は口元を手で隠しながらもぐもぐと咀嚼(そしゃく)している。


「これほど美味なものは食うたことがない」


 驚きの表情で目を見開いたフィーナ王女は、美味い美味いとシルドの肉を完食したのであった。


 食事の後は茶を(たの)しみながらいっとき(くつろ)いで、昼寝をするもの、湖で釣りを楽しむ者など、皆思い思いの時間を過ごした。

 日が落ちて夜になると焚き火を囲いシルドの焼肉と内臓と野草の鍋、釣れた魚の串焼きなどを、わいわいとやりながら楽しむ。

 食事中は、灯入とコハルの故郷の話になったが、灯入が西暦二三〇〇年代前半の学生生活を当たり障りのない範囲で話していた。

 話の途中で危うくなると、コハルがうまい具合にフォローを入れるので窮地に陥ることはなかった。

 そのころ、対岸には双眼鏡片手にぶつぶつと文句を言い合いながら、寂しく携行食を咀嚼する二人の中年男の姿があった。


 初めてテントで眠ることになったフィーナ王女とティータは興奮してなかなか寝付けなかったが、あくる早朝、剣戟の音で目覚めた。

 二人して何事ですのとテントから這いずり出れば、灯入とコハルが日課となった朝食前の手合わせをしているところだった。

 レグルスは腕を組み、じっと二人の手合わせに見入っている。

 寝ぼけ眼を擦りながらも起きだしてきたフィーナ王女は、二人の手合わせを見て、思い出した。

 自分は何のためにこのキャンプを企画したのか。

 普段の王城での窮屈な生活、それに比べてなんと楽しいひと時だったか。

 それが、本来の目的を忘れさせた。

 だが、もうそれも関係ない。

 目の前で繰り広げられる二人の剣さばき、技のきれ、スピード、追い求めたものがそこにある。

 剣を合わせる灯入とコハルを見たフィーナ王女は、いてもたってもいられなくなった。

 その時二人の動きが止まった。

 待ち焦がれたこの時を逃すフィーナ王女ではなかった。

 灯入とコハルに声をかけようとしたレグルスに先んじて、フィーナ王女が灯入たちの元に駆け寄る。

 右手には片手剣を、左手には小楯をすでに装備している。


「わたしとも、手合わせしてたもれ」


 それは、迷いのない真っ直ぐな言葉だった。

 その言葉に灯入が吸い込まれるように応じる。


「よろこんでお相手いたしましょう。王女様」


 灯入のその言葉にコハルは刀を納め、すっと、後ろに下がった。

 灯入とフィーナ王女が対峙する。

 フィーナ王女は腰を落として小盾を前にかざし、剣を後ろに引いている。

 灯入は力みなく正眼に構えている。

 以前に灯入とレグルスの戦いを見ていたフィーナ王女は、眼前の灯入やコハルと戦う場合、先手を取られては不味いと考えていた。

 自分が先手を取らねばいいようにやられる。

 簡単に打ち負かされる。

 だから、先に仕掛けなければ。

 そう考えた。

 だが、眼前の灯入を見ても隙が見出せない。

 今打ち込めば全て返される。

 でもこのままじっとしていても灯入に先手を取られてしまう。

 だから…… フィーナ王女は動いた。

 前傾姿勢をとり、小楯に身を隠し、自分の間合いまでもてる力の全てを持って走った。

 灯入の刀が、すっと、上に上がり、そして振り下ろされる。

 フィーナ王女にはそれがはっきりと見えた。

 小楯で振り下ろされた刀を受け流し、同時に右手の剣で灯入の首を薙ぎに行く。

 しかし、そこに灯入の首は無かった。

 灯入はフィーナ王女の剣を身をかがめてやり過ごし、立ち上がり様にフィーナ王女の脇に抜け、受け流された刀をそのままフィーナ王女の腹を薙ぐ寸前で止めていた。

 勝負はやはり一瞬でついた。

 打ち合うことなど出来なかった。

 フィーナ王女はそれでも満足していた。

 全力を出した。

 いや、出せた。

 それに、良い目標が出来た。

 まずは目の前の男、灯入と互角の勝負が出来るように精進しよう。


 それから灯入は何度もフィーナ王女と刀を合わせた。

 ティータとも刀を合わせた。

 日が昇りきるまで、何度も何度も、代わる代わるフィーナ王女とティータの相手を務めた。

 

 一方、灯入をフィーナ王女とティータに取られた形になったレグルスは、コハルに勝負を挑んでいた。

 が、コハルは強すぎた。

 何度も何度も刀の峰で打ち据えられ、体中(あざ)だらけだ。

 もう立ち上がれない。

 そこまでレグルスは頑張ったが、結局まともに打ち合うことは出来なかった。

 でも、レグルスも満足していた。

 これだけ戦って負け続けたのだが、なぜか心地良い。

 理由は分からないが、自然に笑みがこぼれる。

 そうか、俺は嬉しいんだ。

 教員になってからずいぶんと経つがまともな勝負をする機会など無かった。

 リゲルやカノープと切磋琢磨(せっさたくま)した学院生時代を思い出し、レグルスは痣の痛みも忘れて笑っていた。


 手合わせを続ける灯入とフィーナ王女、ティータ、コハルとレグルス。

 誰も朝食のことなど忘れていた。

 いや、コハルだけはエリオが一人で朝食をとっていた事に気づいていたのだが。

 結局エリオは一人で朝食をとり、続けて昼食の準備まで始めることとなった。


 五人の手合わせが終わったのは、フィーナ王女、ティータ、レグルスが疲れて動けなくなった正午前であった。

 昼食の準備はエリオによってほぼ整えられており、あとは肉と魚を焼くだけとなっていたのだが、結局、灯入とコハルとエリオ以外の三人は疲れすぎて動くことが出来ず。

 また、昼食ものどを通らず。

 灯入とコハル、それにエリオ三人だけの昼食となった。


 昼食が終わって全員の体力が回復した二時を回ったころに今回の湖畔キャンプは打ち上げとなった。

 エリオにとってはただひたすら食事の準備をするというろくでもないキャンプになったが、それでもエリオは楽しんでいたようだが、学院正門前で解散するころには全員が笑顔で「また明日」と分かれたのだった。

 今回のキャンプはフィーナ王女の目論見どおり大変有意義なイベントとなった。

 これは参加した全員が認めるところである。


 だがしかし、鬱憤(うっぷん)を溜め込んだ者たちもいた。

 ただひたすらに、湖の対岸でやきもきしながら、時を過ごすことになったおっさん二人組みである。


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