第二章: 言葉の力
恭一が目を開くと、そこには一面の草原が広がっていた。鮮やかな青空、柔らかい風の感触、そして遠くに見える小さな村。これが転生した異世界だという実感が、徐々に彼の中に広がっていく。
「これが……異世界か。思ったより普通だな。」
手に握られた詩集を見下ろしながら、彼はため息をつく。その詩集には古びた革の装丁が施されており、表紙には文字らしきものが刻まれているが、見たこともない言語だ。
「使い方ぐらい教えてくれりゃいいのに……。」
ぼやきながら歩き始めると、遠くから人の叫び声が聞こえてきた。
「助けてくれぇぇぇ!」
草原の先、村の方向から若い男性が走ってくる。その背後には大きな獣――体長2メートルはあろうかという狼のようなモンスターが追いかけていた。
「うわ、いきなりピンチかよ……。」
恭一は詩集を握りしめる。どうやら試すしかなさそうだ。
若い男が恭一のすぐそばまで来た。汗まみれの顔で叫ぶ。
「おい! 何してるんだ! 逃げないと食われるぞ!」
「……まあ、ちょっと見てな。」
恭一は詩集を開いた。中には見覚えのない文字が並んでいるが、不思議なことにその意味が自然と頭に浮かんできた。言葉が浮かび、リズムが心に響く。
彼は大きく息を吸い、ゆっくりと詩を朗読した。
「空を裂きし風よ、猛き獣を眠らせよ。
魂の鎖を解き放ち、静寂の中に帰せ。」
言葉が放たれた瞬間、金色の波紋が空間に広がった。その音が獣の耳に届いた途端、それは動きを止め、目を閉じて地面に崩れ落ちた。
若い男は目を見開いたまま、言葉を失っていた。
「え……何したんだ、今の?」
「まあ、ちょっとした魔法みたいなもんだ。」恭一は肩をすくめながら答える。
詩の力の真実
獣が完全に眠りについたのを確認した後、恭一は若い男から話を聞くことにした。
「助けてくれてありがとう! 俺はロイ。村の近くで木を切ってたら、あいつに襲われて……。」
「ロイね。俺は藤本恭一――まあ、キョウって呼んでくれ。」
「キョウさん、その力……魔法なのか? あんな不思議な力、見たことない。」
恭一は詩集を見つめながら、自分の力を理解しようとしていた。どうやらこの詩集を通して「詩」を紡ぐことで、言葉が現実に干渉する力を持つらしい。そして、その効果は詩の内容次第だ。
だが、一つだけ分かったことがある。詩を読むたびに、心の奥底で何かが削られる感覚がするのだ。それは女神が言っていた「魂の代償」だろう。
「まあ、細かいことは後で考えるか。それより、この村って安全なのか?」
「村か? ああ、獣が時々出るけど、基本的には平和な場所だよ。でも最近は荒れた噂が多くてね……。」
ロイの話によると、村は最近、山賊や怪物による被害が増えており、困窮しているという。
「……なるほど。詩の力があれば、何とかなるかもしれないな。」
恭一はロイと共に村へ向かうことを決めた。彼の詩人としての最初の挑戦が、そこに待っている――。