塔(序章)
空は少しオレンジ色に染まり、カラスたちは集まり山へと帰っていく。
毎日歩いているそんな景色は今となっては何の感情もない。
「どこでもいいから大学には行きなさい」
これが僕の母の口癖だった。
毎日毎日学校へと歩き、机に向かって勉強しては暗い中田んぼ道を一人で帰っていく。
そんな生活を僕は認めていた。これでいいと思っていた。
しかしそんなある日、暗い帰り道の中大きな地震が起こった。
地面が揺れ、用水路の水は壁にぶつかって水しぶきを上げている。
今までに感じたことの無い大きな揺れに僕は思わずしゃがみこんだ。
山の方ではなにか大きな音が響いている、木々が鳴いている、鳥が叫んでいる。
そして僕は見た、誰もいないような暗い山の中で大きくうごめく黒い影を。
気づけば僕は走りだしていた。
大きな揺れの中僕はあの動く影から逃げるわけでも隠れるわけでもなく。
ただあの動く影に向かって走った。
なぜだかわからない、ただ心が誰かに支配されたかのように一心に走った。
気づけば地面の揺れは止まっていた。
僕はなぜ走っていたのかと正気に戻り、山の方を見たが
そこには見慣れた景色が広がっていた。