1.公爵令嬢フィアローゼ
「ディルセイン家の娘はお前だな」
「ちょっとついてきてもらおうか」
とある路地裏で、ガタイのいい男たちに1人の少女が囲まれている。
水色の髪に紫の瞳のその少女は、一つため息をついた後に軽い身のこなしで間合いに踏み入った。
「なっ…、ガハッ!」
「ゲフッ!!」
「な、何なんだこの女…!」
小柄な少女が大男を薙ぎ倒していく光景は異様だった。
「ふぅ」
少女ーフィアローゼ・ディルセインーは軽く息を吐いてスカートの裾をはらう。
「やだ、もうこんな時間!」
ふと時計を見たフィアローゼは思ったよりも時間が経っていたことに気づき,やや駆け足で目的の場所に向かう。
その場所に着き、大きな門を見上げて首を傾げる。
「来たはいいものの、どうやったら会えるのかしら」
(一応は婚約者なのに、これはどうなのかしら私)
今日は婚約者であるエディゼバルト家当主、ライウィベル・エディゼバルトに会いに来たのだが、なんせ産まれてこのかた会ったことない他人も同然の人間だ。
(手紙はお父様の検閲が入るから出せないし…)
どうしたものかと右往左往していると、後ろから一つの気配が近づいてくる。
「我が家に何かようですか?お嬢さん」
「えっ…?」
低くよく響く声が耳元で聞こえ、反射的に銃を出そうと手が動いた。だがその手はいつの真中後ろに立った男に掴まれてしまった。
「驚かせたかな?フィアローゼ」
「…ごきげんよう、エディゼバルト様」
恐ろしいほどに整った顔をした男が人の良さそうな笑みを浮かべている。ただその目は笑っておらず、私に対する警戒心が見て取れる。
「ファミリーネームに敬称だなんて悲しいな。名前で呼んでくれよ」
「ライウィベル…?」
おずおずと口にすると、ライウィベルがいい笑顔で頷く。
「さあ、立ち話もなんだしあがろうか」
ついに、この話ができる。フィアローゼは決意を固め、ライウィベルの後ろをついていった。