第八話
黒いローブをまとった男――闇の詩人は不気味な笑みを浮かべながら、二人を見据えた。その声は低く響き渡り、あたりの空気が一層重くなる。
「私と対決する前に、少し遊んでみるか?」
そう言うと、彼は手を一振りし、祭壇の上に光る石を叩き割った。すると、砕けた石から黒い霧が立ち上り、周囲の空間が歪み始めた。
「こいつは……!」セリアが驚いて叫ぶ。
「ああ、これは少しばかり興味深い仕掛けだよ。詩人たちに相応しい舞台を用意しただけさ。」闇の詩人は楽しそうに言った。「さあ、存分に苦しむといい。」
その言葉とともに、恭一とセリアの視界は一気に闇に包まれた。
闇の中の試練
目が覚めると、二人は見知らぬ場所に立っていた。空は暗く、地面には奇妙な模様が刻まれている。空気は冷たく、まるで夢の中に閉じ込められたような感覚だった。
「ここは……どこだ?」恭一は周囲を見渡したが、見覚えのある景色はどこにもなかった。
「おそらく、闇の詩人が作り出した異空間ね。」セリアは慎重に周囲を観察しながら言った。「詩を使って私たちをここに閉じ込めたのよ。」
「閉じ込めた?どうやって出ればいいんだ?」
セリアは少し考え込んだ後、指を地面の模様に触れた。「この模様、詩に関係しているわ。きっとこれを解読して詩を編み出すことで、脱出の糸口が見つかるはず。」
「解読って……こんなの読めるのか?」
「試してみるしかないわ。」セリアは落ち着いた声で言った。「でも気をつけて。この空間そのものが詩の力でできている。下手に触れれば、私たちも取り込まれるかもしれない。」
闇の詩を解く鍵
恭一は詩集を開き、地面の模様と自分の持つ言葉を照らし合わせながら詩を紡ぎ始めた。
「影は光に問いかける、何故闇を恐れるのかと。
光は影に問い返す、何故闇は光を拒むのかと。」
詩を読み上げると、模様の一部がわずかに輝き出した。しかし、すぐに黒い霧がその輝きを覆い隠し、模様がさらに複雑化していった。
「くそっ、間違えたのか?」恭一は悔しそうに呟いた。
「違うわ。」セリアは冷静に言った。「これは詩が足りないのよ。この空間全体に影響を与えるほど強い詩が必要なの。」
「強い詩……?」
「そう、感情を込めて、人々の心に響く言葉を紡ぐ必要があるわ。」
恭一は深呼吸をし、心を集中させた。過去に経験した孤独、自分を支えてくれた詩の力、そして目の前にいるセリア――それらを胸に刻み、再び詩を口にした。
「闇よ、語るなかれ。語るほどに光は消えゆく。
光よ、嘆くなかれ。嘆くほどに闇は育つ。
それぞれが響き合う時、新たな道は拓かれる。」
その瞬間、模様全体が眩い光を放ち始めた。
詩の罠の崩壊
光が広がるとともに、空間全体が揺れ始めた。黒い霧は次第に薄れ、模様は崩れていく。恭一とセリアは体が軽くなる感覚を覚え、目の前に再び現実の森が広がった。
「戻った……のか?」恭一は驚きと安堵の表情で周囲を見渡した。
「ええ、あなたの詩が空間を打ち破ったのよ。」セリアは微笑みながら言った。「でも、これで終わりじゃないわ。彼はまだどこかで私たちを見ている。」
その時、森の奥から低く笑う声が聞こえた。
「ふふふ、なかなか面白い。だが、次の試練はそう簡単にはいかないぞ。」
恭一は声のする方を睨みながら、詩集を握りしめた。「だったら、何度でも乗り越えるだけだ。」