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魔法の国の魔法が使えない剣士  作者: 滋田英陽
第一章 ~第一王立学院初年度~
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第九話:湖畔にて 前編

 灯入は今、同好会のメンバーと買出しに街へと繰り出し、ハンターショップで防具を見繕っている。

 ことは同好会発足翌日の昼休みにフィーナ王女の放った一言に端を発する。


「皆聞いてたもれ、次の休日、キャンプに行こうとおもう。これは決定事項ゆえ異論は認めぬ」

 

 あまりに一方的な物言いであったが、ティータは瞳を輝かせているし、コハルは灯入さえ良ければかまわないと言うし、エリオはコハルが行くなら僕も行くだそうだ。

 郷に入っては郷に従えという(ことわざ)もあることだし、やれやれ、と同意した灯入であった。

 もちろんここで言う「郷」とは野外活動同好会のことであるが。

 フィーナ王女は放課後、休日のキャンプ決行をレグルスに報告に行った。

 レグルスはいやな顔ひとつせず、いや、喜色満面の笑顔で俺も行く、絶対に行くと、同行を条件に許可を出した。


 部室に集まったレグルスと同好会のメンバーは、当日までに準備する物資及びキャンプの場所を何処にするか話し合った。

 結果、キャンプの場所は灯入たちが避難船を沈めた湖の畔に決まった。

 第一王立学院教官の傍ら、休日などに狩りを楽しむレグルスはハンター免許も所持している。

 そのレグルスお勧めの場所だそうだ。

 物資に関して、テント調理用具などはレグルスが持参することになり、当日は食料調達のための狩りも行うので、灯入とコハル、それとエリオの防具と調味料を買出しに行くことになったのだが。


「防具が必要なことは分かりました。ですが私と灯入はあまりお金をもっておりません」

「金の心配などせずともよい。わたしが払ろうてやる」

「ですが……」

「かまわん。わたしが言い出したこと。気になるなら返せるようになってから返すがよい」

「では、借りということにさせてください」


 ということで皆で街に繰り出し、ハンターショップへと赴いた。

 ちなみに、エリオも手持ちが心もとなかったらしく、フィーナ王女に借金することとなる。

 灯入たち三人の防具はレグルスが見立ててくれた。

 ポケットのたくさんついた腹部を守る黒い防護ベストと、手首まで隠せて指が出るオープンフィンガータイプのグローブ、(つば)つきのキャップに皮製のブーツ、それからナイフとリュックも購入した。

 三人ともお揃いである。

 かなり本格的な装備なのだが、レグルス曰くこれぐらいの用意をしないと危なくて森には入れないとのことである。

 何も知らずにコハルと二人で二日間も森を歩いた事を思い出した灯入は少しだけぞっとしたのだった。


 そしていよいよキャンプ当日の朝。

 日の出少し前の学院正門に同好会のメンバーが集合した。

 皆動きやすい格好で防具を着用し、リュックを背負っている。

 これからレグルスが乗ってきた、まるで軍用トラックのような(ほろ)つきの車で森を目指す。

 余談だが、トリスティアの車は高濃度の魔素を浸透させた魔石から、圧縮された魔素を取り出し、噴出された魔素に反応して回るタービンを利用することで動いている。


 まだ暗い王都を抜け、草原の中を突っ切る二車線の舗装された道を走り、森の中に入る手前で空が白んできた。

 道は森の中まで続いており左手には木々の隙間から湖の湖面がちらちらと見えている。

 日が昇り、湖面に沿って続く道をしばらく走ると、レグルスは速度を落として細いわき道に車を進める。

 少し走ると視界が開けて湖畔に到着した。

 開けた湖畔の脇に車を止めた一行は、湖畔沿いに少し歩いてテントを設営した。

 レグルスが持参したテントは軍用のお古らしく、中にはゆったりと一〇人は眠れるスペースがある。


「記念すべき野外活動同好会初のイベントである。自然の恩恵を存分に楽しみ親睦を深めようぞ」


 設営されたテントを背にしたフィーナ王女陛下のありがたいお言葉を皆が聞いていたころ。

 湖の反対の岩陰に、双眼鏡を使ってフィーナ王女たちを観察する二人の男がいた。


「何でお前がここにいるんだぁ、カノープ」

「ふんっ、人のこと言えたことかリゲル」


 カノープはティータが心配で、リゲルはフィーナ王女が羨ましくてこっそり覗きに来たわけだ。

 どうやらリゲルもキャンプに参加したかったらしい。

 カノープ、リゲル、レグルスの三人は、かつて第一王立学院で三バカと呼ばれた存在であった。

 学院卒業後それぞれ違う道を歩いている三人であるが、いまでもちょくちょく酒を酌み交わす仲でもある。

 そんな二人が来ている事などつゆしらず、同好会のメンバー達は割り振られた役割を果たすために行動を開始した。

 のであるが、その、役割を決めるのにえらい難儀したようである。

 コハルとエリオを除いた全員が自分が狩りに行くと立候補したのだ。

 コハルは灯入が狩りに行けば、必ず付いて行くので実質残るのはエリオだけとはさすがにいかない。

 残ってかまどを作ったり、鍋や食器や調理器具を準備したり、テントの番をしたりする者が一名。

 食べられる野草や果実を採取する者が二名。

 残る三人が狩りに行くことになる。

 結局誰も引くことはせず、エリオを除いた五名で狩りと野草の採取を行うことになった。


 レグルスによるとこのあたりで狩れる獲物は、猪に似た『リガル』、鹿を一回り大きくしてがっしりした体格の『シルド』、ヒグマにそっくりな『ラーゼ』らしい。

 極まれにT-REXを小さくしたような体長四mほどの肉食竜『リード』が現れるが不味くて食えたものではないので、出会わないようにリードの嫌う波長の魔力波を発する魔道具を全員にレグルスが渡した。

 

 レグルスを先頭に森の中、獣道を歩く灯入たち。

 レグルスが槍で邪魔な草木を払い、フィーナ王女とティータは背にクロスボーを、灯入とコハルは日本刀を背にしている。

 樹木深く直接空を見上げることはできないが、幾筋かの陽光が差し込み、鳥や獣の鳴き声が木霊する。

 しばらく歩いていると、苔むした小さな岩山の脇に、木々に隠れて判別しにくいが精製すれば麻薬になるアシェという植物が群生していることにレグルスが気づいた。

 アシェの実を摘み取った形跡まで確認できる。

 しかし、狩りのメンバーにこの事実を告げることをレグルスはしなかった。

 帰って王国軍に報告すればいい。

 

 さらに少し歩いた所でレグルスが立ち止まって、身振りで皆の身を屈めさせる。

 レグルスが指差した前方にシルドが草を食んでいるのが見えた。

 レグルスが視線で合図するとフィーナ王女とティータがクロスボーを構える。

 静かに射られたクロスボーの矢がシルドの後ろ足上部とわき腹に命中した。

 シルドは呻き走り出そうとするが、激痛が走っているのだろううまく走れない。

 そのとき、コハルがシルドめがけ、獣道から外れた木々の合間を縫って疾走する。

 瞬く間に近接したコハルは刀でシルドにとどめを刺した。

 コハルの動きを始めて目の当たりにしたティータが驚いている。

 レグルスが駆け寄り、他のメンバーも遅れてコハルの元に到着する。


「見事なシルドだな。今日はこれ一頭で十分だろう。ここで血抜きをして引き上げるぞ」


 レグルスの言葉に皆うなずいて作業に取り掛かった。

 売ることを目的とする場合血抜きだけをして運ぶのだが、自分達で食する場合は解体する必要がある。

 この場である程度解体したほうが運びやすいし、食さない臓物などはこの場に捨てていく。

 捨てられた臓物は木々の栄養となり、すぐに自然に帰っていく。

 灯入は以前リガルの解体を経験している。

 実際に解体したのはコハルで、灯入はただ見ていただけなのだが。

 だが、少しは耐性がついたようで、今回は積極的にレグルスによる解体作業を手伝っていた。

 フィーナ王女とティータは獣の解体作業を初めて見たのだろう、口に手を当ててえづくのを必死でこらえているが、今後の活動を考えて目をそらすことはしなかった。

 いずれ、自分でも解体作業をすることになるのだろうからと。


 灯入たち五人がテントまで戻ってきたのは、ちょうど昼過ぎであった。

 途中レグルスの指示で食べられる野草や果実を採取した。

 無事に全員が戻ってきたことにエリオは安どの表情を浮かべる。

 対岸でフィーナ王女とティータを監視していたリゲルとカノープもほっとしていたるようだ。

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