鏡の中の自分(続編)
掲載日:2025/07/22
鏡の前で、自分に問いかける癖は変わらなかった。
今日も陽は、「何を考えているのか」を探るように、自分の目を見つめていた。
でも、ある朝、ふとしたきっかけで思考が止まった。
ベランダの鉢植えに、小さな蕾が膨らんでいる。
思わず立ち止まり、陽はただ、見入った。
何も考えずに。
陽は座り込み、ひんやりとした床の感触を足裏に感じながら、自分の呼吸に気づいた。
息を吸って、吐く。それだけ。
「……あれ?」
頭の中が静かだった。
考えごとがないということが、こんなにも満ちているとは知らなかった。
思考が自分を創ってきた。
それは間違いじゃない。
けれど、考えていない今、陽はちゃんと“在る”と感じた。
静けさの中に、鼓動がある。
光に照らされた自分の手のひらがあたたかい。
なにも成し遂げていない今日の自分が、ここに生きている。
「考えなくても、僕は僕だ」
そのことに、ふっと涙が滲んだ。
もう、答えを出さなくていいのかもしれない。
何かにならなくてもいい。
今のままで、ちゃんと生きている。
その日から、陽は思考の自分と、存在の自分を並べて座らせることにした。
どちらも、自分。
でも時には、ただ「在る」ことの方を、大事にしてみようと決めたのだった。




