第一章: 詩人への契約
暗い部屋の中、パソコンのモニターだけが淡い光を放っていた。
主人公、**藤本恭一ふじもときょういち**は、世間から逃げるように引きこもり続け、既に三年が経っていた。
「なんで俺だけ……」
独り言を呟きながら、彼はネットサーフィンに耽っていた。スクロールしても埋められない虚無感。特にやりたいことも、叶えたい夢もないまま、彼の日常はただ過ぎていくだけだった。
しかし、そんな退屈な日々が終わりを告げるのは、ほんの数分後のことだった。
その日、珍しく外に出た彼は、近所のスーパーで買い物を済ませ、帰り道を歩いていた。
何かの気配を感じて振り返った瞬間――。
「え……?」
巨大なバスが視界を埋め尽くし、次の瞬間、彼の体は宙を舞った。
目を覚ますと、そこには見知らぬ空間が広がっていた。
星のような光が漂う幻想的な空間。足元には何もなく、どこまでも続く闇。
「ここは……どこだ?」
恭一が恐る恐る声を上げたその時、眩い光とともに一人の女性が現れた。彼女はまるで絵画から抜け出したような美しい姿をしていた。純白のドレスに金色の髪。瞳は星空のように輝いている。
「ようこそ、異世界への扉へ。私は言霊の女神・リリシア。あなたを導く者です。」
「は……? 俺、死んだのか?」
「ええ、残念ながら。ですが、これは新たな人生を始めるチャンスでもあります。」
恭一は呆然とするしかなかった。だが、リリシアの言葉は続いた。
「あなたには特別な才能を見出しました。それは――詩の力。あなたが紡ぐ言葉には、他者の心を操る力があります。あなたが新たな世界で生き抜くための武器となるでしょう。」
「詩……? いや、ちょっと待てよ。俺、まともに詩なんて読んだこともないし、書いたこともないぞ?」
「心配は不要です。私との契約により、あなたは天才詩人としての能力を手に入れます。ただし……一つだけ条件があります。」
「条件?」
「詩を使うたびに、あなたの魂が少しずつ削られていきます。あなたが生み出す言葉が他者に与える影響が大きいほど、その代償もまた大きいのです。」
恭一は迷った。だが、引きこもりの人生に戻ることもできず、彼の中で何かが決意を固めた。
「分かった。やるよ。詩人の力、俺にくれ。」
「契約は成立しました。」
リリシアが微笑むと、恭一の体に金色の光が降り注ぎ、熱い衝撃が走った。
「では、運命の詩人よ。新たな世界で、あなたの物語を紡ぎなさい。」
気づけば、彼は異世界の大地に立っていた。契約の証として、手には一冊の古びた詩集が握られていた。
「……詩で人を洗脳する能力か。どんなもんか、試してやるか。」
恭一の新たな人生が、ここから始まる。