第七章
村を救った後、セリアと恭一は再び旅を続けることになった。しかし、心のどこかで、闇の詩人がまだ近くにいるのではないかという予感が拭えなかった。特に、あの詩を使った者が簡単に引き下がるとは思えなかった。
「次に進む前に、少し調べたいことがある。」セリアは歩きながら言った。「闇の詩人が残した痕跡を追わなければ、彼の次の手を予測できない。」
「痕跡?」恭一は目を細めた。「あの詩を残していっただけで、どこにそんなものが?」
「詩には力が宿っている。それは言葉だけでなく、詩が作られた場所や状況にも影響を与える。」セリアは立ち止まり、前方の森を見渡した。
「詩が使われた場所に向かってみれば、何かしらの手がかりが残っているはずよ。」
恭一は頷き、二人は村を離れ、闇の詩人が布を掲げた広場へ向かうことになった。
詩が残した痕跡
広場に到着したとき、何も変わった様子はなかった。村の人々はすっかり元気を取り戻していたが、広場の中心には依然としてあの布がしっかりと掲げられていた。
「なんだか、あの布が妙に気になるな。」恭一は布を指さした。
「おそらく、そこが詩を使うための『起点』になっていた場所だろう。」セリアはじっとその布を見つめた。「だが、これだけでは何も分からない。」
その瞬間、セリアが何かに気づいたように足を止め、足元の土を掘り始めた。恭一は驚いて駆け寄る。
「何してるんだ?」
「見て、これ。」セリアは土の中から細い金属の板を取り出した。それには奇妙な文字が刻まれていた。
「これは……?」恭一は驚いた。「何かの符号か?」
セリアはその金属板をじっくりと調べた後、言った。「これは、詩の力を使うための『儀式』に使われる道具だわ。」
「儀式?」恭一は眉をひそめた。「何のために、そんなものを?」
「詩の力を最大限に引き出すために、特定の場所で儀式を行うことが必要なの。」セリアは板に手を触れ、力を込めるように言葉を続けた。「これが示す場所を追ってみれば、次の手が見えてくるかもしれない。」
新たな手がかり
金属板には、いくつかの数字とともに、方向を示す矢印が刻まれていた。セリアはそれを頼りに、二人はその場所を目指して歩き始めた。
「この場所、近くの山の中だ。」セリアは歩きながら言った。「ここから二日ほどの距離だろう。」
「山か……。」恭一は少し不安げに言った。「また危険な場所に行くことになるのか。」
「危険がないと、面白くないでしょ?」セリアは少し笑みを浮かべた。「それに、君ならきっと大丈夫よ。」
山の中での遭遇
二日後、二人は山中の深い森に足を踏み入れた。道は次第に険しくなり、周囲は静まり返っていた。やがて、進んでいくうちに、古びた石造りの祭壇のような場所に辿り着いた。
「ここか……?」恭一は周囲を見渡しながら呟いた。
「ええ。」セリアはうなずきながら、祭壇の前に立った。「この場所は、昔から詩の力を使う儀式が行われていた場所だ。」
その時、森の中から一陣の風が吹き抜け、祭壇の上に置かれた石のような物体が微かに光を帯び始めた。
「何だ、これ……?」恭一がその物体に近づくと、突如として声が響き渡った。
「――そこにいるのか、詩人。」
恭一とセリアは一斉に振り向いた。
その先に立っていたのは、黒いローブを纏い、目が異様に輝く男だった。
「お前が……。」恭一は冷徹な眼差しで男を見据えた。「闇の詩人か。」
男は冷笑を浮かべて、ゆっくりと口を開いた。
「詩の力を持つ者よ……お前がどれだけ頑張ろうと、結局は私の手のひらで踊るだけだ。」
セリアは険しい表情で男を見た。「あなたが、闇の詩人……。」
「そうだ。」男は不敵な笑みを浮かべながら言った。「そして、君たちが私の計画を邪魔する限り、次々と試練を与え続けることになる。」